明かされる過去 非情! ギズモン:AT

 脚本:山口亮太 演出:今沢哲男  作画監督:竹田欣弘・浅沼昭弘
★あらすじ
 無限氷壁の宮殿に駆けつけ、メルクリモンを説得しようとするイクト。
 お互いの誤解も解けかけたそのとき、倉田の姿を目に留めたメルクリモンは激昂する。
 倉田こそデジタルワールドを襲撃し、ユキダルモンを殺した張本人だったのだ!

 デジタルワールド探検隊。そこに参加していた彼はその経験からデジモンを人類の敵と認識し、国家機密庁と組んでデジモン狩りをしていたのである。
 メルクリモンと拳で語り、人間界との共存の手段を求めて旅立った大門英博士やDATSの面々の、まったくあずかり知らぬところで……。
 それが、10年前の事件の真相だった。そして今また、大たちを利用してメルクリモンの前に立ち、その存在を絶とうというのだ。
 両方の世界への重大な裏切り行為を知り、大たちはみな怒りに燃える。だが倉田は、すべてをせせら笑うのだった。

 次の瞬間、メルクリモンの脇腹を一条の光が貫いた!
 倒れ伏す巨体の背後でかがやく魂なき眼光の主は、サーベルレオモンを襲った謎のデジモン…
 ギズモン:AT!



★全体印象
 24話です。山口脚本にしてはアバンが短め。

 さて、第2クール初頭(一部は第1クールからですね)から振られていた数々の謎…というより、顛末が明かされたわけですが、
 いずれも大体は予想どおりなことばかり。むしろユグドラシルの存在など、新たな謎がめだちます。
 倉田の行動はかなり単純な動機にもとづくものでしたが、これも半分くらいは予想どおりかな。

 予想以上だったのは大門英博士の超人ぶりでしょうか(笑)
 「あの」大の父にして「あの」小百合さんの心を射止めた人ですから、さぞ凄い人だろうと思ってたんですがそれどころじゃなかった(^^;)
 それと同時に激しく納得してしまったのはなんとも可笑しい。あんたはマスター・アジアか。
 これだけの人だと最終話ぎりぎりまで姿を現さないか、でなきゃ敵……大にとっての壁……として立ちはだかったほうが自然な気さえします。
 こんな方が味方になったらお話のバランスが崩れてしまう。パートナーがいないので、ぎりぎり折りあいはつけられるかもしれませんけど。

 ギズモン:ATは恐ろしい能力を持ってますが、敵としてはまったく面白みがありません。
 早いところかたをつけて、新展開へ持っていってほしいものです。

 作画・演出は無難な部類ですが、倉田のアップばかりが目立ってあんまり視聴感は良くありませんね。
 作画監督の不満が絵面から滲み出てくるようです。



★各キャラ&みどころ

・大&アグモン
 真剣な場面でも大門博士の話を聞いて無邪気にはしゃぐあたりが、相変わらず。
 でも倉田に対しては当然のことながら、怒りを隠していません。男として、人として許せないものを感じたのでしょう。
 DATS隊員だとかどうだとかは、彼らにとってたいして重要なことじゃないはずです。

 後はいつあの丸メガネをぶち割ってくれるか、そこが見どころ。どうなるかな?


・淑乃組&トーマ組
 わりに「な、なんだってー!」と言ってばかり。でもまあ大たちもそうなので、しょうがありません。
 今回は回想シーンと大門英博士がメインですから。


・イクト
 やっぱり猪突猛進です。山口脚本だとそのへんが強調されるというか。

 過去に関しては何度も反芻されているので、今回はやっと繋がったな、というあたりの感覚。
 顔の青いペイントは誓いの証。齢10にも満たずして夜明けの森にすっくと立つ彼の胸のうちは、どんなものだったのでしょう。
 たとえ矛盾だとしても、あの時のイクトにはそうしなければならない理由があり、だからこそ今でも頬のしるしと、粗削りな服は捨てられない。
 自分はデジモンではないけれど、デジモンたちの心に近いところに立っているという、彼なりのこだわりなのかもしれません。

 次回においては、その立ち位置で男としての成長をみせる姿が描かれるのでしょう。


・ファルコモン
 昔からつねにイクトの味方でした。彼を影に日向に、ずっと守ってきたのでしょう。
 ただ、デジヴァイスをいつ手に入れたのかが謎のままです。博士から届けられたのでしょうか?
 それともいつか必要となるときのため、メルクリモンに託されていたものを貰ったとか…?


・ユキダルモン
 肝っ玉母さん。メルクリモンも、ずっと大きく力もある自分を前に一歩も引かず、イクトを護る姿に何かを感じたのでしょうね。
 知香の叫びを前に戦意を失ったのは、その時の気持ちを思い出したからかもしれません。

 彼女は最期までイクトの身と、その運命を案じていました。それが否定されるなら愛とは、命とはいったいなんだというのでしょう?


・ゴツモン
 先週退場したんですが、回想シーンでかなり出番がありました。イクトを責める役回りです。
 ユキダルモンを放り出して逃げ出したり、薄情なところが目立った描かれ方。
 まあ、ギズモンの能力にびびって恐慌してたのかもしれませんが。倉田よりは擁護のしがいがあります。


・メルクリモン
 穏やかな表情が目立ちます。
 厳しくともけして悪ではなく、あくまで長として戦う姿勢は当初から示されていました。今回はその再確認でしかありません。
 大もはじめは彼を目の敵にしていましたが、次第に姿勢が変化していっています。これは成長もありますし、
 拳で語るという言葉どおり、メルクリモンの威容のうちに隠れる誇りを汲み取っていたのかもしれませんね。

 イクトの説得に揺れていたのはその大とのぶつかり合いから得たものもありましょうが、いつか来る事と予見していたのではないでしょうか。
 でも、たぶん彼はたとえ大と出会った後でなくともどんな形であれ、イクトを傷つけるようなことはしないだろうと思います。
 息子も同然と自分で言っていたわけだし、その感情は昨日今日のものじゃないはずですもの。

 人間界に迷い出た個体や、戦に出て身を散らす部下たちについてはある程度やむを得ないと割り切っていたようです。
 戦ともなれば犠牲は避けられず、だからこそ避けたいと思うようになっていったわけですから。
 むしろあの言葉は、ゴツモンへの慮りさえ感じさせるものです。

 とりあえず急所ははずれてると思うので、生き残ることを祈るばかりですね。
 考えようによってはあの傷のおかげで、後方に回る言い訳が立ったというものですし。


・大門英博士
 上にも書きましたが、とにかくトンデモな人です。まさに、この親にしてこの息子あり。
 大のパンチにさえ動じなかったサーベルレオモンを赤児扱いって、ほんとうに人間かこの人わ(^^;)
 逆に考えると、このくらいじゃなきゃあの家族の長はつとまらないとも言えるわけで……正しく、相手にとって不足なし。
 パートナーを得ようもんなら、手がつけられなくなりそう。

 デジソウルのことは恐らくかなり早くから存在を認識し、使いこなしていたものと思われます。
 このぶんだと、そもそもデジソウルを発見したのもこの人ということになりそうです。デジヴァイスは、それを応用して作ったのでしょう。
 今にして思えば湯島のおっちゃんが持っていたオレンジのicは、博士が息子のために用意しておいたものなのかもしれませんね。
 それとも実は大のそれこそがオリジナルで、後はコピーだったりするんでしょうか?

 そんな天下無敵のお父さんですが、やっぱり10年も妻子をほっとくのはまずいんじゃないかと……。
 あと、イクトのことを知ってたんならさっさと教えてやれよとも思いました。これは正直な感想です。
 それでもどこかで許せてしまうのは、やはりあのどこまでも陽性な雰囲気。陰にこもった倉田とは対照的なものを感じます。

 というか、イクトのことを伝えてないというのはあり得ないと思うわけで。
 なにかの事故で伝えられなかったのを勘違いしたか、どこかの時点でその情報が途切れてしまったか。
 都合が悪いからということで倉田がもみ消した可能性もあり、だとすればそんな男を助手にしてしまったのは唯一の失敗ですね。
 見たところ人を信じやすい性質みたいですし、倉田はそこにうまく取り入ったのかもしれません。

 声は郷田ほづみさん。なるほど、異能者だ。グルービー。


・隊長とおっちゃん
 薩摩隊長は当時から老け顔でしたが、どうやら大門博士よりだいぶ年下っぽいですね。神奈川県警か。
 おっちゃんはまだ髪の毛がフサフサでした。でも、いつメルクリモンに会ったのでしょう?
 当時メルクリモンは森に棲んでいたようなので、逃げ込んだところを鉢合わせして無限氷壁に追い出されたのかもしれません。

 クダモンとカメモンは、メルクリモンと直接の繋がりはやはり無いようです。
  大門博士の呼びかけというか、説得に応えて人間界に赴いた手合いなのかな。デジヴァイスはその時に持ってきたとか?


・倉田
 あえて言うなら、キッカケは「まあ、これじゃしょうがないかな…」というものでした。
 彼はヘタレです。能力は高いけど、精神年齢は低い。 大門博士のように強くはないし、探検隊に参加したことでデジモンのことを恐れ、
 憎しみさえ抱くようになったとしてもそれほど不思議はありません。少なくともその点については、納得できます。

 だからといって、その後の行動を擁護する理由にはなりませんが。

 考えてみてください。彼はたしかに恐ろしい体験をしたかもしれませんが、大事なものは何も失っていないのです。
 強いて言うなら師である大門博士ということになりますが、彼はどこかで生きている可能性があります。
 なくしたものといえば、そのちっぽけな自尊心だけ。動機という点でいうなら、野口夫妻のほうがよほど大きいはずです。

 ほかにも彼の悪臭を醸し出す材料はあります。たとえば、その嫌らしい手口。
 表面上は善人を装いながら陰に隠れ、目的のために他人を騙して利用し、背後から不意打ちをする。10年前の事件からしてだまし討ちです。
 大義名分を訴えていますが、大義というものは成立のさせかたが間違っている時点で、名分を失うものです。
 この男には正義などありません。同情すべき点もなく、残されたものは纏いつくような邪悪だけです。

 で、ここからは邪推ですがやはり彼、大門博士に対してコンプレックスがあるんじゃないでしょうか。
 なんとなくですが、エリート街道を進んでた人という気がします。つまりは秀才。それに対して大門博士はあの豪快な気質からみて天才肌、
 それもたたき上げという感じです。そんなに年が離れてるようには見えませんし、下につくのが屈辱だったかもしれません。

 だいたい、博士への言動が無礼です。とてもじゃないけど、博士を慕って助手をやっていたようには見えない。
 むしろ博士の理念というか、思惑をぶち壊すことに昏い歓びを見いだしているのではないかと思えてならないのです。
 小百合ママに横恋慕してたのかもしれないと感じたのも、そうした暗闇を表情から感じたゆえ。

 だとすれば、あの場に大を連れてきたことにも陰湿な意志を見て取れます。
 この男の悪臭は憎悪や嫉妬、羨望といった負の感情を行動原理に纏っているのが原因ではないでしょうか。
 闇の住人が好みそうな資質です。

 これで実は操られていただけの善人なんてオチだったら笑えますけど。


・ギズモン:AT
 倉田が最高傑作と呼ぶ、心無き力。
 10年前のものは恐らく「旧型」なのでしょうが、メルクリモンに倒されたあとは爆発しただけで、デジタマにはなりませんでした。
 このことから、構造体は似ているにしても完全なデジモンではないと言うことができます。むしろやはり、デ・リーパーが遥かに近い。
 デジモンを殺すというより、文字通りの意味で削除・破壊するためだけの存在ということです。

 戦いというものは本来、生物にとってむしろ自然な現象です。けれど決して不毛なものではなく、そこにはかならず意味がある。
 誰かを守ったり、糧を得たり、自分を高めたり……本能から理性にいたるまで、戦いとは生のいとなみに欠かせないもの。
 なにかを掴み取るために生き物は、人間は戦い…それは必ずしも、他者を傷つけるという意味ではないのです。

 しかして、このデジモンの能力からはなにも得るものがありません。破壊だけです。人間界の平和? むしろ泥沼を呼ぶものでしょう。
 無理に言うなら、倉田のちっぽけな自尊心がほんのちょっぴり癒される役に立つくらいでしょうか。話になりません。

 もう一度言います。こんなモノが、デジモンであるわけがない。ただの物体です。
 破壊のための破壊。そういう意味において、兵器と呼ぶにすら値しない物体なのです。

 逆に言えば能力のすべてを破壊のために向けているということですから、あれだけのことができるのでしょうが。デ・リーパーもそうでした。
 ある意味においていちばん恐ろしいのは、やっぱり心のない敵なのだと思います。
 解りあえる余地が、まったくないのですから。


・ところで
 国家機密庁はどこまで倉田の行動を把握してるんでしょう? 少しわからなくなってきました。



★名(迷)セリフ

「いろんな意味ですごすぎる……」(淑乃)

 素直な感想。この人は大門一家に驚かされっぱなしだなあ。トーマはもっとだけど。
 心中察します。


「そこに、見知らぬ風が吹いているからだ!!」(大門英)


 大門博士の言葉は全部名セリフになりかねん勢いだったのですが、挙げるならばコレ。
 昔からこんな調子だったんだとすれば、小百合ママも半ば覚悟は決めていたのかもしれませんね。
 12話で気持ちを覗かせていましたし。

 博士はどうやら、知りたがる心を豊富に持っているようですね。光子郎あたりに会わせてみたいもんです。



★次回予告
 メルクリモンの生死がある意味最大の焦点です。イクトは、もうひとりの親を守れるのでしょうか?
 倉田がここで退場するかどうかも気になります。あの逃げ足の早さからみて、五分五分といったところ。