[3]
「パパぁ!!!」
そういって幼い女の子は勇次に飛びついた。
「真理亜!」
勇次もそう叫ぶとその子を抱き上げた。
真理亜と呼ばれた女の子は勇次の首にしがみついて泣きじゃくっている。
「パパだぁっっ?!?!」
捜査課&少年課、また、その時フロア内にいた面々は、事の成り行きにただただ驚いて言葉も出ない。
しばらくは真理亜の「ひくっ…ひくっ…」という泣き声だけがフロアに響いていた。
勇次は泣きじゃくる真理亜の頭をやさしく撫でている。
「真理亜、一体どうしたんだ?」
「ママがぁ、…ママがぁ、帰ってこないのぉ…!ひくっ…」
「あのー、大下? お取り込み中、悪いんだが…」
吉井が慎重に声をかけた。
「その年端も行かぬお嬢さんは…そちの子か?」
固い口調で田中が尋ねる。
「え?!あ、いや、違いますよっ!」
「それじゃぁ、パパっていうのはなんだ?パパっていうのわっ!」
近藤課長が半ば怒鳴るように興奮して言った。
「勇次ぃ、そういうことはちゃんと言っといてくれよなぁー。」
「うわぁー、先輩のお子さんなんですかぁ?可愛いなぁ(*^。^*)。全然先輩に似てないじゃないっすかー。」
「ちょっとぉ、大下さん、どういうことよー!あたしはどうなるのよぉー!!」
鷹山、トオル、薫が、近藤が喋り終わる前に、一斉に喋り出す。
瞳は自分の席に座ったまま、ショックで言葉も出ないでいる。今にも泣き出しそうだ。
「ち、違うってー!ちょちょちょちょっと待ってってぇ!!」
「何が違うんだ?え? …お嬢ちゃん、この人は誰でちゅかー?」
田中が扇子で勇次をピシッと指し示して、真理亜に聞いた。
「…パパ。」
「ほぉらー!パパなんじゃないの゙ぉー!(ーー;)」
薫が勇次に掴みばからんばかりに大きな声で騒ぐ。
「だから違うんだってばぁぁぁーー!!」
勇次が大声を出して叫んだ。
と、その声に驚いて真理亜がより一層大きな声をあげて泣いた。
「あ、ゴメン(^^;)。ゴメン、真理亜…」
「え〜ん、ひくっ…ひくっ…」
「(周りを見回しながら)ちょっと、みんなの疑問は一時休憩!いいですね!?」
勇次の勢いに押され、みんなはただ黙って頷いた。
それらを確認すると、勇次は隅のソファの所へ行き、真理亜を腕から降ろして座らせた。
勇次は真理亜の前にしゃがみこみ、真理亜の顔を下から覗き込むようにして尋ねた。
「ママが帰ってこないって、どういうこと、真理亜?」
「ひくっ…あのね、ママ、昨日ぜんぜん帰ってこなかったの…」
「何も連絡はなかった?」
「うん。あのね、帰りが遅くなったりするときはママ、必ず連絡くれるの。でも昨日はなかったの。」
「そっか。」
「あのね、ママがね、前にね、もしママがいない時に何か困ったことがあったら、
パパに連絡しなさいって言ってたの。”みなとしょ”って所に行けばいいって。」
ここで谷村がそっと勇次に囁いた。
「今朝、この子が泣きながら2丁目の交番に来て、
”港署の大下さんの所に連れていって欲しい”って言ったんだそうです。」
そうして真理亜は無事に港署までやってきたという訳だ。
勇次は軽く頷いた。
「えらいぞ、真理亜。」
勇次が真理亜の頭をくしゅくしゅっと撫でる。
「…真理亜、食事は?昨日は何か食べたのか?」
「コンビニでパン買って食べたよ。」
「そっか。(瞳の方を振り返って)瞳ちゃん、この子に何か食べさせてくれる?」
「はい。」
「真理亜、これからママのこと探しにいってくるから、ここでおとなしく待ってられるか?」
「うん、わかった。待ってる。」
「瞳ちゃん、薫!この子のこと頼む。タカ一緒に来てくれ!」
勇次はもう一度真理亜の頭を撫でると、立ち上がり歩き出した。
タカは訳がわからぬまま勇次の後をついていく。
「おい!大下!ちゃんと説明しろ!」
「帰ってからしますっ!」
近藤課長の声をかわして、勇次はタカと共に署を出て行った。
真理亜は泣きはらした顔に心配そうな表情を浮かべていた。
「パパ、行ってらっしゃい…」
かすかに手を振り、勇次が出て行くのを見送った。
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