自由な・生徒自身の文化祭へ!


1.西中の文化祭の特色 

   西中の文化祭は1996年から大きく形と内容を変えて実施されるようになった。従来と大きく変わった特色は以下のようで

  ある。

 ・生徒自身の手で企画運営される文化祭であること。

 ・生徒一人一人が自分の興味関心に基づいて参加できる内容と形態であること。

 ・学級や学年などの、集団的取り組みを主体にしていること。

   以下、この3点について、目的や実態や課題をまとめてみたい。

 (1)生徒自身の手で企画運営される文化祭。

    生徒が主体的に文化祭に関われるように、その企画運営についても、生徒会本部と文化委員会を主体とした生徒の運営委員会に

   担わせ、教師はそれを援助するものとして、下の図のような組織図に基づいて行っている。

    そのため6月はじめには生徒運営委員会を開催し、文化祭テーマと実施要綱の検討にはいり、6月中頃にはこれらを決定して、

   この月の末には、テーマと実施要綱を発表して、文化祭参加団体を募集するなど、かなり早い時期から取り組んでいる。ちなみに

     97年度の文化祭テーマは『輝かせ虹色の青春。心に残る文化祭を』であり、エントリー締切りは7月7日であった。

    また、文化祭の運営は生徒会本部と生徒文化委員会の合同で行い、全体としての企画運営はこの生徒組織が行うが、文化祭の規

   模が大きいためにスタッフが不足するので、1997年度の第31回文化祭からは、上記の組織図にあるようにボランティアスタッフを

   募集し、運営スタッフとして生徒会本部・文化委員会とともに準備や当日の運営に当たっている。

 (2)生徒一人一人が自分の興味関心に基づいて参加できる内容と形態の文化祭

    生徒の自発的な参加を促すために、以下の方策をとっている。

  @ 個人や有志団体の結成と参加を促す。

  A 生徒運営委員会のもとに運営スタッフを募集し、自発的に運営に係わることを促す。

  B 開会式と閉会式以外は生徒の活動は1日自由行動とし、各自の計画による事とした。

    1997年には以上の3点に加えて、生徒は学年参加(後述)以外に最低一つは文化祭に参加する仕事をもつように、と呼びかけた

   こともあり、かなり積極的な取り組みがみられた。

    有志団体は6団体(バンド1、踊り1、合唱1、創作劇1、展示2)、個人参加も1組あった。そして運営スタッフには約60

   の生徒が応募した。さらに、各種委員会の参加も増え、演技会場を2か所設け、全教室が展示会場となるなど、盛況を博した。

資料(1997年・第31回文化祭・演技の部エントリー団体)
  団体名 演技時間 性格 公演場所・回数        内容
3年3組   20分 合唱 体育館・武道室にて各1回公演 合唱コンクールで優勝した歌を歌う
西高津合唱団   15分 合唱 体育館にて1回公演 有志合唱団。消えた8月など
9・10組    9分 合奏と歌 開会式にて公演 障害児学級。ベル演奏と手話の歌
PTAコーラス   10分 合唱 体育館にて1回公演  
職員合唱    8分 合唱 閉会式にて1回公演 2曲ほど
弁論   20分 弁論 開会式にて 各学年弁論大会優勝者
文芸部   20分 体育館にて2回公演 文芸作品の朗読劇
演劇団「鶫」   30分 体育館にて2回公演 有志団体。創作劇「もう一つの天国」
Noise   35分 バンド演奏 武道室にて1回公演 有志団体。5曲ほど演奏
10 ジャリーズ   22分  歌とおどり 武道室にて1回公演 有志団体。歌とパントマイムとおどり
11 選択合唱   10分 体育館にて1回公演 2・3年の選択音楽の合同合唱
12 伝統芸術部   10分 詩吟 体育館にて1回公演 個人参加。詩吟を披露
13 バトントワリング部   20分 バトン演技 体育館にて1回公演  
14 吹奏楽部   30分 吹奏楽演奏 体育館・武道室にて各1回公演  
15 3学年   10分 研究発表 武道室にて 環境について調べた事の発表
16 2学年   30分 研究発表・討論 武道室にて シンポジウム「明日の多摩川を考える」
資料(1997年・第31回文化祭・展示体験の部エントリー団体)
  団体名 場所 性格    内容  
家庭部 被服室 展示・体験 作品展示と作品制作コーナー
技術家庭科 被服室 展示 授業での作品展示
科学部 地下ホール 展示・体験 多摩川の水質測定と実験コーナー
選択理科 地下ホール 展示 3年選択授業の学習成果
3年5組 教室 展示・体験 ゲーム「○○を探せ!」
歴史研究部 教室 展示 二ヶ領用水の歴史と現状
図書委員会 教室 展示・体験 おすすめブック・作家紹介・心理テスト・小説コンテストなど
2学年 多目的ホール+教室 展示・体験 多摩川全域の環境調査結果
社会科 教室 展示 学習の成果の展示
10 放送委員会 多目的ホール 体験 自作のスペシャル番組の放映
11 3学年 教室 展示 地域の環境調査
12 伝統芸術部 文化部室 体験・展示 生け花展示・お茶のたてだし
13 3年4組 教室 体験 劇と推理コーナー
14 体育委員会 教室 展示 スポーツテストの結果展示
15 福祉委員会 教室 体験 手話講習・点字体験など
16 9・10組 教室 展示 作品の展示
17 整美委員会 教室 展示 美化コンクールやアンケート結果の展示
18 美術部 教室 展示 ブラックライトの共同製作など作品展示
19 美術科 ギャラリー 展示 作品の展示
20 国語科 教室 展示 授業での作品展示
21 1学年 教室・校庭 展示 環境について・砂絵
22 保健委員会 教室 展示 たばこの害について
23 新聞委員会 教室 展示・体験 作品展示・レタリング教室
24 EISEM WOLF 教室 展示・体験 有志団体。イラスト展示・イラストコンテスト実施
25 マルチカンパニー・ズラミックス 教室 展示・体験 有志団体。心理クイズなど
26 理科 教室 展示 自由研究など作品展示
27 PTA 教室 体験 作品づくり体験
28 地域教育会議 教室 展示 大山街道について
資料(1997年度・第31回文化祭当日の動き【当初予定】

 (3)学年や学級の集団的取り組みを主体とした文化祭

    生徒一人一人の主体的取り組みを促すために以上のような取り組みを進めているが、このような動きを促進するためにも、様々

   なレベルの既成組織での集団的な取り組みを促すことも大事である。各種委員会の積極的な参加をよびかけると共に、クラスや学

   年全体での取り組みを早い時期に組織している。

    1997年には、1学年では環境問題に各クラス毎にテーマを決めて取り組み、2学年では多摩川の環境調査を各自の興味関心にも

   とづいたチーム編成で取り組み、3学年は各自の興味関心にもとづいてチームを組み、地域の環境について調査した。

    また3学年ではクラスとしての参加もなされた。

    学級や学年の集団的な取り組みは、生徒一人一人に主体的に文化祭に関わる姿勢を育て、そして各自の興味を掘り下げる働きを

   もっている。取り組みを進める時に、各個人の興味や関心を生かす形態も必要であり、3学年次には有志団体を学年として組織さ

   せていくことも有効な方法である。

2.自由な生徒自身の文化祭が始まるまで

      現在のような文化祭がはじまるまでには、生徒主体の学校づくりをすすめる、長い歴史があった。

  (1)ひょうたんから駒

      現在のような文化祭になるきっかけは、1994年の第28回文化祭に、3年生が有志グループを組んで、英語劇「三銃士」を上演したことに

     ある。文化祭当日は、会場の体育館を所狭しとばかりに、舞台と観客席とを駆け巡る大胆なアクション劇の出現に、観客からは盛大な拍手

     が送られ、下級生に「自分たちもやってみたい」との気持ちを引き起こした。

       しかし問題は文化祭終了後の職員反省会で出てきた。

       この英語劇は、文化祭のあとに行われる市の連合文化祭の英語生徒発表会に向けて結成されたもので、実質的に有志グループであっ

      たが、文化祭の参加条件には「有志」は含まれていなかったので文化祭エントリーは英語科としてなされていた。そして夏休み前から活動

      に入り、夏休み中や秋の体育祭の練習の最中、そしてその後の秋の中体連の大会期間中や日曜日と、活発に活動した。そのため、さま

      ざまな部の活動と競合し、各部の練習に支障をきたしていた。しかも英語科がこのような有志グループを組む事は職員会議でも提案はな

      されず、誰の承認もえることなく行われていた。このためこの活動はルール違反であり、今後このような動きがでてきたときどう対処するか

      が問題となったのである。

       この問題をめぐる職員の討論は、この年と次の年に引き続き行われたが、その論議の中で、有志団体のあつかいの他に、文化祭は体

      育祭・秋の中体連の大会・合唱コンクールと大きな行事続きの中で行われるのに充分な準備時間が設けられないので、文化祭にむけた

      活動、特に近年盛んに成っている学年での動きが、他の行事、とくに秋の中体連の大会にむけた各部の活動や文化祭の文化部や委員

      会の活動に支障をきたしていることが、検討事項としてあげられた。この英語劇グループの問題は、けして単独の問題ではなかったの

      である。

       会議は、以下のような結論を出した。

   

  @10月に実施していた合唱コンクールを1学期の6月に移す。
  A文化祭の一週間前は文化祭準備期間とする。
    ・授業は午前中の40分5時間授業とし、午後の6校時を学年の準備時間に当てる。
    ・放課後の部活動は文化部のみ、運動部の活動は停止して文化祭準備に専念する(ただし駅伝練習と中央大会出場部は除く)
    ・放課後は、(1)学年・有志優先時間(2)委員会・部活動優先時間にわけ、それぞれの活動の時間を保証する。
  B文化祭に有志グループや個人の参加を認める。
  Cその際は担当顧問を設け、メンバーや練習日程を届け出て活動をすること。

       職員会議は、有志グループなどの生徒の自主的な活動を押さえるのではなく、むしろそれを積極的に容認して生徒の主体的な活動を促

      す場とすること。また、活発になりつつある学年での動きを「生徒の自主性を促す場」と積極的にとらえ、これらの活動や文化部・委員会の

      文化祭のための活動を保証するための時間を確保するために、合唱コンクールの実施時期の移動と、文化祭準備期間の新設と運動部

      の期間中の活動停止を決めたのである。

       まさにひょうたんから駒の決定のように見えるが、すでに何年間も生徒の主体的な活動を学校の柱にすべく取り組んできた経緯と、同じ

      時期に体育祭のもちかたを変え、学年縦割りブロック制の実施と、体育祭準備期間の新設とその期間中の授業と部活動の停止とが決ま

      り、体育祭も生徒の主体的な活動を促す場ととらえ、そこの集中して行くという考え方が職員の間に合意を得ていたことが背景にあり、こ

      の流れの中での決定であり、この二つの決定が西中を大きく変えたといっても過言ではない。

  (2)文化祭の運営組織の改変

      翌1995年の第29回文化祭は、大規模な有志団体のエントリーによって、様変わりとでもいうべき様相をていした。3年生が学年の取り組

     みとして「3年生一人一人が何かひとつ出し物を考え有志団体を組む」ことを決定し、合計16の有志団体でエントリーしたからである。午前

     中演技・午後展示という昔ながらの文化祭の形ではあったが、文化祭はおおいに活性化した(「一人一人がつくる文化祭へ」参照)

      この成功をうけて、翌1996年の職員文化委員会では、文化祭の企画・運営を生徒自身の手に移すことを決定し、生徒会本部と生徒文化

     委員会に打診し了解をえて、文化祭の企画・運営組織を新たに作りなおした。これが現在の組織である。

      この組織図の眼目は通常運営スタッフの上にある職員文化委員会・職員会を生徒の運営委員会と同列に置き、文化祭の企画・運営権は

     生徒の文化祭運営委員会にあること、そして職員はそれを援助する位置にあり、職員文化委員会はその職員と生徒とを調整する役割にあ

     ること、またこの職員文化委員会は教頭・校長に直属し、その指揮・監督・助言を受ける事を組織図として明確にしてある。

      この組織変更が大きな役割をこのはたすことになる(これについては後述)。

  (3)生徒が企画・運営するありかたが文化祭を変えた

      1996年の第30回文化祭は、西中の文化祭にとって大きな転換であった。文化祭の持ち方が大きく変わったからである。

    昨年まで     1996年から
○午前中:演技、午後展示 ○朝:開会式、午後:閉会式。その間、演技・展示を平行。
○生徒は開会式・閉会式以外は自由に自分の活動を選択する。

      しかし、この変更は大きな論議をよび、文化祭の意味を深く問い直す議論を経てなされたものであった。

    @生徒会本部の提案

      年度当初の職員文化委員会の事前構想としては、文化祭のもちかたはほぼ従来のものであった。しかし、生徒会運営委員会との論議の

     中で生徒会から次のような提案がなされた。

 @生徒会イベントを大規模に実施し、生徒全員が参加する態勢をとりたい。
 A前夜祭または後夜祭を実施したい。

      この提案に基づいて相互に討論・調整をした結果、当初職員会議に提案した文化祭原案は以下のような形であった。

 ○午前中:開会式・演技発表(体育館)、全員参加
 ○午後:生徒会イベント・一般展示・体験コーナーの同時開催
      各学年毎に各コーナー30分としてローテーション見学
      終了後閉会式(5月30日の職員会議の文化委員会提案骨子)

      ただエントリーを受けつけてみないとこの動き方で全ての参加団体が動けるか分からないので、具体的には生徒運営委員会の決定にま

     かせるという付帯事項がついていた。

      そして実施要綱・エントリー要綱の発表を控えた6月4日の文化祭生徒運営委員会ではもうすこし具体的に論議し、次のような含みのある

     決定をした。

 ○午前中:開会式・演技発表(体育館)、全員参加
 ○午後:展示・体験コーナー、※学年による時間制限なし
                   ※
演技のエントリーが多いときは午後にも演技を平行実施(体育館・武道室)
                   ※生徒会イベントは実施しない。運営に専念。
 ○前夜祭後夜祭は行わない。前前日に事前指導をかねた生徒会主催のイベントを実施。
 ○開会式・閉会式に演技を入れ、イベント的な内容にする。

      生徒会本部のメンバーの情報では、この年はかなり多くの有志団体がエントリーしそうなこと、そしてその多くが演技の部であること、そし

     て合唱コンクールで入賞したクラスのほとんどが文化祭での発表を望んでいる事が分かっていたからである。

      そして6月28日のエントリー締め切り。予想以上に演技の部のエントリーが多く、とても午前中では収まらない状態がわかった。

団体名 演技時間 性格 内容
3学年(全員)   15分 合唱 合唱コンクールの自由曲を呼びかけでつなぐ
3年3組(クラス)    8分 合唱  
2年3組(クラス)    4分 合唱  
2年5組(クラス)    3分 合唱  
1年2組(クラス)    5分 合唱  
1年3組(クラス)    5分 合唱  
西高津合唱団(有志)   10分 合唱  
PTAコーラス    7分 合唱  
英語の歌(有志)   10分 合唱 英語の歌3曲
10 キタロウ(有志)   30分 歌とギター演奏
11 バトン部    9分 ダンス  
12 NBG(有志)    ?分 ダンス  
13 文芸部   30分 朗読劇  
14 Jesusu Innuendo(有志)   17分 創作劇  
15 9・10組   12分 演奏 ベル演奏と電子楽器演奏
16 吹奏楽部   30分 演奏  
17 英語科    5分 スピーチ 英語のスピーチ
18 国語科   25分 スピーチ 1〜3学年の代表各1名の弁論
              合計  225分+α    

       この状況を受けた7月8日の文化祭生徒運営委員会は議論の結果次のような提案をすることとした。

 @演技と展示を1日平行して行い、生徒は各自自由に選択して見学する。
 A演技・展示はそれぞれ3ステージ制とし、生徒はそこから選ぶ。

 B開会式・閉会式に演技を入れる。

  A反対意見の噴出

       この提案を受けて開かれた職員文化委員会では提案に対する反対意見が続出した。文化委員会では賛否をとってかろうじ

      て提案に賛成が過半数であったが、反対の理由は主に以下のようであった。

 ○自由選択制にすると生徒は安きに流れ、文化的価値の高いものには見向きもしない。
 ○だから演技は全員で見せるべきである(展示も学年毎に時間を定め見せるべきである)。

       議論の焦点は「文化祭の演技や展示は見せるべきものなのか」という価値判断にあった。そして提案に賛成の意見は、「価値があるか

      ないかは各個人が判断すべきもの」「文化祭は見るものではなく作るものへ転換すべきだ」というものであり、ほとんど論議は平行線をたど

      った。したがって職員文化委員会の決定後に次のような付帯事項をつけざるを得なかったのである。

《ねらい》 (1)生徒たちの自主的活動により多くの場と時を与える。
      (2)選択幅を広げる事で、生徒たちの興味関心をふかめる。
《留意事項》
      (1)生徒全体に見せたいものは、可能な限り開会式・閉会式のセレモニーに組み込む。
      (2)生徒はかならず各1ステージは、演技・展示体験に参加する。
      (3)生徒がなるべく多くを見るように、次の活動を企画する。
        @各参加団体を評価する「評価カード」をしおりに入れる。
        A生徒は、見学したところの受付に「評価カード」を必ず提出する。
        B各団体の受付は「評価カード」を受け取ったらしおりのスタンプカードにスタンプを押す。
        C後日「評価カード」を集計し、好評なものは表彰する。
        Dたくさん参加したものも後日表彰する。
      (4)事前に学活を1時間持ち、しおりをもとに一日の活動計画を立てる。
      (5)生徒運営委員会および各学年職員によるパトロールを実施する。

       しかし、この付帯事項のついた提案に対しても、職員会議で多くの反対意見が出た。発言のほとんどが反対だったと思う。反対意見の理

      由は文化委員会の時とほぼ同じだが、その意見の裏側にあった考え方が表面に出てきた。それは要するに次の二つである。

 ○こんな形の文化祭は見た事も聞いた事もない。
 ○生徒は自由にしたら何をするかわからない。

       まったく初めてでどんな文化祭になるのか見当もつかず、何がおこるか不安であるというのが反対意見の本音の部分であったと思う(

     回の文化祭の改革のベースとなった柿生中の実践ー『OPEN THE 文化祭』参照ーは、このとき何年も前に、この新しい形の文化祭を作り上げた中心メンバーの多くが転勤したあとで、「きつい」という職員の多数の反対で廃止さ

     れていたので、一日自由な文化祭は、市内では皆無の状態であった)。

       会議は教頭・校長の「原案支持」「見る文化祭から作る文化祭に転換する事は生徒の個性を生かし・興味関心を深める事が出来、今目

     指されている新しい教育過程の精神に沿ったものだ」との発言で原案どうりで実施することに決まった。だが論議は煮詰まらず見解の対立

     の溝は埋まらずにいたことは、後日文化祭の直前になって一つの学年が「自由な見学にはしない。学年として見るべきステージを決め、そ

     の方向で動くように生徒を指導する」との動きに現れ、職員文化委員会の反対や教頭・校長の説得も振り切って学年としての統一行動を挙

     行した動きとなって現れる。

 (4)一人一人の花を咲かせた文化祭

     19961026日の第30回文化祭は成功裏に終わった。生徒や保護者、そしてPTAの役員からは新しい文化祭を支持する声がたくさん寄

    せられた。 

     開会式はいきなり会場の照明が消されて真っ暗になった時に2階のギャラリーにスポットライトが当てられ、吹奏楽部のファンファーレが開

    会のときをつげ、続いて舞台の幕が上がると障害児学級のベル演奏が静かに開始される。その演奏で会場に感激の渦が巻き起こったところ

    でおもむろに開会を宣言するという形で始まった。

            開会のファンファーレ                            ベル演奏              

    そして、諸注意と各学年の代表による弁論をおこなって開会式は終わった。このあとは3ステージ制による、演技と展示・体験の平行制であ

   る。生徒たちは思い思いに見学場所を決めて各所へ散っていった。

    この年の文化祭は、従来と違った新しい取り組みがいくつもなされた。一つは演劇が大きな柱として定着し始めた事である。文芸部による朗

   読劇と有志団体による創作劇が上演され、それぞれ100人以上の観客を集めた。

      朗読劇「大人になれなかった弟たちに」          創作劇「Jesus Inunuendo」    

     また、有志団体も増え、3年生の「kita&nori」が舞台で歌とギター演奏を行い、1年生の鉄道の好きなグループが展示・体験コーナーで鉄

    道模型実演を行った。

           kita & nori                             鉄道模型        

     文化祭の柱と位置付けている学年参加では、新しい動きが出てきた。3学年は学年全員で合唱コンクールの自由曲をつなげて呼びかけ形

    式で閉会式に上演した。これは圧倒的な迫力で好評をはくし、翌1997年の創立40周年記念式典での3学年の上演、そしてその後の1998

    度卒業式における呼びかけ形式による合唱の披露へと続き、3年生がみんなで3年間の思い出を語る形式の卒業式を生み出すきっかけとな

    った。また1学年は、文化祭を総合的学習の展開の場としてとらえ、文化祭前の2ヶ月間の学級の時間や文化祭準備期間をつかって多摩川

    の自然調査を行い、文化祭で発表した。これは総合的学習の先行的な実践例となり、文化祭の新しいありかたをも示した。

    3年生による学年合唱・よびかけ          1年生の「多摩川の自然と歴史」発表    

    そしてもう1点特筆すべき事は、PTAと地域教育会議の参加であろう。PTAは会員の作品コーナーを設け、絵や写真や手芸や書道作品など

   父母の作品の展示を通じて保護者の文化祭への参加を促すと同時に、体験コーナーを設け、ハーブの手作りはがきと絵皿の自作コーナーを

  父母の指導のもとで、文化祭当日実施した。また中学校区ごとに組織されている地域教育会議も参加し、地域クイズとペットボトルロケット体験コ

  ーナーを設けた。PTAや地域教育会議の文化祭への参加は、以後恒例となり、地域との協力関係がさまざまな教育活動の展開にとっての支え

  となっていく。

             PTA体験コーナー                       地域教育会議

    さまざまな新しい取り組みの始まった文化祭であったが、生徒たちは生徒会主催のスタンプラリーでおおいに盛りあがった。

資料(スタンプカード)

 (5)1996年文化祭の教訓を生かして

     1996年の文化祭の教訓をどう生かすか。これが大きな問題であった。PTAおよび生徒からは新しい文化祭の形は絶賛された。しかし初め

    ての試みでもあり、たくさんの不備なところがあった。そこをどうするかが問題であった。

     第30会文化祭の職員反省(職員数31名)は、演技と展示を平行的に実施したことについて次のような結果となった。

 ○良い:8名
      ・事前指導、準備がしっかりできれば生徒は主体的に見学し、1日を有効に生活できる。

 ○改善して欲しい:18名
      ・3ステージ制にしたが一つ一つの演技を選択できるようにして、幕間の移動を可としたい。
      ・見たくないものもステージ毎にセットになっているので見学マナーが良くない。一つ一つを選択できるようにしたい。
      ・合唱は見るものほとんどおらず演技者がかわいそう。演技は全員で見せるべきだ。
      ・文化祭を発表の場にしている文化部やPTAコーラスの見学者が少なくはりあいがない。こう言う演技は全員で見せたい。

 ○良くない:1名
      ・午前中の演技の部にはほとんど生徒がおらず、昼食後はたくさんの生徒がいる。これではよくない。

     演技見学者が午前中と午後で大きく変わったのは演技タイムスケジュールの組み方のせいであった。

     第3部に人気の高い団体が集中し、一番人気のない団体が第1部に集中したのだから、午前は展示会場・午後は演技会場と生徒が動いた

    のは当然であり、プログラムミスであった。

     また一方で「開会式・閉会式に演技を入れたこと」や「運営を生徒主体にしたこと」については圧倒的多数が賛成で今後も続けようであった。

     この反省を受けて職員文化委員会では来年の文化祭のあり方の職員側の方向として以下のように決め、職員会議の了承を得て、生徒運

    営委員会と協議していくこととした。

 ○来年も演技と展示を平行し、一日自由行動とする。
 ○どの演技も展示も見やすくするため、演技のタイムスケジュールを見なおし、人気の演技が偏らないようにする。
 ○演技・展示の3ステージ制はやめ、演技は一つごとに選択できるようにする。
 ○施設設備面を充実させ、武道室でも照明が使えるようにし、演技会場を増やす。
 ○演技者と運営スタッフの調整のため、リハーサル以前にも何度か舞台練習を設ける。
 ○文化祭を見るだけという生徒を一人もつくらないため、係・委員会・部・有志・クラス・学年のどれかに主体的に参加できるよう指導し
  て行く。

     この決定は、新しい文化祭のありかたをさらに充実させることを主眼とし、「見る文化祭から作る文化祭」へとさらに踏み込んで行く事を主眼

    としており、この観点から第30回文化祭の問題点を解決していく方向をとっていた。

     こうして今日のような形の文化祭が出来上がることとなった。

3.さらなる飛躍を目指して

     以上のような経過をたどって、西中の文化祭の骨格は出来て行った。1997年の1023日に実施された第31回文化祭は、新しい形の文化

    祭のさらに拡大進化したものとなった。有志団体も増え、運営スタッフには60名ほどの生徒が参加し、規模はさらに大きくなった。このため演

    技の部は本番以前に、3日間の舞台練習と3日間のリハーサル期間を設け、本番と同じ舞台設定で運営スタッフも本番どうりというかたちで

    なんども練習を重ねて本番に臨んだ。

     演技団体にバンドとコントがエントリーしたのも今回がはじめてであった。また創作劇も伝統に成ろうとしていた。

               バンド演奏(noise)            創作劇「もう一つの天国」(劇団鶫)

     また個人の演技ということで詩吟を披露した生徒がでたことも、その後文化祭で個人参加や2・3人の小グループのさんかを促す切っ掛けと

    もなった。さらに2学年が昨年に引き続き文化祭にむけて多摩川の全域の環境調査を行い、文化祭の場でその結果をもとにシンポジウムを

    催し、明日の多摩川を考える機会をもったことも、今後の文化祭のありかたを示唆している。

4.成果と課題

  学年・有志などの参加形態を広げ、生徒一人一人が作り上げ、一日自由な文化祭に変えた事で、生徒たちはかなり主体的に文化祭に

 取り組んだ。下の感想文にあるようにすでに来年の文化祭にむけて、一人一人がさまざまな決意を固めているようである。

  今年の文化祭は創立40周年記念ということもあり、とても 

 楽しくにぎやかなものになったと思いました。

  去年から自由行動になったので、団体で行動するよりも

 見たくないものは見なくてすむのでいいと思う。

  セレモニーは長かったけど、3年生の”大地讃頌””よび

 かけ”はスゴク良かった。最初の大地讃頌の出だしを聞い

 た時は、練習の時はまったく思わなかったのに”カッコイイ”

 と感激した。

  さすが三年生という感じでした。私も来年は1・2年生に、

 去年の三年生もよかったけど、今年の三年生もいいねと

 言われるように、がんばりたいものです。 

  上級生の運営スタッフでの頑張りや有志団体学年の取り組みや委員会での取り組みに刺激されて、『今年はできなかったが来年は何

 かやろう』という決意を持った生徒が多いようである。

  この生徒の意欲を生かすためにも、年齢差や個人の興味関心の違いを生かす形態での取り組みを、さらに進めていくことが大切であ

 ろう。増えつつある有志グループには、早い段階できちんと顧問がつき、充分な練習時間を夏休み中から持って、より質の高い演技が

 できるようにすることが大切であろう。また学年として有志グループ結成を援助して行く事も良いと思う。

(1997年度市の環境教育委嘱研究の研究冊子に載せたものに加筆修正した)


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