私は、片山僚さんのファンです。
それ以上でもそれ以下でもありませんが、彼の存在は、私の人生の中で大きなウエイトを占めています。
ご本人にそのおつもりはなくとも、長い時間も寂しい心も埋めてくださった、片山さん。
何らかの形で、彼に恩返しをしたい。
彼のお役に立つことをしたい。
彼が何を望んでいるかがわかれば……。
いつも、そればかりを考えて生きています。
そう。
閉ざされた部屋にただひとり座り、誰かに与えられるのを待っている、今も……。
……私の父は、結婚式場の経営をしています。
仕事ばかりでほとんど家にはいない父ですが、それでもたまに休みが取れると、必ず私や母のそばにいてくれます。
私のことはかなり自由にさせてくれ、片山さんを応援するために競馬場へ行くことにも、何ひとつ不快な顔はしません。
理解のある、よい父親だと思います。
しかし……。
先日、父が私に、お見合いの話を持ってきました。相手の森園さんは、父の会社の中でも一番のエリートと名高い男性でした。
私はひとり娘です。そして父は、やはり娘である私に会社を継がせたい意向のようです。しかし、私は会社のことは何もわかりません。それで、最も才能のある方を私のお婿さんに迎え、その方を次期社長にとの考えなのでしょう。
私は、父の言いつけに逆らったことはありません。おそらく父は今回も、私が迷わずこのお話を受け入れるものと信じ、疑ってはいません。
森園さんとも、何度かお話をしました。私が望むなら、結婚後も片山さんのファンとしての行動を続けてもいいとおっしゃってくれました。これほど理解のある方には、そう簡単にはめぐり会えないと思います。私は幸せなのかもしれません。
でも。
もし私が父の言いつけに従えば、私が最も叶えたい夢は永遠に闇の中。
そして、私の心も……。
私には現在、ふたつの選択肢が用意されているようです。
ひとつは父の言う通り、森園さんと結婚してすべてをまかせること。
もうひとつは、お話をお断りして、私自身が会社の経営を学び、後継者となること……。
片山さんは、私のことを直接は知りません。
私がどんな選択をしようと、彼の心には何ひとつ影響はないのです。
それを思うと、悩むだけ無意味のような気もしてきます。
ですが……。
……今週、有馬記念フェスティバルがあり、片山さんも「騎乗予定騎手」として参加されます。
私は、そのフェスティバルの中で行われる「質問コーナー」あてに、メールを1通送りました。
『片山僚騎手にお伺いいたします。今、一番叶えたい夢というのは何でしょうか』
この質問が、必ず本番で採用されるとは限りません。
でも……。
それでも私は、考えてしまいます。
……もし、質問が採用されたなら。
片山さん……。
あなたはこの質問に、何と答えてくださいますか?
そして、もしその答えが、私に実現可能なものであれば……。
ふたつの夢
(隠しシナリオ No.17)