私は、ふと湧いたレイラへの疑惑を、あえて否定はしないことにした。
泰明くんがそこまで慕う相手ならば、やはりレイラ以外にはちょっと考えられない。
きっと、「何か」があるのだ。
まだ私の知らない、隠された「何か」が――。
長瀬厩舎での仕事が一段落して帰宅(帰寮?)が許されると、私はまっすぐに若駒寮に帰ってきた。
まずは僚に会うことだ。彼ならば「レイラが怪しい」と言っても「そんなはずはない」と否定するだろう。私では気付かない視点から、彼女が犯人でない根拠を言ってくれるに違いない。
……私は明らかに、それを望んでいた。
感情的になるのは嫌いだが、かといって同期生が犯人でも何とも思わないほど心が萎えてもいないつもりだ。
2階へ上がり、僚の部屋に声をかけてドアをノックする。
「私よ」
――しかし、返事はない。
「僚……? 私よ、開けて」
もう一度声をかけてノックを繰り返す。それでも返事はなかった。
おかしいわね……。
だめでもともとの気持ちで、部屋のドアノブをまわしてみる。
……!!
開いている!
それがわかると、私はすぐにドアを開け、中に入った。
――やはり誰もいない。
鍵をかけてここにいてくれと言っておいたのに、鍵が開いている上に部屋は無人。
この事態を、どう解釈すればいいのか――。
部屋にはケーキの箱が転がっていた。僚が言っていたのはこれだろう。
これは誰かから泰明くんに贈られた物だ。僚は彼の部屋に行き、これを持ってこの部屋に戻ってきたということになる。
私の言ったことを守ってくれたのなら、その時点で鍵をかけたはずだ。
それなのに、この状態――。
念のため、私は一度僚の部屋を出て、隣の泰明くんの部屋をたずねてみた。
……思った通り、鍵はかかっていない。そしてこれもまた予想通り、部屋は無人だった。
ざっと見まわしてはみたが、特にこれといって不審な点はない。
もしかして――。
そのとき私の頭には、ふたつの可能性が浮かんだ。
ひとつは、急激に具合が悪くなったかどうかして病気がバレてしまい、病院に連れていかれたパターン。
もうひとつは、ケーキの贈り主――つまり事件の犯人に感づかれ、むりやり拉致されてしまったパターンだ。
……どっちの可能性が高いだろうか?