デジモンテイマーズ 暴走デジモン特急

 脚本:まさきひろ 監督:中村哲治 助監督:門由利子、池田洋子  作画監督:上野ケン
さあ、春の映画です。はりきってレビューといきましょう。


■お話概要
 山手線に謎の暴走SLが出現。各駅でそれを目撃したテイマーズたちはそれをくい止めようとします。
 まずはグラウモンが立ちはだかりますが、SLの正体はマシーン型デジモン・ロコモン。完全体です。パワーの差は歴然でした。タカトは咄嗟にロコモンに取りつき、結果ギルモンはひとりで仲間たちと合流せざるをえなくなります。
 パニックに陥る制御室に、山木室長が登場。ヒュプノスとの連携でロコモンの行動と、その結果なにが起こるかの解析をはじめました。

 ベルゼブモンの銃をもってしても止まらないロコモン。そこへ先回りした留姫とレナモンが合流しますが、留姫はご機嫌ななめ。みんなで自分の誕生日会をひらくこと、一言もことわりがなかったからです。制止を振り切って単身機関部に向かった彼女ですが、そこへぶきみな触手が。
 いっぽうロコモンが走りつづけることにより、環状線の中央にデジタルゾーンが発生、浸食がはじまります。これ以上の浸食をくい止めるためにはロコモンのルートを逸らして『あちら側』に強制送還するしかありません。室長の指示で、ポイント切り替えの工事がはじまります。

 ヒロカズ、ケンタと合流したジェン。ガードロモンの力を借り。みんなでロコモンを追います。

 何者かにあやつられた留姫の容赦のない攻撃に、タカトは追いつめられます。傷ついたレナモンは間一髪、ガードロモンに助けられたものの、絶体絶命。しかし、土中から先回りして合流したギルモンが、黒幕の正体をあばきました。
 その名は寄生型デジモン・パラサイモン。デジモンや人間に寄生し、思うがままにあやつる恐ろしいやつです。ロコモンをリアルワールドに向かわせ、山手線を暴走させたのもこいつの仕業でした。
 ギルモンのおかげで解放されたものの意識をうしない、ロコモンから落ちそうになる留姫。それを必死で捕まえるタカト。すんでで、再び乗り込んだレナモンが救助するも、パラサイモンの触手が。最大の危機を前に、タカトとギルモンは究極進化のリミッターを解除!

 究極体に進化したロコモンの上で、壮絶な打ち合いを演じる2体のデジモン。留姫を盾に取られそうになりますが、デュークモンは紙一重でかわし、ぶじに身柄を確保。怒りをこめ、ロイヤルセーバーでパラサイモンを貫きました。
 ポイントも逸らされて総武線に入り、これで一件落着かと思われたのですが……。

 『目的は果たした……』

 ぶきみな断末魔とともに、開いたデジタルゾーンからパラサイモンの大群が降下してきます。すべての狙いは、ここにありました。
 テイマーズも黙ってはいません。3人がそろって究極進化、ヒロカズたちも戦いに参加!
 しかし、パラサイモン軍団はあまりに数が多すぎました。降下する端から迎撃しても、焼け石に水です。ジャスティモンや無事だったベルゼブモンが加勢に来ましたが、それでも状況は好転しません。
 でも、テイマーズの方にも切り札がありました。それは……。


『デュークモン・クリムゾンモード!!』


  一気呵成に天へ駆け上がり、聖槍グングニルをはなつ緋色の騎士。一帯すべてを覆った波動が無数のパラサイモンを消滅せしめ、デジタルゾーンを閉じてゆきます。ロコモンは、その中に走り去っていきました。

 戦い終わって、牧野家で誕生パーティを開く一同。どんちゃん騒ぎのなか、タカトはひとり縁側にたたずむ留姫の姿を見ました。
 彼女の心に去来するものは、果たして何だったのでしょう。
 パラサイモンに操られたときまぼろしに見た、稚き日の父親のおもかげでしょうか。
 それとも……。



■登場デジモン
夏にくらべると敵デジモンは少なく、たった3体。そのかわり、全部新デジモンです。


ロコモン
 完全体のマシーン型デジモン。ただひたすら走りつづけることが存在意義みたいなヤツです。実は本質でいうと寄生されていようがいまいが同じで、パラサイモンはその習性に指向性を与えただけ。走りつづけていないと、生命を維持できないのかもしれません。
 パラサイモンは機関部にとりついていたらしく、客席はなかばダミー。中で何をしようと痛くもかゆくもないようです。
 
 本来、攻撃したり進路の妨害をしたりしなければ無害なデジモンだと思われますが、グラウモンとベルゼブモンを退けた強力なパワーや武装、究極体の技でもまるでダメージを受けない堅固な装甲から考えて、その能力は非常にたかいものがあると思われます。
 不用意に手出しすれば、簡単に返り討ちに遭ってしまうでしょう。
 デジタルゾーンを開くための、加速器の役割を果たしていたようです。


グランドロコモン
 ロコモンの究極体。とはいっても実はロコモンが変形しただけで、扱いも単なる顔見せでした。ですが、もしまともに戦っていたらクリムゾンモードでも苦戦していたかもしれません。
 おもちゃ出ないかな。


パラサイモン
 黒幕にして侵略者。寄生型の究極体です。
 ロコモンを操っていたのは単なる尖兵で、本隊はロコモンに開かせたゾーンに控えていました。
 自分だけでは究極まで進化しても生き残れないと悟った種が、寄生能力だけを特化させて進化したデジモンなのかもしれません。
 リアルワールドに侵攻してきたのは、自分たちの生息圏を広げるためか、天敵から逃れるためなのかも?

 さて、こいつに取りつかれたものは人間、デジモンを問わず支配下にはいってしまいますが、意識を乗っ取るというより、一時的に自意識を減衰させ、心の深層に根付いている衝動や欲望を拡大、指向性を与えているように見えます。
 留姫がとつぜん歌い出したり、奇妙な発言を繰り返したりしたのは、心の底にあった気持ちを破壊行動に転換されてしまっていたから、と推測できるのではないでしょうか。



■留姫
 今回の主役。しかもテレビ版より美人に描かれているので、留姫ファンにはたまらない一編なのでは?
 シャツはすでにラブハートバージョンに変換済みなのですが、今回は険のある発言が目立ちます。なかには初期の彼女を思わせる発言もかいま見えて、そこは『あれ?』と思わされたりしました。

 ただ、お話をトータルで考えると、もしかしたら留姫ママと留姫父が離婚したのって、桜の季節なのかもしれません。
 留姫は父親が大好きだったみたいで、父親のほうも『ずっと一緒にいるから』と言っていたのに、突然遠くへ行ってしまった。まだまだ父に甘えたい年頃だった彼女が屈折しはじめたのは、その頃からと考えられます。
 だから桜の季節、特に誕生日前後になると、あの時の寂しい気持ちを思いだし、剣もほろろな態度に出やすくなってしまうのかも。

 恥ずかしがりやの彼女も父の前でなら、気兼ねなく歌えたのかもしれませんね。



■タカト
 夏の映画では美波やカイに食われぎみでしたが、今回は全編通しての活躍。客車をつぎつぎ越えていくあたり、意外に運動神経あります。
 ラスト前では留姫を叱咤する場面まで見せて、なんだかんだいっても『男』を感じさせる成長ぶり。パラサイモン軍団も素の実力で全滅させてしまい、もはや敵なしといった雰囲気です。

 留姫といっしょの時間がこれまでのどのお話より長いのもポイント。留姫と加藤さん、どっち? なんて聞きたいところですが、留姫のほうは友だちだけど、やっぱり女の子だからちょっと気をつかっちゃうだけなのかもしれませんね。
 女の子には弱そうだし……。



■ジェン
 ヒロカズ&ケンタを率い、サポート組として地味に活躍。
 でも小春を無言でおぶってやるあたり、ちょっと成長がうかがえます。
 が、その後テリアモンとロップモンを取り違えるという小春でもやらないようなポカをしでかしたので、プラマイゼロ。
 嗚呼。



■小春
 ちょこちょこ見せ場がありました。ロッテリア共々、細かいところで楽しませてくれます。
 もともと非戦闘要員なのですが、それを厭わず同行しようとしたり、でも途中でへばったりするんでしょうか。



■ロッテリア兄弟
 終盤まで成長期のまま。ロップモンに至っては進化すらしませんが、小技で笑わせてくれました。
 細かいしぐさが面白いので、テンポの維持にも一役買ってくれています。



■ヒロカズ&ガードロモン
 ガードロモンは追跡車両のエンジン役にレナモンの救助と、戦闘力ではおよばないながら大活躍。終盤のバトルでもパラサイモンを一体倒しており、勝利の一翼をになったといえるでしょう。
 ヒロカズは時々、酒も飲んでないのにおやじモードに入る時があるようです……。



■ケンタ&マリンエンジェモン
 ケンタは特に目立ってませんが、海天使ちゃんは彼を守って大回転。パラサイモンを寄せ付けない攻撃力は、さすがに究極体。
 でもオーシャンラブで消えるなんて、パラサイモンにはデ・リーパーの特性でも入っているのですよ?



■ベルゼブモン→インプモン
 前半で見せたバイクの転倒事故のせいで、どうも今回はギャグキャラっぽい印象が……。
 バイクに乗っているときに目が赤かったのは、あの姿があくまでベルゼブモンだからであって、それ以上の意味はないものと思われます。

 ラストでは普通にみんなの輪のなかにいたので、ちょっと感動しました。順調に更正しているようです。でももう少し遠慮しましょう。
 それにしても、ベヒーモスはどこから持ってきたのでしょうか?



■ジャスティモン&リョウ
 登場が唐突なのもあいかわらずなら、強いのか弱いのかわからんあたりもあいかわらず。
 それでもキャラが埋没しきっていないのは、これがリョウだからなのかも。



■対パラサイモン軍団
 デュークモンやサクヤモンの薙ぎはらい、セントガルゴモンの複数同時攻撃、ガードロモンのミサイル攻撃、海天使ちゃんのオーシャンラブといずれもテレビ版をはるかに凌ぐ迫力。本来はこうなのだと脳内補完したいくらいです(笑)
 しかし弱いな、パラサイモン……
 だからこそ、他の生物に寄生するんでしょうけど。



■クリムゾンモード
 カードや設定画よりずっとかっこいいです。やはり動いてナンボですねえ。
 もっともこいつが出てきたとたんに事態が収束してしまったので、どうもパラサイモン軍団が弱く見えます……。



■山木室長
 管制室にいきなりやってきて指揮権譲渡を迫るあたり、あいかわらずやり方が荒っぽい。
 しかし、その後の行動や態度、セリフから、以前の彼とは違うということが良くわかりました。夏の映画に出られなかったぶんを、見事に取り返したといえるでしょう。
 スタッフロールでの鳳さんとのツーショットが、ちょっと気になります。



■加藤さん
 元気な姿を見せてくれます。テレビではまだ鬱状態なので、この映画で溜飲を下げましょう。
 お父さんとも仲のいいショットを見せてくれたし、パンフには『レオモンの死を乗り越えた』と書いてあるので、期待できますです。



■総括
 敵の印象が弱い、留姫がヘンに目立ちすぎ、と問題もあるにはあったのですが、楽しかったです。テンポがよく、密度のたかい好篇でした。
 デジモンに限って言えば、短時間枠のほうがいいのかも……。

 ロコモンの暴走と、それへの大人たちが講じた対策も過不足なく出ていたし、列車パニックものとしても楽しめます。
 トータルでの完成度はなかなか高いのではないでしょうか?

 夏の映画が気に入らなかったぶん、評価は少し甘めになっていますね(^_^;)