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夕方。港に面した公園。

勇次と理香が柵に寄り掛かるようにして話している。
少し離れた所で、真理亜が鳩を追い駆けて遊んでいる。

「山尾はね、昔から妙にイキがってた所があってね。いっつもフラフラしてたのよ。私も若かったしね(苦笑)。
 最初はそういうのに一緒になってたけど、そのうち付いて行けなくなっちゃって、別れたの。
 その後、噂でアイツが銀星会に入ったって聞いたわ。バカな奴って思った。」
「でも好きだったんでしょ?ずっと…」
「さあ、どうかな…。よくわかんないや。」

「…真理亜の父親は山尾、だよね?」
「別れた後にね、妊娠してることに気付いたの。父親がどうのなんて関係なく、嬉しかったぁ。
 私、親とか兄弟とかいないからさ、家族ができることが本当に嬉しかったの。」
「山尾には知らせようとしなかったの?」
「知らせてどうなるの?あいつとはもう一緒に暮らす気はなかったしね。
 それに山尾自身が”子供”から抜けきれていないようなものだもの。
 急に父親を押し付けたってきっとダメだったわ。」
「そうかなぁ…、それはわかんないと思うけど…」
「まぁ…そうね。大下さんの言う通り、わかんないわね。
 もし、私が話をしていたら、山尾は足を洗って、…死なずに済んだかもしれないわね。」

理香はさびしそうに微笑む。

「私は山尾に関わるのはもう懲り懲りだと思ってた。…けど、山尾が目の前で死んだ時、やっぱり悲しかったわ。」

理香は、横にいる勇次に頭をもたせかけ寄りかかった。
勇次はやさしく理香の肩を抱く。

「山尾が死んだのは、理香さんのせいじゃないさ。」

勇次はそれだけを言うと、ただ黙って理香を抱く手に力を込めた。

2人はしばらくそのまま静香に佇んでいた。

理香は口では山尾とのことは懲り懲りだと言っていたが、ずっと、心のどこかで彼のことを想っていたのだろう。
彼女がハマを離れずにいたのは、いつか山尾と再会することを待っていたのでは…

勇次はそんなことを思っていた。

勇次のその想像は当っていた。
が、その後の理香の気持ちには気付いていない。

母娘ふたりの生活に現れた勇次。
この2年間、勇次の存在がどれほど理香にとって暖かいものだったか。
勇次の存在がどんどん大切なものになっていくにつれ、理香の心の中からは山尾の影は薄れていっていた。

理香は勇次を愛し始めていた。
だが今回の事件で、それはただ勇次の甘えているだけなのでは、と理香は思った。

理香は、ゆっくりとゆっくりと勇次から体を離した。
そして少し悲しそうな瞳で勇次を見つめる。

「そろそろ行くわ。」

理香は一度、ハマを離れ、勇次と離れ、じっくりと今後について考えてみたいと思い、
真理亜を連れて田舎に帰ることにしたのだ。
田舎と言っても、家族や親戚がいる訳ではないが、どこかへ行くのなら生まれ故郷だと決めた。

「さびしくなるな。」
「手紙書くわ。私も真理亜も。真理亜がまたあなたの絵、書いたら送るわ。」
「ああ、待ってるよ。」

2人は涙は流さなかったが、悲しいような辛いような表情を浮かべて見つめ合った。
しばらくして理香は、真理亜を呼んだ。
母親の呼ぶ声に無邪気な笑顔を見せ、2人の所へと駆けて来る。
その様子に、理香と勇次の顔にも微笑みが浮かんだ。
理香は真理亜を抱き上げる。

「真理亜。パパとはしばらくお別れよ。」
「どうして?」
「ママの田舎に行くの。パパは一緒には行かないのよ。」
「…もう会えないの?」

悲しそうに聞く真理亜がとても愛しくなり、理香の手より真理亜を抱き取り、一度ぎゅっと抱き締める。

「そんなことないさ。真理亜が、ママの言うこと聞いていい子にして、
 もう少し大人になって、いい女になったら、また会えるさ(笑)。」
「うん。わかった。」

真理亜は勇次の頬にキスした。
勇次は真理亜を下に降ろし、にっこりと笑いかけた。

理香は真理亜の手を取り、勇次に向き直る。
そして理香も勇次にそっと口づけする。

「それじゃ。」

 

とあるバー。

鷹山と薫が飲んでいる。
そこへ勇次がやって来て席に座る。

「お別れは済んだのか?」
「ああ。」

バーテンがいつもの酒を勇次の前に置いていく。

「…オレさ、あの家に行くと無条件に暖かくってさ、ほっとできたんだよね。」
「俺の隣じゃ、安らげないって訳ね。」
「安らげる訳ねぇじゃねぇか(笑)。」

鷹山の軽口に、勇次は少し気持ちが軽くなるのを感じる。

「でも良かったじゃないか。父親の気持ちも十分に味わえたんだろ?」
「なんか不思議な感情だったなぁ。守ってやってるんだけど、逆に守られてるような、そんな感じ。」

「大下さんは寂しがり屋さんだったのね。
 んもう、言ってくれればいつだって、薫ちゃんが暖かいハートで包んであげるのにぃ!」
「薫のハートは、高くつきそうだからな(苦笑)。な、勇次?」
「ああ、そうだな。大変なことになりそうだ(笑)。」

薫がプーとふくれる。

「何よぉー!人がなぐさめてあげてるのにぃぃ!!」



(完)

 

終わりました(^^ゞ やっとです(笑)。

こんなボロボロの話を最後まで読んでいただきましてありがとうございます。

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