社会的差別を再生産する学校
ー教育の危機と「新しい教育」、先端的実践の可能性ー
昨年の日教組教研では、「いじめ」が大きくクローズアップされた。そして日教組と文部省の「歴史的和解」は、この「いじめ」に象徴される教育の危
機的状況に対処するためとされている。しかし、教研での論議を見ても「いじめ」を生み出している当事者として深い反省と、自らの教育活動の自己
点検に根ざした実践報告は少なかったと思う。
私たち労働情報に結集した教育労働者は、70年代以来、日教組内の左翼反対派として活動してきた。日教組の「教え子を再び戦場におくるな」の
スローガンに象徴される、国家による恣意的な教育に反対し、平和と民主主義を守る戦いの、一歩たりとも後退を許さない勢力の一つとして、私た
ちは組合の中で動いてきた。
しかし、その取り組みに欠落した問題はなかったのだろうか。今までの戦いの成果が失われる可能性が強まった今日何をすべきなのか。この点を
論議するために、今夏、全国討論集会を持つことが決まった。この会合に向けて、「現在の教育をとりまく状況と労働運動の課題」について各地の
取り組みの反省に基づいた報告と提案を連続しておこない、討論を深めていきたい。
最初に私自身の考えを報告し、討論の呼びかけにかえたい。
今日の日本において、学校は社会的な差別の仕組みを再生産し強化するという役割を果たしていると言えよう。子供達の興味や関心に関わりなく
教師から一方的に押しつけられる暗記中心の授業。各家庭は学校の授業に遅れずにしかも受験をくぐり抜けられる学力をつけるためにも、学校外
での多大の投資を強制される。
しかし、その結果は様々な調査で明らかなように、エリート学校に行けるのはエリート階層の子供たちが大部分である。
人生の先行きが、見とうせるというあまりに暗い現実。しかもこのレールから外れることは、様々な校則や各種の競争的評価によって規制され、子
供たちには休息する自由すらない。子供たちが「仲間」の中の弱い部分にこの鬱憤をぶつけたり、覚醒剤やマリファナに走るのは当たり前である。
この状況を教育労働者は自覚しているのだろうか。残念ながら無自覚的な部分が多い。なぜならば教育労働者自身の内部においても職種や学歴
や性別による差別が存在し、その身分階程をかけあがる競争にさらされているから。
しかし、教育が危機的状況にあることには文部省をはじめとして多くの者が気がついている。だからこそ「児童の人権条約」が批准され、学習指導
要領の改定で、「人権」「自立」「自己教育力」などをキーワードとした「新しい教育」が叫ばれている。
この状況を利用しない手はないと思う。上の3つのキーワードを利用して、先端的な実践を作ってしまうこと。しかもその過程で、教育の差別的なシ
ステムや身分構造に、教育労働者や生徒・父母自身が気がつき、変えていこうとするような実践。これが今可能である。君が代・日の丸闘争が敗北
を重ねているのも、学校の差別的構造を打つ実践的取り組みと結合してこなかった結果である。
この実践を職場─地域を連結してどう取り組むか。これが私の現在の最大の課題である。
これは、6月1日の労働情報に掲載する予定の私の文章です。ここにも書いたように、今年の8月24日〜25日に、全国討論集会を開催すること
が、この2月からの何度かの会合の結果決定しました。よびかけは「全労協運動を進める教育労働者ネットワーク」。「全労協・全国教労(準)」の枠
は残しながらも、もうすこし広汎な人々にも呼び掛け、今の教育をめぐる状況をどうとらえ、そこで課されている課題は何か、そしてどのような教育労
働運動をつくるべきなのかを、おたがいの認識や経験を交流しつつ、つくりあげていきたい。この願いで、よびかけ主体名を変更し、集会をうちま
す。
この集会のために、労働情報誌上にてリレー討論を行い、広汎な議論を巻き起こしていきたいと考えています。
今後の発行予定は以下のとおり。
1)6月 1日号─────討論の呼び掛けと提案(川瀬)
2)6月15日号─────討論1)
3)7月 1日号─────討論2)
4)7月15日号─────討論3)
5)8月 1日号─────討論4)5)と集会開催要項
1)〜4)は各1ページ。5)は3ページ確保することを労働情報編集部と約束してあります。
つきましては、この討論に参加し、原稿を送っていただきたいとおもいます。原稿を書く視点は、私の問題提起にあるように、今の教育を巡る状況
認識と運動の課題について、自分自身の今までの取り組みの反省と自己切開をふまえつつ、各自の考えを展開してほしいと思います。(詳しくはこ
の文書到着後、電話にておはなしします) 1996年5月14日