蒼き騎士の伝説 第一巻 | ||||||||||
第七章 エルティアラン(2) | ||||||||||
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二
一年のうち、最も艶やかで美しい輝きを放つ夏の森。木の葉は濃く、深く、風が吹くたびその香を強く立ち昇らせ、足元を覆う草むらはどこまでも淡く、柔らかく、ビロードの肌触りで訪問者を迎える。初めてそれが人の目に触れた時と同じ姿。その姿で、エルティアランはそこにあった。
北に少しばかり森の端を残す古代の街は、赤みがかった金茶色と乳白色、二つの色味の石で作られていた。金茶色の石は、森の先に聳えるキリートム山の断崖と同じ種類。乳白色の方は、クルビア山脈の最南端、ホマール山辺りでよく取れる石だ。今はその残骸がわずかにあるだけだが、淡緑色の絨毯の中、それらは見事な対比を見せていた。
街の南にはなだらかな丘が横たわり、その上にぽつんとある小さな砦の所まで、木々はない。意図的なものだが、それは感じない。街を作るためこの場所を切り開いたというよりも、森の中に偶然、奇跡的な空間があったのを利用したという方が、自然な表現に思える。
丘の上には、さらに幾つもの小さな影が見える。砦に入りきれなかった兵士達の、露営用の天幕だ。過去、エルティアランを巡る戦いは数多くあったが、エルティアラン自身が戦乱の地となったことは一度もない。キリートム山に住むラグルへの牽制を兼ねて、砦の形を取ってはいるが。本来ここは三国同盟のおり、キーナス、オルモントール、フィシュメルからの監視団が寝泊りするために作られたのだ。タングトゥバの大戦以降、野ざらし状態であった砦は所々風化し、より一層手狭となっていた。軍の半数以上がそこから溢れてしまったのである。
その古びた砦の上で、フレディック・ヘルムは一つ大きく息を吸い込んだ。森の恵みを含んだ気を、胸の奥深くまで満たす。この地に着いて六日、フレディックは、いや、彼だけでなく全ての兵士が、何をするでもなくただ時を持て余していた。
一方で、遺跡調査団は、時の全てを使っても足りないほど忙しく動き回っていた。最初、彼らはまず西北の地下を探索した。四日もかけて丹念に調べ上げた後、伝説の壁、ディルフェルの壁に挑んだが、結果は過去の例と変わらなかった。しかし、調査団長マクスモールは何ら臆することなく、ティアモス将軍らを前に熱弁を振るった。昨夜のことである。
「ご心配には及びません」
別に心配などしていない――と言うかわりに、ティアモスは太い眉をひそめた。
「こうなることは、あらかじめ予測しておりました」
一つ単語を発する度に左目を瞬かせながら、マスクモールは話を続ける。
「これまでの調査から、あのディルフェルの壁の向こうに、何がしかの空間が存在するのは確かです。しかし厳密な再調査に基づいて計算すると、それはせいぜいこの私が両手を広げた長さほどの奥行きしかありません。よって私は、この壁の向こうにあるのは部屋などではなく、さらに地下へと潜る通路、階段があるのではないかと推測しました。さすれば、我々の目的はこの異常に堅い壁の中にあらず、地中深くにあると言えるでしょう。すでに、地下第二層の地面の調査は終えております。この壁の付近は、随所に堅い岩盤が見受けられますので、ここよりもう少し南、西の端の線に沿った、第十五室の地下を掘り進めてみようと思うのです。順調に行けば、十日余りで閣下のご満足を得るものと」
嬉々とした笑みを浮かべ、顔中皺だらけにしたマスクモールの姿を思い起こして、ティアモスは身震いをした。彼のいう満足とは、いかなる結果を指しているのか。昨夜はあからさまに出すのを押し止めた苦々しい思いを、大きな溜息と共に吐き出す。しかし、気持ちは少しも晴れない。
行かねばならぬ。成さねばならぬ。だが――。