俺は、田倉さんを探すために厩舎を飛び出した。
……しかし、何の手がかりもなく探すのには問題があったようだ。
トレセン中を駆けまわり、ようやく目的の田倉さんを見つけたときには、2時間も経っていた。
「田倉さん!」
「ああ、片山くん。どうかしたのかな」
「寺西厩舎へ来てください!」
言葉が届く前に、俺は田倉さんのブルゾンの袖をひっぱった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。理由を説明してほしい」
「来ればわかります!」
彩夏のことを上手く説明する自信はなかった。百聞は一見にしかず、あいつに会わせればわかってもらえるかもしれない。俺はとにかく、強引にでも彼を厩舎へ連れていこうとした。
が。
「困るな。先約があるんだ。理由がわからないと行くにも行けない」
「理由がそんなに大事なんですか!」
俺はつい怒鳴ってしまった。それでも田倉さんは冷静だった。
「それはそうだろう。理由は、どっちの事情がより大事かを知る唯一の指標なんだから。君は俺に、はっきりした理由も知らせずに、先に交わした約束を破れと言うのか?」
……それはそうだ。
どうしたものか……。
A 仕方がない。ダメモトで彩夏の名前を出して理由を説明しよう。
B 理由を話したところで信じてもらえるとは思えない……。もう、あきらめよう。