如何にして彼は其処に至ったか<epilogue>

さわさわと木々の葉擦れの音が耳に心地よく響く。
のどかな昼下がり、クロネコ合成屋の屋根の上に寝転がっているクジャの上に人影がさした。
「人の寝込みを襲う癖があるのかい?君は」
片目だけを開けて、自分の顔を見下ろす少女にクジャは語りかける。
笑而不応。
ミコトは彼の傍らに腰をおろした。
「静かね」
「…ああ」
「ジタン、もうアレクサンドリアに辿り着いたかしら」
「賭けてもいいけど――」
「まだだね」「まだよね」
同時に答えを口にして、二人ともくすっと忍び笑いをもらす。
「ミコトもそんな風に笑うことがあるんだね」
「クジャこそ、そんな風に素直な笑顔が浮かべられるとは知らなかった」
ごあいさつだな、と呟いてクジャはまた真上の空に目を戻す。
「リンドブルムからの交易船に無理やり便乗させてもらったからね…多分、リンドブルムの仲間達のところで足止めだろ」
「そうね」
ミコトは眼下で行き交う村人たちの姿を眺める。
数少なくなってしまった黒魔導士たちと、そして徐々にではあるが感情を芽生えさせ始めたジェノム達が、柔らかい光の中で語り合っている。楽しそうに。
こんなにも優しい時間が得られるなんて、ここにいるものたちは、誰も思っていなかった。
想像することすらできないでいた。
「ジタンはこの世界で自分の場所をみつけることができた。たとえまだ其処に辿り着けてなくても、目指す場所は手に入れられた――。僕らもそうなるだろうか」
ぽつりと、クジャが呟く。
「さあ。未来は誰にも分からない。だけど、私はここが好きよ。それに」
想像も出来なかったのに、優しい場所は生まれた。ここに。確かに。
「無い頭で一生懸命考えて、くさい芝居をうって弟を帰る場所に行かせてあげた人も、けっこう好き」
クジャは仰向いたまま、とても優しい眼差しを空に送る。
でもちょっと考えて、ん?と首を捻り――
「その毒舌をどうにかしないと、嫁の貰い手がないぞ。兄さん、困っちゃうぞ」
「無理ね。これはクジャ兄さんの脳天気と同じだから」
ほっといて。と付け加えて、ミコトもクジャの横に寝転がった。
「絵になるよなあ。これって」
しみじみとクジャがもらす言葉にミコトはすかさず合いの手を入れる。
「美男の僕と、美人の妹で、ね」
「ああ」

かの地では、時の流れはたゆたうように、生きとし生けるものを慈しみながら過ぎてゆくと人々は語る。
未だその地を訪れるものは少なく、伝説のうちに留まりつづける大地の話である。

その一方、
こなたの空の下では、ひたすら愛しい人を待ちわびる姫と、その元に一刻も早く辿り着きたい白馬の王子様の騒動が繰り広げられているのだが、それはまた、別の、お話し。