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理香をさらっていた車は田島の車らしいという所までわかったが、決定的な証拠がない。
田島の使いそうなマンションや倉庫などを調べたが、今のところ理香らしい女性の姿は見つからない。
引き続き吉井たちは田島・鈴田の周辺を洗っている。トオルもそっちの応援に向かった。

勇次はホテルの入口を見張りながらいらいらしていた。
今すぐにでも田島の所へ行き、胸倉を掴んで問いただしてやりたい衝動にかられるのを、じっと我慢していた。
勇次がせわしなく車のハンドルを叩く。
その音にうんざりして助手席の鷹山がつぶやく。

「勇次ぃ、落ち着けって。」
「落ち着いてますよぉ、落ち着いて…」

それでも手は止まらない。

「今回のことはすべてあの山尾を中心に動いてる。あいつを張ってるのが事件の核心に近づく一番の近道だ。」
「そんなこと!オレだてわかってるさ。だからこうしておとなしくしてるんだろぉ!」
「おとなしいねぇ…(苦笑)」

そんな会話をしている二人の視線が動いた。
山尾たちがホテルから出てきたのだ。

「やっと動きやがったな。待ちくたびれたぜ。」

山尾ともう1人はタクシーに乗り込んで出発した。
その山尾たちを見張っていた銀星会の下っ端は慌てて外に止めていた自分たちの車に乗り込み後をつけて行く。
勇次はゆっくりエンジンをスタートさせ、さらにその後をつけて行く。

トオルから無線が入る。

「鷹山先輩、鈴田が出かけます!」

続いて吉井からも連絡が入った。

「こっちも田島が出かけるところだ。」

「役者が揃ったって所だな。これから取り引き現場へとみなさんお集まりだ。」
「よーし、一気にパクってやるぞぉー!」
勇次のハンドルを握る手に力が入る。
「…あせるなよ、勇次(苦笑)。」

 

港・倉庫街。日も暮れ、辺りは暗くなっている。

山尾ともう1人がタクシーから降りて歩いていくとそこに1台の車が停まっていた。
どうやら仲間らしい。
山尾たちをつけていた銀星会の下っ端は、山尾たちがこの倉庫街に入っていくのを確認して引き返していった。

勇次は車を少し手前で停めて、様子を見守る。

しばらくすると黒塗りの車が数台やってきて、山尾たちの車から少し距離を開けて停まる。
吉井たちもやってきて影に車を停めた。

双方の車からそれぞれ人が降りた。
田島が山尾に話し掛ける。

「よぉ、山尾。元気そうだな。」
「お久しぶりですね、田島さん。」
「お前がそっちの交渉人とはな、驚いたぜ。よく生きてたもんだ。」
「お陰さまで、大変でしたけどね。…さ、昔話はおいといて、本題に移りましょうか。」
「そうだな。」

拳銃と現金の入ったケースがそれぞれ交換される。双方、中身を確認する。

「こちらの要求額通りきちんとあるようですね。よかったですよ、約束をきちんと守ってもらえて。」
「額は少々お前にふっかけられたがな。」
「ふっかけたなんて、人聞き悪いですね(笑)。お互い必要なものをそれぞれ手に入れたってだけですよ。」
 とにかく、これで最初の取り引きは無事に終了ですね。」
「ああ。」
「それじゃあ、今後ともうちの組織との取り引きよろしくお願いしますよ。」
「”取り引き”はな。」
「?」
「そちらの方々には金を持って引き上げていただいて結構だが、お前にはここに残ってもらう。」
「何を言ってるんだ?!」

山尾と一緒にいる外人たちへ、田島の言ったことを鈴田が英語で話して聞かせる。

「お前、なんと言ってそっちの組織に潜り込んだんだ?銀星会にコネがあるとでも?(笑)」
「!?」
「こっちもな、お前のこと調べさせてもらったんだよ。くっくっく、お前もバカな奴だよな。」
「なんだと!」
「そういうカードは1回しか使えないんだよ。お前もこれでゲームオーバーだ。
 ま、お前はもともと4年前に死んでいるはずだったんだしな。」

鈴田は、引き続いて組織の連中に話し掛けた。
山尾は銀星会にコネがあるわけではないこと、
銀星会としては山尾に関係なく今後もそちらと取り引きしたいこと、
山尾の身柄を銀星会が欲していること。

組織の連中もバカじゃない。もともと山尾は外部の人間だ。
山尾を切ることは目に見えている。

山尾はじりじりと焦った。
そして咄嗟に現金の入ったケースを組織の人間から奪い取り、拳銃を田島に突きつけた。

「うるせぇ!田島!4年前、お前約束破って、よくも俺を殺そうとしやがったな!」
「約束?なんか勘違いしてるんじゃないのか。お前を助けるなんて俺が約束したか?(笑)」
「チキショー!!」

山尾は、今この場でコケにされたこと、フィリピンの組織にも見捨てられ後が無いこと、
そして4年前、鉄砲玉としていいように使われたことなどで、怒りに包まれ、興奮していた。
田島に向けた拳銃を握る手に力が入る。
対して田島は余裕しゃくしゃくの態度で山尾に面している。
田島の手下たちはそれぞれ銃を手にして構えている。
緊迫した空気が張り詰めた。

「田島!拳銃をおろすんだな。この女がどうなってもいいのか?」
鈴田が大きな声を出して、車から理香を引きずり出した。

「!?」

「この女、お前の知り合いなんだろ?あの店でお前たち2人とも動揺してたもんな。私はちゃんと見ていたよ(笑)」
「私は関係ないって言ってるでしょ!人違いよ!帰して!」

理香は後ろ手に縛られ、鈴田に腕を掴まれつつも、気丈に叫んだ。
鈴田は横を向いている理香の顔を、顎を掴んで山尾の方に向かせた。

山尾はあきらかに動揺していた。が、みえみえのしらを切って大声で叫ぶ。

「そんな女、知らねぇ!くっそー!!」

もうこの場を仕切っているのは田島の方だった。
山尾がどうあがこうと結果は見えていた。
田島の手下たちが山尾に向けた拳銃を構え直して狙いを定め…

パァァーン!

一発の拳銃を皮切りに銃声が炸裂する。

田島の手下たちが急所を外して打たれ、みんな拳銃を落としていた。
田島、鈴田、山尾はそれぞれびっくりして辺りを見回す。

「警察だ!おとなしくしろ!」

吉井が叫び、鷹山や勇次らが建物やコンテナの陰から姿を現す。

もちろん田島たちがおとなしくしているはずはない。
腕を撃ち抜かれた手下たちも鷹山たちにむかって行く。

勇次は理香を押さえつけている鈴田の所へ一目散に走った。
鈴田が理香の腕を放し、勇次に向かって殴りかかってくる。
勇次はそのパンチを軽くかわし、くるっと体を回転させて、鈴田の腹に回し蹴を決める。
「うげっ!」
「おらおら、まだこんなもんじゃねぇぞ!」
腹を押さえて体を曲げた鈴田の顎を下からきれいに蹴り上げた。
倒れこむ鈴田。

「理香さん!大丈夫?!」
「え、ええ…」

しばらく監禁されていたせいか疲れは見えるものの、理香は特に怪我などはしていないようだった。
勇次は理香の後ろに回りこみ縛っているロープを解く。

鷹山は埠頭の先へと逃げる田島を追いかけ、叩きのめして捕まえた。
吉井やトオルたちも、暴れる田島の手下たちや、逃げようとするフィリピンの組織の連中を取り押さえていた。

そうした騒ぎの中、山尾はその場から現金を持って逃げようとしていた。
するとコンテナの上に登っていた田島の手下がひとり、山尾に向かって発泡した。
だいぶ距離があり、それはたまたまであったが、山尾に当った。

はっ!とする勇次たち。
鷹山は銃声に反射して、振り向き様に発泡したチンピラを撃ち、そのチンピラはコンテナの上から落下する。

山尾は倒れて動かない。鷹山が駆け寄る。
勇次に支えられていた理香が叫んだ。

「サトシぃぃーーー!」

理香は勇次の腕の中で、まるで自分が撃たれたかのような苦痛の表情を浮かべた。

鷹山は倒れている山尾を揺する。
弾丸は山尾の胸を撃ち抜いていた。あとはもう時間の問題だった。

「おい!山尾!しっかりしろ!」
「(喘ぎながら)…はぁ、…ちょ…ちょっとさ、……ひとはな、咲かせ…たかった、だけなのにさ…」
「山尾!お前には4年前の件も証言してもらうんだからな!しっかりしろ!」

鷹山の呼びかけもむなしく山尾は息を引き取った。

 

銀星会が開拓しようとしていた、フィリピンからの拳銃密輸の新ルートは未然に潰すことができた。
実際には後は県警が持ち帰ってしまったのだが…。

鷹山が密かに4年前の件で田島を逮捕できるのではないかと目論んでいた件は、
山尾が死んだことにより、消えてしまった。
当然田島はしらをきっている。山尾なんて男は今回初めて会ったんだと。

理香は、昔、山尾サトシの恋人だった。
だが、山尾が事件を起こす1年ぐらい前に別れていたので、山尾が事件を起していたことも知らなかった。
事件当時、山尾の関係者を警察も銀星会も調べていたが、その頃ちょうど理香は田舎に帰っていたこともあり、
捜査線上に名前が上がることはなかったのであった。

理香は偶然に店に訪れた山尾に驚いた。
何かヤバイことに首を突っ込んでいることは、鈴田が連れてきたことですぐにわかった。
そこで気になり、店を早退して山尾の後を追い、それでもホテルまで追いかけていくのも躊躇われ、
引き返そうとした所を、田島・鈴田に捕まったのだった。

 

ふー、事件は(無理矢理)解決しました(^_^;)。あとはエンディングです…

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