蒼き騎士の伝説 第四巻 | ||||||||||
第六章 求めし者(2) | ||||||||||
1 | 2 | |||||||||
二
長い沈黙。それがそのまま、モルスの苦悩を露にしていた。腕を組み、眉間に皺を寄せる。苛立ったように、時折口の端を引きつらせ、首を振る。そして、じっと自分を見据えるユーリ達を見る。
「本当に」
迷うように、言葉が揺れる。
「本気で――」
「うん」
即座に、ユーリが答える。
「僕達は、本気だ」
モルスの口から、また深い苦悩の息が漏れる。
ユーリ達はエナマ村で起きたことを、包み隠さず話した。その方が理解を得られる、そう思ったのだ。ヤーラヌ騎兵団がモルスと同じソン族の村を襲った、という部分も。誤魔化すことなく全てを告げた。
正直、迷いはした。事実を知れば、当然モルスは怒り、国への恨みを増幅させるだろう。下手をすれば、即刻、武装蜂起へと繋がってしまうかもしれない。しかし、仮にこのことを伏せてガーダについて語ったとしても、結果はやはり同じであろう。シュイーラ国におけるガーダの存在は曖昧だ。それよりも、領主に仕える魔術師という認識の方が強い。全てを彼の仕業にしたところで、結局国の差し金ではないかと解釈されては意味がない。
国軍が、ソン族の村を襲った。その上で、ガーダはそれを滅した。敵、味方全てを、この地上から消した。そう伝えなければ分かってはもらえない。真実を話さなければ、信じてはもらえない。
多くの盗賊団がここハラトーマを目指していることも、ユーリは告げた。それが、モルス達をますます前に進ませることになるのか、盗賊団が到着するまで自重することとなるのか。どちらに転ぶか、全く推し量ることができなかった。だが、どちらにせよ、彼らの行動は一つの方向に向いており、そこに向うモルス達を止めることはできないのだと自覚していた。そもそも、止めるなどという権利も資格もないことを、理解していた。
できることは、ただ一つ。全てを白日の下に晒すこと。彼らが知らないこと、見えていないことを明らかにする。陰で暗躍するガーダの存在とその行動を知らしめる。やれることは、ただ、それだけ。
一日、いや、半日。ユーリ達はそのための時間が欲しいとモルスに頼んだ。何とか館に忍びこむ手立てを、共に考えて欲しいとも願った。「なぜ、よそ者がそこまで」という懐疑を含む問いに、ユーリは笑ってこう答えた。「君達がここにいるから」。それで、モルスは黙り込んでしまった。
「……手が、ないわけではない」
堅い決意を前にして、モルスの重い口が開く。
「館に忍び込む手が、全くないわけではない」
そこまで言って、黙る。躊躇うように、何度も開きかけては閉じる口元が、その度に長い溜息を零す。ようやく意を決し、モルスがユーリを見る。
「水路を使うんだ。地下水路を」
「地下水路?」
「ああ」
そう言うとモルスは立ち上がり、部屋の隅に乱雑に並べてあった素焼の大きな壷をずらした。剥き出しとなった壁の、小さな穴に指を入れる。ぱらぱらと土埃を零しながら、そこから一枚の丸めた紙を取り出す。