「保険見直し完全ガイド」の深みのない“裏ワザ”


本屋さんで偶々目にした「保険見直し完全ガイド」(日本文芸社刊、1,100円)を買ってみました。
“プロだけが知っている裏ワザ加入術を大公開”という特集PART1が、非常に期待感を高めてくれています。

で、毎回、思うことですが、ここでいう“プロ”って、単なる自称ですか?
それともFPの資格を持っているってことですか?
結論からいえば、とても“本来の(生命保険の)プロ”とは思えないような、目先のメリットのみを強調した“深みのない裏ワザ”の数々に、正直、がっかりさせられてしまいました。
そのうえ、保険本のセオリー通り、この本にもスポンサーの陰が見え隠れ(というより、堂々と見えています)したりして。
このような“ひも付き本”は、本屋さんで販売するのではなく、無料で配布すべきではないでしょうか。
と、つい毎回懲りずに購入してしまう私は思うのです。

それでは早速、4つの裏ワザそれぞれについて、検証してみましょう。
なお、予めお断りしておきますが、以下の内容は、特定商品の善し悪しについてではなく、“プロ”だけが知っている“裏ワザ”がどの程度のものかを検証することが目的ですので、誤解のありませんように。



「ロングターム7」オリックス生命

この特集の解説をされている方は、生命保険というよりは、投資の専門家です。
そのため、“受け取る金額(解約払戻金の額)=実際の価値”というように、勘違いをされているようです。
ところが、生命保険は長期間にわたる運用であるため、“実際の価値”が“受け取る金額”とイコールになることは、おそらくないことが前提条件となってきます。
もちろん、イコールとならない原因は、“物価の上昇(インフレ)”です。
現在は、史上希な「低金利局面」ですから、これがこのまま続くというよりは、むしろ多少なりとも上昇すると考えておいた方が間違いないでしょう。
とすれば、物価も金利の少々にあわせて上昇することになるわけです。
“受け取る金額”の価値は、物価上昇によって、陳腐化することになるのです。
どのくらい陳腐化するかというと、20年間(試算で、解約を20年後に設定してあるため)の平均物価上昇率を基に考えますと、以下のようになります。
 ・年0.5% 110.48%の物価上昇 → 価値は90.51%に減少(陳腐化率 9.49%)
 ・年1.0% 122.02%の物価上昇 → 価値は81.95%に減少(陳腐化率18.05%)
 ・年2.0% 148.59%の物価上昇 → 価値は67.30%に減少(陳腐化率32.70%)

例えば、試算(15ページ)によると、30歳・男性(?)、保険金額1,000万円、払込20年(月払)の場合、60歳時で解約すると解約払戻率は“143.0%”(解約払戻金額は、6,463,400円)と謳っていますが、この解約払戻(返戻)率は“実質の解約払戻(返戻)率”ではなく、あくまでも“名目の解約払戻(返戻)率”に過ぎません。
30年間の物価上昇率の平均を、相当低めに見積もって年0.5%と仮定しても、物価は116.14%上昇してしまいますので、実質の解約払戻(返戻)金額は、5,565,180円となり、実質の解約払戻(返戻)率も123.21%まで、非常に大きく低下してしまいます。

ところで、なぜ、ここまでくどくどと、物価上昇による受取額の陳腐化を強調するかといえば、「ロングターム7」が“無配当”の商品だからなのです。
よく、無配当商品を勧める方(現在でもこのような方がいるので、驚きですが)は、インフレが心配なら、保障(保険金)額を増額すればいいと言います。
でも、それは単純に保険料を増やすことにも繋がってしまうわけで、インフレに対する防衛策とは言えないのです。
ところが、“配当”付の商品なら、話は簡単です。
配当は、価値を増やしてくれる機能はありませんが、価値が減らないための安全弁としては機能してくれます。
つまり、
 ・無配当の解約返戻(払戻)金の額は、「固定」されている
 
・配当付の解約返戻(払戻)金の額は、「確定」しているが、物価の上昇によっては、配当金がプラスされる可能性がある
というように整理でき、“配当”付の商品は物価上昇に非常に有効なのです。
「固定」と「確定」は、一見同じ意味に見えますが、厳密に言えば上記のように、大きな違いを含んでいるのです(詳しくは、下記をご覧ください)。
 ●“解約返戻金”を比較する際の注意ポイント
 ●「終身保険」選択のポイントは?

“お子さんの進学資金”や“老後の生活資金”に解約払戻(返戻)金を活用するという発想は、もちろん非常に役に立つの(“終身保険”や“長期の定期保険”は、決して、お葬式代を準備するだけではなく、“死ななくても使える現金”を準備することに非常に有効)ですが、それを実行する場合、実質の解約払戻(返戻)率、実質の解約払戻(返戻)金の額を比較してから商品を選択しないと、20年、30年後に、思わぬしっぺ返しを食らうことになりかねません。
「うまい話」を探している人にとっては、飛びつきたくなるような商品だとは思いますが、「うまい話」はないということを十分認識したうえで、試算内容などをご検討された方が良いでしょう。
また、長期の運用となる商品は、生命保険会社の格付けも重要な要素です。
この本では、この「ロングターム7」にしても、次に取り上げる「積立利率変動型終身保険」にしても、なぜか長期運用の商品にも関わらず、肝心の格付があまり芳しくない保険会社を選んでいますが、その点からも注意が必要でしょう。



「積立利率変動型終身保険」あいおい生命

この商品の肝は、積立利率の変動や、それによって積み立てられる積立金が、確定しているものではない、という点につきます。
あくまでも、うまくいったらであって、必ず2.75%や3.75%で、運用されると、保険会社が約束しているわけではありません。
グラフや数字で記載されていると、まるでそのくらいまで運用する自信があって記載しているかのように見えますが、それも契約者に勘違いをさせるためのテクニックでしかありません。
そのうえ、「うまくいったら」というのも、うまく運用できたらではなく、「今後、物価上昇によって市場金利が上昇したら、積立利率もアップし、積立金も増えます」ということでしかありませんので、いわゆる「利差配当」より有利とは言えないでしょう(有利のようにパンフレットには記載されていますが、考え方は同じです)。
むしろ、「利差配当」の商品には、そのような勘違いを促すような記載が一切ないことを、プラスに評価すべきではないでしょうか。また、この積立金は、一度積み立てられると減額されることがないことを、非常にアピールする嫌いがありますが、よく考えてみれば、一度積み立てたら減額できないとすれば、保険会社がそう簡単に積み立ててくれるでしょうか。
積立利率の変動基準が、「市場金利を参考にして」の“参考”であって“連動”でない点に、注意が必要なのではないでしょうか。
ちなみに、あいおい生命の昨年度の一般勘定利回りは“1.82%”ということで、3.75%どころか、2.75%すら超えていないことも調べれば分かります。

で、具体的な商品内容ですが、確定(保険会社が約束)している解約返戻金の水準は、解約返戻金の額でも、解約返戻率でも、他の利差配当付終身保険(格付は、あいおい生命より上位)と比較した場合でも、特別に抜きんでた商品ではないようです。

 
●積立利率変動型終身保険
  ・保険金額            1,000万円
  ・月払保険料           17,270円
  ・保険料払込期間             60歳
  ・保険料累計額       6,217,200円
  ・解約返戻金(65歳時)      約785万円
  ・解約返戻率(65歳時)       約126%

 
●利差配当付低解約返戻金型終身保険
  ・保険金額            1,000万円
  ・月払保険料           17,330円
  ・保険料払込期間             60歳
  ・保険料累計額       6,238,800円
  ・解約返戻金(65歳時)       約786円
  ・解約返戻率(65歳時)       約126%

ちなみに、非喫煙者の保険料割引があるような記載(19ページ)がありますが、この積立利率変動型終身保険の単品に割引があるかどうかは、不明です(割引があれば、むしろ具体的な内容の記載があるはずですから)。
で、あいおい生命のHPから推測すると、この積立利率変動型終身保険を主契約に、掛け捨ての死亡保障や入院特約を付加したセットプラン(スーパー終身プレミアム)にすると、非喫煙割引があるということと読み込めるのですが、どうなのでしょう(“積立利率変動型終身保険”単品の場合では、割引はないようです)。
非喫煙割引については、次の商品で解説してみましょう。



「喫煙リスク区分型保険」(逓減定期保険)ソニー生命

「たばこを吸わない人は“非喫煙者向けの保険”に加入しないと損をする!」と煽っていますが、本当にそうでしょうか。
まず、疫学的に喫煙者の死亡率の推移を年齢別に追ってみると、結構おもしろいことに気が付きます。
実は、70歳に近づくにつれて、喫煙者と非喫煙者の死亡リスクは接近してきて、70歳になるとリスクに差がなくなってしまうのです。
簡単に言えば、70歳まで長生きしてしまうと、それまでたばこを吸っていようといまいと、それ以降の死亡リスクは同じになってしまうのです。
ということから考えてみると、喫煙者と非喫煙者の死亡リスクが大きい、若い年齢のみをカバーする保険プラン(保険期間が長くても60歳くらいか、10年更新タイプ)であれば、喫煙者と非喫煙者の保険料に差が生じても、老後をカバーする保険プランでは差がつきにくいと言うことになるわけです。

という視点で、具体プラン「喫煙リスク区分型逓減定期保険」(21ページ)を見てみると、“やっぱり”ということに気づくはずです。
このプランの前提は、35歳の男性が、10年満期の掛け捨ての死亡保障に加入すると言うことです。
そもそも、死亡リスクが非常に小さい時期に、わざわざ10年間という半端な定期保険に加入する設定がおかしいのですが、その不自然さは、喫煙者と非喫煙者の間に“10年間で168,000円もの保険料の差が出る”ことを強調するためであると分かれば、不思議でも何でもありません。
保険料表も、31歳〜40歳までの1歳刻みで、しかも保険期間が10年のものしか記載されていないのも、おそらくですが、この設定が一番“非喫煙者割引”が大きく見えるからなのでしょう。

この通りのプランにしか加入しないのなら、メリットもあるでしょうが、一般的には、終身保険や医療保険も組み合わせるわけですし、たとえ掛け捨ての死亡保障のみであっても、10年を超える保険期間を設定する場合は、“喫煙リスク区分型保険”以外の商品もしっかり検討する必要がある、ということになるでしょう。
というわけで、この“喫煙リスク区分型保険”の記述を見ても、どこが「プロ」の「裏ワザ」なのか、大いに疑問を感じざるを得ませんでした(記述内容が、パンフレットや生保が準備した資料を鵜呑みにしたあげく、そこから一歩も踏み込んでいないため、全く深みがないのです)。



「診断給付金を何度も受け取り可で、保険料も免除になる」(終身ガン保険)アリコ

非常に簡単に、まとめてみます。

どんなに、メリットを強調しようとも、「“上皮内がん(初期段階のがん)”でも同額保障される」がん保険でなければ、がん保険として失格です。
それなら、貯金した方がいいでしょう。
で、ここ(23ページ)で“一番注目されているガン保険”として紹介されているアリコのガン保険ですが、診断給付金が“何度”も出ることは、再発に十分対応できる点で評価できますが、残念ながら、上皮内がんで診断給付金が半減されるという点では、評価できません。
今後、がん検診がより精密になり、初期の段階でがんが発見される可能性が高くなればなるほど、がん保険はシンプルに、「医師にがんと診断されたら、どのような進行度合いでも同額が給付される」ことが必要になってきます。
そのためには、
 ●上皮内がんに対応している
 ●上皮内がんでも同額が保障される(減額されない)
 ●診断給付金が何度でも給付される
ことが、最低条件になるでしょう(探したら見つかります)。
ところが、ここで紹介されているガン保険の場合、2番目の項目を満たしていません。

また、保険料の水準を比較するのであれば、まず“終身払”ではなく、“60歳払”で、保険料の負担を考えましょう。
ここで紹介されているガン保険は、“ガンと診断されたら保険料免除”になることもメリットにあげられていますが、上皮内がんの場合は対象にならない点に、注意が必要です(ちなみに、“ガン健康回復給付金”も、上皮内がんでは、給付の対象になりません)。
「がんになれば、どんながんでも免除される」わけではないのです。
そもそもが、保険料免除を謳う商品は、老後に保険料負担が続くことへの不安を解消する手段として登場してきたのですが、それならば、老後になる前に保険料の払込が終わってしまえば、負担に対する不安自体が存在しないことになるわけです。
決して、“保険料免除”がうまい話ではないことは、お分かりいただけるでしょう。

ちなみに、“ガン”と“がん”と交ぜ書きになっていますが、一応、医学的に使い分けてありますので、ご注意ください。



「医療保障の見直しから、老後の資金計画まで、一つの窓口で相談できる!」

以上の商品紹介の記述は、実は、この本で単なる導入部で、あまり重要ではないのです。
“「プロ」に相談すれば「裏ワザ」を活用して、うまい話を教えてもらえる”ということを刷り込めればそれで良かっただけなのです。
何のために?と思うかもしれませんが、その答えは「裏ワザ加入術」の次ページに、「ライフプラザホールディングス」の広告があることで、ピンとくるはずです。
なんてことはない、ライフプラザホールディングスへ相談に行けば、そこに「プロ」がいて、「裏ワザ」を駆使して、“36社”の生保から“良いとこ取り”のお得な保険プランが設計してもらえる、そう思いこんでもらうための広告でしかないからです。
それにしても、余りにもあからさまで、読む人が読めば、結局、それまで紹介してきた4商品は、ライフプラザホールディングスが売りたい商品であって、他の商品を売るよりもライフプラザホールディングスが儲かる商品であると、自ら告白しているようにしか見えないのですが。

そこまで分かってしまうと、
 
●経験豊富なファイナンシャルプランナーが、中立的な立場から、あなたの疑問や悩みを解決してくれます
 ●生保・損保36社もの幅広い商品の中から、あなたに最適のプランを提案してくれます
 ●商品ありきではなく、まず相談者のライフプランありきという基本姿勢であるからこそ、コンサルティングの信頼性も高いと言えるのです。
といった、ライフプラザホールディングスを紹介する記事(28〜29ページ)の内容も、ライフプラザホールディングスの広告以上の内容ではなく、とても客観的な記事とはいえないと言うことになるでしょう。
とくに、4商品の紹介記事の内容に、デメリットに対する十分な説明が全くなされていない点からも、「中立的な立場」を標榜することはおこがましいと言わざるを得ません。

もうちょっと、茶々を入れてみます(あくまでも、私見によるものであって、特定の商品や団体・代理店を誹謗・中傷する意図は、一切ありません。偶々、購入した本から一例として、参考にさせていただいたもので、一般的なコンサルティングに対する心構えについて記述したものです)。
30ページは、堂々とライフプラザホールディングスの広告が掲載されています。
そこには、「経験豊富なファイナンシャルプランナーが、中立的な立場からアドバイスします」と繰り返し記述されています。
相談については、具体的には、次の3つのステップが上げられています。

1.相談しながら、現在の契約内容を確認します
契約内容に不安があったり、不満があったりする方が相談した場合、些細な欠点すら重大な欠陥と勘違いしがちです。
点検商法のように、まず「怖がらせる」といった手法で、既契約の解約を誘導させられるケースなどもありますので、注意が必要です。

2.担当FPが不安や問題点、ライフプランなどをヒアリング

「困らないように」ではなく、もっと内容を良くしたくなるように、不安や問題点を指摘されたり、ニーズを誘導される可能性があります。
無理な保険料負担に繋がりかねません(途中で負担が出来なくて解約したり、減額したりする恐れが生じます)。
「保険ですべきこと」と「保険でも出来ること」の判断を、プロ(?)に誘導されるのではなく、自分でしなければいけません。
「保険でなくても、貯金で出来ること」まで、保険料を払わせるコンサルティングは、FPであろうとも“生保のおばちゃん”と一緒です。

3.取扱い36社からオーダーメイドで保障がつくれる

加入した時点での保障の手厚さや保険料の安さではなく、20年後、30年後にこそ「長生きして良かったと言えるプラン」にしましょう。
でも、それは、様々な保険会社から、商品を寄せ集めればつくれるわけではありません。
むしろ、たくさんの商品を取り扱っている理由は、相談者のためではなく、相談を受け付ける側にあるのかもしれません。
それは、お勧めすることで、相談を受ける側が最も儲かる商品を、加入の目的(終身の死亡保障、掛け捨ての死亡保障、医療保障、がんの保障など)ごとに当てはめるためなのではないでしょうか。
前記の4商品についての記述を読めば読むほど、その感が強くなってきます。
だからこそ「駅の近くにビルに43も店舗を構えて、数人のFPの給料まで払えるのではないか」と、つい勘ぐってしまうのです。
    

以上、保険本は、このくらい勘ぐって読んでみてちょうど良いという例を挙げてみました。
いかがでしたでしょうか。




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