どうして変速できるのか?回転を合わせるとは?
皆さんの頭の中でミッションのギヤはどのようにつながっていますか?
恐らく、1〜5速のギヤが並んでおり、レバーを操作すると、メインとなるギヤがその選択したギヤに接近して、やがてかみ合って回転力が出力される・・・そんな感じでは?
それは選択摺動式と呼ばれるもので、今ではバックギヤぐらいにしか使われないです。この方法だと回転があっていないと、ギヤそのものを傷めてしまいます。
・常時噛合式
次善策として次のような方法ができました。各ギヤ(インプットシャフト。入力側。)にはそれに応対しているギヤ(アウトプットシャフト。出力側。)が常時かみ合っていますが(常時噛合式)、インプットシャフトの各ギヤは別離しており関係ないときは常に空転しています。レバー操作するとドッグクラッチというものが動き、選択されたギヤの空転を止めてインプットシャフトに回転力を伝えるというものです。
この方法だとギヤそのものは傷めませんが、回転があっていないとドッグクラッチを傷めることになります。
では、そのクラッチとギヤはどのような関係にあるのか?
クラッチはインプットシャフトとは当然別の部品ではありますが、シャフトに歯車のドーナツのような感じではまっており、シャフトの溝に合わせるべく溝が切ってあります。このおかげでクラッチはインプットシャフトと共転すると同時に、その溝を前後スライドできるようになっており、ギヤの断続ができるようになっています。
一方、ギヤのほうは、ギヤの内側に歯車型の溝があります。ギヤのなかにまたギヤがあるようなものです。
この内側のギヤとクラッチが、ぴったりと噛み合えばインプットシャフトから回転力が伝わりますが、この方法でも、接続時に回転があっていないと、うまく噛み合わないので(はまらない)クラッチとギヤの破損につながります。
・同期噛み合い式(シンクロ)
今では、これに各ギヤの回転差をなくし同期させ、滑らかにシフトさせる機能、それが「シンクロ」です。方式名は同期噛み合い式です。
内容的には上記の常時噛合式と似たようなものですが、少し工夫がしてあります。
常時噛み合い式と違うのは、クラッチとギヤが単体で動いて構成されていたのに対し、シンクロナイザーリング、シンクロナイザーハブ、シンクロナイザーキー、シンクロナイザースリーブで構成されている点です。
まず各部の形状の説明ですが、スピードギヤ(2速とか3速とか)の造り自体は常時噛み合い式と同じです。シフトに関係無い時はインプットシャフトと同期して回転していません。またここをコーン部を称します。
シンクロナイザースリーブの外周はシフトフォークと呼ばれるレバー操作をミッションに伝えるフォークを収める溝があります。シフトフォークはこの溝から離れることはありません。スリーブの内周には、スピードギヤの内側のギヤと同形の溝(コーン部)があります。シンクロナイザースリーブはシンクロナイザーハブと常に噛み合っているので結果、インプットシャフトと同回転しています。
シンクロナイザーハブは内周にインプットシャフトを回転をともにするために溝が切ってあり、外周にはシンクロナイザースリーブと同形の溝があります。このハブ(と、スリーブ)だけが、どんな時でもインプットシャフトと共回りすることになります。
シンクロナイザーキーはシンクロナイザーハブの外周部に組み込まれおり、形状は長方形で背面に突起があり内側のスプリングと一緒にハブに組み込まれています。
シンクロナイザーリングは外周にだけ、シンクロナイザースリーブと同形の溝があります。シフトに関係無い時、ニュートラルの時はインプットシャフトと同期して回転してはいません。
さて実際のシンクロ動作の前に各部はどのように収まっているかですが、シンクロナイザーハブ(キー)とスリーブは一体になります。スピードギヤと、一体となったスリーブとハブ(キー)との間にサンドイッチの状態で収まっているのです。
・シンクロの動作
いよいよシンクロ動作の説明です。
ニュートラル時、インプットシャフトは回転していますが、スピードギヤはシャフトの上に載っているだけなので、シフトチェンジ前のギヤの回転速度につられて回転はするものの、インプットシャフトの回転速度とは無関係です。
そこへレバーを入れるとスリーブ(シンクロナイザースリーブ)がスピードギヤに移動をはじめます。そうしますと、まずスリーブにつられたキーがシンクロナイザーリングに接触して、さらにこのリング(シンクロナイザーリング)にスピードギヤが押されることで、スピードギヤとリングが回転をしだします。
さらにレバーを入れると、キー(シンクロナイザーキー)がスリーブから外れ、スリーブ内のスプライン(溝)がリングに噛み合おうとしますが、回転差があるのでスリップしながら徐々に回転が合っていき、やがてリングとスリーブのスプラインは噛み合います。このときもスピードギヤはリングに押されて回転をあげています。
スリーブとリングの回転数が合うとリングのギヤがスリーブ内に完全に入ることになります。さらにレバーを入れると、もっと強くリングがスピードギヤのコーン部にあたり、スリーブのギヤとスピードギヤのコーン部のギヤに噛み合い始めますので、スリーブの回転差がなくなり、スリーブがコーン部に入ります。
このときスリーブ内部にはハブとリングとコーン部が収まっており、回転力はインプットシャフト>ハブ>スリーブ>コーン部(スピードギヤ)を介して伝わります。
これがシンクロ動作です。
・回転をあわせる
さて、よく「回転を合わせる」といわれますが、どことどこの回転数を合わせるのかというと、前述のスリーブとスピードギヤの回転数を合わせるということです。
クラッチを繋いだときのスリーブの回転はエンジンから来ている回転。スピードギヤの回転数はタイヤからの回転が来ています。
シンクロ動作をしなくても、スピードギヤとスリーブの回転数を同期させるのが「回転を合わせる」ということです。
実際の合わせの作業ですが、単純に話しますので実際の数値とは無関係になります。
今、2速40km/3000rpmで走行しているとします。この時スリーブ(インプットシャフト)と2速のスピードギヤは同回転で回っています。
ここで、3速にシフトしますと、3速のギヤはいままで2速/3000rpm時点での回転速度で回っていることになります。ですから3速のスピードギヤの回転速度は遅いわけです。もうすでにこの時には3速スピードギヤの回転速度とスリーブの回転速度は異なっており、そのままではギヤは入りません。
現代の車であればシンクロがあるので合わせはミッションの方の仕事ですが、そこを人間が代わりにやるとなると、現時点での3速スピードギヤの回転速度にスリーブの回転速度を合わせるわけです。
合わせは、いったんクラッチをつないでニュートラルでアクセルを煽り(エンジン回転数はすぐに下がってしまいますからこうします。スリーブの回転数が3速スピードギヤの回転速度と同じならアクセルは要りません。)スリーブの回転数を上げます。
スリーブの回転数と3速スピードギヤが同じになるのを見切ってギヤを入れることになります。ですからこの辺はある程度感覚でやるものでもあります。
いくらなんでも、感覚では済まないと思うので、その回転差を見極める方法をひとつ。
2速40kmのエンジンの回転数と3速40kmのエンジンの回転数の差を見ればわかりますね。
2速と3速との差が500prmあれば、その差を人間がニュートラル&クラッチつないでアクセルを煽って回転をあげるなり落ちるのを待てばいいのです。
これで、ギヤがスムーズに入り、ショックも無ければ「回転はあっていた」ということになります。
以上が回転を合わせるの説明でした。
・補足
最後に補足です。
私の説明したミッションの構造はスピードギヤ、ハブなどはすべてインプットシャフト上にあり、それに対するドリブンギヤはアウトプットシャフトにありアウトプットシャフトの最後にはファイナルギヤがあり、その先にはプロペラかドライブシャフトを経てタイヤに伝わる構造として説明してきました。
実際にはこういったミッションではなくいろいろな種類がありますが、説明しやすいのと原理的には同じなので、この方法で説明しました。