蒼き騎士の伝説 第三巻 | ||||||||||
第二十四章 決戦(2) | ||||||||||
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二
ドレファス将軍は書簡に目を通すと、それをホムに渡した。たちまちホムの表情が、将軍と同様、厳しくなる。書簡は、キーナ騎士団の投降を伝える、ヴェッドウェル将軍からのものであった。
今より二日前、ちょうどブルクウエルとこのネローマ城の中間地点で、キーナ騎士団の動きが止まった。訝るドレファス将軍の元へ、たった今、書簡を持った使者が到着したのだ。
「して」
鋭い声で、ドレファスが尋ねる。
「ヴェッドウェル将軍は、今どこに?」
「将軍は、すでにブルクウェルへ」
「編隊の数は?」
そう、横からホムが問う。使者は顔を下に向けたまま、小声で言った。
「わずかです。編隊とはいえない数――将軍を含め、たった八騎であります」
「確かに多くはないな。しかし、こちらはそれにも劣る。ヴェッドウェルが、早まった判断をしなければよいが」
独り言つかのように呟いたドレファス将軍を、使者は怪訝な顔で仰ぎ見た。しかし将軍は、ただ王都の方を向きながら、祈るような視線を送り続けていた。
燃え上がる西の空から逃れるように、ブルクウェル目掛け、まっしぐらに走る一騎があった。フェスデアル門の前で止まる。その蒼き鎧の騎士が、馬から降りる。携えた剣を鞘に納めたまま、それを高く水平に掲げる。そこには、きっちりと白く細い布が巻かれていた。争う意思がないことを示す証だ。
「我は、ペールモンド騎士団のヴァル・レオーノである。キーナス国の誇り高き騎士として、忠義を果たすためここに参った。速やかに、開門されたし」
沈黙を守る城門に向かって、騎士は今一度高く剣を掲げた。
「事は急を要する。陛下のお命に関わる一大事だ。もう間もなく、ペールモンド騎士団の別働隊が、ここにやって来る。街の東、裏山を伝い、直接シュベルツ城を狙う気だ」
まだ、音はない。だが、ざわつく気配が城門の向こうから流れてくるのを、騎士は敏感に察した。すかさず、声を張る。
「何をぐずぐずしておられるのか。この城門の指揮官はどなたである? カドレス殿か、グレッツェルン殿か。それとも――」
「裏山から攻め込むことなど、無理だ。どこから攻めようとも、城壁を超えることなど、できようはずがない」
そう声を放った城壁の上の影を、騎士は見上げた。距離があること、西日が強く照り返していることで、顔までははっきりと分からない。恐らくこちらの姿も、城壁の影の中に沈み、よく見えてはいないだろう。だが、その鎧がどの種のものであるかは、見て取れる。城門を守る兵士は、蒼き鎧の騎士ではない。名を名乗らぬとこらから見て、かなり位は低い。
どうやら王都を守るための兵を、ほとんど残さなかったようだ。
騎士は、軽く眉をひそめた。
「抜け道があるのだ。城へ通じる」
言葉尻に苛立ちの色を加えて、騎士はまた声を張った。
「貴殿にここで、その詳細を話さなければならぬのか。時間がないのだ。直ちに開門されよ」
城壁の上の影が、いったん消える。その後二つに増え、三つとなり、また消えた。
騎士は、深く息を吸い込んだ。閉ざされた扉を見据える。その視線の強さで、押し広げるかのように、見つめる。
ぎしぎしと、扉が音を立てた。騎士は口元をきつく締めると、傍らの馬に右手を伸ばした。その脇腹を、軽く撫でる。視線を前に置いたまま、優しく摩る。
開かれた門の向こうに、見慣れたブルクウェルの街並みが広がる。その光景を塞ぐように、一列に並ぶ兵士の姿が現れる。