マンモン光が丘大激突!
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脚本:西園悟 演出:川田武範 作画監督:海老沢幸男 |
★あらすじ
ついに現実世界にもどってきた子供たち。
しかし、クラスメートと旧交を暖めあってばかりもいられません。なんとか先生をごまかし、一行バスを途中下車しては光が丘に向かいます。
そこで、意外なことが判明しました。なんと、選ばれし子供たちは全員この光が丘に住んでいたことがあったのです。しかも、4年前の「爆弾テロ事件」に居合わせたというのも共通していました。この事実へ、太一たちは驚愕とともに疑問をいだきます。
大通りでは、ヴァンデモンの手下・マンモンが暴れまわっていました。食い止めようと、ピヨモンがバードラモンに進化して立ち向かいます。戦いのなか、しだいに皆の脳裡に過去の記憶がフラッシュバックで戻ってきました。そう、あのとき戦っていたのは…あのとき起きたのは爆弾テロなんかじゃなく、デジモンどうしの戦い。しかも太一とヒカリを守ってくれたのは、グレイモンだったんです。子供たちはその戦いを見ていたんです。
完全体のマンモンは強敵でしたが、土壇場で愛情の紋章が光り、ガルダモンが出現。シャドーウィングで敵を葬り去りました。
自分たちは4年前すでに、デジモンに会っていた…ということは、「8人目」もそうである可能性がとても高い、ということになります。
なんとしても、ヴァンデモンより先に見つけなければ…思いがけず見つけた手がかりに、子供たちは決意をあらたにするのでした。
★全体印象
29話です。タイトルバックは今回の敵マンモン。
戦ったのはピヨモンですが、誰が主役のエピソードというわけでもないので、代表してか藤田淑子さんがタイトルコールを担当していました。
1話の段階で止まったままだった「現実世界の」時間が動き出し、さらに4年前における子供たちの共通項…光が丘団地で起こったグレイモンとパロットモンの激突を目撃していたという事実、すなわち映画版とのリンク…が示唆されるという、きわめて重要なエピソードです。もちろん、映画版は豪華パイロット版でもあるためこまかい設定などは違うはずですが、ともかくお話自体はつながっているのですから「あった」というそのものが大事。
上記の事件が過去に起こっており、その時のコロモンはいまのコロモンとは別の個体であるということを押さえておけばいいでしょう。
また担任である藤山先生の登場や、ミミ限定ですがレギュラーの仲間以外との友人関係が示されたりと、選ばれし子供たちが本来は普通の小学生であるという現実があらためて描かれました。そもそも何もなければ、彼らは雪をしのいだ後クラスメートと合流し、バスに乗って一直線に帰宅していたはずなのです。キャンプに出かけるときには、まさか帰りのバスに乗るのがこんなにも先になるなど夢にも思っていなかったことでしょう。
むろん、そうでなければ7人がこうして集まることはなく、ひいては仲間としての強いきずなを結ぶこともなかったし、何よりデジモンたちと出会うこともありませんでした。ですから、子供たちにとってそんなことは今さらどうでもいいでしょうね。
初見のときは流しがちでしたが、先生を誤魔化すときのやり取りひとつ取ってみても「ああ、成長したな」と思わされます。
いい意味でズルいというか、強かになってきてますよね。
と、節目としてものすごく大事な回なんですが、作画と演出についてはほとんど見るべきところがありません。
諏訪さん担当と思われるカットだけはちゃんと見れるんですが、今回はそれがかなり少なかった印象すらありますし。
★各キャラ&みどころ
・太一
率先してその場を誤魔化そうとするのはいいんですが、あんまり口がうまいほうじゃないので何人かのフォローを必要としてました。
藤山先生には普段からマッサージ攻撃を受けているようですね。注意をくらう回数が見るからに多そうなタイプだものなあ。ま、冒険の間にかなり自重を覚えたはずなので、あとで先生が(そういえば、あれから八神もすこし大人しくなったなあ)なんて思い出すことがあるのかもしれません。02ラストから推測すると、ずっと後に太一が年をとった先生に会って
「いやあ、実はあのときはああだったんですよ」
「やっぱりそうだったのか。いろいろ知ってから、あれはもしかして…と思っていたんだよ。お前らもいろいろ大変だったんだなあ」
なんてやり取りを、酒の肴に交わしていたりして。
・ 空
パートナーは戦闘で大活躍してるんですが、彼女本人はそんなに目立ってません。
これは全員が均等にしゃべるエピソードの場合、裏方に回って会話の全体的取り持ちをすることが多いせいかも。ただ、太一と折り重なるようなかっこうでガルダモンに庇われるという、なかなか美味しいカットが用意されています。
・ヤマト
なんだかんだで、弟との関係を説得のダシに使うくらい強かになってるんですねえ。
キャンプに来る前のヤマトだったら、こんなこと冗談でも方便でもできなかったと思うんですが。
・光子郎
28話である程度準備をととのえる余裕があった理由を、今回できっちりフォローしていました。
ということは、向こうだと1日=
一分弱ということでいいんでしょうか?
彼のデジモンアナライザーのおかげで、そろそろ味方を計画的に活用するケースがふえてきます。
幼年期のまま完全体のマンモンに立ち向かおうとするコロモンたちの無謀を押しとどめ、かわりに体力充分で完全体進化という奥の手もあるピヨモンが単身挑み、あとはへたな手出しをせずに見守るあたり、有効なカードを確実に使っていくという戦術の基本が見えますね。子供たちも戦い慣れしてきてるってことですよ。
慣れていくのね…自分でも分かる…というやつ。
・ミミ
前回の予告にも書きましたが、パルモンそっちのけでクラスメートと旧交を暖める姿がとても印象的でした。
パルモンは鼻白んでいましたが、これは仕方のないことかもしれません。あれだけのことがあった後で、日常の象徴であるクラスメートたちや見慣れたバスを目にしたとあっては、誰だって彼女のような衝動が胸にわきあがってきて当然です。ましてや、ミミにそんな自分の気持ちを抑えることなどできるわけがありません。だって、誰よりも自分に正直なのがミミという少女じゃあありませんか。
それに、パルモンとはこの数か月ずっと一緒でしたしね。ならば少しくらい我慢してもらっても罰は当たらないと私は思います。
ま、ミミのことですから後で気づくことがあれば「ごめんね」くらいは言ったでしょう。
・タケル
ヤマトの意図をすばやく察してはでに演技して見せるあたり、1話のただ可愛らしいだけだった振るまいとは異質のものが育っていると感じます。
もともと聡くて精神年齢のたかい子ですが、
それがますます助長されてきてます。
やや演技過剰なのはご愛嬌。
・丈
もうすでに太一へリーダーを振ってるんですが、現実世界での「最上級生」という立場をうまく利用、フォローに回ってました。おかげで、藤山先生を納得させることに成功しています。地味ですが、状況にあわせて柔軟な判断をしたという意味においてとても重要なケース。やはり彼も日々確実に成長しています。
ヤマトと普通に会話していたりするので、周囲の人間はちょっとだけ不思議に思ったかもしれませんね。
・デジモンたち
ほとんどが幼年期に戻ってしまっているので、戦えたのはゴマモンとピヨモンのみ。それでもマンモンを前にして勇敢に立ち向かおうとします。いつでもやる気まんまんな彼らですから、パートナーたる選ばれし子供たちとしてはよけいなケガをさせてしまわないよう、うまく作戦をたてなければならないというわけ。
自分にまかせてと積極的に進み出るピヨモンには、さらなる成長がかいま見えます。
・マンモン
巨大なマンモスの姿をした完全体。テイルモンが連れてきた猛者のひとりです。
重量も体躯に見合っただけあり、踏んだだけで自動車くらいならぺしゃんこにされてしまうほどのものがあります。
ただパワーはあるんですがお脳があまりよろしくないらしく、8人目を探すどころかやみくもに暴れるだけ。テイルモンもあきれ果てて、フォローもせずに行ってしまいました。事実上、放置されたかっこうになります。とはいえ、あまり騒ぎを大きくすると探しづらくなるだけですから、目に余れば誰かに始末させるつもりだったのでしょうが…その役は、はからずも選ばれし子供たちが担当することになりました。
結局ガルダモンに高空から投げ落とされたあげく、容赦なくシャドーウィングでトドメを刺されるという最後をむかえています。
子供たちとしても現実世界のみんなを巻き込むわけにはいきませんから、悪いけど手加減できないってところですね。
・ テイルモン
陽の光をおそれて馬車に引っ込んだヴァンデモンにかわり、8人目捜索の指揮をとっています。
犬を一打ちで退散させたシーンからすると、ホーリーリングは鈍器としても使えるようですね…(^^;)
口調はもうすでに27話からだいぶ変わってきてます。これで34話につながりやすくなりましたが、初登場時のイメージは薄れました。
・藤山先生
厳しいというよりフレンドリーな先生。とはいえ、不正は見のがさないタイプ…かな?
ただ、こういうフレンドリーさは時として子供にとっちゃ落ち着かないものかもしれません。太一はちょっと苦手そうにしてます。
脇キャラなので、どうやら声優さんは使い回し。…だいぶ押さえてますがこれは櫻井さんかな? ちなみに、02ではたしか遠近さんが演じてたはず。
・ 過去のたたかい
グレイモン対パロットモンという映画にあったシチュエーションが語られ、ついにリンクが明らかとなりました。
回想シーンのグレイモンはテレビ版そのものですし、戦闘シーンもだいぶ違うため、テレビ版に合わせた第0話の事件として、映画のようなお話があったと思っておくくらいでいいんじゃないでしょうか。映画版との細かい齟齬は、このさいあまり考えないほうがいいでしょう。
それにしても、子供たちはなぜあれだけ強烈な事件のことを忘れてしまっていたんでしょう?
02でゲンナイさんが介入して記録や情報を操作し、デジモンの事が明るみに出ないよう工作していた事実が明らかになっています。もしこの工作を、ある程度であれば人間の記憶にも作用させられると考えれば、どうでしょうか? だとすると、パロットモンは知らないうちにそのためのプログラムを乗っけていたのかもしれません。グレイモンとの戦闘が起こった場合、もろともに戻るとともにその場の全員へ作用して、事件の記憶を忘れさせるような。
ただこれは隠ぺいであると同時に、目撃した子供たち全員への配慮であると取ることもできます。
もし子供たちが全員「怪物を見た」などと騒ぎ立てれば大騒ぎになり、その後の子供たちの成長そのものにすら悪影響を与えかねない。数々の事例からわかるとおり、マスコミは時として無神経で無責任なもの。面白おかしくやり玉に挙げられたりしたら、子供たちが思った通りの成長をしてくれる確率が下がってしまうかもしれない…それではゲンナイさんたちにとっても、非常に都合の悪いことになってしまいます。
その点、爆弾テロということにすれば露見を防げるうえに住民全体へ注意が分散し、子供たちへの影響は最低限ですみますから。
それでも特に強いインパクトを受けた子たちからは記憶を払拭しきれず、ヒカリに至っては完全に覚えていましたから、人の記憶を完全に操作するというのはむずかしいのでしょう。ましてや、刺激を受けることそのものが成長につながる幼児期ならばなおさらです。
まあ、光が丘での戦いを目にしてスウーッと記憶のベールが剥がれていくくらいですから、必要以上に強い暗示じゃなかったのかもしれませんが。
あるいは、そのように仕掛けられていた…?
★名(迷)セリフ
「ぼくは班長として…」(丈)
事実上のリーダー譲渡をしたばかりなんですが、このセリフ。
現実世界における立場ってものを思い出したんでしょうね。
「どうしても見ておきたいんです。両親が離婚する前、家族なかよく暮らしていた場所を!」(ヤマト)
「お兄ちゃーん!」(タケル)
「タケルー!」(ヤマト)
素なのか、ノリノリなのか(^^;)
このあとしばらく抱きあっており、太一にツッコミを入れられます。
「だれだ、ゾウなんて放し飼いにしたのはー!」 (バイクの男)
「なんでこんな所にゾウが…!?」(男A)
「映画の撮影かなんかよ…!」(女)
「よくできてる、本物の怪獣みたいだ…!」(男A)
ただのゾウにしてはあまりにも異様であまりにも巨大なのですが、事情を知らない人々はこのように解釈するしかありません。
理解不能なものを見た時、ムリヤリ納得することで錯乱を押さえるというのは人間の本能みたいなものらしいです。
テイマーズでギルモンが普通に歩いてて何もなかったコトがありましたが、どっちかというと見て見ぬふりをされたのかも。
「け、警察…!? ええっ!? 通じない!」 (男B)
「もしもし、もしもし! 応援願います! もしもし! …おかしいな…」(警官)
デジモンの周囲では電子機器が狂うという設定が生きています。
そーいえば、パートナーデジモンの場合はだいじょうぶなんでしょうか?
「ほんとにかいじゅう、みたんだよ?」 (タケル)
「怪獣なんかいるわけないの! 夢よ、夢! ホント、誰のせいでこんな夢と現実の区別がつかない子に…」(ナツコ)
タケルの心にはかなり強く印象づけられていたようです。
ただ、母から否定されたこともあってそのうち記憶の襞の中にしまいこんでしまったみたいですが。
これはヤマトもいっしょですが、たぶんタケルよりは印象が薄かったのではないかと。
そして、こういうところでも父母の不仲がしっかり仕込まれています。
一連のシーンでは背後にボレロが流れており、映画とのつながりをより強調していました。
「あれは、怪獣なんかじゃない…あのとき助けてくれたのは……グレイモン……?
……そうだ、グレイモンだ!」(太一)
映画と本編がつながった瞬間です。さきに見ていた人にとっては、まさに感動のときでしょう。
たとえばこの私だ。
「きっと別のコロモンだよ。でも、さいしょに太一とあった時、とてもなつかしい感じがしたんだ…」(コロモン)
…だとすれば、ひょっとしたら今のコロモンたちは…あのグレイモンのデータを受け継いだ存在なのかもしれない。
そう考えれば、辻褄があうかもしれません。彼らパートナーデジモンも選ばれし「子供」ってことなんじゃないでしょうか。
「僕たちには、4年前…すでにデジモンに会っていたという、共通項があるんです!」(光子郎)
こういう謎へ最後の締めをおこなうのは、いつも光子郎でしたね。
★次回予告
ナレーションの平田さんがノリノリです。もうすっかりこの番組における感覚をつかんだようですね。
ギャグ篇ながら、現実世界という否応のないリアルさが奇妙な感覚をおぼえさせる名篇、じっくり愉しむとしましょう。