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「梓弓」の歌

志に命を賭けて散った人物の残した歌です。やおい作品への悪用は絶対にやめてくださいね。(歌に訳をつける管理人も立ち直れないショックを受けます:涙)。

75 仰ぐべし我が身の上の梓弓君と親の情あつきを (『新選組覚書』版)
  あふくへし我身の上のあつさ弓君と親との情あつさを (『新選組遺聞』版)
<管理人>この歌の「梓弓」で伊勢物語を連想するなぁ・・・と思いながら、どうもうまく解釈できずに悩んでいたところ、松濤さんが、思いつきもしなかった素敵な解釈と訳を投稿してくださいました。松濤さんが投稿の転載を快く了承してくださいましたので、ご紹介しますね^^。

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【松濤さんの解釈】
梓弓→月(三日月)の形→歳月(来し方)で、ある覚悟を決めた人物が月を見上げてこれまでのプライベイト来し方を振り返っている歌。

【松濤さんの訳】
月を仰ぐと妻(恋人)のこと、母上のことが思い出されるな。私のこれまでの人生を振り返れば、妻(恋人)からも母上からも大層深い愛情をかけてもらってきた。彼女たちを悲しませることのないように気を引き締めて大きな志のために頑張ろう。

*なるほど!!!松濤さん、ありがとうございましたm(..)m
刺激を受けた管理人も、最初連想した「梓弓」=「伊勢物語」の一話、の線をもう一度考え、伊東が自分の身の上に「梓弓」の物語を重ねたとのではと想像して、松濤さんの訳を参考にしながら、試訳をつけてみました。(例によって直訳調^^;)

【ヒロ訳】
仰ぐべし。君(妻ウメ)と母上の情けのあつさを。「あつさ弓(梓弓)」の物語の「男」のように、朝廷に仕える為に君(と母上)のもとを離れて久しくなってしまった我が身の上だからこそ」(「梓弓」の「男」のように必ず君のもとに帰ろう。だから、君も(「梓弓」の「女」のように待ちあぐねることなく)わたしを信じて待っていてほしい)。

<ヒロの妄想>
この歌は、妻と母の情を思い出すことで、遠く故郷を離れている自分を奮い立たせる歌だと思いますが、それと同時に、「伊勢物語」中の「梓弓」の物語に託して妻への思いをこめた歌ではないかと想像しました^^。「伊勢物語」は歌を詠む人のバイブルだったそうですから、「梓弓」の物語も伊東は当然知っていたでしょうし。花香太夫に出会う前の歌かもしれませんが、もし、出会ってからだとすると、花香に心を奪われてしまう自分自身を戒める歌なのかもしれないとも思います。花香のみせる真心(情けには真心という意味もあります)は遊女ゆえのかりそめのもの、妻と母の真心こそ本物なのだ、仰ぐならば妻と母(こよ)の方なのだと、自分に言い聞かせている歌なのかもと・・・。

結局、ウメは「梓弓」の「女」同様、「男」を待ち続けることができず、こよが病気だとウソをついて伊東を江戸に呼び戻し、そのウソに激怒した伊東から離縁されてしまうのですけれど、これも、伊東はウメの真心を信じていたからこそ、それを裏切られたことに我慢ならなかったのかなぁ・・・とも。ウメのそのときの気持ちが、また、「梓弓」の「女」の歌と重なる気がするんですよね。なお、「残し置く言の葉草」には、伊東が、自分を待ち続けることのできなかったウメへの訣別の気持ちを詠んだとみられる歌が2首収録されています。読んでいてせつなくなる歌です・・・。→(次回、春の歌でご紹介しますね)

【素人語釈】
「べし」=強い意志(自分に対して言い聞かせているという意味では義務ともいえるのかな?)、「身の」の「上」は「仰ぐ」の縁語、「あつさ弓」と「情けあつさ」は掛詞

梓弓の概略
歌物語である「伊勢物語」の中の悲しいお話。都での宮仕えのために、女と別れを惜しんで故郷を去った男が、3年たっても帰ってこない。女は待ちあぐねて新しい男との結婚を決意した。その男との結婚という夜、昔の男が帰ってきた。女は戸を開けずに「あらたまの年の三年を待ちわびてただ今宵こそ新枕すれ」という歌を差出した。男は「梓弓真弓槻弓年を経て我がせしがごとうるはしみせよ(ヒロ訳:梓弓・真弓・槻弓と弓にもいろいろあるように、いろいろなことがあって年を経てきたわたしたちだったね。そうやって君がわたしにしてくれたように新しい男も愛しておくれ)」と歌を返した。(心を動かされた)女は「梓弓引けど引かねど昔より心は君によりにしものを(ヒロ訳:この戸を?/あなたの気を?引いても引かなくても、昔からわたしの心はあなたに寄り添ってきたものを)」と返したが、男は去っていった。女は後を追いかけたが追いつけず、ついに泉のそばで倒れてしまった。女は指から流れる血で岩に歌を書きとめると(「あひ思はで離れぬる人をとどめかね我が身は今ぞ消えはてぬめる(ヒロ訳:思いが合わず離れてしまった人を留められなかったわたしの身は、生きている甲斐もなく、たった今、消え果ててしまうようだ」)、息絶えてしまった。
(2004.2.22, 3.1)

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