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新発見「(大原重徳宛)伊東甲子太郎書簡」(『龍馬と新選組』収録)の疑問点と謎

*2005.1.25、「覚書」に「新発見伊東書簡に異論」をUP。『龍馬と新選組』収録書簡が(1)伊東書簡ではなく、(2)香川敬三書簡の可能性が非常に高いと考えられること、その理由を記しています。収録書簡の翻刻・読み下し・コメントもそちらからリンクしています。

■疑問点

  1. 京都(近辺)で書かれた手紙のようだが、伊東は当時長崎にいる:慶応3年という推定は、慶喜が大阪で外国人と謁見しているという記述から正しい。同年2月26日は、「九州行道中記」によれば伊東が長崎到着した翌日である。ところが発表書簡中に「江府より上京者有之候」という一節があり、その後に江戸から上京した者から得た情報が記されている。素直に読めば書き手は京都(あるいはその周辺)にいるのであり、書簡は長崎にいる者(つまり伊東)が京都に出したものだとは考えにくいのではないか。また、この日、伊東は長崎奉行所に寄ったりといろいろ見聞したはずなのに、それらの情報も発表書簡には全く記されていない。前便があったのかもしれないが、それならそうで、文中に後便であることを示すのではないだろうか。(なお、『龍馬と新選組』にはこの矛盾に関する説明が一切ない。慶応3年2月に伊東が九州に遊説中であることも言及されていないし、書簡の口語訳では、「江府より上京者有之候」が単に「江戸から来た者」とされており、「上京」が略されている)
  2. 筆跡:発表書簡の文末の署名「武明」の筆跡はC-3の九州道中の和歌の書付(慶応3年時)の署名の「武明」と全く違う。発表書簡全体の筆跡は、「きれいでわかりやすい字」という意味ではA-3の伊東書簡と似ている気もするが、よくよくA-3の書簡と比較すると、素人目にもくずし方が明らかに違う箇所が何箇所もある。さらに、和歌書付や九州道中記の筆跡ともくずし方が違う。発表書簡はその筆跡から伊東書簡だと断定されたというが、これらのことは許容範囲なのだろうか?
  3. 「彦次」:発表書簡の文末には伊東のいみなである「武明」が署名されているが(上記のように筆跡は和歌書付のものと違う)、冒頭には「彦次」と署名されている。「武明」だけで伊東と判断してよいのか?「武明」という名をもつ他の志士の可能性はないのだろうか?もちろん、「彦次」がこれまで知られていなかった伊東の変名だという可能性もあるが・・・・・・。(『龍馬と新選組』では「彦次」に関しては説明されていない)

■個人的にしっくりこない謎

  1. 反幕?書簡の相手に迫る「明断」とは何か?文書中で明らかにされていないということは、「明断」についてこれまで話し合われたことがあり、共通の理解があるということだと思われる。「破約攘夷」という意味では今更明断を迫る必要はない。では「討幕」なのか?それだと、伊東のその後の建白書としっくりこない。発表書簡中で将軍を「源慶喜」と呼び捨てにしているのもしっくりこない。(『龍馬と新選組』では、伊東を薩摩のもとで勤王活動をした討幕派と規定しているのでそれでよいのだろうが)
  2. 攘夷一辺倒?発表書簡で触れられている北方領土の脅威は、確かに伊東の建白書でも触れられているが、伊東だけが認識していた脅威ではなく、この部分をもって伊東の書簡と断定するのは無理がある。むしろ、管理人は伊東は長崎で異国にふれて、開国の利点を認識したのではと想像しているので、攘夷一辺倒のこの書簡は、そういう意味でもこの時期に書かれたものとしてしっくりこない。もちろん新しい史料の発見で、従来の知見は訂正されるべきなので、管理人は上記1-3の疑問が解決されれば、反幕&攘夷一辺倒がこの時点の伊東の考えとして受け入れる用意はあるのだが・・・・・・。う〜ん・・・・・・。
  3. 「北山御殿」「武明」といみなだけを署名するのは、懇意な相手への書簡だと思われるが、伊東には、慶応3年1-2月当時、果してそんな関係の「御殿様」がいたのだろうか。『龍馬と新選組』では「北山御殿」=大原重徳という推定がされているが、大原が「北山御殿」と記された史料があってのことではない。伊東書簡だという前提で、伊東と関係のあった大原が出されたようだ。これが伊東書簡かどうかはおいて、「北山」というと北山に閉門中の岩倉具視だという可能性はないだろうか?なお、大原もこの時期、前年の列参奏上が理由で閉門中である(『龍馬と新選組』の解説では大原は慶応2年に政界復帰とあるが、間違いである)。
  4. 発表書簡は政権批判があるところから密書のようにも思えるが、旅先の九州から危険を冒して閉門中の大原にわざわざ送るほどの内容だろうか?(帰京してからでも間に合うのではないか。あるいは、在京の者がすでに報せている内容ではないか?)

疑問が解決すれば、随時、書き込んでいきます。

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