灼熱!バードラモン

 脚本:吉村元希 演出:今村隆寛 作画監督:海老沢幸男
★あらすじ
 森の中を進む太一たち。そのはるか上空を猛烈な勢いで黒い円盤状の物体が飛んでいきます。あれは一体、なんだろう?
 視界がひらけた先にあったのは、なぜか電信柱の林立するサバンナ地帯でした。へとへとになりながらの道中、無邪気にじゃれついてくるピヨモンへ辟易する空でしたが、いつしか当初とは少しずつ違った感情をいだきはじめます。

 たどり着いたのは人間の住み処ではなく、ピョコモンの村。水だけは豊富にありましたが、それが突然干上がりはじめました。あの黒い物体がメラモンの体へ突き刺さり、凶暴化した炎が暴走をしていたのです。あわてて逃げる一行でしたが、ピョコモンたちを避難させピヨモンにメラモンの燃える拳が! 間一髪のところで、受け止めたのは空でした。今度は自分のばんだとメラモンへ立ち向かうピヨモンですが、まったく歯がたちません。アグモンたちの援護も文字通り、焼け石に水です。もう駄目なのか──。

 そんなとき、空と皆を護るために立ち上がったのはピヨモンでした。灼熱の巨鳥・バードラモンへの進化がはたされます。
 必殺のメテオウィングによってメラモンの背中からあの物体─黒い歯車が抜け、砕けました。これがメラモンを狂わせていたのです。
 正気に戻ったメラモンが立ち去り、一行はようやく食糧にありついたのでした。
 


★全体印象
 さて4話です。タイトルコールは重松花鳥さん(ピヨモン)。背景の影絵はバードラモンです。
 今回はヤマト組(とタケル)につづき、空とピヨモンへスポットがあたったお話。甘えん坊でスキンシップが大好きなピヨモンにあきれながらも気になってしかたなく、いないことに気付いて思わず走り出す空はまるっきりお節介な姉といった印象。この二人はいずれほんとうの姉妹…ひいては親子のようになります。じっさいはもっと複雑な関係ですが、いちばん近いイメージでしょう。

 演出では、「ディアボロモンの逆襲」「古代デジモン復活」で監督をつとめる今村隆寛さんがシリーズ初登場。デジモンシリーズはおろか東映をざっと見渡してみても、この人以上の演出家は恐らくそう多くないでしょう。映画をまかされるのも納得です。また仕事も早いらしく、映画制作期間以外はふつうにローテーションへ入ってるのにも注目。01といえば最初の映画や「ウォーゲーム」の細田守さんへ目をひかれがちですがこの人の存在も忘れてはいけないでしょう。しかもシリーズ全てにわたって貢献をしているのですから。作品の全体的質が保たれる影には、一見地味にみえても腕のいい人がいるのです。今村さんの仕事はそれを教えてくれました。
 なお今村氏は2004年11月現在、「ワンピース」に参加しているようです。でもまた細田さんの影なんだよね…。

 ともあれ、その今村さんの手になる少し雰囲気のちがった画面がみどころのひとつ。最大の特徴は「影絵の多用」「ロングの多用」なんですがもちろんこの回からガシガシ出てきます。おかげで、前3話で普通だった初見での印象がぐっと押し上げられました。私にとっては、ある意味最初のターニングポイントとなった重要なエピソードといえますね。よく見れば地岡公俊さんも2話につづいて補助にはいってますから、それでより心に残る画面づくりが実現できたのかもしれません。

 脚本は吉村元希さん。02で前川淳さんとともにシリーズ構成をつとめ、同番組の最終話を担当した人です。
 担当回をざっと見ると、少年どうしの友情話や女性メインのお話などのほか、テイルモン&ウィザーモン関係もやってますね。02ではより重要な回を書いてたようですが、大きな賛否をよんだ多くがこの方の担当。人によっては苦手意識があるかも。
 ちなみにテイマーズではおもに留姫関係をやってましたが、それを最後にシリーズから抜けたためフロンティアには参加してません。
 芸風のかたよりは否定しきれないものの、腕そのものは悪くないと思うんですが…。

 そして作画関係のスタッフがえらく少ない回でもあります。とくに原画が海老沢作監のほかは諏訪可奈恵さんしかいません。
 ときどきやたら美麗なカットがあるのはおそらく諏訪さんの仕事でしょう。こういうパターンは今回に限りません。



★アイキャッチ
  パートナーデジモンたちのカードが一枚ずつ出てきて、最後に1段階上の進化形態がそろった1枚のカードに変化(進化?)。
  特にバリエーションもなく動きも単純で、残念ながら全シリーズ通してこれが一番つまらないアイキャッチでしょう。
 後半になってメンバーや進化形態がふえても、変更はまったくありませんでした。本編さえ面白ければ瑣末な問題ですけど…。



★各キャラ&みどころ

・太一
 空に見せ場をゆずってはいるものの、要所は押さえています。判断と行動の速さも健在。いざとなれば電光のスピードでタケルを助けます。
 ミミにはたたかない軽口を空へ投げるあたりにはつきあいの長さが垣間見え。

 …というか、太一とミミは案外接点ないんですよね。仲間にはちがいないんですが、一線をひいてる感じ。
 そのぶんは他のメンバーがやってるからいいんですけど。


・ 空
 今回の主役。いつも落ち着いてる彼女ですが、今回ばかりは疲れから言葉を荒げる場面も。
 ただこれにより、当初のともすると大人しすぎるイメージに少し厚みがつきました。
 すぐ後にピヨモンを宥めるのとあわせた一連のシーンは、微妙な関係の変化を思わせます。そのあとピヨモンがピョコモンの村で得意げに一席ぶってる場面ではすっかり呆れてましたが、これがありあまる母性に火をつけた様子。

 思えば彼女が後年どんどん女性らしくなっていったのには、ピヨモンとのやり取りがやはり最大要因としてあるんでしょう。
 誰かをハッキリ意識できるようになったのも、冒険のなかで自然に殻を振り捨てたからでしょうし。
 もっとも、おばさんくさいとまで言われるほど「おふくろさん」な彼女ですから、素質はあったんですが。紋章もぴったり。

 かように母性オーラを放出しまくりな彼女が、この段階ではサッカーで太一とツートップだというのですから面白い。
 身体能力的に差が出にくい第2次性徴前だからこそできる、ちょっと萌えなシチュエーションです。サッカーからテニスへ転向したのには、気持ちの変化だけではなく身体的な原因もあったんでしょう。余計なお世話ですけどね。


・ヤマト
 冒頭でまた微妙な表情を見せたりしますが、それ以降はさほど目立ってません。まあ、前回で主役はってましたからね。
 立場的にはあいかわらず慎重派です。


・光子郎
 デジモンについて熱心に知識を集めようとしていることが、セリフの端々からわかります。
 その普段からの努力は、5話でいかんなく発揮されることに。今回は充電期間。


・ミミ
 そろそろいつもの調子がもどってきたか、前回よりもさらに豊かな表情を見せはじめました。
 得意げに磁石を取りだしたにこにこ顔や、やけっぱち気味に上空へ叫び声をあげるシーンが印象的。

 開き直ると意外に図太いことがこの頃から薄く見えますが、パルモンに帽子を貸してあげる優しさも見せており抜かりはありません。
 でも、今はまだまだ弱音とワガママ担当ですね。


・タケル
 コンセプトとしてある「なにかを我慢している子」を地でいくセリフを冒頭で披露します。
 そんな彼を引っ張るのが太一で、諭したりとりなしたりするのが空。…ヤマトの立場がない。嫌がるどころか、むしろ積極的に食事を摂ろうとしてますし、こうしてみるとホントに手がかからない子です。そのように務めているからなんですが。


・丈
 まだ人間に会えると信じて疑ってません。なんとか自分の常識で判断しようと必死ってわけです。
 この島がどういうところなのか把握しきれてないんですから当たり前ですが。
 ゴマモンを抱きかかえつつ、ピョコモンに群がられてるシーンが今回のチャームポイント。デジモンには好かれやすいようです。
 

・デジモンたち
 まあ文句なくピヨモンですね。重松花鳥さんの時にはとろけるように甘く、時に凛としたお声がとてもよく合うキャラづけです。
 ところで、彼女の口調は空から学んだものだとか。もしそうだとすると、オス疑惑にはこんなところにも判断材料が!
 といってもデジモンに明確な性別はないそうなので、パートナー次第なのかもしれませんけど。

 
・バードラモン
 ピヨモンが進化した巨鳥型デジモンです。
 この系列は巨体が持ち味で、戦闘力はもちろん運搬役としても一級。そのため、成熟期としての出番はトップクラスだった記憶があります。
 メラモン戦は巨大感を強調するロングの演出により、2話につづく名勝負のひとつといえる仕上がり。肩を落とした姿勢から一気に振りあおぎ大きくなったパートナーの名を叫ぶ空が、ものすごく印象的。ベストカットのひとつに上げたいくらいです。

 ところで、必殺のメテオウィングがどうして同じ炎系のメラモンに効くのかという疑問がありますが、単に吸収許容値を越えたのかもしれません。成長期と成熟期の攻撃にはそれほどまでに大きな差があるということなのです。それでも致命的ダメージは受けていませんが。
 一方バードラモン自身のほうは、バカスカ食らってもあんまりダメージになってないようでした。こっちは炎を無効化してた?


・メラモン
 フロンティアを除く全シリーズに出演している名脇役のひとりです。
 全身が炎につつまれたヒューマノイドという、ほかに例のないイメージはデジモンならではのもの。完全体のデスメラモンになると異様性がやや失われるので、私としてはこちらの姿を推したいです。だからといって色違いなだけのブルーメラモンはどうかと思いますが…。
 必殺技のバーニングフィストはメガフレイムに似た火球を発する技ですが、ただでさえ強じんな成熟期の膂力でぶん投げるので物理的衝撃もえらいことになっていると思われます。ピヨモンはかすっただけで吹っ飛ばされてしまいました。

 今回は凶暴化したときのイッちゃった演技と、ふだんの寡黙で男前な演技のギャップが最高ですね。村めがけてものすごい速さで迫ってくる姿も滅茶苦茶インパクトがあり、同族では最大の印象度。というか、02以降はテイマーズくらいしかまともに会話のできる個体が出ませんが…。


・ 森の道路標識、砂漠の電信柱
 不条理シリーズその4。冒頭、雲をくぐって空を駆け抜ける黒い歯車が標識に写りこむシーンは、幻想的ですらあります。
 サバンナの電信柱はこれまた異様な光景ですが、点在する木々の役割を果たしており、なかなか絵になりますね。



★名(迷)セリフ

「あっ! いたたた…」
「だいじょうぶかぁ、タケル?」
「いたぁ……でもだいじょうぶ、ガマンする……」
「ガマンしなくていいのよ? いたいときは、いたいって言っていいんだから」
「うん…ホントは、ちょっとだけいたい…」
「だいじょーぶ、タケリュー!?」 (タケル→太一→タケル→空→タケル→パタモン)


 前後のビミョーな動きをする影絵とヤマトの表情と、タケルの言動やら仕草やらに注目。ここの流れはじつに秀逸。
 ちなみに見てわかるとおりまたタケルが足を踏み外してるんですが、状況は一瞬だけ写る足と影絵の動きだけであらわされています。が、ヤマトより早い太一の行動からして、ちょっと転んだ程度じゃないのは明白でしょう。
 ヤマトはここでも太一に後れを取っており、パタモンも後からあわてて声をかけることしかできてません。後者についての描写は、あともう少し待たないとならないようです。


「あたしは空といっしょにいれば、それで安心」
「そんな、100%安心って言われても……責任とれないわ」 (ピヨモン&空)


 前3話ではそれほどでもないんですが、冒険二日目となる今回をむかえてピヨモンが本領を発揮してきたようです。
 さかんにスキンシップを求めてくる姿勢はしかし、空のもつ豊かな母性を刺激するはたらきがあったはず。


「こんな甘ったれのデジモンと、うまくやっていけるのかしら……」(空)


 一日目はわけもわからず、状況を切り抜けるだけでせいいっぱいでした。
 こんなセリフが出てくるのも、じゅうぶんな休息をとって気分が切り替わったところで、落ち着いてパートナーに接した結果でしょう。
 でもこんなふうに考えること自体、すでにピヨモンを仲間とみとめ、とりあえず帰れるメドがつくまではうまくやっていきたいと思っている証拠でしょうね。まあ、あそこまで永い付きあいになるなどはまさか予想もしてなかったと思いますが。


「ここはいったいどこでしょーう!」 (ミミ)

 得意げな顔→唖然→ヤケになって虚空に絶叫の三連コンボとつづきます。
 最後のシーンでは画面が一気に引くので、サバンナが上から見ると歯車の模様がナスカの地上絵のように走っていることがわかります。
 劇中で名前は出てきませんが、この場所はたしかギアサバンナという名前のはずです。そのまんまだ。


「パルモン、帽子貸してあげようか……?」
「ありがと、ミミ……」
「うん、似合うじゃない!」
「ミミちゃん…ま、いいか…」 (ミミ&パルモン&空)


 サバンナ強行軍の最中。空が声をかけかけてやめたのは、帽子を貸したせいで今度はミミがつらくなると思ったプラス、しかし彼女自身にすら余裕がなかったからでしょう。現にその直後、暑いのもおかまいなしにじゃれてくるピヨモンをなじってしまいます。


「燃えているッ! 燃えているッ! オレはいま、メラメラに燃えてるぜェーーーー!」 (メラモン)

 見りゃわかります。
 メラモン役の中村秀利さんはしぶい演技が持ち味なので、ここまで高音を出すケースはめずらしいかも。
 私の知ってるかぎりでは「鉄腕アトム」(昭和カラー版)のエプシロンくらいです。


「あのバカ…! 仲間を逃がしてるんだ!」 (空)

 直前にフラッシュバックする、ピヨモンのいろんな表情が印象的です。
 無邪気で甘ったれでどこか頼りないパートナーだとあきれていたのですが、だからこそピヨモンを放っておけなくなってたのでしょう。
 彼女がとった行動は、なにも考えずに走り出してピヨモンに注意を呼びかけることでした。


「ピヨモン…ありがとう、ホントに…!」
「ピヨモン、当然のことしただけだよ。だって空が大好きなんだもん!」 (空&ピヨモン)


 結局、ただそれだけなのです。最後に残るは理屈じゃありません。
 以前どっかで書きましたが、ピヨモンはほんとうに、愛するということに対してためらいというものがありません。それを言うなら他のパートナーも同じのはずですけど、よけいに目立って見えるのはパートナーが空だからでしょうか。
 そんなピヨモンに影響を受け、空もまたさまざまな意味で心をひらいていくことになります。


「んー……でも…食べちゃお!」 (タケル)

 このくらいの年だと嫌がって、年長組が付き添い食べさせるようなケースもありうるんですが、そういうことは一切ありません。
 まあヤマトの言う通り、背に腹はかえられないくらいみんな腹ペコだったんですけどね。



★次回予告
 シリーズきっての名参謀にして解説役、光子郎の出番です。後々までかかわる伏線がまたまた張られてます。
 4話とはまったく違う舞台もみどころ。この回は絵と動きもじつによくできてるので、楽しみです。