知り合いが墓に入るっていうのは、つらいものだ。
しかも、それが「自分が自殺させた人」だったりしたら――。
実家の隣の家に住んでいた彩夏ちゃん――彼女は、俺が自殺させた少女だった。
きっかけは、どこにでもよくある話だ。
彼女が俺を好きになって告白してきたものの、俺は彼女をそういう対象には見られなくて断った。
そうしたら翌日、通っていた学校の屋上から身を投げた――。
「普通はそれくらいで自殺なんかしない。相手が悪かった」
「あの年頃の女の子は気まぐれで好きな人がどんどん変わるから、お前に責任はない」
彼女の死後、そんなようなことを俺に言うやつが何人もいた。
だが――俺はそんなのにうなずけるほど無神経じゃない。
彩夏ちゃんは確かに死んだのだ。
俺の反応を苦にして。
彼女が亡くなった数日後、俺は仕事をキャンセルし、彼女の告別式に行った。
事情を知っていたら野々村家の人々は俺を追い返しただろうが、そんなことはなく、俺に冷たくすることもなかった。
彼女の母親はごく普通に「翔太さん、来てくれてありがとう」と言った。
――彼女は、自分の死の責任が俺にあることを悟らせないように行ってしまったのだ。
失恋を苦に自殺する場合、大抵は遺書を残してその相手を困らせてやろうと考えたりするものらしいが、彼女はそれもしなかったらしい……。
そう思うと、彼女の死の真実を家族に話すことさえできなかった。
彩夏ちゃんは、何を考えながら空に身をまかせたのだろう。
俺が憎かったわけではないのだろうか――。
彼女は、自分の名前がとても好きだった。
それを知っていた彼女の両親は、戒名をつけず、俗名のまま彼女を埋葬した。
なので、彼女の家の近くの墓地には、しっかり彼女の名前が入った墓がある。
……俺はそれから何度か、こっそりその墓地を訪れ、彩夏ちゃんの好きだったバラの花を供えた。
そして墓碑銘を見つめ、人知れずせつなさをかみ殺す。
彼女を愛してはいなかったにしても、せめてこれくらいの頻度で彼女に会っていれば、こんな結末にはならなかっただろうか。
それとも、回数は関係なく、俺が彼女を愛さない限り、彼女は死ぬ運命にあったというのだろうか――。
そう思い詰めている自分に気付くとき、ふと考える。
もしかしたら、彼女が誰にも真実を悟らせずに行ってしまった理由は、俺をそういう状態に追い込んでやりたかったからかもしれないと。
彼女はそんなに底意地の悪い子ではなかったが、女の子は恋愛が絡むとどう変わるかわからない。
そして、そんなことを考える自分に、俺はまた苦しむのだ。
……叶うならば、彼女に聞いてみたい。
いったい、なぜ死ぬ以外の道が選べなかったのか。
それは俺のせいだと言われるだけかもしれないが、それでも――はっきりした答えを俺は知りたかった。
そんな気持ちがそうさせるのだろうか――時折、不思議な感覚が俺を襲う。
そう思いたいだけなのかもしれないが、なぜか彼女がまだ死んでいないような気がすることがあるのだ。
トレセンを歩いていると、不意に彼女の生命の匂いをかぐことが――。
……もちろん、気のせいに決まっている。
あの墓の下で、彼女は眠っている。
それなのに……。
墓碑銘
(隠しシナリオ No.16)