Kammy+の旅行記
2005年8月14日 ふるさと銀河線

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2. 池田-北見(ふるさと銀河線) 最初で最後の140.0km全線踏破

09:55 池田
池田の駅にMKと2人降り立ってしばし駅構内の美しさに見惚れていたのだけれど,残念ながら池田には長居はできない.この駅でふるさと銀河線の1日乗り放題きっぷ(おとな3,500円)を買い,19分後の09:55発の北見行き713Dに乗らなければならないのだ.ちなみにふるさと銀河線は全線140.0kmを乗ると3,410円で,この列車から時間の都合上一度も途中下車できない我々にとっては90円ソンなのだけれども,最後にきっぷを回収されずに済むだろうから記念にということで購入…しようとするもどこで買えばいいのかわからない.駅にはチラシもポスターもないし,ふるさと銀河線のきっぷはぽつんと置かれた自動券売機でしか売っていない(写真2の左側に写ってるやつ).仕方がないからJRの窓口で聞いてみると,「ありますよ,本日使いますか?」とのこと.早速お金を払い,日付の入ったきっぷを受け取る.もう北見行き列車の改札は始まっていたが,駅から出ないのも不憫なのと,気温もあがってきてこれから3時間(正確には2時間59分)ローカル列車にカンヅメということもあり,水分補給のため駅の外にあった自販機で500mLペットボトルを購入.駅を正面から眺めてみても,ここがふるさと銀河線の駅でもあるという表示には乏しかった(写真5).
写真5 根室本線 池田駅 写真6 池田駅のなか(左側にふるさと銀河線の券売機がある)

北見行きは3番ホームから出発するので,跨線橋を渡る.この駅は駅舎に面した1番ホーム,線路挟んで島式の2,3番ホームのほか,3番ホームの帯広方面(北見方面)側が切り崩されて4番ホームになっている(写真7).もともと4番線は銀河線が国鉄池北線時代に北見側からの列車の引き返し専用線として用意したものだろうけれど,あまりに駅舎から遠いのでよっぽど不都合(上下の特急が交換してさらに普通列車が追い抜かされるのを待ってるとか)が重ならない限りは使用しないのだろう.写真8は1番ホームから帯広方面を撮ったもので,4番ホームの屋根かろうじて点のように小さく写っている.
写真7 池田駅(のりば案内図) 写真8 池田駅のホーム

そうこうしているうちに,1番ホームに09:47着札幌行きスーパーおおぞら4号が到着し,そして出ていった.釧路から特急を1区間だけ乗り銀河線の列車に乗り込む人間はほとんどいなかった.
さて,ふるさと銀河線の車両は「CR70-3」と書かれたワンマン列車1両で,白い車体に太さの異なる3本の緑の線と1本の青の線が特徴だと思う(CRはChihoku-Railwayの略か?).ヘッドマークには「ふるさと銀河線」という文字と,沿線の7つの主要駅を模した7つの星が描かれている(写真9・10).冷房は未装備.風通しを良くするためだろう,両側の扉を開けていた.もう発車5分前で座席はすでにほぼ埋まっていた.8月14日ということもあり,最後の夏だからとわざわざ銀河線で帰省することを選んだと思われる家族連れや若者が多い.そしてさらに多いのは鉄道写真のファンの方々.列車の前方にも後方にも,大きな器材を持ち込んでいる人が何人もいた.中心は40代以降のベテランで,後方にはビデオカメラを固定して車窓からの景色を記録に収めようとしている者もいた.
列車の乗客はすでに10分以上前からほとんど増加はなく,いつ出発してもいいような状態だ.概して地方のダイヤの薄い地方ほど,このような光景を目にする.発車時間が近くなったので反対側のドアが閉じられ,いよいよ定刻の09:55,列車は池田駅を出発した.
写真9 ふるさと銀河線の車両(池田駅) 写真10 車体にも7つの星がデザインされている(緑のラインのところ)

10:08 高島
銀河線は最初の一瞬帯広方面へ走るものの,すぐに進路を北に変える.最初の駅・様舞(さままい)までは5.7kmあるものの,この駅は通過.さらその少し先で上を道東自動車が通り過ぎていく.5.8km先の高島(たかしま)を目指して列車は進む.高島は池北線がまだ「網走線」と呼ばれていた最初の段階(明治43年)からの由緒ある駅.しかも今でも高島易経で有名な高島嘉右衛門の農場であったことに由来するんだとか.線路はまっすぐなものの,あまり平らではないせいだろうか,「飛ばす」という雰囲気も感じないままのんびりと国道を並走する.10:06,高島着.ちょっと意外なことにここからも鉄道ファンとおぼしき人間が何人も乗ってきた.この駅はすれ違いのできる駅で,すぐ隣には同じく銀河線の車両がおり,こちらの到着を待ってさっそく出て行ったので,おそらくはこの並列シーンを撮影した者や向こうの列車から乗り込んできた者もいるのだろう.対向列車に対する調べが甘かったことに反省してさっそく次のすれ違いを調べると,次は足寄であることが判明する.
10:38 本別
高島の次の大森(おおもり)は単線に作られた駅で,ここも通過する.次の勇足(ゆうたり)は駅舎もある駅.短い停車.南本別(みなみほんべつ)から本別町(ほんべつちょう)に入り,本別の1.5km手前に岡女堂(おかめどう)という駅にも停まる.この駅は銀河線になってから新たに駅が作られた(平成7年開業)もので,その名の通り「岡女堂」という会社の工場につながっている一風変わった駅だ.この会社,神戸に本社があってここの豆を使った和菓子で有名らしいのだが….私は残念ながら駅名以外では聞いたことがない.そして次の本別に停車.あれ,まだ10:30だ.ここで列車とすれ違うわけでもないのに,発車まで8分もある.運転手が「発車は38分です.」という声を合図に,半分くらいの乗客がホームに降りた.昔はこの駅でも列車がすれ違っていたのだろうか.ともかくこれはラッキーとばかりに降りて駅を観察.跨線橋を渡って反対のホームはまだ生きているようだ.特筆すべきは木製の年季の入った跨線橋が,途中から鉄筋で延長されていて,駅の反対側のまだ真新しい町営住宅につながっていることか.こんな最高のロケーションに町営住宅があるのはうらやましいが,鉄道そのものがなくなってしまうのでは…(写真7).ここ本別町は源義経がこの地に下ったという伝説のあるところで,義経山や弁慶洞といった名勝があるとのこと.さすがにこんなとこまでは来てないだろうよ弁慶は….
写真11

本別駅の跨線橋

ところでJRの駅名のローマ字表記というのは基本的にヘボン式に倣うはずで,本別の場合はbという破裂音の前に「ん」の音があるので「Hombetsu」になると思うのだが,どうも駅舎はどこを見ても「Honbetsu」なんだよね.駅名表示板は全部「Hombetsu」なのに.教訓式で綴るなら「Honbetu」なんだろうし,どうも中途半端な気がする(写真12・13).
写真12 ホーム内は「Hombetsu」 写真13 駅舎は「Honbetsu」

駅は少し小高いところにあって,建物1階分ほど下に車寄せと駐車場がある.「列車を利用する人間のために誰かが車で送り迎えする」という習慣がよくあらわれているような,ゆったりとした作りになっていて,逆にバスなどの公共交通機関のニオイはしなかった.駅のまわりは駅舎を含めてどれも新しいものばかりだったので,町で金をかけて整備したのだろうか(写真14).とにもかくにもこの予想外の停車で得られた収穫は大きかった.乗客も思い思いに写真を撮っている.ここでいくらか降りた客がいたので,僕らは座席を確保した.列車は定時に本別を出発した.
写真14

本別駅前

11:00 足寄
本別の次は6.4km離れて仙美里(せんびり),ついで8.4km離れた足寄(あしょろ)へ.線路沿いの景色はこのあたりまでは変化に乏しく,平地を走っている.この銀河線は全線140.0kmもあるのにトンネルが1つもないことで知られており,その平坦さから一時期札幌-北見・網走間の高速化のためにこの路線を使おうという話もあったほどだ.道路ではむしろこの考え方が踏襲されており,北海道横断自動車道は,基本計画として岩内より始まり小樽を経由し,日高山脈を越えた後,本別から北へ向かうことで北見・網走との短絡をめざしているわけで.札樽自動車道も道東自動車道もその計画の一部ということになっている.足寄には10:55に到着.ここで銀河線唯一の快速「銀河」とすれ違う.しかしまだ列車は到着していなかった.足寄の駅も真新しく,これから銀河を迎えるホームにはたくさんの客がいた.とはいえ並んでいる感じではなく,家族連れでホームにたたずんでいるという雰囲気だ.アナウンスが入り,銀河の入線が2,3分遅れることが知らされた.時刻表では快速「銀河」が先に出るので,こちらものんびりと列車がくるのを身構える.やってきた列車はさすが快速らしく2両編成であり,車内に自動販売機がついていた.すぐに快速は発車していったが,ホームには半分くらいの親子連れが残っていた.列車見に来てただけだった模様.
11:15 上利別
足寄の次は愛冠(あいかっぷ)という駅.北海道人は寒さで有名な占冠村(しむかっぷむら)が冬になるたび天気予報で出てくるので難なく読めてしまう.「せっかくの駅名だし,この駅名にふさわしい巨乳グラビアアイドルを呼んで撮影会なんてオツじゃないか?」とMKと野郎トーク全開.実際,駅舎も駅前も旅情をそそるいい駅である(写真15).青色の背景に白い文字の旧国鉄タイプの駅名板が駅舎にかかっているのもたまらなく愛おしい.もちろん人の気配はまったくしない.そんな駅にふたりきりでたどり着いたら…,妄想はひろがりますなあ.…しかし実際はごっついカメラ抱えた鉄道マニアが乗り込んできたわけですが.さすがに来春で廃止になるし,会社もちょうど休める時期だからだろう,マニアックな駅ほど乗降客がいるという逆転現象が起こっている模様.
写真15

愛冠(あいかっぷ)駅

西一線(にしいっせん),塩幌(しおほろ)と通過(あまり関係ないが「東六線(ひがしろくせん)」があるのは和寒町(宗谷本線))し,9分で上利別(かみとしべつ)に停車.この駅は乗客から「おおーっ」と声があがったような気がするほど古い駅舎で,それを地元の子供に大きく絵を書かせている.列車と,足を擬人化したキャラクターが大きく描かれているのは,「ボクらにとっての生活の足を奪わないで」という意味合いをもたせてあるのだろうか(写真16).建物の梁はもちろん,改札のところの手すりまで木製だ.ところで上利別があるならほかの利別はないのかというと,利別があるのはさきほどスーパーおおぞらで通過した池田のひとつ前の駅であり,離れすぎててつながりについてはよくわからない.銀河線にはこの先に小利別(しょうとしべつ)という駅もある.おたがい随分離れているものだと思う.この上利別もまだ足寄町にある.足寄といえば平成の大合併前までは日本一面積の広い市町村として名を馳せていたのだが,今はそんな話も聞かなくなってしまった.それでも鈴木宗男に松山千春,それにラワン蕗と,道内の市町村では話題に事欠かないほうだろう.ラワン蕗というのは全長が2メートル以上にも伸びる蕗のことで,足寄の螺湾地区に特徴的にみられることからその名がついた珍しいフキである.この蕗を思い出すたびに私はアイヌの伝承に伝えられる小人の「コロポックル」のことを思い出すのだが,これはアイヌ語で「蕗の下の人」という意味らしいので,案外事実に基づいているような気がしてならない.銀河線はその螺湾地区は通っていない.
写真16

上利別(かみとしべつ)

11:38 陸別
上利別でもカメラを抱えた人間が乗り降りし,次の笹森(ささもり)は通過(この列車最後の通過駅),難読駅名の大誉地(およち)とその次の薫別(くんべつ)に停車.薫別で池田からの営業キロ70.7kmで140kmの半分を超える.この時点で2時間59分のうちの1時間33分(実際には陸別で2分ほど遅れている)で,ほぼ時間的にも半分だということがわかる.薫別は陸別町だが,列車はその後も足寄と陸別の間をふらふらしながら陸別に入っていく.この駅は昔は木材の運搬で栄えていたのだろう,池田や北見には負けるが銀河線のなかの駅では最も構内が広い感じだ.写真17は陸別駅ホームから池田方面を撮ったもの.陸別は360度すべて山に囲まれている感じだった.ホームがものすごくゆったりつくられている.列車は駅舎から離れた跨線橋側に停まったが,対向列車はない.脇線には除雪車が止まっていた.この駅は道の駅と鉄道の駅を融合させた珍しい道の駅「オーロラタウン93りくべつ」でもある.名前にあるオーロラは,ここ陸別町が道内でもっともオーロラが観測しやすいといわれているため.短い停車で発車する.
写真17

陸別駅

12:15 置戸
陸別から置戸までは峠越えとなる.近隣町村の行き来が最も少ないのがこの区間だろう.だからこそ鉄道ファンにはたまらなかったりするのであるが.国道とほぼ並走しながら,ぽつりぽつり家の見える分線(ぶんせん)で停車.駅を出てすぐ国道が上を跨ぐ.陸別から離れること9.8kmの川上(かわかみ)は国道までは数分のところにあるものの,人家が一軒もない駅.かろうじて駅舎は保線用の小屋と併設されている.ただでさえ本数の少ないこの区間でも通過する列車があり,もはやマニアのためだけにあるような駅である.もちろん今日はここでも「お客さん」がいる.寒い時期になって,どうか最後の一冬この駅で駅寝をしようとして凍死者が出ないことを祈るばかりだ.次の小利別は駅舎が新しく,駅前にはデジタル時計と温度計もついていた.駅前はすでにゴーストタウン化したような風情なのに,駅だけきれいなのは,この駅を利用する人間もっと山奥に住んでいるということを意味しているのだろう.この駅は昔は上下線の交換もできた駅だが,跨線橋はなく,今は反対側のホームは草で埋もれている.ここからもう少し行ったところが十勝支庁と網走支庁の境界であり,陸別から置戸に入っていく.銀河線のなかでもこの小利別-置戸間が15.9kmと最も駅間が長い.そこを17分かけて走破し,置戸(おけと)に到着する.
12:32 訓子府
置戸からはまるで別の路線になったかのような変わりようだ.ここからは北見への通学・通院圏内になるため列車も倍近くあり,駅間もぐっと狭くなる.十勝平野では米のほかはビートが目立っていたが,こちらにくるとビートはなく,たまねぎが多くなった.北見山地はたまねぎの名産地なのだ.列車は市街地に沿ってせわしく停車し,豊住(とよずみ),境野(さかいの)(文字通り置戸と訓子府の境目にある.この辺にしては珍しい古い駅舎),西訓子府(にしくんねっぷ),西富(にしとみ)と停車し,12:32に訓子府(くんねっぷ)に到着した.ここで本日の銀河線最後の上下線列車の交換があるが,その列車は置戸止まりであまりおもしろみを感じない.
12:54 北見
列車は稲作地帯を走るためか,訓子府の次は穂波(ほなみ)という駅で,その次は日ノ出(ひので),ちなみに北日ノ出という駅も北海道内(石北本線)にある.広郷(ひろさと),上常呂(かみところ),北光社(ほっこうしゃ)ととまりいよいよ終点の北見駅に到着.到着したのは池田にもあった島式のホームを切り崩したホームで,4番ホームを切り崩したところに3番ホームがあるというカタチ.で,この列車はワンマンであるため,車内で清算して清算済み証明を持っていくと,JR北見駅の駅員が改札を通してくれるという仕組み.おそらくは,そうしないとうまく車内で支払わずに逃げて,JRの定期で改札をくぐりぬけようとする輩がいるからだろう.列車を降りると大撮影会さながらで,乗客の半数近くが今まで乗ってきた列車と記念撮影しているという状態だった(写真18).
写真18

北見駅に到着

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