業者テストの追放と教育産業の再編
ー業者テスト追放は、偏差値による選別の追放なのか!?−
前文部大臣・鳩山邦夫の「業者テスト追放」の問題提起を受けて、文部省は「業者テスト追放」に向けて動きだし、教育現場では、教育委員会も含
めて、文部大臣の意向の真意をはかりかね、困惑の状況である。
文部大臣が、全く唐突に業者テスト追放を提起した真意は何か。
この裏側には、教育産業を巡る膨大な利権と、より能力主義的な選別機構へと教育体系を改変しようとする支配層の戦略が見え隠れしている。
業者テストが中学校に導入され、その偏差値が高校入試に使われた理由はいくつかあるが、高校側にも受験する側にも、危険を伴う一発勝負の
入学試験だけでなく、学校間格差を超えて、統一的に能力を測定する基準が求められたのが理由である。
しかしその結果は、支配層としても看過できない程の教育の荒廃を招いた。加熱する受験競争の結果、エリートは規格化され、膨大な無気力・無
関心(会社や国家への忠誠という点で)、内に不満を秘めた下層大衆が産み出され、資本主義の危機の時代へ向けた挙国一致構造の構築という
支配層の戦略に、危険信号がともるほどの状態になったのである。
それぞれが「分に応じて」将来を選択できるシステムを名目にして、高校教育における総合学科・普通科におけるコース制の実施、一方では飛び
級制とエリート用の中高一貫6年制学校の設置、さらには大学の能力による系列化と学部学科の統廃合等々、臨教審答申以来文部省が進めてき
た教育改革は、こうした危機の時代への対応策としてあった。
しかし、このシステムの確立の障害となってきたのが、各都道府県教育委員会ごとのバラバラな対応と、文部省から相対的に独立した私立学校の
乱立とであった。このバラバラな対応が、経済成長と労働者の上昇指向とからみあって過激な受験競争を招き、教育の荒廃を激化したのであった。
私立学校をも含めた全国の教育体系の一元化──これが、臨教審が構想する新しい教育システムの形成には不可欠な条件であった。
教育体系の一元化のためには、どのような政策が実施されるのか。大学を系列化し、学部学科の統廃合の手段として実施された共通一次テス
ト。これと性格を同じくするテストが公的に実施されるに違いない。しかも、能力に応じた教育システムに応じて生徒の選別をするには、今まで以上
に統一的な基準が必要であり、この意味でも全県(国?)統一テストの実施は不可欠なのである。
すでにその兆しはある。「業者テスト追放」が叫ばれる中で、県毎の統一テストの実施がちらほらと取り沙汰されているし、文部省が唯一賞賛した
のが、神奈川県の学力検査に基づく「高校選抜神奈川方式」だからである。 「高校選抜神奈川方式」とは、教師の自作テスト(ア・チーブメントテスト
と呼ばれる)を全県で統一的に実施し、全ての生徒を統一基準で能力的に選別するシステムのことである。
もちろんこのシステムにも問題がある。学区が細分化されてエリート校が乱立し、普通科が多すぎて競争の過熱化が起きている。その一方では、
生徒本人の意志とは無関係に、ア・チーブメントテストのレベルによる機械的な振り分けが実施されることによって、とりわけ学力レベルの低い学校
において、深刻な無気力化が起きている。特に深刻なのが、最底辺の普通科高校と工業高校である。工業高校では、3年の間に、クラスの半数が
退学または留年という形で抜けていく。そして、普通科の高校でも、授業が成立しない程の状況が生まれている。支配層にとっても、この現状には問
題があり、現在高校選抜制度全体の改変が、1995年実施を目標にして進行している。おそらく、学区の統合による、高校のより一層の学力レベル
による系列化と、単位制高校の導入や、様々な学科をもった高校の設置という形で、高校の多様化が実施されるであろう。すでに、その一部は実施
に移されており、県立高校では、体育科や外国語学科などを設置する高校が増えており、市立高校では、大学進学を目標とした特別進学コースを
設置した所もある。そして、現在ア・チーブメントテストは、中学2年の3月に実施されており、あまりに早期の振り分けが問題視されている。この実施
期日についても、より高校選抜に近い時期に移行するにちがいない。
しかし、このように改変されても、統一テストによる偏差値または段階評価によって生徒を能力別に振り分ける装置としての「高校選抜神奈川方
式」の性格には、何ら変更はない。今後全国で実施されるであろう県毎の統一テストの性格は、この神奈川方式と同じであろう。文部省が「業者テス
ト追放」を叫ぶ時、「偏差値追放」よりも「業者追放」が強調されていることも、このような公的テストが実施されることを予感させる。
さて、全県(全国?)毎の統一テスト実施に向けて、バラバラに実施されてきた中小の「業者テストの追放」が、前文部大臣による「業者テスト追放」
の真の狙いとするなら、当然そこでは巨大な利権が動くであろう。大規模な統一テストを実施し、全高校を能力で系列化し、高校選抜をシステム化す
るには、スーパーコンピューターを核にしたコンピューターネットワークの確立が不可欠となる。ある三菱総研の研究員の話しによれば、バブル景気
で浮かれる中で各企業が購入したコンピューターは遊んでいる状態である。OA稼動率は20%、総合研究所のような情報企業でも、せいぜい50%
であるという。しかも、この間、各地の自治体が購入したスーパーコンピューターは、ほとんど稼動していないとのことである。
その原因は、コンピューターネットワークの未形成ということだが、不況感の深刻化の中で、ここに、巨大な市場を見出そうとする企業が現れたとし
ても何の不思議もない。眠っている「教育市場」の再編と再開発である。
各県毎に統一テストが実施されるとなれば、コンピューターネットワークの構築が早晩必要となり、市場の狭隘化により、過剰生産に陥ったコンピ
ューター産業にとっては、またとないもうけ話しである。そして現在、教育産業分野への進出に積極的な企業がある。それが、パナソニック(松下電
気)である。さらに、新たな市場開拓競争の中で、IBMを中心にした企業の統廃合と、コンピューターの規格の統一が行われている。国内における
その仕掛け人もまた、パナソニック(松下電気)である。コンピューターをめぐるこの二つの動きの中心に、パナソニックが介在しており、ここに生ま
れる巨大な利権を巡って、政治の世界での暗闘が行われているにちがいない。
「業者テスト追放」をぶちあげた鳩山邦夫が旧竹下派に所属していることも、裏で新たな利権に群がる黒い影があることを示唆している。