レジェッタ・ローズ……。
ロイは心の中でその名を呟いた。
「彼女、随分前だけど、ギャンブルに手を染めていたことがあるの。何度も給料の前借りをせがむので、雇い主が調べたところ、その事実が分かって。かなりの借金もあったようで、信用に足らぬという理由で解雇。その後、すぐ破産宣告をして、ちゃらにした後は、手を出していないようなんだけど」
画面の端で、モイラが腕を組む。
「ちなみに、前の職場での評判はいいわ。そういう過去があるから、キャリアの割には安い賃金で、扱いもよくなかったのだけど。仕事とはいえ、ほとんど寝たきりのご老人の介護は、大変な作業ですものね。しかもこのご隠居さん、かなり気難しかったそうだから。それでもしっかり勤め上げて、誠心誠意、奉仕して。大往生で亡くなれた時には、ぜひこのまま仕えてくれと、息子さんに頼まれたくらいよ。でも当人は、その申し出を断ってしまった。ご隠居さんの姿をもう見ることのできない館に勤めるのは、辛すぎるという理由で。その後、二ヶ月ほど置いて、ファーガソン邸で働くことになるのだけど」
「そのご隠居さんの死に、何か不審なところでも?」
「全くなし」
首を横に振ると同時に、右の掌を翻しながらモイラは答えた。
「なんせ、御年百四十才の大往生だものね。彼が亡くなったことで、金銭的なメリットも彼女にはなかったし。まっ、こういう場合、疎遠な親族より、世話になった赤の他人に財産を譲るというケースも考えられるのだけど。残念ながら、ご隠居さんは無一文。財産は、彼女が雇われる前に、全て息子達に分け与えられていたから」
「だったら」
小さくロイが首を傾げる。
「なぜ、彼女に注目を?」
「ギャンブル」
突き放すように、モイラが言った。
「こういうのって、なかなか止められないっていうでしょ? 人格の良し悪しは別にして。ご隠居さんが亡くなられた時、遺産云々ということはなかったけど、よく仕えてくれた御礼として、まとまったお金が息子さんから彼女に贈られたの。で、それを一気に使ってしまった。給料の一年分にもなる大金を」
「だとしても、今はどうかな。住み込みだからね。頻繁に休みを貰っている様子もないし」
「でもそれが、かなりの無理を彼女に強いているのだとしたら?」
「ちょっと待てよ」
ロイが薄く笑った。本来の、抜けるような笑顔とは程遠い。
「いくら何でも動機として弱すぎる。どうしても我慢ができない、自由な時間が欲しいというなら、仕事を止めれば済むことじゃないか。金がらみならまだしも、時間のために雇い主の命を狙うだなんて」
「じゃあもし、夫人と個人的な金銭のやりとりがあったとしたら?」
「その言い方は――」
手を組み、その上に細い顎を乗せた画面の中のモイラを、ロイはじっと見つめた。
「あるってことだよね」
「まあね」
顎と組んだ手をかくかくと動かし、モイラが答えた。