シャモニ針峰群/プチ・シャルモ

2001.8.2

 3日間登り続け、いい加減疲れが溜まってきたので「明日は休養日にしようか」と提案したところ、みんな天気が持つ限り登り続けたいとのこと。すごいパワー。一番日和っていたのは何を隠そうこの僕。最近、チャレンジャー精神が減退している。ルート上でもそうで、「甘え」が出がちである。気合を入れなおさなければタフなルートには登れんな、と思っていたところであり、よし、と気合を入れなおして山に向かうことにした。
 再び5人で狙うはプチシャルモ。シャモニの町から眺められるミディから続くシャモニ針峰群のいちばん左端にある針峰。モンタンベールから見るとレム針峰の一つ奥になる。また、ドリュとはメール・ド・グラスをはさんで反対側に位置する。

 今日もやっぱり朝一番のケーブルに乗る。今日は午後遅くから天気が崩れる可能性があるとの予報だったので、万が一帰れなかったとしてもビバークは絶対避けなければならない。


 プチ・シャルモ〜ナンチヨン氷河からレタラのコルへ〜

<プチシャルモ。左端はレム針峰>
 ケーブルを中間駅(プラン・デ・エギーユ)で降りる。ミディを含むシャモニ針峰群とシャモニの渓谷の間は、ちょうどプラン・デ・エギーユのあたりが緩傾斜帯となっている。緩傾斜帯はモレーンで覆いつくされており、ここを踏み跡に沿ってナンチヨン氷河に向かう。緩傾斜帯とはいえ、何本か走るリッジ状を乗り越えていかなければならず、若干アップダウンがある。でも、朝のウォーミングアップには最適。左にシャモニ針峰群の切り立った岩を眺めながら、なかなか気分がよかった。

 ナンチヨン氷河に降り立つと、プチシャルモはすぐにわかった。レビュファの本に載っていた写真とまったくそっくり。一発でわかった。ただ、今年は雪が多いみたいで(しかもここのところ気温が高く、コンディションが悪い)、取り付きのレタラのクーロワールはかなり上の方まで雪が詰まっている。


<レタラのクーロワール/チムニー基部で準備をする>
 とりあえず、ナンチヨン氷河上の安定したところでギアを装着する。今日はカムもハーケンも一応フルで持ってきたので結構重たい。また、氷河上なので止まって準備をしているとかなり寒い。

 準備を終えレタラのクーロワールに向かう。既に1パーティー入っていて、トレースは付いている。やがて雪壁が切れ、岩稜になったところでザイルピッチが始まる。出だしはチムニー・クーロワールといったところで、少し高い位置に残置ハーケンが認められるが、出だしにアンカーはない。カムを3つセットしてアンカーとした。日本の岩と違い、すっきりしたクラックが縦横に発達しているのでカムは本当に有用である。

 今日のオーダーは雨宮・豊山と石崎・前田・原。雨宮・豊山パーティーは豊山トップでツルベ。石崎・前田・原パーティーはとりあえず前田リードでスタート。ここからフラットソールに履き替える。


<レタラのチムニー1P目。先行パーティーが行く>
1P目:出だしはお助けシュリンゲがかかっているチムニー状を一段上がって、狭い溝からテラスに出る。15mくらいだけど、悪い。残置も乏しく、日本だったらX級のグレードが付くかもしれないが、レビュファの本によるとW級。A0すれば簡単ですが・・・。僕はフォローだったので根性でフリーで上がった。怖かった(^^;;それからザックが邪魔だった。

2P目:広くなったチムニーを右壁のフェースをたどって登る。1〜2手悪い。それを越えるとU〜Vの広いクーロワール。簡単で快適。ロープが程よく伸びたところで切り、そこからスタカットでレタラのコル(Col de l'Etala)へ。レタラのコルに出ると日があたる。これまで日差しのなかったクーロワールとは大違い。目の前に壮麗なメール・ド・グラスの氷河が広がり、その向こうにドリュや今回狙っていたヴェルトが見える。やっぱりヴェルトはかっこいい!登りたかった〜。





 メール・ド・グラスを眺めながら針のてっぺんへ

 レタラのコルからメール・ド・グラスに向かって右側のリッジ(というか壁)がドア・ド・レタラからグラン・シャルモに続く。プチ・シャルモからレム針峰は左側。
 プチ・シャルモへの壁は広く、どこからでも登れそうであるが、一番左側、コルから素直にリッジをあがったところがどうやら正規のライン。でも日本のようにシュリンゲのたくさんかかったアンカーや残置ハーケンのラインは見当たらず、要するにそういったところからルートファインディング能力が試される。登攀の想像力と創造力が求められるのだ。日本のポピュラークラシックルートとは明らかに異なる。

 さて、我々三人パーティーは原リードに交代。

 3P目:一段上がったところからクラックとフレークに導かれて進む。ランニングはカムでとる。大小さまざまなクラックが走っており、しかも均一でカムやチョック類がとてもよく効く。高温多雨多湿の日本であれば、こんな岩壁のクラックにもコケが生えまくり、時としてコケをほじくり出さないとカムがセットできないなんてこともしばしばだが、欧州ではそんな必要はない。というわけで、ナチュプロのセットという意味では快適きわまりない。リッジを進み、フレークと細いバンドに導かれて左側に進むと頭上にコーナークラックが現れ、ここで切る。支点はなく、カム×3でアンカーとする。

 4P目:出だしはコーナークラック下部のかぶったフェース状を左から越える。途中キャメロット#1でランニングを取るが、かぶっていて悪い。一段上がったところからコーナークラックへ。ここには1本残置ハーケンがあった。それ以外はエイリアンの小さいサイズでランニングを取る。あまりにも手がなかったので、不覚にもA0してしまった・・。核心を越えると若干簡単になり、コーナークラックが大岩に抑えられたところでピッチを切る。ここはピナクルにシュリンゲをかけてアンカーにした。

 5P目:快適なフェースからメール・ド・グラス側の高度感のあるリッジに出る。リッジはガバガバで快適。この登りでプチシャルモ針峰のピーク群の端に出られる。小ピークでピッチを切る。

 ここからフォローの二人を迎え入れ、平坦な道をコンテで進む。若干バンドがきわどくなったところで再びビレイをする。6P目はちょっと嫌なトラバースを、石崎さんがトップで行った。
 さて、メール・ド・グラス側の緊張感のあるトラバースを終えると、プチシャルモ本峰とのコルに出る。これもどこからも登れそうだが、ナンチヨン氷河側のテラスに一旦出るのが正解。本当に日本のようにマーキングなどないのでルートファインディング力が試される。
 テラスに荷物を置いてピークを目指す。7P目は石崎さんリードで一応ビレイ。でも簡単そうなので、イチローと原はフリーで上がった。V+程度で面白い。その上は少し悪そうだったので、原リードで1ピッチ伸ばす(8P目)。V〜W程度の岩を登り、本当に針のテッペンの基部まで。ここでフォローの二人を向かいいれる。


<プチシャルモのテッペンへザイルを伸ばす原>
 ここから針のテッペンまでは少し悪そうだったが、シュリンゲのかかった懸垂支点が2箇所あったので原リードでトライ(9P目)。一段上がって、細いリッジを若干トラバースするとプチシャルモの針のテッペン。人が3人くらい入れる。懸垂支点用の残置シュリンゲがかかっている。モンタンベール側のビシュのコルの向こうにはレム針峰が見える。また、メール・ド・グラスもいよいよ全貌が眺められ、ドリュとヴェルトがますます見事だった。
 と、怪しくなってきた雲行きがさらに怪しくなり、ポツポツときた。いかん・・。こんなところでオラージュ(雷)にあったらひとたまりもない。急いで降りる。テッペンに上がってくる途中の雨宮さんと豊山に下山を告げ、その場からすぐに引き返す。テラスまで戻ったら雨はやんだ。今のうちに降りたほうがよい。四日間続いた晴天は確実に悪天に向かっている。


 モレーンへの下山

 テラスからナンチヨン氷河に向かって若干降りる。ここはグズグズに荒れた瓦礫がつみあがっており、落石には十分注意が必要。落としたら確実にビシュのクーロワールに集中するので要注意。
 ひとしきり下ると二足歩行では下れないほどの岩壁にあたる。懸垂支点っぽいものがあるが、ここからはレム針峰側、ビシュのコル向かってトラバースするのが正解。二足歩行のままビシュのコルの少し下のクーロワール内に出られる。ここから雪壁になるので、フラットソールから登山靴に履き替える。女性陣はアイゼンも装着していた。足に疲れを感じていたらアイゼンも装着したほうがよい。
 上から降ってくる落石に注意しながら雪のクーロワールを下ると、そのうちすっぱり切れた岩壁にぶち当たり、こっから左岸にルートを移すと鉄の足かけが打ち込まれた手すり付きのルートが現れ、ここを快適に下ると梯子がかかっている。長く垂直の梯子を二回降りるとナンチヨン氷河に戻れる。

 レビュファの本にはモンタンベールに戻るほうが充実すると書いてあるが、悪天も近づいているので来た道をプラン・デ・エギーユに戻ることにする。四日分の疲れで足は重たく、モレーンのアップダウンはめんどくさいのだが、原は糞がしたくてたまらなかったので飛ぶようにケーブルの駅に向かった。なんとか雨が来る前にケーブルの駅にたどり着いた。


 アパートに戻り、また順番にシャワーを浴びる。昨日までは夕映えの白いシャモニ針峰が眺められたのに、今日は曇っている。どうやら明日はNGだな、と思いつつ天気予報を見に行くと、案の定、だった。やっぱり4日間登り続けてよかった。

 今日はさすがにつかれているので街で夕食をとろうか、というと、石崎さんが「う〜ん、やっぱりオムレツ作る!」とのこと。食材を買出しに行き、でもさすがにみんな明日は休養と意見が一致していたのでガイド協会には寄らず、スネルスポーツで記録をチェックしてアパートに戻った。石崎さんのポテトとベーコンとオニオンのオムレツはおいしかった。明日は久しぶりに朝寝坊を楽しめるので、ビールとワインを酩酊するまでかっくらった。充実感に浸るこのひと時がなんともたまらん。

 星の見えない雲の夕闇も、我々にとっては明日の休息を約束するものだった。登れないのはやっぱり残念だけど、休養は楽でもある。山屋さんは複雑である。







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