「プロだと思った方がいいわ」
「え……? そうなんですか?」
花梨ちゃんは実に意外そうな声を出した。どうやら彼女は犯人たちを素人だと思っていたらしい。
「もちろん、私には本当のところはわからないわよ。でも、素人をプロだと思っても問題ないけど、プロを素人だと思って侮るととんでもないことになりかねないわ。ここはひとまずプロだと思っておいた方がいいのよ」
私が説明すると、花梨ちゃんは納得したようだった。
「そうですね……。それじゃ、建物の中を下手に動きまわらない方がいいですよね。あの連中は自由に動いていいなんて言ってましたけど」
「ええ。やっぱりおとなしくしている方が賢明よ」
「私たち人質も、できれば1ヶ所に固まっていた方がいいんじゃないでしょうか? 裏口の女に化けているレイラさんは別としても、残りの8人はひとつの部屋に固めちゃうとか、いかがです?」
「それがいいわね」
それで何ができるというわけではなくても、バラバラの状態より収拾がつきやすいのは確かだ。
「じゃあ、私、みんなに話をしてきますね。この部屋に集めましょうか?」
「ええ、問題はない……あ、ちょっと待って。もしいざ脱出となったら、下の階に近い方がいいわ。あなたの部屋は2階だったわね?」
この若駒寮では、最上階の4階が全部女性の部屋で、3階から下は男性の部屋と決まっている。周知の通り花梨ちゃんは厳密には「女性」ではないので、4階の部屋はもらえなかったのだ。本人は非常に残念がっているが、役に立つときは立つものだ。
「はい。それじゃ、私の部屋に集めますね。……真奈さんは、これから僚さんに連絡をするんでしたね?」
「そうよ」
「じゃあ、電話を終えたら私の部屋に来てください」
「わかったわ」
「それじゃ、早速行ってきます」
花梨ちゃんは部屋を出ていった。本当に、気の利くいい子だと思う。
私も彼女の活躍に負けないように、自分の使命を果たそう。
そして私は、遅ればせながらついに部屋の電話を取り、僚の携帯を鳴らした。
……ほとんど呼び出し音が鳴らないうちに、彼は出てきた。
『はい!』
「私よ」
『真奈! それで、どうだったんだ!?』
僚は、声とともにこっちへ飛んでくるんじゃないかというくらい焦っていた。
「慌てないで、ちゃんと聞いてちょうだい」
私は彼をそうなだめてから、話を始めた。
センサーのスイッチが裏口の横だということ。
そこではあのマシンガンの女が見張りをしていたこと。
レイラが英語で聞いたところ、犯人一味は某国人の4人兄弟だったこと。
末妹は独身寮ジャックには反対していること。
今は女を縛り上げて倉庫に閉じ込め、たまに様子見に来るリーゼントへの対策として、レイラが彼女の服を着て入れ替わっていること。
『でも、裏口の見張りがいなくなったんなら、スイッチ切って全員で一斉に裏口から逃げちまえばいいんじゃないのか?』
確かにそれはそうだろう。しかし……。
「だめなのよ。今の連中の位置を教えておくと、サングラスは玄関ホールにいて、スキンヘッドとリーゼントはそれぞれ2ヶ所の階段の1階部分に座ってるの。スキンヘッドはホールに通じる階段に、リーゼントは裏口近くの階段にね。つまり、裏口へ行くには絶対にリーゼントの前を通らなきゃいけないのよ」
『だけどさ……』
僚は考えつつ言った。
『お前の話によると、レイラが見張りの女に化けたんだったな。ってことは、リーゼントの目から見れば、レイラは裏口の方へ行ったっきり戻ってきてないことになる。それに気付かないってことは、そいつもそんなにお前らの行動を一生懸命チェックしてるわけじゃないんじゃないか?』
「それでも、全員そろって裏口の方へ行ったりしたらさすがに気付かれるわよ。何か企んでるんじゃないかって」
『そうか……』
落胆する僚。私と同じだ。
――私がしばらく黙っていると、僚は何か新しいことを考えついたのか、突然言った。
『なあ、その見張りの女を上手く使えないか?』
「見張りの……あの女を?」
『ああ。そいつ、事件起こすのには反対だったんだろ? ……だからさ、俺の考えた作戦はこうだ。まずはレイラとその女とで取り替えた服を元に戻す。レイラはセンサーを切って女を裏口から外に出して、また人質の一員に戻る。人質の女たちはあらかじめ全員集めとくといいな。で、俺と泰明は裏口の外で待機してて、出てきた女を玄関の前までひっぱっていく。それで、女に玄関の外からサングラスを説得してもらうんだ。妹に説得されれば、やつらの心も少しは動くんじゃないか? さらに、お前でもレイラでも花梨でもいいけど、リーゼントの動きをこっそり見張ってて、もしやつが妹と話すために玄関の方へ行ったら、そのスキを突いて全員で裏口から脱出だ。……どうだ?』
僚は自信たっぷりに自分の作戦を語った。
私は答えた。