デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!
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脚本:吉田玲子 監督:細田守 キャラクターデザイン&作画監督:山下高明、中山久司 |
★あらすじ
デジタルワールドでの冒険を終え、平穏な生活を送っていた太一たち。
そんなある日、光子郎が大あわてで太一の家にやってきます。ネット上で新種のデジモンを発見したのです。
データをどんどん食べて進化していくそいつに危険なものを感じる太一たちでしたが、手出しのしようがありません。
二人が困り果てていると、アグモンたちからの連絡が入りました。彼らデジモンがネットに入り、新種デジモンを退治しようというのです。
太一たちは現実世界からフォローに回ることとなりましたが、ヒカリやヤマトたちとの連絡がうまくいきません。
そうこうしているうちに新種と一戦まじえるアグモンたちでしたが、敵はまたたく間に進化して逃走してしまいます。
やっと繋ぎの取れたヤマトとタケルのパートナーも加えて再度攻撃をかけますが、不意打ちを受けたパタモンが戦闘不能に……
怒りの反撃がはじまったものの、入れ込みすぎた太一がパソコンをフリーズさせてしまい、またも惨敗に終わってしまいました。
連携がなかなか取れない子供たち。新種の行動はますますエスカレートし、ついに核ミサイルを発射させました。
そのうえ、敵は増殖を始めます。世界じゅうからの応援メールも仇となり、ウォーグレイモンたちが一方的にやられていく……
思わず手を伸ばす太一とヤマト。気がついたとき、ふたりはネットの世界にいました。ともに戦うために。
光とともに世界中の意志が集まり、眩い中から最後の希望が現れました。ウォーグレイモンとメタルガルルモンが、合体したのです!
合体デジモンの圧倒的パワーにより、つぎつぎと掃討されていく新種ども。残るはミサイルの信管制御を握る本体のみです。
が、敵のスピードが速すぎて捉えきれません。このままでは間に合わなくなる……!
誰もが悲鳴を上げかけたその時、唐突に新種の動きが鈍りました。光子郎の機転で、怒濤のような応援メールを転送されたのです。
その僅かな隙を突き、最後の一撃が決まりました。未曾有の危機は、まさに寸前で回避されたのです。
こうして2000年の春の日は、ほかの年と同じように穏やかに過ぎてゆきました。
事件の裏に太一と空のちょっとした諍いと、その顛末があったことを知る者は多くありません。
★全体印象
「デジモンアドベンチャー」劇場版の第二作。2000年春に公開されました。同時上映は「ワンピース」でした。
言わずと知れた名作にして一大娯楽作。
TV版をふまえた上で独自の世界を構築した作風は多くの人々に絶賛をもって迎えられ、監督・細田守の名を一躍スターダムに押し上げました。
また最強デジモンの代名詞・オメガモンの登場もこの作品からですから、いかに多くのものをもたらした作品かわかることでしょう。
スタッフの主な顔ぶれは監督も含めてほぼ前作といっしょですが、原画の人数は倍。動画人数も数倍に増強されています。
さらに本作は東映初のフルデジタル作品だそうで、この大仕事を機会に一斉移行を果たそうという狙いがあったのかもしれません。
東映自体にとってもターニングポイントとなった作品というわけです。
これだけのものが作られ、評価されたのはもちろん監督以下良いスタッフのおかげですが、TV版が一年近く全国ネットで放送され
デジモンへの認知度がたかまったことや、デジヴァイスが爆発的に売れて続編への展望が拓け、万全の状態で二年目を迎えようという
まさにその最後の布石として打たれたゆえというのもあるでしょう。
デジモンが商品的にもっとも脂の乗っていた時期という機運の良さが、これだけの作品を送り出す背景にあったのは疑いありますまい。
そう、2000年の春はまちがいなくデジモンの絶頂期だったのです。
しかしながら、初年度からこれほどの当たりを出すと後年の作品が嫌でも比較対象になってしまいます。
どんな作品でもそうですが、初の本格劇場版というのはある意味やったもん勝ちなところがあって、盛り上がるのもなかば当然なんです。
そこへぶっつける作品の出来がよければよいほど、見ているほうのハードルが上がってしまう。
そうは言っても同じ手が何度も使えない以上、勢いがあるうちになるべくパワーのある布石を、というのも当然で……痛し痒し。
東映アニメフェアはこの映画からわずか二年半で大惨敗を喫し、以後は作品単独上映へ移ることとなります。
結果として各作品の個性を強めることに成功し、業績の回復も果たされたのですが、デジモンはいまだ単独上映の恩恵にはあずかれていません。
その位置をかわりに占めている形なのがたまごっちというのは、なんとも奇妙な縁。
まあ、そんなことを言ったら戦隊なんてどうなるんだって話になるんですが……いかん、話題を変えよう。
さて私自身の話をすると、この映画は初めて映画館で見たデジモン映画だったりします。
それまで東映アニメフェアになど、ドラゴンボール絶頂期のときでさえほとんど行ったことのなかった私に足を運ばせた作品でした。
その頃にはもうデジモンでサイトを作ろうと決心していたので、要するにもはやどっぷり浸かっていたということです。
私のデジモンライフにとって最大の収穫は、この映画を大画面で見られたことにつきるでしょう。
期待通り……いや、期待を大きく越える出来でした。細田監督の名が決定的に脳裏へ刻まれた瞬間です。
デジモンへ嵌まったのも、半分はこの映画2作のおかげ。まあ、残り半分の時点でとっくにメロメロだったわけですがね。
まさかここまで続けることになるとは思わなかったけど。
とまあ、一作目の感想でついた弾みを活かして一息に書いてしまおうと思います。
しばしのお付き合いをお願いします。
★各キャラ&みどころ
・太一
デジモン界の天然リーダーがふたたび参上。
ただこの作品ではリアクション大王でもあり、TV版終盤で見せた冷徹なまでのリーダーシップは影をひそめています。
というか、より年相応になっているという感じ。むらっ気があるといいますか……このへんは監督の趣味かな。
が、それが悪いという評判は聞いたことがありませんし、むしろ彼の魅力がより引き出されたと思いますね。
光子郎に対するくだけた態度やボケもツッコミもかませる幅の広さ、空への子供っぽい反応の裏に隠れる幼馴染としての好意、
頭に血がのぼっての当たり散らしに謝罪、そしてウォーグレイモンへの切々とした呼びかけと、まさに百面相。
年頃をむかえつつある少年のストレートな感情と繊細さが、いかんなく発揮されていました。
八神太一って人物はなんといいますか、ホントに「男の子」そのものみたいなキャラクターなんですよね。
この映画のような素晴らしい作品に当たったおかげで、さらに磨きがかかったように思います。
そりゃ人気も出るってもんだ。
キャラデザイン的には最初から山下氏と中山氏が携わっていることもあって、TV版より少し大人びています。
これは他の子供たち全員にいえる特徴。そりゃあ、もう6年生だものなあ。この時期の半年は大きい。
見慣れた星マークのインナーが長袖なのは、まだ少し冷えるからでしょうか。
・光子郎
01組のブレーンにして実質的サブリーダー。今回もその能力をマルチに発揮しています。
戦闘には前半しか参加してませんが、貢献度ではある意味太一たち以上といえるでしょう。
なんせ太一に新種の存在を報せたのは彼。パソコンをセッティングしたのも彼で、衛星携帯の利用を思いついたのも彼です。
おまけに咄嗟の機転でディアボロモンの動きを封じたのも彼ですから、その活躍たるや凄まじいものがありますよ。
光子郎がいなかったら、太一はもちろん他の子供たちもみんなディアボロモンに気づくことなく、大惨事になっていたかもしれません。
その一方、肝心なときに場を離れてしまって事態を悪化させるというポカもやらかしています。
あそこでトイレに行ってなければ興奮する太一を抑えることができ、ディアボロモンを倒すことができたかもしれないんですね。
つまりあの場面は言うまでもなく、彼ら両方に責任がある。彼の場合は生理現象のせいですけど。
緊張を緩和するためか、ウーロン茶をがぶ飲みする癖があるように見えますね。年のわりに頻尿の気もありそうな。
ただ、彼や太一がミスをしないとウォーグレイモンたちが追い込まれず、オメガモンも誕生しない可能性があります。
そうするとジョグレス進化もできなくなって困るわけで、長い目でみると悪いことばかりじゃなかったのかな? と結果論も脳裏に。
より強い敵が出てくるのはシナリオの都合、と言ってしまえばそれまでですけれど。
とまあ全般的にみて太一より冷静な行動が目立つものの、崩れることも多かったですね。
遠回しなイヤミを言ったりするくだりは、ストレートな太一との性格の差異がよく出ていました。まあ、気持ちはわかる。
彼も顔つきなどが少し大人っぽくなってますが、背はあんまり伸びてません。とはいえ、全体的にちょっと大きくなった印象はあります。
・ヤマト
太一のライバル的存在にして親友。本格的参戦は中盤からです。
上のふたりに比べると影は薄いですが、貢献度ではほぼ同等といっていいはず。連絡がついたのが彼らだったのはラッキーでした。
あの状況下、最大戦力たる二人のパートナーが揃うというのは悪くない条件です。それがオメガモンにも繋がるわけですしね。
クールな外見に熱血漢の素顔を秘めていることはもう言うまでもありませんが、今回は控えめ。
状況とそれに距離というクッションが作用したのでしょうか、ケンカを始めた太一たちを諌める場面までありました。なにげに凄え。
それでもパタモンの負傷に激昂したり、彼本来の熱さは端々に顔を見せています。ギャグもあり。
また、終盤では太一と同じようにネット世界へ入り込み、倒れ伏すメタルガルルモンのもとへ駆けつけます。
彼も太一と同じものを感じ、思わず画面へ手を延ばしたのでしょう。いや、見ていた誰もが同じ気持ちだったのかもしれません。
あの場に来られたのは、彼らふたりがパートナーだったからなのでしょうね。
本作では茶系のシャツとダークグレーのスリムパンツでシックに決めており、メンバー中でいちばん大人っぽい印象。
見たとたんに脈絡なくホストクラブを連想したほどで、そのせいか出番のわりに印象的な面もありました。
ところで、OPにおはぎが苦手と思われる描写が入ってます。コンテでもハッキリ「苦手そうな顔」との表記が。
おはぎというより、餡が苦手なのでしょうか。ここ以外で示されたことはないのでほとんど裏設定になっちゃってますが。
個人的感覚では実感がありませんけど、あんこ嫌いな人はそれなりにいるようです。そうか、嫌いなのか……
・タケル
ヤマトの弟。兄と島根の祖母宅に遊びにきていた最中、事件に巻き込まれました。
パートナーが途中退場してしまったので、参戦した四人の子供たちでは唯一、ほぼ見てるだけの人物となりました。
しかしパソコン調達に一役買ったり(ウソ泣き?)、地味に役立ってます。
まだ01のころの印象のほうが遥かに強く、ひたすら可愛らしいイメージ。
ただ服装はTV版よりだいぶ地味……というか、より現実にいそうな普通の出で立ちをしてます。
01から02を通して、もっともカジュアルなタケルかもしれません。帽子だけは02のそれに近いですけれど。
小西寛子さん演じるタケルとしては、この映画が最初にして最後となりました。
タケルの映画出演はむしろ02がメインで、それも完全に脇にまわってるケースばかり。意外に目立ってません。
・空
太一たちの幼馴染にして、選ばれし子供たちのおふくろさんです。
ガンダムでいえばミライさんみたいな立ち位置……というと、微妙にわかったようなわからないような。
ただ、本作ではめずらしく臍を曲げた表情が大半を占めています。発端は太一のプレゼントから。
数少ない情報からでは、いったいなんであんなに怒ったのか私にはよくわかりません。女心は複雑ということか。
そのあたりの機微が邪魔をして太一の家に足を踏み入れることもないので、終止事件の外にいました。
不参戦組ではヒカリと並んで出番の多い人物です。
それでもエンディングでは太一に謝罪したことがわかり、件の髪飾りをつけている絵も出てきます。
ここでまた実にいい笑顔をしていて、多くのファンがいわゆる太空を確信して疑わなかったのですが顛末はまた別の話。
よく考えてみたら映画の時期以降、彼女がトレードマークだったあの帽子を被っているところを見たことがないんですよね。
興味深い話ではありませんか。
彼女もまたキャラデザの影響で大人っぽくなっており、とりわけ脚の長さが当社比べ3割増ぐらいに見えます。
脚だけ見るとまるでスーパーモデルみたいだ。
・ヒカリ
太一の妹。本作で友人である千里ちゃんの誕生パーティに行っており、戦いには参加していません。
また、不参戦組ではただひとり事情を知っていた人物でもあります。
にもかかわらず動けなかったのは主賓格あつかいだったからか、千里ちゃんの自意識が強かったからか……(たぶん両方)。
序盤では太一との会話があり、そこでは妹らしく少し悪戯っぽい表情も見せています。
それ込みでたいへん愛らしい仕上がりになっていますね。よそ行きのワンピースがよく似合ってる。
TV版のイメージにとらわれがちですが、こうして見ると監督も決して電波系として描こうとしたわけじゃない気がしますね。
21話のアレは単に風邪をひいてたからプラス、あのお話じたいの雰囲気だったというわけです。
あの回での言動を思い起こすと自信なくなってきますけど。
・丈
不参戦組。選ばれし子供のなかでは最年長で、映画当日が中学受験の日でした。あいかわらず運が悪い。
この間の悪さは「ディアボロモンの逆襲」に至っても健在です。
物語中はひたすら試験試験また試験で、本筋にかすりもしてません。それがかえって印象に残るようになってました。
太一のセリフじゃありませんが、それもまた丈らしいというところでしょうか。
エンディングでの呆けたような燃え尽きたような表情がおかしくもあり、気の毒もあり。お疲れさまです。
・ミミ
不参戦組。その中でも群を抜いてフリーダムな立ち位置です。
あそこまでいくともはや流石だとしか言いようがありません。そりゃ無理だわ。
しかし春休みにハワイ旅行だなんて、やっぱり相当裕福な家なんでしょうね。選ばれし子供たちはわりとみんなそうか。
エンディングの写真からわかるとおり、真っ黒に日焼けして帰国します。たぶん、事件からたっぷり数日経ったあとに。
そんな彼女の姿を見ては、太一たちも笑って迎えるしかなかったことでしょう。
・アグモン
太一のパートナー。細かい描写の差異はあれど今回は正真正銘、TV版のアグモンです。
前作よりもぐっと小さく幼いイメージが強調されており、目もかわいらしくなっていますね。
テントモンとともに一番最初にネットへ入り、クラモンと対決したのも彼です。そのときにはグレイモンに進化しました。
この成熟期もまたTV版へ完全に準拠したデザインで、ややずんぐりした体型に大きな瞳と、厳ついながらも愛らしさがあります。
ただ、必殺技のメガフレイムがTVのような「溜めて撃ちだす一撃必殺」じゃないので、あんまり強力には見えません。
オメガモンとの差を際立たせるための演出なのでしょうが、高速で動き回る敵に応じて小出しにしてるという考え方もできるでしょう。
さらにインフェルモンへ対抗するため超進化を試みるのですが、敵のお約束破りでものの見事に失敗。
結局、メタルグレイモンの姿が銀幕に映ったのは進化バンクと、攻撃をくらう寸前の一瞬だけだなのです。うーん、もったいない。
・ウォーグレイモン
インフェルモンを一気に倒すため、二戦め開幕から出し惜しみなしで登場した究極体。
これも基本的にはTV版準拠ですが、少し脚が長くてスマートです。直井作画のときの絵柄が近いかも。
メタルガルルモンとのタッグでインフェルモンを追いつめるのですが、敵の早すぎる進化と太一や光子郎のミスでまたも敗退。
おそらくインターネット上という、デジタルワールドではない場所で活動するためには現実世界からの通信が必須で、
それが断たれてしまったために行動するだけのエネルギーを確保できなかったのでしょう。
たぶんウォーグレイモンからすれば、頭は動いてるんだけど体が動かせないような状態になってしまったんだと思います。
などと考えていくと、インターネットの世界という曖昧で不完全な環境というものも想像できてきます。
現実の世界でも、デジタルワールドのように高度な仮想現実でもなく、情報が飛びかってる場というだけにすぎないんですね。
そこで活動するというだけでも、デジモンにとっては大変なことなんでしょう。
ディアボロモンを殴り飛ばすなど、見せ場もあるんですが終わってみれば、危機を煽るダシにされた格好。
おなじみのガイアフォースも何か妙に小さくて、ヤムチャの繰気弾ぐらいしかありません。あれじゃ避けられます。
もしかして環境のせいで、思うように練れなかったんでしょうか? ありうる話です。
最終的にはディアボロモンの群れに総攻撃をくらい、戦闘不能に陥ることとなりました。オメガモンへの合体はその直後。
・テントモン
光子郎のパートナー。アグモンとタッグを組んでクラモンやインフェルモンとのバトルを展開しました。
カブテリモンに進化するほか、アトラーカブテリモンへの進化も敢行するのですが、やはり敵の乱入によって失敗に終わっています。
二度目の戦いではパタモンを助けようとしたところでディアボロモンの攻撃をくらい、そのままフェードアウトとなりました。
それでもまだダメージが軽いほうなので、おそらくは太一の指示通り、パタモンを連れてその場から撤退したのでしょう。
ディアボロモンがわざわざトドメを刺しに来るとも思えませんが、究極体同士の戦闘に巻き込まれるのはヤバいはずです。
ウォーグレイモンたちの動きを制限することにもなりかねません。
とまあ、ハッキリ言ってやられ役そのものなんですが、進化できただけ遥かにマシだったりします。
・ガブモン
ヤマトのパートナー。第2ラウンドから参戦し、メタルガルルモンに進化して戦いました。他の形態は進化バンクのみの出演。
怒りのフルオープンアタックが最大の見せ場ですが8割がた躱され、直後のウォーグレイモンが気合のパンチを見せるので霞みがちです。
コキュートスブレスも出してるんですけどやはり避けられていて、実はあんまりヒットを稼げていません。
ディアボロモンの速さが逆によくわかる話です。
最後はウォーグレイモンとほぼ同様の経緯をたどり、オメガモンへ合体することになります。
・パタモン
タケルのパートナー。ガブモンと同時に馳せ参じたものの、ディアボロモンの進化妨害にあって何もできずに戦闘不能となります。
メイン格のデジモンとしては、今回もっともワリを食ったメンバーでしょう。気絶してぐったりした姿が何とも痛々しい。
おかげでエンジェモンの銀幕デビューは、02の夏映画までお預けとなってしまいました。
ただ、ここでホーリーエンジェモン(このディアボロモンを相手にするなら現れてほしいところ)が出てしまうと、
味方サイドの勝率がかなり上がってしまうんですね。相手によるとはいえ、完全体の身で究極体と渡りあう実力者なのですから。
これにアトラーカブテリモンが加われば、さらに盤石の体制となるでしょう。
にもかかわらずディアボロモンを逃がしてしまえば、どんだけ強いんだよコイツってことになりかねません。
だからパタモンを戦闘不能にすることでホーリーエンジェモンの参加を封じ、返す刀でテントモンも戦闘不能に追い込み、
さらに外部の不測事態でウォーグレイモンも実質戦闘不能にすることで、敗北への説得力を出したのです。
そういう見方をすれば、パタモンはキッカケという意味できわめて重要なポジションにいたのかもしれません。
監督としては「8人揃わないという現実もある」ということを描きたかったそうですが、敵を必要以上に強く描くより
味方側に悪条件を重ね、結果的にどちらの「格」も下げない流れはキャラに配慮した丁寧な仕事でもあります。
こうした側面も、この作品を名作に押し上げている一因といえるでしょう。
・その他のパートナーたち
ピヨモン、パルモン、ゴマモン、テイルモンたちもパソコン上のインターフェース越しに声だけは出演しています。
しかし残念ながら、戦いには参加していません。パタモンのセリフから類推できるかぎり、ネットに入ってさえいない気がします。
というより、パートナーとパソコンが揃っていなければ入ることができないのかもしれません。
ヤマトたちがパソコン一台にあんだけ必死になったのも、そうしなければ経路を確保できないからですし。
上述のとおり、メンバーの半数が戦闘参加不可能という状況ですでに危機感を煽っているというわけです。
そこにギャグがほどよく混じってくるあたりがまた上手いんですね。
・ゲンナイさん
この人もピヨモンたちと同じ条件で登場。背景からみて、アグモンたちが集まっていたのは彼の屋敷だったのでしょう。
どうやったのか知りませんが、たぶん光子郎より先にクラモンの卵を見つけて対策を進めていたのだと思います。
アグモンたちは事前に招集をかけておいたか、あるいはたまたま屋敷に来ていたのかもしれません。
さらに、パートナーたちをネットワーク上へ送ったのもこの人のようです。
私たちが想像する以上に危険な任務だったかもしれませんが、アグモンたちは微塵の迷いもなく受けていました。
・八神優子
日常の象徴。狭いマンションの中で、太一とじつに見事なコントラストを描いています。
ケーキを焼いたり、窓からボーッと観覧車をながめてピントのずれたコメントを出したり、春をのんびり満喫していました。
誇張が入っているためか、いつもより随分マイペースというか天然に見えます。これでこの人のファンになった向きもいるでしょう。
TV版どおり水谷優子さんが空とかけもちで演じていますが、セリフの量だけで見るとメインは断然こちらの方。
というか空はニュアンスの違いはあれど「太一のバカ」と「どっから?」と「あ……いないって言って」と「いいから!」
の五種しかセリフがなかったりします。最後の謝罪はメール文面ですし。
・武之内淑子
空の母。光子郎からの電話を空に取り次ぐ役で登場しました。
上品な受け答えは藤田淑子さん@太一の掛け持ちです。光子郎をはさんだのは、一人芝居の回避措置でしょうか。
とはいってもご婦人らしく演じているので、差別化はバッチリだったんですけど。
空と太一の家って、声優さんの役柄が親子逆転してるんですよね。
なぜそういう配役になったのかは不明ですが、なかなか面白い。
・ミーコ
前作に引き続いての登場。前に書いたとおり、目をはじめとしてだいぶ可愛らしくなっています。
前作のデジモンたちがあんなに怖かったのは「大人の目から見た怪物」としてのものだから、という意見を聞いたことがありますが、
もしそれがミーコにも適用されるとすれば、「子供の目から見た可愛いミーコ」として描かれているから、なのかもしれません。
前にあれほどネコっぽかったのは視点がリアル=大人目線だから、という感じで。
劇中では別に何をするわけでもなく、太一たちのそばでなにげない愛嬌をふりまく役でした。
そのわりに意外と印象があるのは、演出のたまものでしょうか。
・キヌさん
島根のおばあさん。ヤマトとタケルの祖母です。おそらく父方でしょう。
年齢的に、02で出てきたミッシェル翁よりも上に見えます。70は超えてそうな。
性格的にはだいぶ天然のうっかり者という感じ。耳もちょっと遠そうです。太一との会話がまるで噛み合ってません。
・タケシタでんきのおばちゃんと郵便配達の正ちゃん
島根の電気屋さんと郵便配達さん。
正ちゃんはヤマトとタケルに協力し、二人をネット環境のある知り合いの床屋へ連れて行ってくれた行動派の人物です。
この人がいなかったらパタモンはともかくガブモンが参戦できなかったことになるので、かなりの大役を担ったといえましょう。
ありがとう正ちゃん、あなたのおかげで世界は救われた。
おばちゃんは面倒くさがりというかバッサリ切り捨てがちというか、正ちゃんとはケンカばかりという感じです。
それだけ遠慮がない=気の置けない間柄ということでしょう。配達途中にお茶してた感じですね。
・世界じゅうの子供たち
ディアボロモンの誕生とその顛末はネットを通して、かなり大勢の子供たちに目撃されていました。
範囲はまさに世界規模へのぼり、のちの02につながる要素を感じさせます。「ディア逆」ではさらに一歩進むのですが、
それはいずれ語ることにしましょう。
資料によると、画面に映ったのはシドニー、アンカレッジ、シカゴ、ニューヨーク、ブエノスアイレス、バンコク、ホンコン、
北京、トロント、ベルリン、フィジー、台湾、メキシコ、フィラデルフィア、デトロイト、モンゴル、ミャンマー、トルコ、チベット。
あと当然日本も含まれます。うーん、ワールドワイドだ。
ラストバトルはそんな世界中の僅かな、しかし大勢の人々が固唾をのむ中で行われました。
中には掲示板などで実況中継した人もいると思います。つうか実際にあったら絶対に誰かがやってる。
・京
姉といっしょに、3年前の姿でワンショットだけ登場。02組が画面に出るのはこれが初めてです。
02のときとほとんど変わらない服装なのは、そうしないと誰だかわからないからでしょう。
この頃から大いにパソコンを嗜んでいたようで、メールなどは朝飯前。でも姉に合わせた机なのか、不自然な姿勢での打ち込みでした。
その姉はTV版とデザインが全然違います。まだ設定がなかったのでしょう。
コンテによると中学生のようなので、逆算するなら長女・千鶴にあたる人物ということになりそうです。
そうすると次女・百恵は当時まだ小学生?
・リョウ
ゲーム版からの出張。時期的にはアノードテイマー及びカソードテイマーが出たばかりの頃なので、京と同じくタイムリーな参入です。
いろんな情報を総合するなら99年の大晦日に冒険をした選ばれし子供、ということになりそうなのですが……
たぶん、そのときは賢ちゃんが一緒ではなかったと思います。
むしろその数ヶ月後、ちょうどタッグテイマーズの出たころに同行したと考えるのが妥当でしょう。
少なくともこの映画と同時期ではないはず。
ちなみに、彼がいた国はトルコだそうです。なぜそんな所にいたのかはまったくもって不明。
・ネットデジモン(ディアボロモン)
本作の敵役。デザインはウィズとの協力のもと、山下氏らキャラデザ担当が行いました。
姿についての大まかなイメージを纏めたのは細田監督だそうです。あの電子的な笑い声も監督の発案なんでしょうか?
劇中では突然のことで名前がついておらず、「ヤツ」とか「クラゲ」とか「新種デジモン」と呼ばれていました。
幼年期のクラモンあたりは可愛く見えないこともないのですが、進化していくたびにどんどん凶悪化していき
究極体ディアボロモンになると、ウォーグレイモンやメタルガルルモンでも1対1では手を焼くほどの強さを身につけます。
しかも自分自身をテンプレートのようにして無数の分身を作る能力まであり、手がつけられません。
ダークマスターズも裸足で逃げ出しそうな恐るべき存在です。オメガモンの初陣には正しくうってつけの相手でした。
その最大の持ち味はやはり、異常なまでのスピード。ネット上のデータを食い荒らしてたちまちのうちに進化し、
戦いとなれば二段階進化は当たり前、瞬時に究極体へ進化を果たすカットもあるほどで、対策を立てるヒマがありません。
もちろん戦闘におけるスピードも並外れており、敵がスキを見せれば即座に突っ込んできます。
初戦のアグモンたちやパタモンも、このスピードに何度となくしてやられました。速さであればオメガモン以上なのです。
進化の過程でデータを食い散らかすので、そこらじゅうのコンピュータが暴走や誤作動を起こしまくってしまうのも特色。
そのせいでパニックが起きるのを喜んでいる節もありますから、本能や習性というだけでは済みません。
むしろ知能のたかい愉快犯と見るべきなのでしょう。ただ、そこには何かへの明確な悪意や敵意があるわけではありません。
単に自分の能力や、アグモンたちとの追いかけっこを楽しんでいるだけとも言えてしまうのです。
次に何をするかわからないという意味では、これほど相手にしづらいデジモンもいないでしょう。
戦闘行動を見せるのは完全体からで、必殺技はいずれもシンプルな射撃系。
威力のほどがダイレクトにわかる技ということですから、これもテンポを妨げないための措置なのでしょう。
完全体時の防御態勢や究極体時の自在に伸びる腕など、相手からすれば嫌な能力をいろいろと持っていたりもします。
さらにディアボロモンといえば、そのしぶとさも特色です。
02で現実世界への実体化能力を手に入れ、アーマゲモンに変異したくだりは皆さんご存知のとおり。
実はそこにこそ、無秩序の権化が内包してしまった弱みが隠れてると思うんですが……それもまた、いずれ語りましょう。
細田監督に言わせれば悪いデジモンというよりも天災のような危険なデジモン、ということだそうです。
性格が悪いなどというレベルではなく、狂気と無秩序が形をもって現れた存在だといったほうがいいのかもしれません。
こいつには既存のルールなど当てはまらないのです。だからシステムを破壊し、進化妨害などという掟破りもする。
そしてそこには何の指標もない。だからこそ、最もやっかいな敵として心に刻み込まれたのです。
というか実はコイツって、インターネットという環境そのものに適応したデジモンだったんじゃないでしょうか?
だから誰のサポートもなしに動き回れるし、スピードも外部要因がなければ落ちず、コピーも作れるのではないでしょうか。
もしあのまま放っておいたら世代を重ね、ネット上でなら敵なしのさらにとんでもないデジモンに進化していたかもしれません。
まったく恐ろしい話です。
・オメガモン
最強の究極体、最後の騎士として名高い聖騎士型デジモンです。
その存在が後年にあたえた影響がどれだけ大きなものだったのかは、今ここで語るまでもないでしょう。
劇中では前作のアグモンやグレイモン、ディアボロモンと同様に言葉をしゃべりません。
しかし上記の存在と決定的に違う点は人類の味方であり、単なるモンスターを超えた存在であるということです。
無言であまたの攻撃を受け流し、次々と敵を打ち倒す姿は異質さではなく、神々しさを強調するものでした。
言葉はなくとも、オメガモンは友と誓ったものを守ってくれる救い主なのです。
しかしそれも、太一たちやアグモンたちの頑張りがもたらした結果。
最後まで足掻くことをしない者に、奇跡は起こらないということなのかもしれません。
あるいは奇跡とは、そうした努力の果てに起こるべくして起こるものなのではないでしょうか。
必殺技はもちろんグレイソードとガルルキャノン。グレイソードは接近戦用ですが、ひとたび抜き払えば敵の攻撃を残らずはね返し、
瞬時にして千単位を下らぬ敵を打ち倒すことができます。ガルルキャノンに至ってはもはや計測不能の威力。
あれほどいた分身ディアボロモンたちがまたたく間に吹っ飛ばされてしまったその破壊力は、われわれの想像を遥かに超えるものでしょう。
オメガモンはデビュー1作め、登場からわずか1分にして観客と、多くのデジモンファンの心を鷲掴みにしてしまいました。
オメガモンこそ最強であり切り札と刻んでしまう人がいても、なんら不思議ではありません。
たとえばこの小生のごとき信者のように。
無論それは重荷にもなりうる要素なのですが、ここでそこまで書くとキリがないので止めておきます。
この映画のおける活躍があまりにも鮮烈すぎたということだけは、記しておかねばなりませんが。
・作品No.「春」イ長調〜僕らのウォーゲーム!〜
エンディングテーマ。細田監督の要望もあって、明るい爽やかな曲に仕上がっています。
最後の最後までハラハラさせられる本編ですが、これが流れはじめればスーッと緊張がとれていく仕掛け。
そのまま間髪入れずスタッフロールになだれ込むところが心憎いですね。
バイオリンを主体にしたメロディは題名通り、春を連想させるもの。
ウキウキさせるというよりはふと空を見上げ、ああ、いい天気だなあ、今日はこれから何をしようか? そんな歌です。
歌詞にもところどころ、本編の内容を示唆するフレーズがちりばめられていますね。
太一たちは勝ったのです。恐怖と恐慌は去り、過去として思い出になりました。
そして明日には、未来には新たな冒険と仲間たちがいる。私たちもよく知っていることです。
・その他
その他もろもろ。
・赤い主線
ネット世界では、デジモンたちの主線が赤い色になってました。ひと目で今ネット世界にいるのだとわかるようになってます。
よく見ると進化バンクなどでも赤くなっており、CGならではな芸の細かさが窺えます。
これが人間キャラになると主線自体が無くなるので、デジモンとの差別化がなされていますね。
・ネットワークの世界
バトル舞台。サーバ上のデータ空間を示す大きな球体空間と、ハイパーリンクを示唆する無数の経路とで構成されています。
無限に近い広さを感じさせつつどこか箱庭的で、あらゆる物理概念が曖昧。異質です。
大画面で展開されると迫力満点で、観客を問答無用にその場へ引き込み、受け入れさせてしまいます。
のちの「時をかける少女」でもチラリと近いイメージの空間が見えることがあり、じつに興味深い。
監督的には時間も空間も意味をなさない場所として、あのようなビジュアルが常に頭の中にあるのかもしれません。
・太一のゴーグル
最初は首にかけてたもの。途中から太一自身の手によって頭に装着されました。バンドはゴム入りであることがわかります。
当然パートナーとしての戦意高揚の意味があるのですが、これによって視聴者側のボルテージもいちだんと上がっていく仕掛け。
・衛星携帯
光子郎秘蔵の端末。電波を直接衛星に送ることのできる機器で、ものによっては地球規模の通話領域があります。
災害時にも使えるので、新種のネット回線封じに対抗して持ち出されました。すごいぞ光子郎。
衛星携帯といえばこの映画が公開されたわずか2週間後、サービスを停止した機種があることで軽い話題になりましたが
どうやらそのサービスは3年前、2005年に復活しているようです。しかしながら基本料金が非常に割高なうえ、
端末自体がバカ高いので平時は趣味の一品でしかないでしょう。当時はもっと高かったにちがいありません。
なぜこんなものを光子郎が持っているのか不明ですが、光子郎だからなあと妙に納得してしまうのも事実。
彼のお小遣いだけで買えるとも思えないので、あのご両親がなんとなく買ってたか、または光子郎の好奇心を満足させるために
買い与えていたのかもしれません。いずれにしても親御さんGJ。
・災害用伝言ダイアル
ヤマトとタケルに連絡を取るため使われた非常手段。171と入力することで起動でき、相手の電話番号むけに
メッセージを残すことができます。一般の回線とは別の経路を使っているようですね。さすがは非常用。
しかしこれも、相手の側から確かめようと思わなければ連絡を取ることはできません。
回線が輻輳する前に連絡を取ろうとし、ヤマトたちが何かを伝えたがってる太一の意志に気づいてなかったらムダになるところでした。
ぎりぎり危ないところで何とか繋ぎが取れた状況だったんですねえ。
ヤマトたちがパソコンを確保した後は、ビデオチャットソフトで連携します。当時の回線とマシンには荷が重そうな処理ですが……
つうかヤマトってば、八神家のアドレス知ってたんですね。
・ICBM
ディアボロモンの「悪戯」で発射された核弾頭つきの大陸間弾道ミサイルです。通称はピースキーパー。
マッハ23ってことはインペリアルドラモンなら追いつけるかもしれませんが、いない者には頼れません。
この名を持つミサイルはどうやら実在し、劇中より射程は短いながら10もの核弾頭を搭載可能で、それぞれ違う目標に命中させられるそうです。
威力は広島型のゆうに25倍。何に使うんだよこんなもんってぐらいの破壊力です。映画みたいに、巨大隕石でもやってくれば別でしょうが……
ただ旧式なためか、数年前に退役したようですね。まさに前世紀の、いや現代の怪物です。
われわれは、自らを殺せるモンスターを無数に飼っているのでしょう。
しかもただの機械である弾道ミサイルは放たれたら最後、何かを破壊しないかぎり決して止まることはありません。
ある意味ディアボロモンなどよりよほど恐ろしい諸刃の剣、心なきモンスターじゃないでしょうか。
・空の巨大デジタマ
前作に引き続き、今作でものっけから登場します。
十中八九、新種がらみでしょう。光子郎のセリフ通りなら、コンピュータのバグがデジタマに変質した瞬間でもあるはずです。
もう少し言うなら、それを可能にする何かの因子がデジタルワールドからネットワークに入り込んだ、その時に起きたものではないでしょうか。
もちろん、なぜそんなことになったかはわかりません。偶然だったのか、それとも……?
いずれにしても、これが起こったのは事件が起こる前の晩か、あるいはもう少し前のこと。
ゲンナイさんが異常に気づき、調査にまわるぐらいの時間はあったのかもしれません。
★名(迷)セリフ
「メール出すんならここ。クリック♪」(ヒカリ)
ヒカリの数少ない出番からまずは一献。唄うような節回しです。
メールというもの自体が物語の鍵となる、その最初の示唆がなされた場面でもあります。
仲のよい八神兄妹がまた微笑ましい。
「タ……タマゴが……タマゴが孵ったんです!!」(光子郎)
「……」(太一)
「ちがうっ! デジモンのタマゴです!」(光子郎)
タマゴを持ったまんまノンビリと迎えた太一と、大慌てな光子郎との対比が楽しい場面。絶妙の間がたまりません。
加えてこの二人、というより、八神家と光子郎の気安い間柄もよーくわかります。
突然やってきても、まるでそれが当たり前みたいに受け止めてる。
「ひゃくまん……ひゃくにじゅうごえんです……」(店員さん)
新種のせいで暴走したレジを見て、思わず額面通りに告げてしまうシーンです。客のリアクションも最高。
笑えるだけじゃなくいろいろと受け取れるカットですけれど、基本的には喜劇というべきでしょう。
「あ、ああ。あいえすでぃーえぬとか何とか……」(太一)
パソコンのセッティングを始めた光子郎の質問に答えて。
ISDN。頭がクラクラするような単語です。わずか64kbpsの通信速度で戦ってたのか!そりゃ、レスポンスも落ちるってもんだ……
とはいえ回線の高速化に比例してデータが肥大化してる現状を思うと、条件的には大して変わらないのかな? なんて思ったりも。
それでも、1Mあたりの通信速度であればもはや比較にならないのですけど。5M程度の送信なんてざらになりましたし。
「どーもー」(テイルモン)
ゲンナイさんからの通信でちょこっと出てきたときの挨拶。テイルモンとしてのセリフはたったこれだけです。
ちょっと照れ隠しっぽい言い回しが彼女らしいのですが、これはアドリブだったような。
またはアドリブで情感こめ過ぎて、もっと棒読みっぽく変えた、だったかな……確かこのどっちかです。
そのへんの下りについて、当時のアニメ誌に裏話が載っていた記憶があります。
「ええっ!? まだ帰れないよ。お誕生ケーキのロウソクも吹き消してないんだよ?」(ヒカリ)
太一の電話にこたえて。同じようなネタを後にもう一回やってました。
必死すぎる太一と彼女のこの一種間抜けなセリフが対比を生み、なんとも奇妙な笑いを誘います。
人は世界規模の危機より、目の前のケーキを優先するものなんですよね。
そんな我々でも、集まればひとつの大きな流れを作っていける。ネットはそのための媒体のひとつなのです。
「太一ぃー。今日はいつもよりよく回ってるわよ」(八神優子)
暴走観覧車をながめながら。もちろん、太一たちのほうは見物するどころではありません。
この凄まじいピントのボケ方。状況の対比だけでなく、この人の天然度合いまで強めている気がしてなりませぬ。
劇場ではこのシーンであちこちから笑いが漏れていた記憶があります。無理もねー。
「ケケケケケケケ……」(新種)
としか表現のしようがない嗤い声。デジモンは笑うことのできる獣なので、これは間違いなく嘲笑です。
電子的で無機質で、でも妙に愛嬌があって、幼児的な残酷さをも内包しています。なかなか忘れがたい。
神経を逆撫でするってほどの声でもないんですが、太一たちにとっては別でしょう。
「モシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシ」(新種)
新種二連発。最初に見たときゾッとしたのをよく憶えてます。中途半端にリピートされてんのがまた怖いんですよ。
何が起きているのか瞬時にして理解したであろう太一の緊張に満ちた表情としぼりだされる言葉が、観客の緊迫感も上げてゆきます。
並行して一斉に携帯を取り出すモブなど、適度に滑稽な描写を入れて緩急をつけているのがミソ。
「うーん♪ ハワイはやっぱいいわー♪」(ミミ)
一方太刀川家はハワイを満喫していた。
まさにフリーダム、言うなればどこ吹く風。太一もすでにツッこむ気力さえなくしてしまっています。
でも何かいろんな意味でミミらしいと思ってしまったのは、たぶん私だけじゃないでしょう。
ところでこのセリフからすると、ハワイに来たのは一回や二回じゃないようです。春休みの恒例なのかも。ええい、このブルジョアめ。
「僕らって、いまいち纏まりないですもんね」(光子郎)
上の状況を受けて。
わりに全方位から「おまえが言うなよ」とツッコミを受けたセリフです。
TVシリーズ一作目をあらためて見た上で、小生もあえて言いましょう。光子郎、君がそれを言うか(^_^;)
「無いよなぁ……島根だから……」(ヤマト)
「島根にだってパソコンぐらいあるだろ!」(太一)
「やっぱ島根にパソコンなんてあるわけないじゃん……」(ヤマト)
わりに全方位から「おまえら島根をなんだと思ってんねん」とツッコミを受けたセリフです。
そもそも島根県という場所は山が多く、通信にはやや不便な場所とか。しかし同時に、スサノオノミコトの伝説が残る場所でもあります。
オメガモンの出てくる映画に島根県が出て来る事実は、そのオメガモン似で且つ、スサノオの名を持つスサノオモンを連想させる要素。
もし偶然だとしたら、なかなかおもしろい縁だと思いますね。
「い、いや……なんでも、ないけん……」(ヤマト)
床屋にて。
思わず伝染っちゃった。これまた、劇場にゆるい笑いを喚んだセリフです。
無駄にのどかな背景を活用した間のとり方といい、不意打ち気味の唐突さといい、ヤマトがこれを言うという意外性といい、
インパクトではかなり上位にくるでしょう。島根うんぬんを語るさいには、セットとして外せますまい。
「パタモン! ぼくもそっちに行くよっ! パタモン! パタモン!」(タケル)
「よ……よくも……!」(ヤマト)
「よくも、パタモンを!」(ヤマト)
「やりやがったなぁーっ!!」(太一)
パタモンの負傷によって一気にシリアスへ振り戻った状態から、これまた一気にカーッとテンションを上げてくれるセリフ。
ここからの大立ち回りがまた素晴らしく、中盤最大の盛り上がりにして屈指の燃えシーンに仕上がっていました。
タケルのセリフは終盤の伏線になってるんですが、状況からつい流してしまいがち。それも狙いでしょう。
「トイレ……行かしてください……!!」(光子郎)
上のテンションを再度ズッコケへ導くセリフです。これも一種の下ネタってやつでしょう。
直前にああ、これはどう見てもトイレを我慢してるんだなとわかる表情(というか顔芸)を見せてるので、ざわざわした気分になります。
何しろ序盤からずーっと飲みっぱなしでしたから……しかもウーロン茶ですよ、ウーロン茶。
ただでさえ水分のとりすぎはトイレを近くするというのに、利尿効果ばつぐんのウーロン茶ですよ。なんという自殺行為。
本当ならこういう状況を見越して、事前に用を足しておくべきだったのでしょう。
しかし緊張した心理がそれを許さず、その緊迫が渇きを呼び、しまいには生理現象が理性を超越した、と……
要はみんなテンパってたんですよね。余裕がないから、柔軟さを失ってしまう。ルール無視の新種に勝つのは難しいという結論です。
背後でかかる挿入歌は針が飛んだレコードのように同じフレーズを繰り返していて、崩れた士気と場のノリを示しています。
これはまた負けるなと、解説するまでもなくすぐに読み取れる演出でしょう。
「やろうと思ってやったんじゃねえよ!!」(太一)
「そんなんだから空さんともケンカになるんです!!」(光子郎)
「オレはっ……別に……」(太一)
専門家不在の状況でフリーズという、最悪の状況での擦り合い。光子郎の反論が斜め上すぎて、太一のほうが思わず絶句します。
こりゃ口喧嘩になったら光子郎のほうが上手かもしれないなあ。ボキャブラリーじゃ勝負にならなそうだし。しかし言うようになった。
……などと感心してる場合じゃありません。戦況は悪くなる一方です。
まあ、太一はああいう性格ですし……弱みを見せたがらない側面も、強引さにつながることがあります。
空とは売り言葉に買い言葉で、だいぶ派手なケンカをしたのでしょう。好戦的じゃないけど、やられたらやり返すタイプですから。
なるほど、ヤマトとの衝突が多かったわけだ。
「また負けちゃったの?」(光子郎@toキャンベラ)
そんな太一への強烈な嫌がらせ。言う通り、届いたメールを読んだだけですが……光子郎にしてはずいぶん感情的な行動です。
こういうやり方をされると何らかの手段でやり返さずに済まないのが太一だと言うのは上に書いたとおりで、
一瞬ながらヒジョーに険悪なムードとなりました。この二人っていいコンビなんですが、それだけに衝突するとシャレになりません。
持ち味を崩して追いこんで、そこから復活してこその主人公。細田監督にはそんな持論があると聞いたことがあります。
ワンピースでもそうでしたが、そのときはどんな手法でも原作によって向き不向きがあるのだと気づかされた記憶が……
「……そうだな……やるしかないな…………ごめん」(太一)
「いえ……」(光子郎)
とまあ欠点もある太一ですが、このようにちゃんと謝れるのは彼ら選ばれし子供の良いところ。人としてかくありたいですね。
言葉少なに答える光子郎からは、感情にまかせてちょっとやり過ぎてしまった、という反省が何となくうかがえます。
「来たよ……! オレも来たよ! いっしょに戦いに来たんだよ!
もう……おまえだけを戦わせやしない……!
オレがそばにいる! オレがついてるよ、ウォーグレイモン!」(太一)
想いが、世界をつなぐ──
パソコンを通してネットの世界に来た太一が荘厳なBGMの中、傷つき倒れたウォーグレイモンへ切々と語りかけます。
こういう一種繊細な表情と語りができるのも太一の幅が広いところで、藤田淑子さんの演技力を最大限に活かしてくれてるんですね。
視聴者側としてはモニタに手を伸ばす太一と思わず呼吸までもシンクロし、彼とともにぐいぐいと画面へ引っ張り込まれます。
そう、確かにこの瞬間……多くの人の想いが、ひとつになるのです。シナリオと演出の渾然一体がなせるわざでしょう。
「ウォーグレイモンと……」
「メタルガルルモンが……」
「合体した……!」(タケル&光子郎)
最後の希望、ここに光臨。
無敵の呼び声高いオメガモンがデジモンアニメに現れた瞬間です。
合体進化のときは卵状の光に包まれ、それを割るようにして出現しています。
オメガモンそのものが世界のどこにも存在しておらず、今この時初めて現れたのだという示唆かもしれません。
光り輝く姿には、多くの人々の願いが具現化のように込められていました。それが合体する二体の媒介になっていることがわかります。
この時点ではひょっとすると特定の種などというものじゃなく、一種の現象みたいなもんだったのかもしれません。
デジヴァイスで進化できたり個体として落ち着いた以後のオメガモンとは、やはり何かが違うような気がします。
ただオメガモンは厳密に言うとこれが初登場ではなく、アノード/カソードテイマーが初出だとか。
そのときはガルルグレイモンという名前でしたが、オメガモンの名が浸透したとたんに忘れ去られたようです。
まあ、いかにも仮っぽい適当すぎる名前ですからしょうがないんですが。
「はっ……そうだ、転送だ! このメール全部、ヤツのアドレスに転送すれば……!」(光子郎)
戦わず逃げに徹しはじめた新種。その速さは、オメガモンでも捕捉しきれませんでした。
が、勇気でも友情でも足りないならば智慧を足して挑めばいい。奥の手の裏の最後の切り札、泉光子郎の本領発揮です。
「いっけええええええ!」(光子郎)
シャウトを伴ってのリターン。万感の気迫です。気分はほとんどシャインスパーク。
緊張のあまり、ここからしばらく全員の息が止まります。
「あー! 失敗した!
おっかしいわねぇ、マイコン制御なのに……」(八神優子)
一転、あっという間にテンションを軟化させると同時に「えっ?」と一瞬不安にさせるセリフです。まったく最後まで気が抜けない映画だ。
ちなみに、失敗したのはケーキの焼き具合です。
「……太一の、ばーか」(空)
やっと届いた太一のメールを見て。
このセリフは前にも二度あり、都合三回口にしますが、ひとつとして同じニュアンスではありません。
そしてそれだけで、彼女の心理が推し量れるようになっています。地味ですが、これもよい演出。
最初のと最後が繋がった完結感とEDテーマの前奏が物語の終わりを告げ、ゆっくりと視聴者を余韻へ導いていきます。
「ま、ま、ま……」(光子郎)
「まにあったあ〜」(太一)
こうして、世界の危機は去ったのです。わりと人知れず。
あ、太一ってばいつの間に戻ったんでしょう。
おっと、間に合ったのは私も同じでした。そろそろ現実に戻って出掛けないと。
★おわりに
やれることは全部やろうと思った結果、書いても書いても終わらない状況に陥ってしまいました(汗)。
短く簡潔にまとめようとか、そんなみみっちいことは最初っから考えてなかったのでしょーがないと言えば、しょーがないんですが……
いやはや、さすがに50kオーバーは未知の領域でしたよ。
というか、いくらなんでもこの映画のこと好きすぎだろ、私。