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[1]

夜明け。
街が少しずつ動き始める時間。
昇り始めた太陽が横浜の海にキラキラと反射する。

鷹山は窓から差し込む穏やかな日差しを浴びて、ゆっくりと目を覚ました。
体を起こし、窓の外の海を眺める。

(きれいな眺めだ…)

見ているだけで、じわじわと心が浄化されていくようだ、と思ったその時、
隣で寝返りを打つ音がして、鷹山の思考は中断された。
神聖さを感じるような、澄みきった時間を邪魔された音の方に、鷹山は顔を向けた。
そこには無邪気な顔をして眠りこけている勇次がいた。

(ったく…、熟睡しやがって)

鷹山は昨夜のことを思い返していた。
まったく馬鹿なことをしたと思う。

(それもこれも勇次が…)

そう思うと安心しきったように眠る勇次に対して、軽い怒りに似た感情が芽生えた。
いや、怒りとも違うかもしれない。意地悪をしてやりたいという気持ちが近いかもしれない。

「おい、勇次!起きろよ。もう朝だぜ。」
「ん…」
「ホントにお前、よく寝れるよなぁ」
「…んー、…そんなこと、言ったってさぁ、…ゆうべは、タカが無茶するから…」
「なんだよ、俺のせいかよ!」
「だって…そうだろ。…もう、なんだかオレ、体のあっちこっちが痛いもん。」

勇次は目をつぶり、半分寝ぼけながら受け答えをしている。

「そういうこと言う訳?」
「だって暴れたのはタカじゃん。」
「俺だけじゃないだろ!」
「でも最初に手だしたのはタカだぜ。」
「あれは…!」
「はいはい、わかってるって。」

そういうと勇次は閉じていた目をパチリと開け、鷹山の方を見てニヤリと笑った。

昨夜。
鷹山と勇次は深夜のパトロールに出かけた。
途中で覆面車を停め、街を流して歩いていた。
その時、ほんの些細なことから若者のグループと小競り合いになったのだ。
きっかけは少年の一人が2人に悪態をついたことに始まる。

「けっ!ジジイがカッコつけてんじゃねぇよ!」
「誰がジジイだってぇっ!!!」
「おい勇次、やめとけって。ほら、行くぞ。」
「だって、タカぁ…」
鷹山は勇次の首ねっこをつまんでその場から離れようとした。
「ほら、ジジイはとっととおウチに帰ってミカンでも食ってなっ!」
「あんなこと言われてタカは平気なのかよぉ?」
「…」
「ふっ、度胸もねぇくせにイキがってんじゃねぇよ、ジイさんたち。とっと帰んな!」
「ここまで言われて黙ってる気かよぉ!タカぁ!!」

勇次の背広の襟の部分をつまんで持ち上げたまま、鷹山の動きが止まった。
「な、タカ。ちょっと礼儀ってやつを教えてやろうぜ。な?」
「…」
「なんだよぉ、タカのプライドはそんなもんだったのかよぉ!」
「…」
「男として引き下がれねぇよ。な?な?」

それでもただ黙って立ち止まっている鷹山の前に、少年が一人やってきて
馬鹿にしたように煙草の煙を鷹山の顔に向かって吹きかけた。

「てんめぇっ!!」
そう言って少年に掴みかかりそうになる勇次を押さえ、少年の前に鷹山が立った。
「んだよっ!やる気か!」
怒鳴り声と共に少年の拳が鷹山に向かってのびてきた。
鷹山はそれをよけると少年に向かって殴りかかっていった。
とうとう鷹山もキレたのだった。
勇次も、他の少年達もこのケンカに参戦する。

あとはお決まりの大乱闘。
パトカーのサイレンが聞こえてきた所で双方ともその場から逃げて終わりとなった。

乱闘の最中。
勇次は始終楽しそうにケンカをしていた。
(どうせなら気持ちよく体を動かさないとね)
鷹山をキレさせたのは少年だったが、少年だけでは鷹山はキレなかったであろう。
結果として勇次がけしかけたようなものだった。

その後はパトロールをさぼり、覆面車を港に停めて、一夜を明かしたという訳だ。

「あ〜あ〜、誰かさんは一旦スイッチが入っちゃうと止まんないからなぁ」
「どう意味だよ。もとはといえば勇次が…」
と、そこへ無線連絡が入った。
「ピッピッピ。港302、港302、応答願います。」
勇次は運転席であくびをしながら大きなのびをしている。
仕方なく鷹山が無線を取る。
「はい、こちら302、鷹山。」
「大下さんと共に、至急、署に戻ってください。」
「何かあったのか?」
「とにかく戻るようにと、近藤課長からです。どうぞ。」
「…了解。」

「なんだろうね?」
「勇次、お前またなんかやったんじゃないのか?」
「オレは何もしてないって。タカこそ、また銀星会がらみなんじゃないの?」
「オレだって別に。…ま、戻るしかねぇか。」
「そだね。」

勇次はエンジンをかけ、車を港署へと走らせた。

 

あまりに中途半端であんまりドキドキはしないですね…(^_^;)、スミマセン。

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