当然、あきらめきれるわけなんかない。
親父が果たせなかったG1制覇を成し遂げる――俺はそのために生まれ、そのためにジョッキーになったのだ。
その夢を果たさずに死んだとなっちゃ、俺がこの世に生まれてきた意味そのものがなくなっちまう……。
俺は、何が何でもこの病気を隠して有馬まで生き延びてやろうと決意した。
そして、何が何でも有馬を勝つ、と。
拳にした手の甲で不器用に涙を拭い、力強く立ち上がる。
――さて。
俺は、隠し通すための具体的な方法を考え始めた。
俺ひとりで隠し通すってのは、悔しいがちょっと難しい。
真っ白に変わったこの髪がある限り、この部屋さえ出られないんだから。
やっぱり、最低ひとりは俺のことを理解してくれる味方を作って、協力してもらうより他にあるまい。
味方……。
信頼できる相手はいろいろいる。
まず真っ先に浮かんだのは親父だった。――が、それは形にはならなかった。親父に病気のことを白状したら、無理にでも俺を病院に入れようとするだろう。それじゃ無意味なのだ。
一番慕う親父に真実を告げられないつらさから目を背け、他の選択肢をあさる。
親父以外なら、やっぱり同期生か。この美浦トレセンには真奈の他に、星野レイラという気の強い女、城泰明というおとなしい男がいる。
……レイラは却下だな。あいつはそそっかしいから、ちょっとしたはずみで口を滑らせる危険性がある。
とすると、真奈か泰明になるが……。
俺は再び考えた。
そして、決めた。
A 真奈にしよう。あいつは冷静で頭がいいから、こういうときには頼りになる。