「きゃあ!」
みどりは足を滑らせ、その場に倒れ込んでしまった。
「あ……悪い」
立たせようと、俺は彼女の前に手を差し出した。
が……彼女はそれに目もくれず、自力で立ち上がってつぶやいた。
「そういえばこのスリッパ、濡れてると滑るんだっけ。……うう、寒い」
……俺は、愕然とした。
俺の姿は、彼女に見えていない。
この声も、彼女には届いていないのだ!
きっと俺は、ここでは次元の違う存在なんだろう。
俺がこれだけバタバタしているのに1階のやつらが誰も上がってこないところからも、それは確かだった。
過去の俺と鉢合わせしないための「処置」なのかもしれない。
……しかし、そうすると、俺にできることも限られてくる。
こんな状態で、どうやって彼女を守ればいいんだろう……。
そのときだった。
向こうの方の部屋のドアが開き、そこから……あの美樹本が現れたのだ。
俺が何もしなければ、これから1分と経たないうちに彼女を殺すことになるだろう、憎い憎い野郎が。
やつは、こっちを見ていた。もちろん俺ではなく、みどりを見ているんだろう。
隣に目をやると、彼女もやつを見ていた。
……ふたりの間に、稲妻のようなものが走る。
やがて彼女は、ゆっくりとやつのもとへと歩き出した……。
「行くな! 危ない!」
俺は誰にも聞こえない叫びを上げ……。