MOTO Impression
特別寄稿 「出会い」
語り/Echoさん
テープから若い女の子達の明るく弾んだ声が聞こえてくる。
「これからも頑張って下さい。ずっと応援しています」
そして「OK!どうもありがとう」と飾らない元春の言葉。
これは最近友人から借りた昔の‘元春レイディオショー’の一場面
なのだが、まるで本当の家族のようにお互いが心を許し合っているんだな、
と感じられて、私はそこにある同じ空気をそっと吸ってみたくなった。
もちろん、そこには決して後戻りする事のできない十数年の時の流れが
横たわっているはずなのだが、‘心を許し合ったもの同志の会話’として
少しも色あせる事無く、とても温かいものとして私の心に伝わってきた。
きっと彼女達は今でも元春を心から信頼しているだろうし、
元春も決して彼女達を裏切る事はないだろう。
人生には色々な『出会い』があるけれど、そのほとんどは時の
流れとともに身の廻りに必然的に積み重ねられてゆき、今までの私にとっては、
これが『出会い』なんだ と特に意識する事は無かったように思う。
ところが《佐野元春》についてだけは、なぜか『出会い』だったと
はっきり自覚できるのだ。
彼のことを知れば知るほど、彼は深く私の心の中に入りこみ、
確かな存在として居座ってしまった。
直接会った事も、話をした事も無く、その『出会い』からまだ一年と
経っていないというのに・・・
元春の歌を聞いていると、なぜか私の心は大きく揺さぶられ、自分が
まだ孤独で透明な心を持っていた頃に戻ってしまう。
そして様々な出来事や、感情を掘り起こしながら次第に現在へと引き戻されるのだ。
私が透明な心を持っていた頃、身の廻りの出来事の幾つかは私の心を揺さぶり、
そのたびに胸が締めつけられた。
特に他人に対して自己主張をすることが苦手な私は、
自分の中にそういった感情を閉じ込めていた。
ところが成長するにつれて、張り巡らしていたアンテナも低く降ろしてしまい、
いつのまにかいくつかの扉も閉めて日々の生活に埋もれてしまったように思う。
でも元春の歌に出会ってから、その閉ざしていた扉のわずかな隙間から光がさしこみ、
次第に満たされた思いが溢れてくるようになってきた。
「R&R Night」この曲は元春の初期の歌であり、若い世代をモチーフに
しているのだけれど、この歌を聴く時、とても冷静ではいられなくなる。
現在の私にとってこの歌の意味はなんだろう?と考えさせられてしまうからだ。
…たどりつきたい…(どこへ?どんな答えを見つけるの?)
『瓦礫の中のゴールデンリング』を元春自身も・・・
おそらく未だ手にしてはいないのではないか?
もちろん私もそうであり、人は皆生まれ落ちた瞬間から少しずつ遠ざかり、
それは永遠につかむことの出来ないものなのかも知れない。
しかしその存在を意識して、つかもうとする行為そのものが、
より輝く無垢な魂をそこに存在させるのではないかという気がする。
彼はいろいろな詩人やロック・アーティストから影響を受けたと語っている。
私はそれらの詩や歌はほとんど知らないし、詳しくも無い。
けれど元春がそれらを吸収し、反芻を繰り返し、苦悩しながら生み出された作品を
私は無条件で受け入れることが出来る。
あのチャーミングな笑顔とその奥にある情熱に引き寄せられていくのを感じながら、
これからもずっと見守って行きたい。
感謝の気持ちを込めながら・・・
最後に
《佐野元春》と出会う機会を作ってくれた友人に
「どうもありがとう」と言いたい。