追撃! 日本へ急げ

 脚本:まさきひろ 演出:今村隆寛 作画監督:信実節子
★あらすじ
 あと一歩のところで閉じてしまった日本──現実世界への扉。
 ヴァンデモンの城からいったん退却した子供たちは、ゲンナイと合流して情報や追加装備、そして扉を開くためのカードを託されます。

 体力をたくわえて勇気りんりん、城に再突入した一行はデビドラモンを蹴散らし、石室にたどりつきます。
 戦いの影響で城がくずれはじめる中、正式にリーダーとして認められた太一が光子郎に謎解きを指名。もてる知恵と知識をフル活用してカードの法則を解き明かした光子郎でしたが、城の番人・ドクグモンがおそいかかってきました。大量のコドクグモンまで襲来し、石室は大混乱におちいります。

 最後のカードを決める役をまかされたのは、太一でした。ドクグモンを打ち倒し、開いた門へとびこんだ先に待っていたものは…
 デジモンワールドに喚ばれたとき最後にいた場所、キャンプ場の祠のそば。賭けが成功したのです。デジモンたちも、もちろん一緒です。
 喜ぶのもそこそこに、子供たちは8人目をさがすべく行動を開始するのでした。



★全体印象
 28話です。タイトルコールは藤田淑子さん(太一)で、 影絵はドクグモン。背景のイラストはヤツの邪悪な巣をイメージしたものでしょうか?
 果たされたゲンナイ本人との対面と隠れ家の公開、完全体も入り乱れてのスピード感あふれる一大乱戦、子供たちの絆と団結の再確認、ついにたどりついた現実世界、そして最後の「SEVEN」と、とにかく盛りだくさんな回です。「7人」としての物語は、ここでひとつの頂点をむかえたといえるでしょう。

 こういうことができたのも、あわてず且つ着実にお話を積み上げてきたたまもの。わけもわからずほうり出された1話からするとみんな見違えるほどたくましくなりましたが、1クール目で個性の確立、2クール目ではそれを踏まえた上での試練と、過不足なくドラマを見せてきましたからね。しかも、節目節目ごとにはかならず全員が頑張るお話を入れており、総ざらい的にみんなの成長ぶりを確認することができたのですから。
 そういう意味での第一の山場が13話であり、第二の山場は20話。そして第三の山場がこの28話なのです。だいたい均等に分布してますね。東京篇だと、事態が同時多発的に動き出しリリモンが登場する35話が相当するかもしれません。

 さらに言えば、39話が今までをも含めた総決算的なお話になっていきます。これは3クール目のちょうどラストを締める回。構成がしっかり計算されていることがわかりますね。しかも非常にうまくいってます。企画そのものにもかなりの時間をかけたのでしょうが、シリーズ構成を担当した西園悟さんの力量もおおいに関係しているはず。小中さんのようにハッキリした個性を持ってはいないものの、実力がやはり相当のものだと思うわけです。

 01の実績を知っているからこそ、2005年5月現在に担当している「ゾイドジェネシス」をイヤでも期待してしまうんですよ、私は。
 そしてその期待は、いまのところ充分に満たされていると思います。今後さらに期待ができるでしょう。

 とまあ、長々とお話について書いてきましたが、今回は絵も演出もすばらしいものがありました。
 ひさびさの今村演出でピンポイントに気持ちいいほど動きまくる戦闘シーンは、前回と比較してみると歴然の差があります。特にドクグモン戦は危機感の盛り上げかたから二転三転する戦闘場面まで、まったくダラダラ感がありません。ところどころにスパーンと挿入される崩壊していく城のカットがこれまた良いリズム感をつくりあげており、使い回しだって多いのによくここまで、と思わされることしきり。やはり他とは一味ちがう腕の持ち主です。

 本当に、もっと名前が知れてもいい人だと思います。逆ディアのときも古代デジモン復活にしても、ぜんぜん話題にのぼりませんでしたから。
 なお、もしやと思って確認したら今回もやっぱり演出助手に地岡公俊さんの名前がありました。フロンティアで開花したこの方、いまやSD補佐です。

 作画は21話以来の信実節子さん。たしか02では総作監に昇格した人です。
 キャラ表に忠実なのにどこかすごく柔らかいものを感じさせるのは、この方が女性だからでしょうか?



★各キャラ&みどころ

・太一
 ハッキリ任命されたわけじゃないとはいえ、自分がリーダーだという自覚がなかったのか…。
 やっぱり天然リーダーだったんですね。当初気負ってリーダーであろうとした丈とは真逆の現象が起こってます。
 特に自覚しなくても自然と周りに人が集まる。資質ってやつでしょう。丈もそれを実感したからこそ、ああいう行動に出たんだと思います。


・ 空
 なんだかやっと本来の役目に戻ったように見えます。
 太一が天然リーダーだとすると、彼女はその天然リーダーのそばで実力を発揮するタイプ。考えをフォローしたり、フィルターにかけたりすることができますし、場合によってはかわりに指揮をとる事さえできます。裏リーダーと言う人がいるのも納得。太一にしろヤマトにしろ、空がいてくれて助かったことでしょう。

 今回で丈先輩が脱リーダー宣言をし、サポートに徹することになったので今後は彼女も少し楽になるはず。
 まあ別行動も増えるんですが、逆に言えばそれは分散しても何をするべきか理解し、自分で判断して動くことができるようになったってことかも。


・ヤマト
 なんか太一の肩までつかんで力説してましたが、これは内心が複雑だったからかなあ。
 別にリーダーの地位に興味があったわけじゃないはずですし、口に出した事はありませんけど、太一がリーダーというのは気に入らないという考えがどっかにあったんじゃないかと思います。もともと何かにつけて張り合ってたみたいですし…何より、タケルの事がありますから。

 でも、これだけ長くオトナの介在しないところでつきあってみて、さらに太一の長い不在期間を経験してみて、誰よりもリーダーにふさわしいのが誰なのかを頭だけでなく、心で理解したのでしょう。だからまるで「くやしいけど、お前しかいないからお前に任せる」と言ってるみたいに見えるんだと思います。
 こうした一種のコンプレックスはふだん表面化しないだけに、なかなか克服しづらいもの。自分にきびしいところがあるヤマトのことですから、自己嫌悪に陥るのを防ぐためにも、太一に関しては無意識のうち感情的になってしまう…のかもしれません。このへんは、もう一度見返したら新たな発見がありそう。


・光子郎
 ゲンナイさんとの初対面でみせた静かな興奮ぶりや、カードの謎解きで発揮した類いまれなる推理力が光りまくりです。
 とくにゲンナイさんのときは口調と表情こそいつも通りでしたが、おそらく相当舞い上がっていたはず。他のみんなが休んでしまったのに一人だけ夜更かしして質問漬けにしたあげく、もう休みなさいとやんわり諭されるあたり、なんとも彼らしい没入ぶりだと思いました。
 たぶん熱中すると、気づかないうちに余裕で半徹くらいしてしまう性質なんでしょう。

 太一に謎解きをまかされた時は緊張が見えました。ひとり淡々と静かに調べものをし、ひそかに結論を出すやり方に慣れきっていたからでしょうか。
 でもこういう形で知識を披露するという経験は、光子郎にとってとてもいいプラスになったはずです。


・ミミ
 彼女を見ていると、自分本位であることと思いやりがあることって、両立してるんだろうなと思わされます。
 だって誰かを助けたいと思うのは、その人本人がそうしたいから。つまり、自分のためです。こう書くとすぐ自己満足って言われがちですが、そもそも自己満足ってそんなに悪いことでしょうか? 責められるべきは自身もまたそういう存在であるという事実を忘れ、他者を矮小化する行為そのもののはずです。

 ですから彼女が悲劇に胸を痛めて気持ちを整理しようとしたのも、オーガモンを助けたのもデジタマモンを信じつづけたのも、そうしたいと思った自分の気持ちを大事にしたからなんです。何度も書きましたが、自分の気持ちにウソをついて平気な顔でいられるようにはできていないんですよ、ミミという女性は。

 そんな彼女がいままでの冒険で学んだのは、誰かに迷惑をかけるようなワガママを戒めることでした。25話の経験が活きています。
 理由はかんたんで、誰かを困らせるなどというのは自分がイヤだ、というだけでしょう。
 でも、そういうものなんだと思います。


・タケル
 ひとり絶望にヒザをかかえていた時とくらべ、なんと希望にみちあふれた表情でしょう。
 苦楽をともにした仲間といっしょなら、どんなことが起こっても怖くない。この言葉は、いま進んでいる道に光を見出している証拠です。
 1番小さなタケルがああ言ってくれたことは他のみんなを安心させ、最後の一歩を踏み出す覚悟を決めさせてくれたにちがいありません。

 絶望は人を心身ともに弱らせていきますが、希望は心に力をあたえ、前に進む力をくれるんです。


・丈
 最大の見せ場のひとつといっていい「脱リーダー宣言」が収録されているのがこの回、28話です。
 当初は最上級生としての責任から気張っており、他のみんなも気をつかったのか何となくそこらへんを曖昧にしてきましたが、さりとて丈はリーダーとして見るといまいち頼りがいがなかっため、実質的には太一が音頭を取ってました。丈自身、ヤマトと同じくリーダーとしてふさわしいのは彼だと認識していったことでしょう。

 ただ、だからこそ今のあいまいな状態のままではダメだと思ったはずなんです。

 あの場で最上級生である自分が指名するというのは、みんなの気持ちをハッキリ太一=選ばれし子供のリーダーと認識させ、より集中して目的へ邁進できるようにする儀式。これにより、意思伝達もよりスムーズになっていくはず。であると同時に、丈自身のけじめにもなっているわけですね。どんなときでも筋を通そうとする丈らしい行動といえるでしょう。良さが出てきたってことは、成長してきたってことでもありますね。

 もう少し言えば、あれは丈の最上級生としてできる、1番の年かさとしてできるオトナの対応だったんだと思います。
 適した者にまかせてサポートに回ると宣言するというのは、ある意味オトナに誰よりも近い丈だからできる行動だったのかもしれません。


・デジモンたち
  前回超進化したばかりのコロモンは完全に非戦闘員です。ドクグモンに対応したのはガルルモン、トゲモン、イッカクモンの3体だけ。最初のデビドラモンにはアトラーカブテリモンが対応し、複数を一気にかたづけていましたが、そのあとはこれまた非戦闘員になっています。
 この回は登場してしばらくの間切り札として位置づけられた完全体の使われ方が、もっとも顕著なエピソードとして記憶に刻まれています。
 一度進化するとけっこうな間戦闘不能になるので、それでローテーションをうまく回せたんです。

 02ではここらへんがだいぶ崩れていましたが、 続編とはいえストーリー展開のしかたがちがうので、あんまり比較してもしかたないかも。


・ドクグモン
 ヴァンデモン城の番人。石室でじっくり考えていた太一たちにコドクグモンを引き連れておそいかかってきました。
 おかしな歌舞伎調のしゃべり方といい、成熟期3体を一気にしばりあげて麻痺させてしまうその実力といい、後年のシリーズで出てくる同名の個体とはくらべものにならないほどのキャラ立ちと強さを持っています。伊達にサーバー大陸の、しかもヴァンデモンの城に巣を張ってはいません。ワーガルルモンが出てこねば危なかったところからみても、成熟期ながら脅威では完全体クラスだと思っていいかもしれませんね。

 つぎつぎ出てくる強敵に余裕がなくなってきたのか、いよいよビシバシと倒す場面が目立つようになってきました。


・ ゲンナイさん
 デジモンでも人間でもないという彼。データ構造はより単純なのでしょうか。
 進化も退化も成長もせず、小説版ではどうやら自身の代謝そのものまでコントロールできるようです。
 そもそも死という概念すらあるのかどうか。もし消滅しても分身が代替をはたしそうだし…。

 それにしても、わざわざヤングバージョンまで出てきて02でそれがデフォルトになったのにはいったいなんの意味があったんでしょう。
 一説によると、あの姿はジェダイ…とりわけ、若かりしオビワン・ケノービを意識したものらしいのですが…。


・ 謎のカード
 すっかり忘れてましたが、01にもカードって出てきてたんですよね。それも、かなり重要な場面で。
 配列は左上から順にゴマモン、エレキモン、ガジモン、ユニモン、ドリモゲモン、クワガーモン、アンドロモン、デジタマモン、トノサマゲコモン。
 なぜアグモンじゃなく、ゴマモンだったのかは謎です。まさか本当に語呂合わせじゃないでしょうね。あるいは両方とも対応してたとか…。


・SEVEN
 ラストシーンで流れました。本編で使われるのはこれが最後。以降は「EIGHT」のお話となります。
 先はまだまだ見えないけど、希望はまだなくなっていない。全員がそろって、ここにたどり着いているのだから──。
 



★名(迷)セリフ

「やい、じじい! お前に聞きたいことがある!」(太一)

 本物に出あった途端にこのセリフ。かなり失礼ですが、あっさり流してトボケてみせるゲンナイさんも相当なもんです。


「ええと……はい、ありました」(光子郎)


 ゲンナイさんに「石室に九つの穴があっただろう」と言われて。
 記憶力もさることながら、あの状況でそれを確認してたとは、すごい観察力です。


「太一。ぼくはお前にまかせる」
「無責任で言ってるわけじゃないぞ。とにかくぼくは、太一を信じる!」 (丈)


 よく見ると別にリーダーを降りるとは言ってないし、そもそもここ最近そんな気負いはみられないんですが、事実上はそういうことだと思います。
 信じる、というのが丈の強さなんですね。


「おいおい、いつおれがリーダーになったんだよ!?」 (太一)

 太一…。


「お前がいなくなったとたん、オレたちはバラバラになった。そんなオレたちを、また集めてくれたのはお前じゃないか!」 (ヤマト)

 複雑な気持ちをかかえながらも、こういうことを言えるのがヤマトの強さです。
 考えてみれば、冷静かどうかはともかく太一に正面からガチンコで意見を言えるのは彼だけ。02ではさらに顕著となっていました。
 言いたいことをバンバン言いあえるようになったという意味じゃ、太一とヤマトはたしかに親友なんだと思います。


「そんなことどうでもいい! なんとかしてお家に返して!!
 …って、あたし今まで言ってたけど、それじゃダメなのよ、きっと。もう、ワガママ言わない!」 (ミミ)


 ワガママであることが時に誰かを困らせ、前に進めなくなることがあるなら、それは嫌だから変わってみせる。ミミの可憐な宣言です。


「そうね! 私たちが変わらないと、なんにも変わらないわ!」(空)

 そして空は、心の中でひそかに母と再会したとき…ひいては、すべてが終わったときのことをあらためて決意したんだと思います。
 そのために彼女は前に進むんです。見えなかった真実を見つめ、母の本当の気持ちを受け止めるために。


「うん! もし別の世界に行ったって、みんな一緒なんでしょ? だったらボク、怖くなんてない!」(タケル)

 独りだったとき味わった心細さを思えば、目の前のリスクなど何ほどのものでしょう。
 22話を思い出すと、タケルにとってあの経験は良い成長をうながしてくれたようです。ピコデビモンに感謝?


「あ…はい。僕は前から、太一さんを信じてます」(光子郎)

 …言うねぇ、光子郎。


「…わかった!」(太一)

 藤田さんの心のこもった演技が光ります。


「…よし、じゃあ決めた! 光子郎、お前が選んでくれ」(太一)

 リーダーへの正式就任そうそう太一がやったのは、なんといきなり光子郎へ振ることでした。
 たしかに、この謎へ挑むのに誰より向いているのは光子郎ですが…初見では結構おどろいたおぼえがありますね。
 ただ、それぞれの役目や得意分野を把握し、もっとも適した人物へ仕事を割り振るのはリーダーの重要な仕事です。太一にはそれができる決断力がある。

 序盤は「オレがオレが」色も少しあった太一ですが、ここへきていよいよ燃えるハートでクールに働く天然リーダーの資質を発揮してきました。
 このあたりの判断力と決断力が冷徹なまでに磨かれていくのがダークマスターズ篇なわけですが、それはまた後に。

 大仕事をまかされて緊張気味の光子郎を励ますみんなの言葉と見守る目は、今まで築きあげられてきたたしかな絆を感じさせるものです。


「開け! ゴマモン!」(太一)

 コメント不要。結果オーライってことで…(^^)




★次回予告
 パルモンそっちのけでクラスメイトへスキンシップをはかるミミが…なんというか、この娘本当にわかりやすいなあ(^^;)
 藤山先生も初登場です。まずは光が丘ですね。