準決勝 第1試合 岡山理大付(岡山) 5‐4 智弁和歌山(和歌山)

試合は9回の裏。満員の観衆は、ただひたすら彼の出番を待っていました。
決勝をかけた試合の大詰めで、智弁和歌山を応援するでもなく、岡山理大付を応援するでもなく、
必ず現れるという確かな保証もないのに、彼が現れる場面を待っていました。
全ての売り子が仕事を放棄して腰を下ろして、全ての観客がグラウンドに集中して彼の出番を待ちました。
球場中の注目を一身に集めるのは四番・捕手、“自称”体重105kgの巨漢・森田選手。
マスコミをはじめ周囲は彼を「ドカベン」と呼んでいました。

ヒットとエラーで2人のランナーがでて2死1,2塁。打席に彼が入ったとたん球場は大興奮、大歓声。
しかし智弁バッテリーはくさいところをつくもののカウント0−3から、最後ははっきりわかるボール。
うつむいて一塁に歩く森田選手。「ドカベン」は、漫画のようなヒーローにはなれませんでした。

次の打者はこの試合の最中に怪我をしてしまった馬場選手。
売り子をやっていた僕は、怪我のことを全く知りませんでしたが立っているのもつらい打席だったそうです。
しかしその彼が放った打球が、モヤモヤを払ってくれました!
ライナーで外野の間を抜けて行く、逆転サヨナラタイムリー!
立ちあがって飛び跳ねて悲鳴があがって球場が震えました!
ヒーローは、150Km/hを投げる怪物投手でもなく、特大ホームランを打てる天才打者でもなく
一塁で足を引きずる「普通の高校球児」でした。

僕が2週間通いつづけた甲子園は、「普通の高校球児がヒーローになれる場所」でした。
あの場面は、改めてそのことを教えてくれたのです。


 
     
   
 

準決勝第1試合 智弁和歌山‐岡山理大付 サヨナラの場面