漂流? 冒険の島!
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脚本:西園悟 演出:角銅博之 作画監督:八島喜孝 |
★あらすじ
サマーキャンプに来ていた小学生の八神太一、武之内空、石田ヤマト、泉光子郎、太刀川ミミ、高石タケル、城戸丈の7人は季節はずれの吹雪に追われた先で謎のデバイスを拾い、直後にふしぎな島・ファイル島に跳ばされました。
そこで出あったのはコロモン、ピョコモン、ツノモン、モチモン、タネモン、トコモン、プカモンの7体のデジモンたち。
かれらは太一たちを待っていたといいます。
そこへ襲い来る凶悪なクワガーモン。7体は太一たちを守るため、みずからの身をかえりみずクワガーモンに立ち向かいました。その姿に太一たちが叫んだとき、コロモンたちは進化をして成長期になったのです。
力を合わせてクワガーモンを撃退するアグモン、ピヨモン、ガブモン、テントモン、パルモン、パタモン、ゴマモン。よろこぶ太一たちですが、クワガーモンはまだ生きていました。一撃が崖をくずし、その場の全員が大河に身を投げ出されました…。
これが子供たち7人の、とても長くて短い夏休みのはじまりだったのです。
★全体印象
記念すべきデジモンシリーズのアニメ第1話です。タイトルコールは藤田淑子さん(太一)。
正確には前日譚として映画版があるのですが、あらためて見てみるとやはりこの1話こそが最初をかざるにもっとも相応しいと感じました。
デジモンについて何も知らない(正しくは記憶にないのですが)登場人物たちを力技で異世界に引き込んでいるため、この段階ではまだファイル島とデジタルモンスターという存在しかわかりません。デジタルワールドという世界についてや、彼らがどうしてパートナーとともに進化するのかもまだ明かされてはおらず、つまり何もわからないのです。
しかし、
謎にはほとんどにちゃんとした答えが用意されており、物語が進んでいくことで自然と解き明かされていくようになっているので、視聴者は太一たちに近い気持ちで臨むことができるようになります。デジモンを知らない人でも入っていきやすい導入だといえるでしょう。純粋な続編である02や、デジモンというゲームキャラへの多少の理解を必要としたテイマーズなどにくらべると間口の広さは最大といえそうです。
ただ、このような手法が許されたのは一作目だからでしょう。後年はなかなか難しかったんじゃないでしょうか。
さて、メインキャラ数でも最大なこの01ですが、この1話である程度のキャラ立てができています。言動やめだった行動のみならず、ちょっとしたやり取りでも良くわかる仕掛け。
とにかく行動派で勇敢な太一。理詰めの光子郎、気配りのおふくろさんな空。距離からあきらかに兄弟とわかるヤマトとタケル。とにかく可愛らしいけど泣き虫なミミ、常識派でオドロキ役をキープしている丈。すでにしっかりと描写されています。しかもそこで固まらず、成長というかたちで変化していくのですから、これは企画がしっかりしてたんでしょうね。
ここで築いた強固な基盤があったからこそ、02へつなげることができたんでしょう。
スタッフはデジモンファンならすでにお馴染みのメンバー。この中で西園悟さんだけは02で一度書いたのを最後にシリーズから離脱してしまいますが、八島さんは超人的仕事量で作画面を支えつづけ最終作・フロンティアのラストをも締めており、角銅さんはいまでもデジモンに関わり続け来年初頭の映画でも監督をつとめています。いずれも欠かせない人材といえるでしょう。
ちなみに西園さんは最近だと「ケロロ軍曹」で書いてますね。
★OP・ED
希代の名曲・Butter-flyに乗って流れるOPは音楽とのシンクロ具合が半端ではありません。
圧巻はトゲモンでちょっと合いの手を入れて笑いをとったあとの成熟期大行進。
デジモンたちの力強さと同時に子供たちとの親密さ、さらには得意とするフィールドもある程度示され、本編への期待を大いに煽ってくれます。じじつ、私の初見印象は
(やばい、はまるかも……)でした。
ED「I Wish」は前半のエンディングテーマ。動的なOPにくらべ静のイメージがきわだっており、その意味では後半以上。
出てくる子供たちは全員なんらかの動作があるんですけど、なぜか丈だけはなんにもなくてスクロールのみでした。
ミミ役・前田愛さんのいまより初々しい歌声が美しい。
★各キャラ&みどころ
・太一
男の子らしく表情ゆたかでリアクションも豊富、しかし反射神経と行動力、決断力はすでに大物の風格です。
積極的に状況確認をしようとしたり、戸惑う光子郎を引っ張って見せかけの樹にとびこんだり、ときには無謀に武器なしででもクワガーモンへ立ち向かおうと考えたり、7人のなかでも特にきわだって見えますね。さすが天然リーダー。
・
空
お姉さんですね。落ち着きぶりでは太一を越えてます。状況判断能力についても準ずるものを持っており頼れる感じ。
上級生の責任も手伝ってか、果敢にミミを先導する姿が印象的。
・ヤマト
この時点だとちょっと天然っぽくも見えますが、これはクールを装おうとしてのぎこちなさでしょうかね。それも含め、いつもいつでもタケルにひっついてる挙動から、過保護の兄らしさがかいま見えます。それにしても尾をひいたもんだ。
・光子郎
初登場からパソコンいじりまくりで一瞬でキャラが固まりました。天神有海さんの可愛らしくも硬質感のある演技がはまってますが逆にそのせいで、ほんとうに初見の印象ではちょっと冷たいヤツといった感じでした。
それが一面だけだということは、すぐにわかることだったのですが…ある意味スタッフの狙いにはまったのかも。
・ミミ
この回の段階では泣いて逃げ回ってばかり。ウエスタンスタイルがまず目にとびこんできます。色あいからか、当初はエアリスと揶揄する人もいたようです。彼女の魅力はあとのいくつかの話において存分に発揮されるのでそれ待ちですね。
・タケル
順応のはやさは太一以上。稚さが有利にはたらいた結果でしょうか。そういえば常連の本部長さんが、「テイマーズ」のアイやマコやこのタケルのようにある程度以上小さくて自我が確立していない頃は他者との境界があいまいであるため、異質なものであっても受け入れやすいという意見をのべたことがありましたが、そういうことなのかもしれません。
ともあれ今のところはとにかく可愛らしいだけで、ミミとならんでマスコット的印象がつよいですね。
・丈
ほかのメンバーからオドロキ役を引き継ぐ、超常識派ですね。初見の印象は「熱血最強ゴウザウラー」の火田洋二でした。
まあ、のちに全然ちがうのだとわかるんですが。なんかそんなんばっかりだ。
この回ではとにかく悲鳴をあげてばっかりって感じです。
・デジモンたち
デジアド系パートナーのポイントは、パートナーのためならどんな時にも絶対にくじけず怯まず退かない、その強さ。
この1話ではさっそく束になってもかなわないクワガーモンへ立ち向かい、基本姿勢をアピールしています。ときに無謀ともムチャともいえる彼らの行動が太一たちの勇気をふるい起こし、過酷な冒険にもたえる進化を呼び起こしたのでしょう。
そう考えると、デジモンたちの恐いくらいの献身的態度は必要とされて持たされたものなのかもしれませんが…むろん、彼ら自身にとってそんな事は関係ありますまい。たとえどのようにお膳立てされたものであっても、そこから先の思い出はまぎれもなく本物で、だれにも否定はできないのですから。
・クワガーモン
デジアドシリーズを通しての名脇役のひとり。同時に記念すべき敵役第1号ということになります。キチキチキチという非人間的な鳴き声といかにも怪物然とした容姿は、かわいらしい成長期たちとは明らかに異質。ホントはパートナーたちも進化していけばゴツくなるんですが、この時点では見かけと大きさのギャップがうまく危機感をあおっていました。
そんな嫌われもののクワガーモンですが、
のちにパートナーを得た個体も出現したので恵まれているといえるでしょう。
進化バリエーションは今やカブテリモンをしのぐほどですし、ファンからは好かれているにちがいありません。
かく言うわたしもなかなか好きな個体です。
・
見せかけの樹
あとで山ほど出てくる不条理シリーズの第1号。あれらの多くは視覚的に奇妙なのですがこれは空間的に奇妙。
よく考えてみたらデジタルワールドの樹がりちぎに根元から生えてくる証拠なんぞどこにもないので、アレはひょっとしたら外側のデータとテクスチャが先にできて、まだ中身が詰まってない樹だったのかもしれません。
・
ナレーション
低く語りかけるような平田広明さんの声がすこぶる耳に残ります。これがだんだんノリがよくなって、02になるころにはかなりハイテンションになる事もあるんですがそれはまた別の話。ほかの声優さんたちもベテラン以外は微妙に演技がちがってて、興味深いところです。いちばんちがって聞こえるのはやっぱりモチモンの櫻井さん。まだ演じ方をつかみ切れてない感じです。あとになってくるとだんだん文字通りモチモチした演技になってくるんですよ、これが(^^;)
★名(迷)セリフ
「ボク、コロモン! タイチ、待ってた」(コロモン)
なにげないセリフですが、デジアドを語る上でははずせません。これこそがデジモンたちの存在理由をかたちづくるひとつだからです。この「待ってた」という言葉、あとあとまで…それこそ02まで実効をもちつづけることになりました。
「んー…… 確かめてみなきゃな!」(太一)
ファイル島に跳ばされて光子郎と合流した直後、ひとしきり周りをみわたして。
どことなく楽しそうなあたりに好奇心ゆたかな少年のバイタリティが感じられますが、まだ状況を正確に把握しきれていないがゆえの楽天的態度ととることもできそうです。
「ばかやろう…ムチャすんな! …でも、おかげで助かった…ありがとう…」
「タイチ…」
(太一&コロモン)
おそらくこの時、太一はコロモンのことを完全に味方で、信頼していい存在なのだと理解したにちがいありません。
礼を言われたコロモンのほんとうに嬉しそうな顔がポイント。
「行かなきゃ…ボクたちが戦わなきゃいけないんだ…!」(コロモン)
「そうや…ワイらはそのために待っとったんや…!」(モチモン)
「行くわ!」(ピョコモン)
「オイラも!」 (プカモン)
大ダメージを受けているにもかかわらず、この台詞。
思えばタケルが受けた痕は、こうした無限の献身に端を発した部分もあるのではないでしょうか。
「このくらい大丈夫!」 (アグモン)
進化前ならダウン必至の打撃をくらって。強くなっていることがよくわかります。
太一よろしく彼の音頭で繰り出される技もぐんとパワーが上がっており、力をあわせれば成熟期からさえダウンを奪うほど。
こうしたまったくちがう型どうしのチームワークは、
ファイル島では類をみないものだったのかもしれません。
★次回予告
重苦しくはじまったと思いきやしだいにボルテージアップしてゆき、タイトルコールではほとんど叫んで最後にふとクールダウンする平田さんの語りが、これまた特徴的です。予告用ショートButter-flyがまた良く馴染むこと。
次回ではこの1話を受け、さらに突っ込んだ描写がなされます。いまからなぜか私までわくわくしてきました。