●2020年年末から21年年頭の新型コロナウィルス感染状況をどう考えたらよいのか!●


 1月7日、政府は東京・神奈川・千葉・埼玉の一都三県に特措法に基づく緊急事態宣言を発出した。そして13日には早くもそれを拡大し、大阪・京都・兵庫の近畿圏と、愛知・岐阜の中部圏、さらには福岡と関東の栃木も緊急事態宣言発出地域に加えた。
 昨年12月中旬に感染の急拡大に押されて緊急事態宣言発出が要求された時には、「まだその状況にはない」と言って、GOTOキャンペーンの12月28日から1月12日までの一時中止だけを決定した政府が、年が明けて方針を一転させたわけだ。
 そのきっかけは昨年末の31日に一日の感染確認数が初めて4000人台に達した4519人という驚くべき数字が飛び出し、年が明けた6日には5997人、7日には7570人、8日には7882人と、さらに感染が急拡大したからだ。
 そして同時に、年末の感染急拡大を受けて、東京の小池知事が神奈川・埼玉・千葉の知事と協議して、4日にコロナ担当の西村経済再生担当大臣を訪ね、強く緊急事態宣言発出を要請したことが直接のきっかけだと思われる。
 さらに7日に一都三県に緊急事態宣言を発出した際には「首都圏以外には宣言の拡大は考えていない」とした菅首相は、直後に大阪・兵庫・京都の三県の知事が共同で近畿圏にも発出を養成されるや「検討する」と応じ、愛知と岐阜の知事の同様な要請、さらに首都圏北部の感染が急拡大している栃木県も要請に及ぶや、一転して13日に7府県への宣言拡大に至ったわけだ。

▼感染急拡大を招いたのは政府・自治体の無策

 なぜ政府の方針がこうも二転三転したのか。
 これはどうみても感染が拡大し医療体制がひっ迫しているとの悲痛な叫びが出ている中で、政府がこれに耳を貸さず、常に「経済を回す」との言い訳で、人と人との接触を急激に減らして感染拡大をストップする方向に舵を切らなかったことが、今回の爆発的な感染拡大の原因であることは、誰の目にも明らかであり、そのことが菅内閣支持率の急落にも反映しているからだ。

 いやそれどころか、安倍内閣・菅内閣は、感染拡大を自らの手で広げてしまったといわざるを得ない。
 昨年夏に起こったいわゆる第二波がまだ収まりきらないうちに、安倍内閣は、税金を大量に投入して、GOTOキャンペーンなる政策を発動し、政府自らが旅行と会食を推奨してしまった。これは新型コロナウィルス感染拡大によって最も痛手を被った業種の一つである、観光・旅行・飲食業界を救うというのが、この政策を推進する名目である。だが専門家からは、この政策は人の移動と接触を拡大するものなので、感染が収まってからという指摘がなされていたにもかかわらず、強硬された。
 そして秋になってまた再び感染が拡大し、特に11月になって感染が急拡大する中で、GOTOキャンペーンの停止が叫ばれた際に政府がとった態度は、「GOTOキャンペーンで感染が拡大したというエビデンス(=証拠)はない」というもので、野党や医療関係者や国民の批判に全く耳を貸さなかった。
 この理由は単純明快である。
 このキャンペーンを運輸省から請け負った大手広告代理店がさらにこの実施を他社に下請けするに際して多額の手数料を億の単位でとり、この利益が裏ルートを通って、キャンペーンを推進している自民党重鎮たちの懐に入っているからだ。そしてキャンペーンで大きな利益を上げるのは、旅行業界や旅館業界、そして飲食業界の大手であり、中小にはあまり波及効果がないもので、こうした業界の大手が組織する業界団体は、自民党の政治資金の有力な供給元でもあるからだ。
 そしてこの政府の対応に事後承認を与えてしまったのが各自治体だ。
 中には「小人数・小一時間程度の短時間・料理の小分け」の三つの小なら問題ないとして、5人以下の会食を容認したり、マスク会食なるものを推奨して、食べたり飲んだりする時だけマスクのひもを持って外し、すぐにマスクを戻して会話するなら問題なしと、非現実的な「対策」を推奨した知事もいたほどだ。

 たしかにGOTOキャンペーンが感染拡大を招いたという科学的な証拠を集めることは困難だ。
 なぜならそんなデータを集めている機関はどこにもないからだ。
 しかし事実は肌間隔で分かる。
 春の感染拡大以来人々は大幅に人との接触を減らし、会合も、そして会合のあとの懇親会も控えてきた。だがこの傾向が夏から秋にかけて明確に変化したことは事実だ。筆者の周囲でも、会合をZOOM等のインターネット会議システムに切り替えた場合には懇親会はないのだが、比較的少人数なので感染対策を取ったうえで実施した会合の場合は、9月ごろ以降、会合後に参加者で懇親会を行う例が多く見られた。
 何しろ政府が旅行と会食を推奨しているのだ。このことが与える心理的効果は大きい。
 旅行と会食を政府が推奨しているのだから、少しぐらい構わないのじゃないかという心のゆるみが人々の間に広まったことは確実だ。
 このキャンペーンの中で特に危険なのが会食だ。旅行そのものは感染対策を気を付ければ危険は少ないが、行った先で会食を行えば、その仲間に、そしてその会場に一人でも感染者がいれば、あっという間に感染は広がる。
 そして春からの自粛生活はかなり心に負担をかけているので、普段から食事やお酒を共にすることでコミュニケーションを取っている人々のフラストレーションはかなり高まっていたと言えよう。
 政府のキャンペーンはこの人々の心に火をつけたのだ。

▼緊急事態宣言発出のタイミングは11月中旬か末

 そして秋口から徐々に感染が拡大し、11月になってかなり感染が広がり、北海道では11月の初めに、そして東京でも11月の末になると保健所から、感染者が多すぎて感染経路を追えないという悲痛な叫びが出ても、政府はまったく動かなかった。
 感染経路を徹底して追って感染者をあぶり出すというのが日本政府の感染対策の基本だ。
 そしてこの対策を取っているのだからPCR検査を大規模にやる必要がなく、見つかった感染者が接触した濃厚接触者だけに検査を限るとしてきたのだ。
 だから感染経路を追えないということは、政府の感染対策が破綻したということを意味している。
 さらにこの際に政府がとるべき方策は、感染経路を追うことを諦めたのなら、まずGOTOキャンペーンを中止して緊急事態宣言を発出して、人の移動と接触の大幅削減を実施すると同時に、見つかった感染者の周囲の人物はみな、接触の有無や症状の有無にかかわらずPCR検査を実施して感染者をあぶり出す方法に切り替えることだったのだ。これが世界の標準の感染症対策だ。
 しかし政府はこの政策転換を行わなかった。

 この結果が11月からの感染の急拡大に繋がったのだ。
 夏の第二波の時の感染ピークは8月7日の一日1605人。一日1000人に乗ったのが7月29日の1270人だった。
 しかし秋から冬の第三波の急拡大はもっと激しい。
 初めて一日1000人台に乗ったのが11月5日で1048人。
 2000人台に乗ったのが11月18日で2193人。
 3000人台に乗ったのが12月12日で3038人。
 そして4000人台に乗ったのが、前記の12月31日で4519人。
 さらに年が明けて1月8日には7882人。この数字が現在の所のピークだ。
 新型コロナウイルスに感染すると発症するには、短くて2・3日、最も遅い場合は14日後だ。だから年末から正月明けにかけて確認された人々が感染したのは、暮れのクリスマスから大みそかにかけてだ。
 どうやら政府は、GOTOキャンペーンの一時停止と共におこなった飲食店に対する時短要請で、年末から年始にかけて感染者数は減るととらえていたらしいことが報道されている。すでに医療関係者からこの程度の対策では効果はなく、直ちに人と人との接触を大幅削減すべきだとの提言にはまったく耳を貸さなかったことがこれで明らかとなった。
 そして1月になるや、東京に続いて埼玉県と神奈川県が濃厚接触者を追うのを放棄したことを宣言し、なんと政府に対して法律を改正して濃厚接触者を追うことをしないと明記してほしいと要請するに至っている。
 すでに濃厚接触者を追ってクラスターをつぶすという、「積極的疫学調査」という日本政府対応は破綻している。
 ならばすぐさま、一人でも感染者が出たところには、その周辺の人はみなPCR検査を実施して感染者をあぶり出す方向に対策を転換すべきなのに、いまだに政府は動かない。

▼検査体制の不備が死ななくて良い人を死なせている

 1月13日現在の感染状況は、感染確認:30万4752人。死者:4289人。
 しかしこれは実際に感染を見つけた人であって、実際に感染した人はもっと多い。
 確実な新型コロナ死者は4289人。この疫病の致死率は0.66%。つまりおよそ151人に一人である。だから実際の感染者は64万7639人。つまりなんと34万2887人の感染者が見逃されたことになる。そしてこの多くが無症状か軽症だ。
 このウィルスの最大の特徴は、感染者の多くが無症状で、そして無症状でも多くのウィルスを出して人に感染させるし、発症者も最もウィルスを出すのは発症日の3日前であり、発症してからの方がウィルスを出す量が減るというところにある。
 多くの人が感染しても無症状が軽い風邪の症状。そしてそのままで大量にウィルスを排出する。だから人は出歩くし人と接触して感染を広げてしまう。

 そして検査体制の不備からたくさんの人が感染して亡くなっていても、新型コロナと確認されないままになっている可能性も指摘されている。
 この数は昨年5月の末の時点では、推定される超過死亡数は約1万人有るとみられ、ここから感染者総数は、人口の約1%にあたる151万人程度と推定した。

 今でもこの確認されないままの死者があることは予想される。
 なぜならいまだにPCR検査体制が整っていないので、体調不良を感じて検査を要請しても、断られるか、検査を受け入れられても予約となって、検査まで日数がかかってしまうからだ。
 昨年暮れに急死した、立憲民主党の参議院議員羽田氏の例がそれだ。
 羽田氏が参院診療所に「知人に感染者が出たのでPCR検査をしたい」と申し出たのが12月24日だが、診療所は無症状を理由に検査を断った。しかたなく同日検査してくれるクリニックを見つけて検査を予約。この羽田氏が発熱したのは24日の深夜、38度6分。翌25と26両日は自宅で静養したが両日ともに深夜になると38度台の高熱が出た。そして27日の朝は平熱であったが、午後に予約したクリニックに秘書が運転する車で向かう途中で羽田氏は意識を失い、救急車で病院に搬送された時点ですでに心肺停止 、そして死亡を確認。その後検査して初めて陽性が確認された。
 この羽田氏が検査を断られた24日のPCR実施数は5万9211件。

 PCR検査数の推移を見れば、昨年緊急事態宣言が出された4月では一日7000件程度。先の超過死亡を推定した5月末では5000件程度。この数字が徐々に増えていったのは7月で、ここで一日1万件程度に増加。さらに7月末には2万件となり、第二波のピークである8月には3万件となった。この時の感染者数は最大で1605人。
 2021年に入って1月7日では一日52128件。ようやく5万件実施されるようになった。
 それでも感染が疑われても無症状だと検査してもらえず、待機中に症状が悪化して死亡に至ったわけだ。

 この検査体制が改まらない限り、羽田氏のような例は今後も後を絶たないだろう。

▼骨抜きでスカスカの緊急事態宣言

 菅内閣が再度発出した緊急事態宣言は、まったく骨抜きのスカスカなものだ。
 飲食店は午後8時までの営業とし、酒の提供は午後7時まで。あと行われた制限はイベント開催条件の人数を厳しくしただけ。つまり会食は昼間は野放しなのだ。
 昨年の4月の宣言では、医薬品や食料品販売の店を除いて全店舗の営業が停止された。デパートや劇場やレストランや様々なイベントもみな開いていないのだから、遊びに行きようがない。だからこのときは人と人との接触が大幅に削減されて、感染は急激に減少した。
 今回このような厳しい措置を取らなかった理由を政府は、「主な感染は会食にある」から飲食業の夜の営業を縮減すると説明した。
 だが人と人が接触し、食事や酒を共にするのは夜に限らないのだから、飲食業にターゲットを絞るのなら、夜間営業縮減ではなくて営業停止を指示すべきなのだ。
 なぜこれができないのか。
 理由は明瞭だ。
 昨年4月の時は特措法に営業停止に伴う損失補償が法律に明記されていないということで、政府の支援は全くなく、自治体のスズメの涙程度の協力金しか支給されなかった。ために多くの飲食店が休業や廃業に追い込まれ、存続した店も多額の損失を抱えたままだ。
 この状態で昨年と同じ営業停止をやれば、国民の不満はピークに達して政府に対する非難轟轟となり、それは政権崩壊にもつながりかねない。
 だからこの事態を予想した野党が昨年12月にこうした営業停止に伴う損失補償を明記した特措法改正を申し入れたときに、政府がこれに応じて改正しておけば、今回も昨年4月と同じ程度の営業停止を全業種に出して、人の移動と接触を大幅に削減できたのだ。

 相次いで出された緊急事態宣言。
 この宣言で感染が急激に収まるとは思えない。まだまだ確認される感染者数は高止まりするだろう。すでに個人個人の自粛努力でどうなるものでもないし、飲食店の営業短縮で感染者を減らすことはできないと疫学の専門家がすでにデータを出して指摘している。
 菅政権は来週招集する通常国会でやっと特措法改正に取り組むという。ただし命令に従わないものへの罰則付きで、今のところ十分な休業補償の明記もその財源の確保にも動いていない。
 そしてこの政府の目論見通りの特措法改正になるか、野党が要求した十分な補償が盛られた改正になるかはわからないが、おそらく2月には改正された特措法に基づいた、より強力な営業停止が命令されるに違いない。

 自民党政府の新型コロナ対策とはこのようなものでしかない。
 科学者の提言も無視し、感染拡大を放置し、さらに非難されるとあわてて方針転換しても、打つ手は後手後手で、しかも手抜き。
 感染を真に終息させるには政府の交代が必要だが、個々人ができることは限られている。

 それはマスクなしで人と話さない・人と食事を共にしない・人と酒を飲まない、に尽きる。
 そして人が密集した場所に行くことは避け、人と会う際には必ずマスクを着用し、帰宅後の手指などの消毒に努めるしかないのだ。

2021.1.13 


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