カンダム誕生
(写真@:完成したカンダム)
☆ はじめに☆
平成5年度文化祭において、1学年生徒並びに職員は、空き缶を利用した立体巨大ロボット"カンダム"の製作に取り組んだ。始めは1職
員の思いつきに過ぎなかったこの企画は、やがて学年だけではなく学校全体や地域の人々までをも巻き込むー大イベントとなった。
短い準備期間の途中1度は無理と思われたものの、生徒達の頑張りとたくさんの人々の協力によって完成し、”カンダム” は成功のうち
に終わることができた。
”カンダム”は、今も生徒達の心に大きな思い出のひとつとして刻まれているに違いない。あれから約1年、その構想から完成までを振
り返ってみようと思う。
☆「カンダム」が誕生するまで☆
6/? 中村学年主任のおしゃべり?《「空き缶を使って、大きなロボット、ガンダムならぬ『カンダム』が作れないだろうか?」》から
←生徒も1学年職員もこのアイディアに悪乗りする
7/5 1学年委員会にて学年職員より「文化祭で『カンダム』作成」の提案
←学年委員全員賛成で決定
7/8 設計、デザイン係公募締め切り
7/? 「カンダム作成委員会」・・・デザイン決定。必要な空き缶数の算出(目標は1万個)
←大きさ、デザイン、設計図すべて生徒に任せる。
(空き缶はリサイクルできるように、@色は缶の色を使う、A完成後、ばらして元の缶に戻す、が設計の基本。)
7/? 「カンダム」作成委員会より夏休み中の空き缶収集についての連絡(→資料1)
−−−−−夏休み−−−−−
〜計算上1人50個もってくれば十分。みなのんびり気分で過ごした夏休みであった。
ところが....
体育祭が終わった時点で、集まっていた空き缶の数は2000余個。
体育祭の学年応援・・マスコット作りに学年の力を集中していたので、1学期に公募により組織した「カンダム」作成委員会(後に製作
委員会)の活動も進まず。
あと1ケ月しかない.....
9/17 1学年委員会(体育祭の反省)にて、「『カンダム』製作委員会」の構想を考えるプリントを配布
←きわめて日程が厳しいので、「カンダム」製作委員会に学年委員会を合体し、学年委員会による集団指導体
制をとる。そのために、文化祭での展示、缶集め、委員会の係と組織の構想を、学年委員会で企画するもの。
(→資料2・日程表)
9/20 1学年委員会・・・空き缶の収集方法、文化祭での展示内容、製作委員会組織、学年委員会の分担について話し合う。
9/22 「カンダム」製作委員会・・・学年委員会の提案を審議、決定。製作委員の追加、募集も決定(→資料3・製作委員会組織図)
設計係・・・合同で活動開始
9/24 合同「カンダム」製作委員会・・・係ごと活動内容、分担等について話し合う。
色分け分類係・・・活動開始
9/25 製作委員会追加募集締め切り
9/28 宣伝係・・・活動開始。「空き缶収集協力のお願い」ポスター、校内掲示及び町内会へ依頼(→資料4)
10/1 組み立て活動開始。設計係合流。設計も同時進行。(→資料5・設計図)
10/2 「カンダム」製作委員会リーダー会議・・・[議題]もし缶が不足したとき、2〜3日で缶を大量に集める方法はないか?(→資料6)
10/13 教師側より「カンダム」製作計画変更の提案・・-時間不足、人手不足の状態で(→資料7)
・「カンダム誕生」のビデオ番組製作を縮少・・・・ドラマ撮影をやめ紙芝居形式 ・ 学年の総力を「カンダム」本体を完成することに集中 ・「カンダム」の設計変更・・・頭は中を空洞にする |
カンダム製作委員会議案 1993.10.13
○計画変更の理由: 1)製作にかけられる時間が大幅に不足している。
2)シナリオに基づいてビデオ撮影する時間がない。 3)カンダム組み立ての人手不足。 4)カンダムの設計も終わっていない。 ・現在は3組渡辺君と川瀬でやっている状態。 ※このままでは、カンは集まるが、カンダムが完成しない恐れがある。 5)職員の人手不足で、活動につけない。 以上の理由で、カンダムを立てる事に集中し、ビデオ製作は中止または縮小したい。
○組み立てリーダーの募集実際に組み立てる人を後20人程組み立て係から募集。 |
10/14 組み立てりーダー追加募集。(カンダム、足完成)
(写真A:カンダム足完成!!)
10/? 「カンダム」製作の活動が新聞に載る。 生徒達の意識が高まる。(→資料8)
10/16 (カンダム、胴完成)
(写真B:カンダム胴完成!!)
10/19 合唱コンクール。《カンダム、腕完成》
10/21 文化祭りハーサル←ビデオ番組はまだ取り直しが必要な段階 (カンダム、頭完成)
10/22 文化祭準備(午後)。展示教室・看板準備終了(資料9・看板の宣言文)
緑と地球環境を守る「カンダム」 私たちの宣言 私たちのまわりには、大気汚染の問題をはじめ自然破壊につながるさまざまの問題が 数多くあります。物に不自由しない時代に生まれた私たちは、同時にいろいろな問題も 乗り越えなければなりません。『今、ゴミがあふれています』と聞いて、それだけで終わら せてはいられません。地球の資源は無限ではないからです。そこで、何気なく捨てられて いる空き缶を見直してみました。そして、ゴミの減量、環境美化、資源回収といった未来 につながる活動に気付き、緑と地球環境を守る「カンダム」の製作に取り組みました。 ただ『わかっている』だけではどうにもならない。ひとりひとりが理解し、少しのことでも 『実行する』ことが大切。「カンダム」の製作を通して私たちは、このことの大きさに気付く ことができました。物の豊かな時代に生きる私たちに「カンダム」は物を大切にすること を訴えています。 1つ。 環境を汚さず、きれいに保つこと。 2つ。 物を壊さず、大切に扱うこと。 3つ。 ムダを出さず、21世紀につなげること。 「カンダム」の製作にあたって、たくさんの人に協力していただきました。1万個の空き缶 回収にご協力下さいましたみなさまに、心から感謝したします。 平成5年10月23日 ○○市立○○中学校第27回文化祭 第1学年出品作品『カンダム』製作委員会 |
(足胴頭腕が合体し、カンダム完成!)
(写真C:カンダム完成!!)
本体使用空き缶総個数:3 50ml缶…約6 3 0 0個、500ml缶…約100個 大きさ:高さ2m64cm 重さ:約103kg |
10/23 文化祭当日・・・早朝ビデオ番組完成。「カンダム」修理。
☆「カンダム」製作 各係の活動☆(→資料3・製作委員会組織図)
[設計]
・設計図を作る、実際に必要な空き缶の数を出す。
(カンダムは、終わったら解体して資源に回せるよう に設計した。そのためには、色を塗らず缶の色をそ のまま生かし、接着剤を使わないで製作しなければ ならない。しかも立体である。これは、想像した以 上に複雑で根気のいる仕事だった) |
・組み立ての指揮。
(設計図が読めなければ組み立てはできないため、組み立ての指揮もとらなければなら なかった。実際に組み立てるのは設計図以上に面倒な仕事だったかもしれない) |
[色分け分類]
・空き缶の色分け、分類(スチール缶とアルミ缶、大きさ)
・空き缶の洗浄
(当初は予定されていなかったが、集められた空き缶はきれいなものばかりではなかっ たため始まった仕事である。他学年や地域にも運動が広がり、自主的なクリーン作戦に よって集められた空き缶が増えるにつれて、洗わずには使えない空き缶も増えた。中に 吸い穀やごみのつまった空き缶を洗い、環境に対して1番いろいろな思いをもった係か もしれない。) |
[組み立て]
・基礎単位の組み立て
(強力両面テープで接着した3個1組の空き缶を基礎単位とした。 「赤2白1、〇組、青1黄2、△組」といったりーダーの指示に あわせた色と個数で組み立てる仕事で、自分のした仕事がカン ダムのどこになったのか、あまり実感がなかったかもしれない。 しかし、学年の多くの生徒がここに参加したからこそできたカ ンダムであろうと思う。) |
・組み立てりーダー
(設計図を読み、基礎単位をさらに両面テープで接着して、実際にカンダムの体を組み 立てた。最後には「最終下校を延長して !」と訴えるほどに、のめり込み必死に真剣に 取り組んだ。へとへとになっていたけれども、完成したときの満足感は最高だっただろ う。) |
[宣伝(ポスター、新聞、クイズ、看板)]
・空き缶収集キャンペーンのポスター製作
・展示教室準備・・・カンダム製作の目的や製作過程、アルミ缶リサイクルの意義などを伝える新聞の製作、展示。環境に関するクイ
ズの実施。
・「地球環境を守るカンダム」の製作目的・意義・決意を宣言する看板の製作。
(これらの活動によって、カンダム製作の活動は単に「すごいものを作ったな」という 活動に終わらなか.ったのだと思う。実際、宣伝係の生徒の多くも、はじめ、なぜカンダ ムを作ろうとしているのかきちんと理解してはいなかった。活動を進める中で学習した ことは少なくないと思う。係以外の生徒も、展示を見ることによって自分たちの活動の 意義を再確認できたのではなかろうか。) |
[宣伝くビデオ番組製作)]
・「カンダム誕生」
(ビデオ番組は完全に生徒の発想で始まり、生徒自身のシナリオで作られた。当初は、 「カンダム」作りが決定される過程の部分に生徒達自身が出演する予定だったが、シナ リオ作りがスムーズに進まず、出演者も決まらない状況で中止の声も上がる中、紙芝居 の形に変更して続けられた。また、製作状況も毎日ビデオ撮影を実施された。教師側の 製作中止の意見に屈しず粘り続け、「『カンダム』は生徒の案」というシナリオで番組 を完成させたこの係の頑張りの裏には、「自分たちで作り上げたい」という気持ちが強 くあったように感じている。) |
☆空き缶の収集活動について☆
9月下旬、このころまでに1学年生徒達の集めた空き缶は約3000個。目標の1万個にはほど遠く、製作期限(文化祭)はどんどん近づいて
いく中、他学年や地域の人々に空き缶収集活動への協力を求めることとなった。その反響は思った以上に大きく、やや盛り上がりに欠け
つつあった1学年生徒達の気持ちに、再び火を点けてくれたと言っても過言ではないだろう。最終的には、1万3000個もの空き缶が集め
られた。
・2年生のS君・・・毎日のように朝に夕に多摩川のクリーン作戦を行い、1人でリヤカー何台分もの空き缶を集めてくれた。 ・2年5組…クラスでクリーン作戦を行った。 ・某ゴルフ場・・・土日で大量に空き缶が出ることを連絡してくれ、月曜の朝には回収業者に回るはずの空き缶をとっておい てくれた。 ・たくさんの2・3年生、父母の方々、1学年以外の職員 ・・・「いつ誰が入れてくれていたのか、職員室前の収集箱には空き缶の入らない日はなかった。 |
☆ カンダム」が完成して☆
当日、200枚ほどのアンケート用紙を用意したが、すべてなくなった。製作した1学年の生徒、協力してくれた2・3学年の生徒、本校
職員、父母、地域の人々まで感想を寄せてくれた。大きくまとめると、まず「カンダム」とそれを完成させた1学年生徒にたいして、
「すごい」「すばらしい」「よくやった」という感動、感嘆の声である。文化祭前日に「カンダム」が完成したとき、それだけでも感
動、満足だったが、そのような感想をたくさんもらえて、まさしく「頑張ったかいがあった」と思った。完成した「カンダム」を前に、
中心的に活動した生徒もあまり参加できなかった生徒もうれしそうだった。(→資料10)
文化祭前日の10月22日午後3時30分頃、足胴腕頭が合体して「カンダム」本体は完成した。しかしそのときから「カンダム」の崩壊は
始まった。両面テープだけでつけたので、缶が少しずつその重さでゆるんでくる。透明ビニールテープで回りから押さえても、この動き
は止まらない。これから解体する11月5日まで、毎日缶が落ちていった。そばを歩くと「ピキッ」「ピキッ」と缶の外れる音が聞こえ
る。生徒達は「『カンダム』が泣いている」「『カンダム』にはわたしたちの魂が乗り移っている」と、その音を聞いて話したものであ
る。製作委員は、この間毎日、落ちた缶や落ちかかった缶の補修を自発的に行っていた。
☆文化祭後☆
11/4 1学年委員会・・・文化祭反省と前期学年委員会まとめ(→資料11)
1学年委員会報告(10)
1993.11.4 1)文化祭カンダムのまとめ
〔討論になった事〕 ○缶の集め方〔1年生一人一人が缶を集めきっていないのに、近所の人たちに協力してもらうのでは良く ないという意見について〕
|
11/5 「カンダム」解体
11/10 空き缶つぶし
12/10 後期第1回1学年委員会・・・空き缶を売ったお金(28 50円)の使い道検討
☆全体を振り返って☆
「地球環境を守る」巨大空き缶ロボット「カンダム」を製作した平成5年度の文化祭は、次の2つのことがよくわかった行事であったよ
うに思う。
@
行事の成功には、動機づけとして打ち上げる目標および企画された内容いかんが、 大きく影響する。 A生徒の自発性をどう組織するか、が重要である。 |
今振り返ってみても、随分と大規模な企画であった。また、体育祭のあと1ケ月半の間には、中体連の大会や中間テスト、合唱コン
クールも行われた訳で、あれだけ時間のない中で本当によく完成できたと思う。
生徒達の力を結集させることができた大きな理由の1つは「地球環境を守る」「カンダム」このネーミングであろう。これが「空き
缶を集めて大きなロボットを作ろう。そしてリサイクルの意義や自然環境の保護を訴えよう。」といった平凡なものであったなら、
あんなに盛り上がったかどうか。
職員の提案で始まったことであった。生徒達はその活動の意義をよく理解し、納得していたのではなかった。しかし生徒達は
「『カンダム』の完成」を目指してまず腰を上げたのだ。「カンダム」は生徒達の合言葉であった。誰もがその完成を願った。
その気持ちが活動の原動力になっていったと思う。
次に、意欲的な生徒達を中心に委員会・係を組織していったことである。更に、今回の企画は、アイデアを出したのは教師であった
が、実際の設計、組み立てetc.のすべての活動並びに製作委員会の組織に至るまで、生徒自身が企画し運営したことである。はじめか
らやる気になるのはー部の生徒である。教師だけがいくら音頭をとっても無理であろう。しかし、一部の生徒であれ実際に活動が始ま
ると、仲間の動きに興味関心をもつ生徒達、自分も何かやりたいと思う生徒達が増えてくる。その頃には実行委員会から具体的な活動
内容が示され、比較的自然な形でー般生徒も参加することができたのだろうと思う。今回の活動で特に組み立て・リーダーの追加募集
は、うまい具合に生徒達のやる気の高まりを吸い上げ、教師側を圧倒するパワーを生み出してしまったようだ。
☆「カンダム」その後☆
「カンダム」を全員の力で作り上げた生徒達は、2年生となった今年も、大きなものを文化祭で作り上げようと、活動を開始してい
る。6月末の学年委員会にて文化祭に向けての全員アンケートの実施が決定され、それを元に文化祭の学年出し物を決定した。
今年の出し物は、「写楽の浮世絵」。200枚のダンボールに学年全員で貼り絵で絵をかき、縦6m横4mの壁画にする。すでに実行委
員会を9月19日に26名で発足し、実行委員会の組織も決定し、ダンボールも集まりつつある。今年の目標も「地球環境を考える」で
ある。
昨年の「カンダム」製作の余韻が、生徒達の心には、今でも続いているようである。アンケートでは、「『カンダム』のような大き
なものを作ろう」と多くの生徒が考え、「地球環境とリサイクルを考えて」作るというものであった。
ダンボールを集めるに際しても、「去年のように親たちに頼らず自分たちの手で」との声が実行委員の中から出、早速その夜学年一
人一人に、実行委員がダンボールに収集の依頼をした。その結果わずか3日間で、150枚のダンボールが集まった。
さらに近所のコンビニやスーパーにすでに声をかけてくれた生徒もおり、実行委員会としてお店に伺って、ダンボールを集めること
になっている。
コンピュータによる下絵の再構成の作業も、生徒の手で着実に進んでいる。壁画の強度計算も、生徒の手で始まった。
今は皆の心の中にしかいない「カンダム」。あの姿と、完成したときの感動を心に抱いて、「写楽の浮世絵壁画」製作活動は、今着
実に進んでいる。(9月27日現在)