――私は、激しい怒りを覚えた。
よくもまあ、こんな過去を21年間も隠し通してきたものだ。
それも、ふたりして私と父をだまし続けて……。
許せない。
今さら、本当の両親などどうでもいい。
私の父親は、篠崎剛士ただひとり。
その父を裏切り続けてきた母と長瀬先生は――許せない。
一瞬、CDロムをパソコンから引き出してこの場でたたき割ってしまいたい衝動に駆られた。
が、そんな一時の感情に負けるほど私は愚かではない。
これはむしろ、大事にするべきなのだ。
後々にこの事実を世間に公表するための、重要な証拠物件として。
――どれほど、そこで震えていただろう。
「真奈ちゃん……?」
呼ばれて顔を上げると、外の掃除を終えて入ってきたらしいきっかさんが、心配そうに私を見ていた。
「きっかさん」
「どうかしたの? この世の終わりみたいな顔しちゃってさ」
「……それに近い気持ちです。いいから、これを見てみてください」
私は投げやりな気持ちで、ディスプレイを示した。
「どれどれ……」
視線で文字をなぞるきっかさんの表情が、時に比例して変わっていく。
「あなたが……長瀬先生の娘!?」
厩舎に私たちふたり以外誰もいなかったからいいものの、そうでなければ大問題になるような大声で、きっかさんは驚いた。
「らしいですね。でも、考えてみればそれらしい部分もありました。母が私を大事にしなかったのは、やはり父に……篠崎剛士に対して負い目のようなものを感じていたからだと。まったくもって勝手な話ですが」
「だけど、こんなのって……」
「もちろん、このまま黙っているつもりなどありません。これを証拠にして公表します。マスコミなんか、真っ先に飛びつくでしょうね」
「ちょ……ちょっと待ってよ!」
無表情を装ってつぶやいた私を、きっかさんは慌てて手を私の顔の前に出して止めた。
「真奈ちゃん、それがどういうことかわかって言ってんの? そんなことしたらこの厩舎、壊滅だよ? そこまでは行かなかったとしても、評判に影響することだけは絶対だし、あなたのジョッキー人生だってこれまで通りってわけにはいかないよ。見なかったことにして、黙ってなよ」
――そうだ。公表するのはいわば両刃の剣。その渦中にいる私の立場も大きく揺らぐことになるのだ。
私は……どうする?
B 自分を追い込んではどうにもならない。秘密のままにしよう……。