スーパーストラットの役割と動き
スーパーストラットの役割
AE101から採用されたスーパーストラットサスペンション(以下、SSサス)。従来のマクファーソンストラットは、構造がシンプルながら性能もよく場所も取らないため小型車によく採用されています。
SSサスはマクファーソンストラットを改良した物で、下部のロアアームにキャンバーコントロールアームを追加し、キャンバーコントロールを持たせてあるのが特徴です。このリンク機構の追加でダブルウィッシュボーン並みに対地キャンバー変化量が少なくなっています。
マクファーソンストラットは通常ロアアームは1つですが、SSサスは2つ持っており(※1参照)、しかも鉄鍛造製なのと各部パーツ(ベアリング・ブッシュ類)の剛性アップにより、操縦時の剛性・安定感がマクファーソンストラットより確実に1ランク上になっており、ハードな走行程違いが分かります。
※1
左フロントを横(運転席側)から見た図
右のアームがフロントサスペンションロアアームNO1で、左がフロントサスペンションロアアームNO2。
どちらも鍛造なので4kgぐらいあり、とても重く値段も高い。
また、キングピン軸(ステアリング時のホイールの回転軸)を仮想化が出来るのでスクラブ半径(キングピン軸の延長線とホイール中心線の延長線とのずれ。これが少ないとハンドリングを軽くでき、トルクステアの低減にもつながります。)を少なく設定することも出来ます。
対地キャンバーコントロールとスクラブ半径を小さくできることで、コーナリング中のアクセルONによるトルクステアも低減もでき、キャンバー変化量も少なくする事ができるので、コーナリングの限界を高めることが出来るのです。
これだけのパフォーマンスを持っていながら、車体側への変更点が少ないのも特徴です。
しかし、デメリットもあります。 ジオメトリーが難しいのでセッティングが取りにくいのと、ストローク不足になりがちになる点、重量が増える点や、パーツの供給量・ショックの値段・工賃などの問題があります。
普通にセッティング出すとするならピロアッパーつけてキャンバー調整、トー調整ぐらいで、マクファーソンと変わらないですがキャンバー調整の変化量に対しての効果はマクファーソンほど調整値に比例しないっぽいですね。
簡単に纏めると、通常のマクファーソンストラットにキャンバーコントロール機能を持たせることによって、極端なポジティブキャンバーやネガティブキャンバーを無くそうとするものです。これが結構優れもので、ノーマルのままでもスイスイ曲がれます。
ただし、色んなショックアブソーバーをとっかえひっかえして楽しみたい人や、自分で細かなセッティングを出したり、弄りまくりたいという人向きじゃありません。パーツ(ショック)は今ではTRDぐらいしか出ていないような物ですから。ある程度決まってる足なので、かなり弄ろうとすると大変です。ワンオフパーツが必要になったりしますし、ショップもそういうノウハウを持ち合わせているかも定かではありません。
ですので、カリカリに弄ろうとは思ってないけど、それなりに・・・という人にはオススメです。セッティングだすのも面倒って人にもオススメです。車なりに走らせて、そこそこ速く楽しければ良いという人にはピッタリでしょう。
AE111のSSサス仕様MT車なら(前期ならBZ-G SSサス仕様・BZ-V、後期ならBZ-R及びV仕様)、はじめからヘリカルLSDが付いていますので、お手軽度がグーンとUPしています。もちろんサーキットにおいても、LSDの存在・効果を認識できます。
AE101でもGT-ZならばビスカスLSDが付いていますが、LSDとしてはハードなスポーツ走行には向いてないですね。
スーパーストラットの動き
ここでは、掲示板で指摘を頂いたマッパさんより使用を許可を得て私が編集したものを紹介したいと思います。(以下より)
こんにちはマッパです。SSサスですが、しばらく前に僕が、別の目的で作った図を少し書き直してみましたので見てください。
間違いの無いようにするため、カタログの図に直接示してあります。 赤線はハブキャリアの2点を結んだものです。
これはキャンバー角そのものではありませんが、キャンバー角の変化を見るには正確です。
ストローク前と後を示してありますが、この図は分かりやすくする為に不可能な範囲まで大きくストロークさせています。 バネもダンパーもここまでは対応しませんし、キャンバーコントロールアームが直立し物理的限界を実はほんの少し超えている可能性がありますが、そこは解り易さのため目をつぶっています。
図からもハッキリと判るように、SSサスは、バンプ時にキャンバーをネガティブ方向へ変化させるサスペンションです。
ネガティブへ変化させる役目は、もちろんキャンバーコントロールアームが担当しています。 ロワアームの動きは通常とほぼ変わりませんが、極端に短く作られたキャンバーコントロールアームは急激に角度変化を起こします。
その事で先端部が移動する距離(左右方向)を稼ぎます。 内側に行きたがるわけですね。
しかも、ここで非常に面白いのは、ダンパーが通常とは逆の方向へと回転する形で動いている事です。(黄線で示した変化)
しかしマクファーソン式はこの「バンプ時、ネガティブに変化させる事」が上手くできないので、対地キャンバーが大きく狂うのです。
腕を伸ばしてパタパタ・・・・のスイングアーム式ですが対地キャンバーに関しては「スイングアーム式は理想的すぎ」なのです。
つまり、ロール時の対地キャンバー維持能力の比較をすると
ロール時の対地キャンバー維持能力 【スイングアーム式>SSサス&Wウィッシュボーン>マクファーソン式】
となります。
逆にピッチ時だと
ロールとは逆のピッチ時のキャンバー維持能力 【スイングアーム式<SSサス&Wウィッシュボーン<マクファーソン式】
となりますね。このときばかりはマクファーソンが有利です。
上記の比較で常に順位が中間になったのは、そのように意図された設計だからです。(ここが上で言った「ポジティブキャンバーやネガティブキャンバーを無くそうとするもの」という事です。管理人談)
※Wウィッシュボーンは好きに設計出来るので言い切れないが、ここは通常のものを想定。
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ちなみに対地キャンバー維持能力についてだけ見た場合、設計しだいで自由自在なダブルウィッシュボーンがスイングアームより劣るのかと言えば、旋回時の対地キャンバー維持能力はそこまでの優先事項ではないからです。
優先すればキャンバー変化の大きなサスとなり、例えば急ブレーキによるピッチでフロントは左右ともに過大ネガティブ・同じくリアは過大ポジティブとなり、一気にグリップを失います。 この一つだけ見ても危険車両ですね。
他にも種々の要素が絡み、市販車のキャンバー変化は少なめにしてあります。
しかし、リジットアクスルなどは面白いですよ。
旋回中の対地キャンバー維持能力最大でありながら、且つピッチ時も対地キャンバー維持能力最大。
これだけ見れば、超高性能サスペンションに思えてきますが、それは一面しか見ていないと何とでも言えてしまうという良い例です。
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こういったユニークなアイデアがあってはじめて【ストラット式の土台のままWウィッシュボーン同様の変化をするサスペンション】という無理難題もクリア出来たのかと思います。
僕はSSサスをのキャンバーコントロールを説明する場合、これらを理解しておくのがいいかな、と思っています。
カタログを見ても内容に関する説明がない(トヨタらしいですね・・・ホンダなら、1ページは使いそうです。^^;)ので、多くの人は図を見てもピンと来ないでしょう。
そして知る機会のないまま、しかしなじみの存在になってしまい「わかったつもり」でいる人もあろうかと思います。
とりあえず、上記はほんの一部(この図だけでも書き込める事は多数)ですが、お役に立てれば幸いです。
(以上)