2.全身所見の取り方

身体の観察は、まず全身の状態の把握から始めていきます。これによって、 現在の身体の状態(すなわち現症)の概略をすばやく把握することが出来ます

a.話しかけの言葉

これから身体所見の観察を始めるわけですから、話しかけの言葉が必要です。

身体所見の観察に移るときに話しかけます。
  • 「それでは、これからからだの診察を始めます」

  • 「診察中に、もしご気分が悪くなるようなことがあったら、すぐにおっしゃって下さい」

  • 「それから、からだの痛いところなどは先ほど伺いましたので、そこの診察は省いた方が良いでしょうか」

  • 「では始めますので、上半身ハダカになって下さい」

b.全身所見の観察事項

全身所見は、まず全身の概観について、次いで精神状態について観察します。

全身の概観について観察する項目
  • 体格
  • 栄養
  • 姿勢と体位
  • 顔貌
  • 異常運動

精神状態の観察事項
  • 意識
  • 協調性
  • 感情
  • 見当識
  • 知能

c.特徴ある顔貌について

顔貌がきわめて特有なために、特定の疾患の存在が強く示唆される場合があります。この顔貌の特徴像と 疾患の関係を良く知っておくことは、 これ以降の身体所見の観察や、観察終了後の考察に有用となります。

顔貌の特徴から存在が示唆できる代表的疾患
  • ネフローゼ症候群
  • 先端巨大症
  • Cushing症候群
  • 甲状腺機能低下症
  • Parkinson症候群

d.意識障害の種類と程度

意識障害は、覚醒障害と認識障害に大別されます。

覚醒障害の程度、すなわち意識レベルの程度は、まったく異常のない「清明」から完全な意識消失の 「昏睡」まで何段階かに分類されます。

この覚醒度の程度を、刺激に対する反応度の強さで分類したのがJapan Coma Scale (JCS)です。また、 開眼(E)・運動(M)・言語(V)のレベルを総合評価する方法がGlasgow Coma Scale (GCS)で、 その評価点をEMV scoreで表すものです。なお、それぞれの内容は教科書で確認しておいて下さい。

ここでは、意識障害のときに脳の障害部位を推定する代表的方法、すなわち、姿勢と推定病変部位、および 瞳孔の所見と推定病変部位との関連を記述します。

意識障害のときの姿勢と推定病変部位
  • 除皮質姿勢、除皮質硬直
    • 病変部位…異常な位置を示す上下肢とは反対側の間脳、あるいはそれより上位の大脳半球  
    • 疾患…被殻出血、視床出血、視床下部出血、中大脳動脈閉塞

  • 除脳姿勢、除脳硬直
    • 病変部位…中脳から橋上部
    • 疾患…橋出血、脳底動脈閉塞、テント切痕ヘルニアを起こす疾患

意識障害のときの瞳孔の所見と推定病変部位
  • 一側瞳孔の散瞳、散瞳側の対光反射なし
    • 病変部位…散瞳側の大脳半球(片側の小脳テント上の病変)
    • 疾患…テント切痕ヘルニアを起こす疾患

  • 両側瞳孔は正常同大、対光反射あり
    • 病変部位…大脳の広範な領域  
    • 疾患…代謝性脳症、睡眠薬中毒

  • 両側瞳孔は正常同大、対光反射なし
    • 病変部位…中脳
    • 疾患…視床出血、正中ヘルニアを起こす疾患

  • 両側の高度の縮瞳、対光反射あり(いわゆるpin-point pupils)
    • 病変部位…橋
    • 疾患…橋出血、モルヒネ中毒

以上、現症の概略を全身所見から把握する方法が理解できたら、
次の3.バイタルサインへ進んで下さい。


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