爆裂進化!グレイモン

 脚本:西園悟 演出:角銅博之 作画監督:信実節子
★あらすじ
 デジモンたちのおかげで、かろうじてクワガーモンの手からのがれた子供たち。しかし河に落ちてしまったため、かなり流されてしまいました。状況もまだ把握し切れないまま、とりあえず海をめざすことになります。

 浜辺にはなぜか電話ボックスがならんでいましたが、まったく役に立ちません。やむをえず、食事をはじめようとしたところに巨大なデジモン・シェルモンがあらわれます。ここは彼のナワバリだったのです。デジモンたちが立ち向かいますが、腹ペコで力が出ません。直前にご飯を食べていたアグモンだけが頑張りますが、気を引こうとした太一がつかまってしまいます。大ピンチのなか、またしても光りはじめるデジヴァイス。アグモンが巨大な恐竜の姿をした成熟期、グレイモンに進化しました。その力はすさまじく、みごとにシェルモンを撃退せしめます。

 これ以上の危険がおそってくる前に、7人と7匹は浜辺をはなれることにしました。



★全体印象
 2話です。タイトルコールは坂本千夏さん(アグモン)。
 あらためての状況確認とファイル島の概要紹介、今後どうするかの相談など、1話をしっかり受けての展開になってます。最初のアクション以外Aパートはほとんど会話ばかりなのですが、各キャラがいよいよ自己主張をはじめているので退屈はしません。あとで見て納得するような描写もあったりするので、当初からの安定度では「テイマーズ」に匹敵するかそれ以上のものがあるでしょう。

 また、後半にはグレイモンの初登場とシェルモンとの重量級マッチが用意されており、バトル面でも見応えじゅうぶん。がっぷり四つからハイドロプレッシャーを炎で相殺、間髪を入れず下からグレートアントラーですくい投げ→メガフレイムのコンボ攻撃と、おのれの肉体と能力を最大限にいかした初期の傑作といえます。こうしたいかにもモンスター(怪獣?)然としたカラーの戦いは、後年になるほど減っていくことになるのですがそれはまた別の話。

 スタッフについては脚本・演出がともに前回と同じ。作監担当の信実節子さんはのちに02、テイマーズと2年連続で総作画監督をまかされるウデの持ち主です。じっさい、山室直儀さんが本格参加するテイマーズ後期まではもっとも達者なひとりでした。01においても演出との噛み合いが非常によく、この人が担当する回は安心して見られたものです。グレイモン対シェルモンを見れば納得といったところでしょう。
 またこの回に演出助手として、地岡公俊さんがシリーズ初登場。テイマーズ終盤の名篇「ベルゼブモンの拳」で初の演出メインを務めて以降、フロンティアはもちろんのことガッシュでも定評を保ちつづける、これまた腕利きの人です。
 いちばん最近(2004年10月現在)の演出は「シェリー気高き輪舞 炸裂バベルガ・グラビトン」。まあ、絵もよかったんですが。



★OP小ネタ
 いきなりぶん回される7人からはじまりますが、タケルが小さいぶんだけいちばんめちゃくちゃに振り回されています。
 完成度のたかいOPなのはうたがう余地もありませんけど、周知のとおり、ファイル島篇イメージのまま絵が最後まで変わりません。後半にヒカリが加わっても変わりませんでした。かなり見切り発車だったそうなので、予算が間に合わなかったのでしょうか。



★各キャラ&みどころ

・太一
 まだ無神経で無謀なところが多々ありますが、あいかわらず積極的。正体不明だろうがなんだろうがトライしてみてます。
 ただ、やはり熱血漢というのとは少しちがっており、さりとて冷静というのとも少しちがい、むしろ淡泊な感じ。攻撃的な面も実はそんなにないので、突っかかるのはたいていヤマトの方だったりします。そのかわり、やると決めたら岩をも通す意志があり、それが自然とみんなの求心力になっていったのでしょう。02の大輔が典型的な熱血漢&イジラレなので、うまく差別化がされているとわかります。
 もちろんこの段階で見える部分だけがすべてじゃないのですが、それは後にゆずるということで。


・ 空
 すでにもうこの頃から微妙な表情で空気を作ってくれてます。
 丈ではなく、太一の決定にほっとするような顔とか、ひそひそ話をする太一たちを横目にやけに声高にミミへ振るあたりの流れなど、じつに秀逸。
 BOXのブックレットで正式に明かされたのですが、彼女は物語開始以前からヤマトとタケルの関係について知っていたとか。これ、後付けだとばかり思ってたのですが、今回を見返してみて確信しました。彼女は間違いなく知ってます。
 まあ実のところ、01の時点では重要な要素じゃないのですが、02での顛末を思うといろいろ興味深いものがありますね。
 少なくとも、太一がいないときに彼女がまず声をかけるのはヤマトのようです。


・ヤマト
  そろそろ「らしさ」を出してきました。さっそく太一に突っかかってます。とはいえ、こんな程度なら序の口ですが。
  おもしろいのは言ってることに一理あっても、簡単に熱くなってしまうので突っかかるような口調になるあたりでしょうか。クールであろうとしても感情を律し切れずさりとて素直にもなれない、シャイな性格が匂わされてます。うんざりした様子の太一と好対照をなしていました。


・光子郎
  本領発揮はまだですが、その独特の見地ですでに存在感を確保してます。バリバリの理系ということも確認。
 そのため、本来リーダーを張っていたはずの丈のお株をうばうことが太一なみに多かった印象です。それでいて子供らしい表情を見せることも多く、ステレオタイプの頭脳少年とは一味ちがうアピールもなされはじめてます。
 また太一との間柄も見のがせません。先輩後輩の間柄ですが名コンビのひとつですし、以前からウマが合ったようです。それゆえか、太一も彼にはけっこう気軽に話しかけているし、物の貸し借りもしょっちゅうやってるようですね。
 裏設定では太一・空と同じくサッカー部らしいのですが、さすがにあんまり想像できません(^^;)


・ミミ
 まだそんなにしゃべってませんが、くるくるとよく変わる表情が華やか。
 どんな時も絶対に自分の気持ちをかくさずハッキリ物を言う性格は、もうすでに出来上がってきてます。


・タケル
 ミミと同じくらい、表情のメリハリがハッキリしていますし無心にものを言います。でもワガママではないので、表面的に見えるよりもずっと精神年齢が高いという仕掛け。ヤマトに意見を求めることなく電話ボックスに駆け寄るあたりにもそれがあらわれてますし、同時に兄であるヤマトより、太一の行動にひっぱられているということもわかります。さらに言えばその時の台詞も次回への伏線。


・丈
 今回からしばらく空回りをはじめるのですが、この回はとくにものすごい勢いでぶん回っています。
  本人にはまったく悪気もなきゃ威張り体質でもないのですが、とにかく外したりお株を奪われてばかり。とはいえ、それが今の彼であり、段階を経なければ後半への説得力が出ません。ここは耐えるんだ、丈。
 まあ、お株をとられたり無視されたからといっていちいち根に持ったりする子ではないし、そのへんは人の好さでしょう。


・パートナーデジモンたち
  前半であげたいのはミミをキャッチしてポイズンアイビーで崖に引っ掛かろうとするパルモンと、マーチングフィッシーズで魚の絨毯をつくり衝撃をやわらげたゴマモンでしょう。もっとも前者はつかんだところがあっさり崩れたし、後者は技を展開する前に丈が思いっきりブチ落ちてるんですが…(^^;)
 ゴマモンといえば、シェルモン戦ではひとりだけなんにもしてませんでした。丈に声をかけてただけ。お前も戦えよ(笑)。
 テントモンとパタモンはまだ演じかたを掴み切れてないようすです。


・グレイモン
 成熟期進化の記念すべき第1号。挿入歌の「Brave Heart」は前回でも流れてるんですが、やはり今回の方がインパクトはあります。
 上述のように、みずからの武器をフルに活かしたシェルモンとの戦いは初陣をかざるに充分すぎるほどのもの。
 ところでメガフレイムは周知の通り火球をはきだす技なのですが、どうやら普通に吐き出すこともできるようですね。凝縮されてないので一点の破壊力は落ちそうですが、それでも水の流れ程度ならせき止めてしまえる上、沸き上がる水蒸気で敵の視界をうばうことにも成功しています。必殺技というよりは、炎を出す器官を使った応用みたいなものでしょう。


・シェルモン
  意外と出番の少ない個体です。41話でちょっと出たあとは02の5話くらいにしか出ませんし、フェードアウト気味。
 なので、この回は圧倒的な巨大感により最大の見せ場を作っているといえましょう。ドリル状の貝殻と、爬虫類とも両生類ともイソギンチャクともつかぬ本体がなかなか個性的なだけに、これが最初で最後にならないことを祈るばかりです。


・ 砂浜の電話ボックス
 不条理シリーズの第2号。光子郎は「不合理です」と言ってました。
 しかし、じっさいにはまったく役に立たないうえ、デタラメな情報ばかりが流れてくるので、ただ電話ボックスの形をしてるだけのポリゴン張りぼてのようなものです。もちろん、現実世界と連絡を取ることなどできません。
 なんでこんなものがあるのでしょう。そもそもこの場所には得るものがなく、お話のうえでも無意味なように見えます。
 しかし、 後の展開を見ていくとあれこれ類推できる要素が出てくるので、いちがいに切り捨てることはできません。むしろこうした一見わけのわからないものの積み重ねこそが視聴者側にとっても制作側にとっても、説得力をつくる材料になるのでしょう。
 ところで、こういう唐突さは「ナルニア国ものがたり」にも見られます。寺山修司だけでなく、そっちも意識してそう。



★名(迷)セリフ

「光子郎!」(テントモン)

 冒頭。やはりまだ呼び名や演じかたが固まってません。ひょっとして「光子郎はん」は櫻井さんのアドリブ?
 そういえば、テントモンは3話でもヤマトを呼び捨てで呼んでます。まあヤマトを名前で呼ぶこと自体あまりないけど…。


「ふーん…とにかく、前より強くなったみたいだな」(太一)


 あれこれ説明を受けて。大筋じゃまちがってませんが、アバウトです。


「ボクは自分だけじゃ進化できなかったんだ。きっと太一と会ったから進化できたんだよ!」(アグモン)


 この台詞は半分正しく、半分まちがってます。一応、パートナーなしでも進化はできます。
 でもそれにはたぶん、ほかのデジモンなみかそれ以上の時間がかかるのでしょう。ましてや完全体以上となるとなおさらです。
 アグモンたちの場合も、実のところ幼年期1から幼年期2までは進化してました。でもそれ以上となるとまったく進化できず、ほかの個体にずっと後れを取っていたのかもしれません。森を熟知していたのも、7匹で生き残ってきた知恵のたまものでしょうね。


「ミミ、光合成ってわかってる?」
「え? よく知らないわ、どんなことなの?」
「いやあ…あたしもよく知らないんだけど」 (ミミ&パルモン)


 海へむかいながらの会話で。この二人はわりと最後までこんな調子です。


「ここにはデジモンしかいてまへんって」 (テントモン)

 なら、あの大量の魚はいったい…。それとも知的生命はデジモンしかいないと言いたいのでしょうか。


「見えたよ、海だーぃ!」 (ゴマモン)

 嬉しそうです。そしてちょっとしたセリフでも、デジモンたちの性格や嗜好がわかります。


「丈らしいよ…」 (太一)

 これも、以前の関係を類推させるセリフです。しかしいちおう上級生なのに、形式上の礼儀すらないのな、太一(^^;)


「ここでじっとしてても時間のムダだよ…」
「しばらく様子をみたらどうだと言ってるんだ! みんな疲れてるんだぞ」 (太一&ヤマト)


 太一対ヤマト第1号。しかしこの二人の場合、これくらいではまだまだ衝突とすらいえません。
 で、なぜか正論を言ってるほうが声荒げてます。


「うん! 夏休みだから、お兄ちゃんのとこに遊びに来たんだ。ね、お兄ちゃん」
「あ、ああ…」
「ヤマトがお兄ちゃんだってさ」
「従兄弟ですかね?」
「……ミミちゃんはなに持ってるの? そのバッグ、大きいけど…」 (タケル→ヤマト→太一→光子郎→空)


 問題のシーンです。眼で語る女・武之内空に注目。


「非常食は、一班につき3日分支給されている! ぼくの班は6人だったから、6×3×3で…」
「54食ですね」
「…そうだ。それを7人で分けると…」
「2日半ですね」
「……そうだ」
「…でもデジモンたちのぶんもあるから、じっさいにはその半分、1日ちょっとよ…」
「そ………そうか…」 (丈&光子郎&空)


 丈…………。


「アグモン、おれたちだけでなんとかするぞ!」
「わかった、太一!」 (太一&アグモン)


 おお、もうすでに息ぴったりではありませんか…。進化できるわけだ。



★次回予告
 さて、3話からは各人へ本格的にメスが入れられはじめます。一番手はヤマト。
 こうしてみると、ロングでの作画レベルがガクンと落ちてるのがわかります(汗)
 太一はわりと全編にわたって描かれていて、ほんとの個人話はもっと後。まあ、この2話が実質の太一組エピソードでしょう。