「内申書」重視が個性を点数化するとき

ー「業者テスト」追放と拡大する「公的テスト」−

 

 文部省が学校教育からの「業者テストの追放」を叫び出してから、早一年の月日がたとうとしている。この一年間で文部省が進めてきた政策の真

意がはっきりと姿を現してきている。

 10月1日に文部省が開いた進路指導担当の指導主事研究協議会では、「業者テスト」に変わって、なんらかの「公的テスト」を実施する地域が増

えていることが明らかになった。会議に出席した59の都道府県・政令指定都市のうち、「公的テスト」を全域で実施しているのが11県市、教育事務

所単位など市町村にまたがる範囲で実施が11県市、市町村以下の範囲で実施が17県市、実施していないが11県市、無回答が9県市であった。

 これを今年3月の毎日新聞の調査と比較してみると、昨年度に「公的テスト」を実施していたのは14道県であるから、「業者テスト」追放以後、「公

的テスト」実施の地域が大幅にふえ、全国のおよそ80%にも達していることがわかる。

 では、「公的テスト」を実施していない地域では、広域テストの結果によって、受験生を振り分けしていないかというとそうではない。たとえば、埼玉

県では、中学校から追放された「業者テスト」が、塾との連携で実施されており、中学校でも、このテストを受験するように勧めているという事実が、先

日報道されていた。

 文部省の声高な「業者テスト追放」「偏差値追放」の掛け声にもかかわらず、いやむしろその掛け声に触発されて、広域テストはますます学校現場

に蔓延し、偏差値もしくはこれと同等の効果のある段階評価という、統一ものさしによる受験生の振り分けが、なお一層進行しているのである。そし

て、この事態と表裏一体の関係として、公立高校の入学選抜要項に、大きな変化がおきようとしていることにも注目すべきであろう。

 それは、いわゆる「内申書」の重視であり、「学力」以外の要素の重視である。

 福島県ではクラブ・学級活動・ボランティアなどの特別活動の点数化と全校での推薦選抜をすすめようとしており、埼玉県では、「内申書」に観点別

学習状況欄を新設し、教科ごとに関心・意欲・態度などを評価し、特別活動の記録欄にもクラブ活動の状況などを記入するように変更した。同じよう

な傾向は神奈川県でもすすんでおり、茨城県では、生徒の性格の部分まで点数化がはかられており、問題になっている。

 要するに、「学力」以外の面の、日常の学習態度や学級活動・クラブ活動など、学校生活のあらゆる活動場面が、生徒の「能力」の測定「個性」の

測定の尺度となり、中学校は、高等学校入学選抜のための予備校へと姿を替えつつあるのである。

 このような「公的テスト」実施の拡大傾向と、「内申書」の重視・学校生活のあらゆる活動場面の選抜資料化の傾向と平行して、現在各地で、高等

学校の多様化が進行している。体育科・英文科・秘書科・総合ビジネス科等々の新学科の設置と普通科高校におけるコース制の採用。これは高等

学校の専門学校化といっても過言ではない。そして一方での6年制中高一貫エリート学校の新設と飛び級制の実施。さらには、不登校生徒を隔離

するための学校の新設と。

 「業者テスト追放」「偏差値追放」という文部省の政策の真意が、今まさに眼前に鮮明な姿をとって現れているのである。事態は、教育体系のより一

層の能力主義的選別装置化として捉えるべきであり、教育労働者の戦いが、ここに集中すべきことを示している。

 


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