蒼き狼!ガルルモン
|
脚本:吉田玲子 演出:川田武範 作画監督:出口としお |
★あらすじ
夕暮れ、大きな湖にやってきた一行。とりあえず食料を確保し、なぜか浮き島の上にあった新品の路面電車をホテルがわりに一夜をあかすことになりました。そんな中、ささいなことで喧嘩になりかけた太一とヤマト。ヤマトは太一に、過去を語ります。彼とタケルが実の兄弟であり、両親が離婚したため、いまは離れて暮らしていることを…。
やがて突然地震が起こります。原因は巨大なシードラモンでした。浮き島の下にいたのを知らずに刺激してしまったのです。
島ごと引っ張られ逃げ場のない仲間たち。湖に落ちたタケルを逃がそうと、ヤマトが時間かせぎをしようとしましたが、逆につかまってしまいました。ヤマトに生命の危機がせまったとき、まばゆい光とともにガブモンが進化! ガルルモンの登場です。
猛攻をものともせず、ガルルモンはみごとにヤマトを救い、シードラモンを撃破しました。
やむにやまれず、野宿をすることになった子供たち。
太一のやや遠目には、ひとりブルースハープを奏で、タケルを寝かしつけるヤマトの姿がありました。
★全体印象
さて第3話です。タイトルコールは山口眞弓さん(ガブモン)。背景の影絵はガルルモンです。
今回から、いよいよ各メンバーへの掘り下げがはじまりました。基礎が前二話でできているので仕込みはじゅうぶん。非常に見応えのあるエピソードがつづいてゆきます。この初期話数がどれだけ大事かはいうまでもありませんから、成功すれば最低でも佳作になりますし、失敗すれば佳作未満で終わる可能性がはね上がります。この場合はもちろん前者でしょう。
で、今回はヤマトのお話。兄弟の絆が描かれる話でもあるので、多少はタケルが描写されたお話でもあります。
突っ慳貪でクールな見かけのヤマトですが、ここでその裡にひめる激しさと不器用な情の深さ、そしてある意味天然キザな行動が存分に描かれています。ヤマトという少年を知りたいなら、このお話を見れば半分近くはクリアーできるでしょう。
また、ごく自然体にヤマトへ接し、彼の本質をいち早く見抜いていたガブモンのパートナーっぷりも注目に値します。
ヤマトもぶっきらぼうに接しながら、知らず知らずそばにいるのを当然のように捉えており、ここからガブモンとの間柄が彼にとってタケルとも太一ともちがう、ある意味特別なものなのだと類推ができましょう。
デジアド系のパートナーがかぎりなく自分自身に近い、分身のようなものだというコンセプトが良くわかる組み合わせかもしれません。
そんな3話を綴りあげたのは吉田玲子さん。02までの映画版すべてで脚本を担当し、ジブリの「猫の恩返し」にも抜擢された腕の持ち主です。ほかにも「ボンバーマンジェッターズ」など多くの番組で活躍しているので、アニメファンにはおなじみの人でしょう。得意とするのは繊細な感情の動きをとらえた、シリアス寄りのお話。01でもこの3話や21話を筆頭に、名篇をいくつも生み出してくれています。
ただ脚本以外がそれほどでもないので、お話ですべてをまかなってる回といえそうですね。
といっても02後半で活躍した竹田欣弘さんが作画補佐にいるおかげで、特にアップについて鑑賞にたえる絵になっていますし、演出もマシなほうです。ときどきぴょんぴょん飛ぶような場面転換になってるのには首をひねりますが、それくらいのもの。
テレビ作品の宿命として、ばらつきは避けがたいものです。まして東映の場合、1つや2つに注力してるわけではないのでなおさらでしょう。むしろいち早くCGを導入したり、海外スタッフを育てたりしているぶんだけ先見の明があるともいえます。
★アバンタイトル
穏やかな音楽に乗って静かに語りだす平田広明さんのナレーションが印象的な、名物シーンのひとつ。
しかし、この静けさが本編開始直後にやってくるため、視聴にさいしては不思議と緊張感が高まってゆくことになります。
私などはこれで平田さんの名を記憶に刻みました。
このイメージは、のちにフロンティアでも踏襲されることになります。
★各キャラ&みどころ
・太一
今回はちょっとイタズラ好きなところが強調されてます。ハッキリものを言う性格も同様に強め。多少のことは気にせず人をぐいぐい引っ張っていく積極的な姿勢が早くもタケルへ影響をあたえ始めてますが、これがヤマトにストレスを溜める原因になったわけですね。
とまあ、一歩まちがえれば無神経というデフォで綱渡りなキャラですが、そのわりには女子へ妙に気配りがきくのもたしか。
鑑みるに学校では人気者なんでしょうが、彼へ苦手意識を持ってるクラスメイトもそれなりにいそうです。
・ 空
今回はじめて「丈先輩」の発言が出てきます。空に丈をこう呼ばせたのは吉田玲子さんだったんですね。初期設定かもしれないけど。
4年生以下のメンバーも(ミミでさえ)それなりに敬意をはらっていますので、5年生組で丈を先輩と呼ぶのは彼女だけです。
で、この回でとうとう直接太一から質問を受けるんですが、ヤマトとタケルの関係について話すことはありませんでした。
…考えてみればこれはつまり、空は太一と同等かそれ以上にヤマトと親密ってことになります。
・ヤマト
今回の主役。慎重論者なわりに口と同時に手が出ています。
彼が太一にかかえているなんとも複雑な気持ちはここから始まりました。それまではなんとなく気にくわないライバルのようなものだったのが、タケルの件をきっかけに太一のどこが気に入らなかったのか一気に見えてきて、翻っては自分の反芻におちいってしまい、なんだか自己嫌悪に入ってしまう。そんなループをかかえたスッキリしない気分のとき、彼はひとり無心にかえり、音楽を奏でるのかもしれません。
そう考えると、02でああなったのはある意味必然だったといえそうです。
音楽もまた、荒れた心を鎮めてくれる彼にとっての友だったのですから。
…え? じゃあ02最後のオチがなんでアレなのかって? …さあ…。
・光子郎
なにかと鋭い意見を口に出す彼ですが、今回はヤマトの話なのでおとなしめ。
しかし、実は冷静な裏でそうとう気遣いをしていたことがわかります。でもそれは単に集団行動への不慣れから来るものでしょう。もともと彼は、一人黙々とパソコンをいじってる方が性に合っていたはずです。単独行動の多さもその証左。だから、サッカー部へは太一に引っぱり込まれたという説がなりたつんですが…。
あと、この話でしか描かれてませんが釣りはそうとうやり慣れてそうですね。
・ミミ
前回でもそうでしたが、端々のセリフから育ちのよさがにじみ出ています。
しかしパニック状態から立ち直りつつあるので、彼女本来の顔がじょじょに見えはじめました。いったん状況を受け入れてしまえばどんどん順応していくあたり、その心の幼さと同時にそなえ持つ許容値の高さがうかがえます。
・タケル
主役ではありませんが、前2話にくらべればグンと自己主張をはじめてます。いくつかには太一の影響もありそう。
ただ、そうした主張はことごとくヤマトに遮られる結果に終わるのですが。
こうして見ると、タケルは冒険に巻き込まれる以前から皆の、さかのぼれば母の足手まといにならぬよう精いっぱいなのがわかり、ために望むと望まざるとにかかわらず、精神年齢をみずから引き上げつづけてきたのかもしれません。終盤ひいては02の兆候がこの頃からすでにあらわれていたことになります。ただ、初見でそこまでを読むのはちょっと難しいでしょうし、事実私はできませんでした。
ただ、タケルがいずれ一人でその資質をためされる時がくるだろうとは予想してましたが、その手のシークエンスは成長譚にあって必然のできごとだといえるので、予想のうちにも入らないでしょう。
・丈
まだまだ率先して音頭を取ろうとしていますが、ことが決まってからとってつけたように声を上げるパターンがほとんどなので、主導権を握れていません。でもヒマができると現在位置をたしかめようとしていたり、彼なりに懸命なのがわかります。
またゴマモンの活躍へ快哉をあげるなど、パートナーらしくなってきました。
・デジモンたち
なんといってもガブモンでしょう。ヤマトの意図を汲み取り、その本質を衝く発言をしながらも無駄口はたたかず、自然と隣位置を獲得しているあたり並大抵ではありません。奏でる音色からもヤマトの本質を見抜いており、それもまた進化のキッカケとなりました。
そのほかではタケルが湖に落ちた途端に0.5秒で助けに飛び込んだゴマモンが挙げられますね。バトル後でも、得意のマーチングフィッシーズで浮き島ごとみんなを湖から脱出させています。とにかく水中に関しては彼の右に出るものなし。危機にさいしてのふだんから想像できないほど鋭い動きは、パートナーデジモンたちに共通する特徴といえるでしょう。
あとはテントモン。ほかの子より博学だということがわかりますが、これ以後はそんなに強調されません。そのほかのデジモンもそれぞれの得意分野をいかし、ちまちま小ネタ的出番があります。
・ガルルモン
第二の成熟期進化として出現したのは、疾風の身のこなしと正確無比な攻撃でほかを圧する蒼き狼、ガルルモンです。
堂々とした巨躯と、白虎と狼のあいのこのような毛並みはまさに人知を超えた獣というイメージで、ヤマトとはベストマッチ。OPで彼を乗せて風のように走り、満月をバックにして天高く跳躍する姿が印象にやきついている人もいるでしょう。
デジモンの進化系はサイバードラモンなどのように完全体からふくらませていった場合をのぞき、多くの本質が成熟期で決まるのですが、グレイモン系やガルルモン系は顕著な例。なぜなら、完全体以降はすべて上乗せのイメージになっているからです。
ところで、進化すると声にエフェクトがかかるのですが、回を追うごとに度合いが弱くなっていきます。
おそらく声が変わりすぎて聞こえたり、聞き取りづらかったりする可能性を懸念しての措置でしょうけど、これが同時に進化へ慣れてゆき「パートナーデジモンに宿った大きな力の姿」から「これまで以上の力を自身のものにしたパートナーデジモン」へと変容してゆく過程をうまいぐあいに表現してくれていました。少なくとも私はそのように感じています。
・シードラモン
デジモン黎明期から存在する個体のひとつです。数少ない純水中型のなかでも強大な力を秘めている系列ですから、もし完全に水中のみの勝負となれば同じ成熟期でも大ピンチに陥るでしょう。スピードと泳ぎに長け比較的軽量、かつ鋭利な毛並みをもつガルルモンだからこそ土俵を守ることができたのかもしれません。必殺のアイスアローも水上ではやや効果が薄かったようです。
その後のお話にはすべての進化系が登場、02でも意外な活躍、テイマーズでは40話で究極体がちらりと出てくるなど、結構優遇されてます。出現場所が限定されているぶん、シチュエーションに絡めやすかったのでしょう。
クロニクルでもX進化を獲得しています。
・モノクロモン
前半に少しだけ出てきます。草食性のおとなしいデジモンだそうですが、大きくてするどいキバにいまいち説得力がありません。
それにモチーフの角竜よりでかく見える巨体なので、ただ近寄ってくるだけでも相当びびるでしょう。
とにかく防御力の高さが特色で、石が雨あられとぶつかろうが火の玉が直撃しようがノーダメージ。乾いた音をたててはね返されるだけです。そのうえ巨大な角をいかしての突進と遠距離攻撃可能な必殺技を持ってますから、怒らせたら人間では太刀打ちできますまい。
なわばり争いの末崖から落ちてゆきましたが、あの程度では両方とも死なないでしょう。むしろ溺れないかが気掛かり。
02でみごとパートナーデジモンの地位を獲得した個体でもあります。
・ 路面電車
不条理シリーズ第3号。まだ新品みたいなので少し前に形成されたのか、それとも子供たちのゆくてに忽然と現れたのか…。
電話ボックスとはちがって壊されることはありませんでしたが、その理由はのちに明らかとなります。
★名(迷)セリフ
「あっ!」
「タケル!」
「大丈夫だよな、タケル!」
「うん!」
(タケル→ヤマト→太一→タケル)
モノクロモンから逃げる途中、タケルが転倒したときのやり取りです。
ヤマトは速攻で助け起こそうとするのですが、太一は先を走りながら声をかけただけ。そして当のタケルはというと泣き顔のひとつも見せず、太一に遅れじとばかりに起き上がって走り出しました。このときのヤマトの表情に注目。
思えばタケルは一話の段階からもうだいぶ自己判断ができており、ヤマトはそれをあわててフォローしようと空ぶりを続けてます。
「わ〜、大きな湖〜」(ピヨモン)
長年ファイル島に住んでるのに知らなかったのか…。
まあ進化する前は低空飛行さえできなかったわけだし、活動範囲はごくせまいエリアに限られてたのかもしれませんが。
そうするとモチモンはわりと単独で知識をかき集めていたことになります。なんだか光子郎に似てるかも。
「そんなことしたら身がくずれるだけだろ。それに、魚は遠火で焼くもんだ」
「やけに詳しいな、ヤマト」
(ヤマト&太一)
光子郎が釣った魚を手で持って(!)火にかざしてる太一にヤマトがツッコミを入れ、正しいやり方を教えるシーンです。
すぐ後にどういう家庭環境なのかがわかるんですが、これはその伏線。さらに言えば35話の伏線にもなってます。
「タケル」
「なに、お兄ちゃん?」
「骨取ってやろうか?」
「頭からガブッといけ!」
「うん!」 (ヤマト→タケル→ヤマト→太一→タケル)
魚を美味しくいただいてるシーンにて。この場面でもタケルは太一にひっぱられています。そしてまたヤマトの微妙な表情。二度ともなにも言ってませんが相当おもしろくなかったようで、これが後に喧嘩未遂の原因となります。
この「骨取ってやろうか?」は「魚は遠火で焼くもんだ」と並んでヤマト語録に連なるほどファンの間では有名なものですが、こういうセリフが出てくるのは吉田脚本ならでは、という意見も耳にしたことがあります。
「なあ空、タケルはヤマトのことお兄ちゃんって言ってるけどあの二人、名字ちがうよな? 何でだ?」
「私、知らない…」 (太一&空)
2話につづいてある意味重要なシーン。ここだけ見ると普通に流せますが、前とあわせて見返すとまったく違って見えます。
そういう目でみると、空の答えかたがひどく不自然に聞こえるから不思議なもの。考えてみれば、もしほんとうに知らないのなら
「さあ…何でなのかな」と疑問風返事になる方が自然なはずです。それをことさらに自分は知らない、と答えているので、
「ハッキリ否定をする必要があった=何かを隠しているかもしれない=2話とあわせて考えると知っているにちがいない」
このようになります。ですので、02でああなる事がやはりある程度計算されていた可能性が高くなります。
少なくとも、ヤマトと空のあいだに他とちょっと毛色のちがう関係がこの時点からあったのはたしかでしょう。
「よせッ! 嫌がってるだろ!」
「突き飛ばすことないだろ!」
「やめて、ふたりとも!」
(太一&ヤマト&タケル)
ガブモンの毛皮をはぎ取ろうとした太一をヤマトがいきなり突き飛ばして、あわや大喧嘩! 太一対ヤマトその2ですが、これでもまだまだ序の口。太一としてはまあ、半分興味本位で半分イタズラ心といったところでしょうが、ヤマトのほうはマジです。いままでの鬱屈が、ちょっとしたきっかけで爆発したのでしょう。こうなると太一としても売られた喧嘩は買うので、さっそく襟首のつかみ合いになりました。
このとき、制止をするタケルの顔は写ってないのですが、彼にとって黙っていられない光景なのは確実。
(明日も朝から晩までみんなと一緒にすごすなんて…疲れそうですね)(光子郎)
眠りにつく前の本音。慣れてないゆえの気疲れからくるもののはずですが、はじめて見たときは少し驚いたものです。
「照れ屋なんだから」
「それはおまえだろ」
(ガブモン&ヤマト)
ヤマト、見抜かれまくってます。終わりの方にもう一度、同じやり取りがあります。どっちもタケルがらみ。
「俺…いつもこうだから。だからタケルも、おまえのほうに懐くんだろうな…」(ヤマト)
そんなヤマトですが、己を律し切れない自分自身にもいらだちを持っているようです。
これが18話での「自分を鍛えたい」に一部つながっているってことでしょうか。
「やさしい音色だね…」 (ガブモン)
眠れないまま、ひとりブルースハープを奏でるヤマト。そのそばにただ一言だけを贈り、ガブモンが佇んでいます。
この二人はこういう構図が似あう。そしてこーゆーところが天然キザで面白い人&モンと言われる要因のひとつなんでしょう。
「ボ、ボクのせいだ! ボクを助けようとしてお兄ちゃんは…!」 (タケル)
シードラモンに攻撃を受けたヤマトを目の当たりにして。
やはり彼は、自分のせいで誰かに迷惑がかかるのを非常に恐れているようです。
「もうヤマトのハーモニカが聴けないなんて…! あのやさしい音色が聴けないなんて…!」 (ガブモン)
シードラモンの前に生命の危機に立たされるヤマトを見て。このセリフから進化につながります。
あの夜の演奏会が、最初の絆になっていたということでしょう。
★次回予告
さて次は、空とピヨモンのお話。
いよいよ今村演出回がやってきました。この回は初見でもっとも印象を残したひとつなので、
またまた気合いを入れて書いていきたいと思います。