港・倉庫街。日も暮れ、辺りは暗くなっている。
山尾ともう1人がタクシーから降りて歩いていくとそこに1台の車が停まっていた。
どうやら仲間らしい。
山尾たちをつけていた銀星会の下っ端は、山尾たちがこの倉庫街に入っていくのを確認して引き返していった。
勇次は車を少し手前で停めて、様子を見守る。
しばらくすると黒塗りの車が数台やってきて、山尾たちの車から少し距離を開けて停まる。
吉井たちもやってきて影に車を停めた。
双方の車からそれぞれ人が降りた。
田島が山尾に話し掛ける。
「よぉ、山尾。元気そうだな。」
「お久しぶりですね、田島さん。」
「お前がそっちの交渉人とはな、驚いたぜ。よく生きてたもんだ。」
「お陰さまで、大変でしたけどね。…さ、昔話はおいといて、本題に移りましょうか。」
「そうだな。」
拳銃と現金の入ったケースがそれぞれ交換される。双方、中身を確認する。
「こちらの要求額通りきちんとあるようですね。よかったですよ、約束をきちんと守ってもらえて。」
「額は少々お前にふっかけられたがな。」
「ふっかけたなんて、人聞き悪いですね(笑)。お互い必要なものをそれぞれ手に入れたってだけですよ。」
とにかく、これで最初の取り引きは無事に終了ですね。」
「ああ。」
「それじゃあ、今後ともうちの組織との取り引きよろしくお願いしますよ。」
「”取り引き”はな。」
「?」
「そちらの方々には金を持って引き上げていただいて結構だが、お前にはここに残ってもらう。」
「何を言ってるんだ?!」
山尾と一緒にいる外人たちへ、田島の言ったことを鈴田が英語で話して聞かせる。
「お前、なんと言ってそっちの組織に潜り込んだんだ?銀星会にコネがあるとでも?(笑)」
「!?」
「こっちもな、お前のこと調べさせてもらったんだよ。くっくっく、お前もバカな奴だよな。」
「なんだと!」
「そういうカードは1回しか使えないんだよ。お前もこれでゲームオーバーだ。
ま、お前はもともと4年前に死んでいるはずだったんだしな。」
鈴田は、引き続いて組織の連中に話し掛けた。
山尾は銀星会にコネがあるわけではないこと、
銀星会としては山尾に関係なく今後もそちらと取り引きしたいこと、
山尾の身柄を銀星会が欲していること。
組織の連中もバカじゃない。もともと山尾は外部の人間だ。
山尾を切ることは目に見えている。
山尾はじりじりと焦った。
そして咄嗟に現金の入ったケースを組織の人間から奪い取り、拳銃を田島に突きつけた。
「うるせぇ!田島!4年前、お前約束破って、よくも俺を殺そうとしやがったな!」
「約束?なんか勘違いしてるんじゃないのか。お前を助けるなんて俺が約束したか?(笑)」
「チキショー!!」
山尾は、今この場でコケにされたこと、フィリピンの組織にも見捨てられ後が無いこと、
そして4年前、鉄砲玉としていいように使われたことなどで、怒りに包まれ、興奮していた。
田島に向けた拳銃を握る手に力が入る。
対して田島は余裕しゃくしゃくの態度で山尾に面している。
田島の手下たちはそれぞれ銃を手にして構えている。
緊迫した空気が張り詰めた。
「田島!拳銃をおろすんだな。この女がどうなってもいいのか?」
鈴田が大きな声を出して、車から理香を引きずり出した。
「!?」
「この女、お前の知り合いなんだろ?あの店でお前たち2人とも動揺してたもんな。私はちゃんと見ていたよ(笑)」
「私は関係ないって言ってるでしょ!人違いよ!帰して!」
理香は後ろ手に縛られ、鈴田に腕を掴まれつつも、気丈に叫んだ。
鈴田は横を向いている理香の顔を、顎を掴んで山尾の方に向かせた。
山尾はあきらかに動揺していた。が、みえみえのしらを切って大声で叫ぶ。
「そんな女、知らねぇ!くっそー!!」
もうこの場を仕切っているのは田島の方だった。
山尾がどうあがこうと結果は見えていた。
田島の手下たちが山尾に向けた拳銃を構え直して狙いを定め…
パァァーン!
一発の拳銃を皮切りに銃声が炸裂する。
田島の手下たちが急所を外して打たれ、みんな拳銃を落としていた。
田島、鈴田、山尾はそれぞれびっくりして辺りを見回す。
「警察だ!おとなしくしろ!」
吉井が叫び、鷹山や勇次らが建物やコンテナの陰から姿を現す。
もちろん田島たちがおとなしくしているはずはない。
腕を撃ち抜かれた手下たちも鷹山たちにむかって行く。
勇次は理香を押さえつけている鈴田の所へ一目散に走った。
鈴田が理香の腕を放し、勇次に向かって殴りかかってくる。
勇次はそのパンチを軽くかわし、くるっと体を回転させて、鈴田の腹に回し蹴を決める。
「うげっ!」
「おらおら、まだこんなもんじゃねぇぞ!」
腹を押さえて体を曲げた鈴田の顎を下からきれいに蹴り上げた。
倒れこむ鈴田。
「理香さん!大丈夫?!」
「え、ええ…」
しばらく監禁されていたせいか疲れは見えるものの、理香は特に怪我などはしていないようだった。
勇次は理香の後ろに回りこみ縛っているロープを解く。
鷹山は埠頭の先へと逃げる田島を追いかけ、叩きのめして捕まえた。
吉井やトオルたちも、暴れる田島の手下たちや、逃げようとするフィリピンの組織の連中を取り押さえていた。
そうした騒ぎの中、山尾はその場から現金を持って逃げようとしていた。
するとコンテナの上に登っていた田島の手下がひとり、山尾に向かって発泡した。
だいぶ距離があり、それはたまたまであったが、山尾に当った。
はっ!とする勇次たち。
鷹山は銃声に反射して、振り向き様に発泡したチンピラを撃ち、そのチンピラはコンテナの上から落下する。
山尾は倒れて動かない。鷹山が駆け寄る。
勇次に支えられていた理香が叫んだ。
「サトシぃぃーーー!」
理香は勇次の腕の中で、まるで自分が撃たれたかのような苦痛の表情を浮かべた。
鷹山は倒れている山尾を揺する。
弾丸は山尾の胸を撃ち抜いていた。あとはもう時間の問題だった。
「おい!山尾!しっかりしろ!」
「(喘ぎながら)…はぁ、…ちょ…ちょっとさ、……ひとはな、咲かせ…たかった、だけなのにさ…」
「山尾!お前には4年前の件も証言してもらうんだからな!しっかりしろ!」
鷹山の呼びかけもむなしく山尾は息を引き取った。
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