俺は、泰明を味方につけることにした。
やつの部屋はここのすぐ隣だが、廊下に出た瞬間に誰かと鉢合わせしてこの頭を見られたりしたら困る。安全策で、携帯を鳴らそう。
……。
『はい……』
泰明が出た。
「……どうした? 何か、元気ないぞ」
その声があまりにも沈んでいたので、俺はつい、自分の立場も忘れて聞いてしまった。
『ううん……何でもない。それより、何の用?』
上手くごまかされた気もしたが、とりあえず本題に入ることにした。
「ああ……実は俺の方も、あんまり元気にはなれない話題なんだ。ちょっと、お前に相談したいことがあってな」
『何?』
「驚くなよ。……今、妙な病気が流行ってるだろ。あれにさ……俺、かかっちまったみたいなんだ」
『お前も!?』
「何だって! まさかお前もなのか!?」
――俺たちは、壁をはさんで互いに大声を出してしまった。
「……いつ、気付いた?」
『今朝だよ。起きたら妙に暑くて、まさかと思って鏡を見たら、髪が真っ白で……』
「俺とまるっきり同じか……なんてこった……」
俺と同じ不安を抱えたやつがすぐ隣にいた――それは強力な味方ができたようでもあり、気の毒でたまらなくもあった。
が、泰明には悪いが、都合がいいのは確かだった。
「とにかく、それなら俺の頭を見ても何とも思わないだろ。ちょっとお前の部屋へ行ってもいいか?」
俺はそうたずねた。
しかし。
『あ……ちょっと、今はまずい』
「まずい? どういうことだ」
『実は、ぼくもとある人に電話で相談したんだ。その人がこれからここに来ることになってるんだよ』
「とある人って……?」
『それは……言えない。だから、お前もここへ入れるわけにいかない。ごめん』
「妙なやつだな……」
――俺は、大きな違和感を禁じ得なかった。
普段、隠し事なんかほとんどしない泰明が、いったい何の理由があって相談相手を伏せるんだ……?
『そういうことだから、悪いけど……』
「あ、待て。それならしょうがないが、じゃあその相手にも俺のことは言うな。俺は、発病したことを隠しておきたくて、お前を味方につけようとして電話したんだから」
『わかった。それじゃ』
……泰明が逃げるように電話を切ったあと、俺は考えていた。
泰明も発病していた。しかも、俺とまったく同時に。
そしてやつは、それを俺には言えない謎の相手に相談しようとしている……。
何か、おかしくはないか?