3.バイタルサインの取り方

バイタルサインは生命維持を示す徴候であり、その正確な把握はきわめて重要です。 とくに救急疾患では、重症度や進行度、あるいは治療による反応度を判定するために バイタルサインの頻回な測定が不可欠となります。

臨床実習の間に、所見の取り方を習熟しておくべき手技は多いのですが、バイタルサインは その代表です。すばやく、しかも正確に所見がとれること、異常所見が確実に発見できること、 そしてこの異常に対する評価と病態の推定が可能なこと、これらのすべては必須項目です。

通常の診察では、バイタルサインの観察は全身所見に引き続いて行います。一方、救急患者では、 全身の観察・意識状態の観察を行いながらバイタルサインの状態も迅速に把握する、という 同時進行型の診察を行う必要があります。

a.話しかけの言葉

脈拍と血圧などの測定を始めることを伝えます。

バイタルサインの観察に移るときに話しかけます。
  • 「まず、脈を測ります。両手を見せて下さい」

血圧測定へ移るときに話しかけます。
  • 「血圧を測ります。まず右手から測りますが、手の力を抜いてゆったりと伸ばしていて下さい」

b.バイタルサインの観察項目

バイタルサインとして把握する必要がある項目は以下の4所見です。

バイタルサインの観察項目
  • 体温
  • 脈拍
  • 呼吸状態
  • 血圧

c.脈拍の観察

脈拍は橈骨動脈で観察します。まず、両側の橈骨動脈を同時に触れて脈拍の左右差を調べ、 その後一側での観察を続けます。ぜひこのクセをつけて下さい。

橈骨動脈に引き続き、総頚動脈でも脈拍の観察を行います。この場合は両側同時の触知は 決して行わず、かならず左右別々に観察する必要があります。

橈骨動脈での脈拍
  • 触知
    • 両側同時に触知して、その後に一側で触知

  • 観察が必須の項目
    1. 脈拍の左右差
    2. 脈拍数
    3. リズム
    4. 緊張

  • 追加項目
    1. 大きさと遅速
    2. 橈骨動脈の性状

総頚動脈での脈拍
  • 触知
    • かならず左右別々に触知

  • 観察項目(太字はとくに重要)
    1. 緊張
    2. 脈拍数
    3. リズム

脈拍数の異常は、頻脈または徐脈となります。
リズムの異常は、呼吸性不整脈・期外収縮・絶対性不整脈のいずれかを考えます。
緊張の異常は、収縮期高血圧では硬脈、収縮期低血圧は軟脈となります。

なお、動脈の触知は上記のほか、上肢では上腕動脈、 下肢では大腿動脈と足背動脈でも容易に可能となるように、 動脈走行の解剖学を念頭に置きながら練習しておく必要があります。

d.呼吸状態の観察

呼吸の状態は、呼吸数および呼吸の性状について観察します。

この観察は、脈拍の測定時に行います。それは、特別な緊張状態や不安状態を引き起こさずに、 自然でありのままの状態の呼吸が観察できるからです。

異常呼吸の種類
  • 呼吸数と呼吸の深さの異常
    • 頻呼吸
    • 過呼吸、Kussmaul呼吸
    • 除呼吸

  • 呼吸の滑らかさの異常
    • 喘鳴性呼吸
    • 閉塞性呼吸
    • 喘息性呼吸

  • その他
    • 起座呼吸、下顎呼吸
    • Cheyne-Stokes呼吸、Biot呼吸

呼吸の異常には上のようなものがあります。これらの性状と、 異常呼吸を見るときに考察すべき病態について再確認しておきます。

e.血圧の測定

上腕の血圧は緊張のない状態で測定する必要があります。

まず、橈骨動脈の触診で収縮期血圧の概略値を把握しておき、 これより約30mmHg高値まで水銀柱を上昇させてから血圧の測定を開始します。 このような測定前における概略値の把握は、 正確な血圧値を得るための必要な操作です。

血圧の測定は、水銀柱を1心拍ごとに2mmHgずつ下げていきながら行います。 水銀柱の下行速度が早すぎると、正確な血圧測定値を得ることが出来ません。

もし機会があって、友人の血圧測定が可能となったときなどに、 水銀柱の下行速度を正規の状態で行った場合と、 これよりはるかに急速に下げていった場合とでの血圧測定値の差がどの程度となるか、 確認しておきます。

血圧測定時に払うべき注意には、このほか、上腕の高さ、圧迫帯の選択や巻き方、 連続測定時の測定間隔などがあります。

なお、臨床実習のときには、血圧測定を左右上腕で行うとともに、下肢でも施行して、 左右差や上肢下肢差についての観察を行っておきます。

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以上、きわめて重要なバイタルサインの取り方とその評価の仕方の自習が終了したら、
次の4.両手・皮膚の診察へ進んで下さい。


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