第一章 最近の国策化学
第一節 原料利用法の改良
資源の供給を円滑にするため原料の利用法をヨリ効率的に改良することも亦必要である。たとえば1930年のドイツの国営鉄道は貨物列車に於いて1913年より20%の石炭の消費を節約している。他に冶金の例に就いても、在来使用しなかった原鉱から金属を製するようになっておったベンヂン製造に於いて、分割方法を用い70%迄作り出している。その以前に於いては30%に達していたのみである。又蒸気タービンは1kwについて1906年には40kgの重量であったものが1928年には9kgに減じている、船舶の燃料に油を用いるに至って貨物船の能率を25%に高める事が出来た。
鉄製造において使用したる石炭消費量は、戦争以来15%の節約法を実行し、又ガス工業は1918年以来石炭より30%のガスの生産を増進した。
同じ材料を持って生産能率の相違の例をアメリカとロシヤに就いて見ると面白い対照を見る。アメリカに於いてはマルチン爐一基に45人を要し、ロシヤでは135〜155人を要する。機械的高い爐に付いてアメリカでは75〜85人を要するに対し、ロシヤにおいては200〜240人となっている。アメリカにおいては42万人が、4340噸の鋳鉄及び5730万噸の粗鋼を作る。ロシヤにおいては28万5000人が1430万噸の鋳鉄と、1350万噸の鋼を作る。斯くの如き相異の起こった原因は、米国に於いては賃金が高い為に補助的労働者を出来るだけ使用しないように務めたからである。
エンヂンの効率を高める事は一国の経済に重大な結果を来たすのである。すなわち蒸気機関及びエキスプロージョンモーター(爆発作用によるモーター・オイルエンヂンの類)に要する石炭の節約又電気使用量の節約高周波爐の利用等は爐材の錆による損失を少なくしている。
次に新しい原料の発見で、動力方面に於いて事にこの点に著しき進歩を三田。石炭の分割作用に依り生ずる副産物ブタン、プロパンの利用法としてこれらのガスの重合方法に成功し又今まで用いられなかった自然ガスよりベンヂンを作るが如きはこの例である。アメリカに於いてはこのガスの重合方法によって得られたベンジンが在来の使用高の5%までを満たしているのである。将来は現在の生産高に8倍するものが生産さるる予定であると言う。
工業の進歩として新原料の発見に対し、古い廃物を再生して新しい用途に便ぜしめるという事は又大なる効果を持つのである。この方面における大なる問題は屑鉄の再生である。これは軍需方面にも大きな関係を持っている。戦場において打ち捨てられた武器の再製も、この問題に含まれるものである。屑鉄のみならずその他の各種の金属及び合金の屑物をも再生さるるべきである。
屑鉄再生によって補給さるる鋼の率を2,3の国に就いて例示すれば、ドイツは41%、英国は51%、ベルギーは9%、であると云う。
今米国における屑金属再生による統計を示せば次の如し。
米国に於ける屑金再生表(単位千噸)
銅 鉛 亜鉛 全需要額 999 649 567 再生額 569 282 160 ゴムの再生は我が国に於いても常に論じられているが、ドイツにおいては470の内209は再生である。ゴムと並んで織物に就いても同様な問題は起こっている。羊毛の不足を補うに、古いライシャを洗っても綿を混ぜて之を織り、洋服地とする事は現在目前にしておる通りである。
再生品が多少質が劣り、労力を多く要する事は免れないが、鉄その他の金属類では著しき粗悪のものとはならない、但しゴム及び織物においては大いに始めのものとは違う、唯非常時に際してのみ、この問題が強化されるのみであるかもしれない。