「生命保険見直しのコツ」に敢えて補足を

(日本経済新聞:2006年11月5日付)

ー 改善策というよりは改悪策かも ー



ちょっと記事が出てから時間が経ってしまいましたが、日本経済新聞の「生命保険見直しのコツ」(2006年11月5日付)について、揚げ足取りのような補足をしてみたいと思います。


■ 保険料は減らしたいが、保障は手厚くしたい
いきなり、このようなあり得ない要望に応えるとは、流石に「日経」かと思いきや、いやはや老後にこそ役に立ち、唯一元の取れる(必ず、保険料より多く受け取れる)死亡保障である「終身保険」のメリットを一切アピールせずに、保険料の割高な死亡保険という位置づけで、終身保険の代わりに定期保険を勧めるとは、吃驚です。
保険会社の勧めるままに内容を良く吟味せずに加入してしまった中川さん(仮名)が、FPのアドバイスを受けて、終身保険を解約し、25年満期の定期保険に乗り換えたおかげで、保険料負担が3分の一以下になったと自慢しております。
が、これって、改善ではなく、改悪ではないでしょうか。
25年満期の定期保険って、25年間で死なないと、払った保険料は一切、自分に戻って来なくなるわけで、一方、終身保険なら保険料を払い終わった後、死亡保障のまま維持しても良いし、解約して現金化(少なくとも、終身保険に対して払った保険料とほぼトントンの解約返戻金が戻ってくる)しても良いし、その現金を年金として受け取っても良い、そんな“老後の選択肢”を確保できる有利な保障を、わざわざ死亡のリスクの小さい25年間のためだけに、解約するとは。
老後を迎えたときに、この見直しは改善ではく改悪であったことが身にしむのではないでしょうか。

FPの本来の役目からすれば、終身保険を解約ではなく減額にして、それを土台に定期保険を上乗せし、負担可能な保険料の範囲で、そのバランスを調整すればいいだけで、この中川さん(仮名)は、保険会社に勧められるままに生命保険に加入したことが失敗と分かっていながら、今度はFPに勧められるままに生命保険に加入してしまうとは、結局、どこまで行っても「うまい話」に飛びついてしまって、自分で考えようとしない「丸投げ体質」の方なのでしょう。
どう考えても、この見直しは、FPが保険を売りたかった、としか思えません(それも自分の利益のために)。
そんな中川さんを「うまい話」に食いつかせることなんて、やり手のFPにとっては、まさに赤子の手をひねるようなものだったのでしょう。
FPの誘導によって欲張りなニーズを聞き出された挙げ句、算出されたライフプランニングや必要保障額を金科玉条に、その保障額を確保するためには終身保険では無理で、定期保険にすれば、なんと同じ死亡保障額を三分の一の保険料で確保できる、なんて唆された姿が目に見えるようです。

もっとも、終身保険プランの詳細が分かりませんから、終身保険とはいってもいわゆる定期付終身であったのかもしれませんし、この辺は推測ですが。

■ 死亡保険の基本は残された家族の生活の保障

次に、記事の中段には「死亡保険の基本は万一のことがあった場合、残された家族の生活を保障することだ」と、深みのない原則が記述されていますが、FPの教科書通りに割り切り過ぎて、“長生きのリスク”のカバーを放棄してしまうとは、もったいないことです。
死亡保障の基本は、あくまでも、
●早死にしたとき
●長生きしたとき
の双方を考慮しないと、結果として「早死にしないと損」な保険プランになってしまう点が重要なのに、です。
で、その残された家族をの生活ををカバーするためのプランこそが、この記事でも悪玉として取り上げられている「定期付終身保険」であり、その主役は「終身保険」ではなく「定期保険」だというのに。
一方では、うまい話として定期保険を持ち上げ、一方では悪玉として定期付終身保険をやり玉に挙げる、全く筋が通っていない解説です。
にもかかわらず、さらに1年更新の定期保険をお勧めするとは、ダブルスタンダードにもほどがあります。
ちなみに、1年更新を勧める理由として「こまめな見直しがしやすい」と言っていますが、そんなに1年ごとに生命保険を見直す人はいません。
面倒くさいからです。
だからこそ、一生に1度かもしれない見直しの時も、FPの言いなりに(うまい話と早合点して)保険プランを決めてしまう訳で。
そんな人が、1年に1回見直しをするなんて、前提がおかしいと言わざるを得ません。
しかも、1年更新ですから、わずかであっても保険料は毎年アップしていくことになり、結果として、毎年、保障額を減額していかないと、保険料負担は当初の見込みより増加してしまうことになってしまいます。
とりあえず、今だけ安く見えれば良いというのであれば正解もしれませんが、そんなに簡単に人間は死なないという要素を加味すると、今だけではなく、老後も役に立った方が良いという結論が導き出されるはずです。
その場合の保険料は無駄なわけではなく、老後にこそ役に立つ有効な保険料となるわけですが、それをまるで無駄な保険料のように決めつけて、保険料負担さえ軽くすれば良いプランとは、ちょっとガッカリです。

結論として。
この記事で問題なのは、まるで
●保険には、うまい話がある
●FPに相談すれば、そのうまい話が聞ける
という、金融商品としてはあり得ない“ファンタジー”がちりばめられていることなのです。
本来の相談とは、どのようなものなのかは、次のHPをご覧ください。

http://www4.plala.or.jp/anshin/baka_no_kabe.html

また、共済についても「保険料負担が少なく、契約がわかりやすいとされている」と記述していますが、これもいかがなものかと思います。
まず、共済は「保険料」ではなく、「掛金」です。
用語はきちんと使いましょう。
また、共済は、わかりにくいと思います。
それは、病気の場合の保障額と、事故・ケガでの保障額が異なるからです(事故・ケガの保障の方が手厚い)。
場合によっては、事故・ケガの保障額が病気の場合でも適用されると、勘違いしてしまう恐れがあります。
また、そう勘違いするようにパンフレット等を作成している転移も注意してください。
下記のHPの指摘のように、金融専門誌すら勘違いしていますから。

http://www4.plala.or.jp/anshin/W_Diamond_05_01_29.html


繰り返しになりますが、、金融商品に「うまい話」はありません。
うまい話を探すくらいなら、自分にとって「なくてはならない保障」が何なのか探しましょう。
それが優先です。




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