電光!カブテリモン

 脚本:まさきひろ 演出:芝田浩樹 作画監督:直井正博
★あらすじ
 あてもなく彷徨う子供たちのゆくてに、巨大な工場が威容をあらわしました。
 二手に分かれて探索するうち、片方のチームが動力室を発見。その場にいた光子郎は持ち前の好奇心で徹底的に調査をはじめます。
 一方、太一をはじめとしたもう片方のチームは歯車にはさまれたアンドロモンを発見、救出していました。ところが、感謝されるどころか逆に襲われてしまいます。太一の機転で切り抜けますが、しだいに追いつめられて…。

 光子郎はある発見をしていました。この世界では情報とプログラムそのものが実体化し、エネルギーを持つのです。
 そこへ太一たちが合流。危機にグレイモンとガルルモンが立ち向かいますが、アンドロモンは成熟期を越える進化をした完全体。二体がかりでも歯がたちません。そこでテントモンの申し出もあり、光子郎が工場で解析したプログラムを走らせると、進化がはじまりカブテリモンが登場!すばやい動きと正確な射撃で強敵・アンドロモンの弱点を突き、みごとに勝利をおさめたのです。

 アンドロモンの弱点と思われた右足には、メラモンのものと同じ黒い歯車が埋まっていました。
 正気にもどった彼は詫びを入れ、工場から出られる地下水道に一行を案内します。

 工場をはなれると、使えるようになっていた光子郎のパソコンがふたたび停止してしまいました。一体なぜなのか…。



★全体印象
 5話です。タイトルコールは櫻井孝弘さん(テントモン)、影絵はカブテリモン。櫻井さんがちょっと清麿っぽい。
 1話の段階ですでに、子供たちの中にあって独特の雰囲気と見地を見せていた光子郎がいよいよ本領を発揮しました。未知のものごとに他のだれよりも純粋でおう盛な興味と好奇心を持ち、いったん調べはじめたら何かをつかむまで決して投げ出さない基本姿勢はここでしっかりと提示されています。それと同時に、彼自身の内面にもせまる伏線も用意されていて穴はありません。また、早い段階でアンドロモンという完全体を出し、デジモンにレベル差があることを示したのも大きいでしょう。

 作画と動きも素晴らしい。特に後半のバトルが実にダイナミック。全話通してもこれほどのものはなかなかありません。それもそのはずで、原画スタッフには直井正博さん、総作監の宮原直樹さん、竹田欣弘さんに上野ケンさんと一線級の名前がずらり。劇場版をもまかされたほどのウデを持つ人たちが集結しているのですから、これで駄目なものになるはずがありません。
 また細田さんや今村さんほどひと目でわかる特徴はありませんが、演出の芝田浩樹さんも安定株。担当回に悪い印象が少ないので、飛び抜けていないかわりに悪いところもないという、基本のできた仕事をする人なんでしょう。
 …ところでこのうち宮原さんは、どうやらあの「デビルマン」にCGアニメディレクターとして参加していたようで……。

 で、脚本にまさきひろさんが初登場。シリーズ構成の芯がしっかりしていれば、より実力を発揮するタイプという印象です。
 だからというわけではないんでしょうが、テイマーズでは特に硬派なホンを書いていた憶えがあり、逆に芯が通っているとはお世辞にも言えぬフロンティア後半では見る影も無いほどでした。同じような現象が吉田玲子さんにも起こっています。ただこのお二方は「ボンバーマンジェッターズ」で実にいい仕事をしていたので、それで溜飲が下がったんですけど…。
 つまりスタッフ全体の不協和音がもっともダイレクトに波及するのは、脚本ってことなんでしょう。

 この5話はそれらを差し引いても謎や提示要素が多く、興味深い回です。



★OP
 そういえば、後半の大進撃でエンジェモンだけ必殺技をはなっていないんですね。
 単に構成上の都合なんでしょうけど、おかげで視聴者側にいつ進化し、どんな技を使うのか期待をふくらませる効果がありました。
 それでなくてもあの出かたなら、イヤでも重要な場面での登場が予想できるというものでしょう。



★各キャラ&みどころ

・太一
 ちょっとおバカな面が強調されてます。くずれ顔も目立ちますね。でもアグモンとのやり取りが多めなのは好印象です。
 咄嗟の判断力と行動力は健在。その気になれば実によく周りが見えるようです。これがサッカーにも生きてるんでしょう。


・ 空
 おバカをやる太一にあきれながらフォローを入れる役でした。めずらしく、彼をたしなめるシーンも見受けられます。
 しかし、アンドロモンに足をつかまれてぶん投げられたり、追い回されたりしたわりに先週パートナーが進化したばかりなので出番はお休み。丈ともども今回はろくな目にあっていないようです。こりゃ貧乏クジですね。


・ヤマト
 二話ぶりにパートナーが進化したものの、今回はたいした出番がありません。
 せいぜい、工場のからくりを理解してタケルやミミに説明するシーンくらいでしょうか。


・光子郎
 テントモンのことば通り、今回はいままでになく生き生きしています。
 それまでも存在感のある子でしたが、 ここで一気にアピール度をたかめました。好奇心と集中力ではほかの追随を許さない反面、その知識を鼻にかけるようなことはなく、人と距離を取るかわりに礼を失することもない。そうした処世術を感じさせながらもどこか純粋で可愛らしいところもあるという、この非常にバランス感覚があり、ある意味利口すぎる性格はシリーズ全体を通してほぼ完璧に形成されていくのですが、この5話までを見るだけでもなんとなく感じることができるようになってると思います。

 彼はまさしく解明と解説のためにいるような人物です。お話の都合で後からそうなったわけではありません。この特異な立場から、02ではほとんど便利屋のようになり、先輩組ではもっとも出番の多いひとりと記憶しています。スタッフも彼を「使える」キャラだと認識していたんでしょうが、だとしても妙に納得できる状況なのがまた不思議。
 まあ要するに、彼がそうした記号としてではなくちゃんとした人間として描写されていたってことなんでしょう。
 だって02みたいな状況が起こったら、光子郎なら後輩にまかせきりにせず、自分の目で調べ確かめてみたいと思うでしょうから。


・ミミ
 ヤマトとタケルの後ろにおまけみたいに突っ立っていろいろ妄想をならべ立てていました。
 彼女の活躍(?)は次回なので、あともうちょっとの辛抱。


・タケル
 ヤマトと同じく今回は脇役。ただアンドロモンの標的になったことが、ガルルモン進化のスイッチを入れました。


・丈
 まだまだびっくりしたり悲鳴を上げたりしてるばかり。自分の立場を確立できません。
 しかし基本は真面目な常識派なので、ツッコミ担当という役目はあります。


・デジモンたち
 今回はやはりテントモンでしょう。こうして見ると、危機にも比較的冷静な態度で、しかし決然と行動することがわかります。他のメンバーと違い、ハッキリした言葉でパートナーへの気持ちをあらわすことはあまりないのですが、そこが彼らしいところ。なによりも行動や、伴っての結果でこそ示せるものがあるというスタンスなんでしょう。ゆえに、この組み合わせは必要以上にじゃれ合ったりしません。だからこそ、時どき見られるさり気ないようでいて不器用な絆が印象に残るんですね。

 また、テントモン自身は誰に対してもフレンドリーでよく気がつくタイプ。いわゆる関西弁キャラでは珍しい性格と思われますが、それも光子郎に欠けている部分を補完する役割があるゆえでしょう。正しくパートナーであり、また助手といえます。
 ガブモンといい、パートナーたちは本当に子供たちとの付き合いかたというものを心得ていますね。

 あとはアグモンの天然っぷりがいい味を出しています。太一とはやっぱり似た者同士。


・カブテリモン
 恐ろしげな姿から、1話の敵になりかけたといういわくつきの成熟期デジモンです。
 巨体に似合わぬスピードと小回りに正確な射撃をも可能な必殺技、攻防にすぐれた外骨格と、バランスなら恐らくメンバー随一。単体で動く事も少なくない光子郎にとって、運搬から戦闘までをもこなす幅広い能力は最高に相性がいいでしょう。その証拠というわけではありませんがこのコンビ、仲間の助けなしに何度も危機を切り抜けてます。

 初進化が光子郎の危機によるものではなく、あくまでも能動的にはたらきかけてのものというのが実にこのコンビらしいところ。これがかえって、完全体進化のときのタメを作っていそうです。


・ アンドロモン
 02でも完全体の強さを見せつけるために出現した、初期の名脇役です。
 その強さはじっさい折り紙つきで、成熟期ではまともに倒そうと思ってもほとんど不可能なほど。完全体としては小型なほうですが、ウェイトの差を感じさせないパワーは一撃で必殺技を切り裂き、カブテリモンの突進をも受け止めてしまいます。メガブラスターで黒い歯車を除去できたからよかったようなものの、そういう条件がなかったら完全体進化ができない以上、逃げるしかありますまい。ただ、優秀な追尾能力を持つガトリングミサイルがあるので、これを撃ち落とせる自信があればの話ですが…。

 彼は味方側についた非パートナーではもっとも強いデジモンのひとりなので、終盤にふたたび一定の活躍をしています。


・ カブテリモン対アンドロモン
 突進からいなされ→地面に激突→ふたたび上昇→突進の流れが秀逸。ここはカブテリモンの面の皮の厚さが如実にわかるシーンです。
 しかし、1番印象的なのはガトリングミサイルをかわしてUターンし、光子郎の頭上を抜けて突進していくカットでしょう。ここはムックにも収録されているので、見覚えのある人が多いと思います。


・ なぞの工場
 不条理シリーズその5。今回は全編にわたっての舞台です。
 つまるところ、ここでいちばん重要だったのは動力炉のしくみであって、行われていた作業にはなんの意味もありませんでした。というより、あれらは単に動力炉がちゃんと動いていることを確かめるテストのようなものなのかもしれませんね。工場の形をしているのは、そうした目的につごうのいい形質を持ったシステムだからでしょうか?

 ただ、あの動力炉そのものを誰がなんのためにいつ作り、なぜその管理をアンドロモンにまかせたのかは不明なままでした。デジモン文字だけでなく日本語やハングル文字といった、世界中の原語がきざまれている様子だったのでそこが気になるところではあります。
 この時点では異様なシチュエーションそのものが重要なので、辻褄合わせをしても意味はないかもしれませんが…。
 今後のお話の中にヒントがあるかもしれないので、見のがさないようにしましょう。

 なお、日本語の書かれてる部位には最下段に臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前の「九印」が刻まれてました。
 これは今回見てはじめて気付いたことです。



★名(迷)セリフ

「そういうときは、こう叩くと直るって!」(太一)

 ある意味大輔以上にアバウトな、太一の一側面がよくわかります。しかも何回も繰り返す。
 後年はさすがに影をひそめる要素ですけど、やっぱり素はどっかでアバウトな人だと思う。


「お、おれはお前のためを思って…」(太一)


 そして悪気なしにムチャなことをしますこの人は。


「助けてあげよう」(空)
「うん」(太一)
「ええっ!? あ…」 (丈)


 また出遅れてます、丈。


「まだ調べるのか?」(ヤマト)
「はい。先を急ぐんでしたらみなさんだけどうぞ。僕は残ってもう少し調べます」(光子郎)


 目の前の対象にすっかり興味をうばわれています。こうなると手がつけられなくなるのが長所であり欠点でもあるというわけ。
 このへんは10話で追加描写とフォローがあります。


「アグモン、天井をねらうんだ!」 (太一)

 このとっさの判断力。これこそが太一の持ち味です。Vテイマー01でも共通ですね。


「このプログラムを解析してみるのさ。やっと僕のパソコンの出番ってわけさ」 (光子郎)

 ここで流れるのは、たしか初登場の「光子郎のテーマ」。アップでもスローでもない中庸のリズムが本領発揮に彩りを添えます。
 それにしても、この場面の光子郎は天海さんの演技ともども、たしかに生き生きとして見えます。


「光子郎はんは、自分が何者かなんて興味ありまっか?」(テントモン)
「…………。 僕は……」 (光子郎)


 ここで、光子郎もなにかを抱えている子供だということが示唆されます。
 ただかなり断片的なので、あれだけでは実のところわかりづらいかもしれません。示唆というだけなら十分なんですが…。
 彼の内面については、31話を待たなければなりません。まだ先は長い。

 ちなみに、後年ある意味大活躍する佳恵ママは荒木香恵さん担当ですが、この時点ではどうやら水谷優子さんが演じてるようす。
 逆にお父さんは一貫して菊池正美さんのようですね。


「じゃしんガオチタ…」 (アンドロモン)

 アンドロモン系の声は一貫して梁田清之さんがつとめています。
 機械的な演技が非常に得意な方ですので今回のアンドロモンもさることながら、「ガオガイガーFINAL」のパルパレーパが無気味さでこれまた強い印象を残したりしてますね。金属的なボイスエフェクトともきわめて相性のいい声質。
 それでいて、明るくてちょっとお軽いキャラも得意としておりその上、上記の陰うつさがまったく感じられない演技を聞かせてくれるのですから、その技量について疑問を挟む人はおりますまい。
 最近では「仮面ライダー剣」でスパイダーアンデッドの声もやっていますが、またガードロモンみたいな役も見てみたいところ。
 


★次回予告
 おもいっきり八島絵になってる作画と、殴り合いが滅茶苦茶インパクトのある予告です。
 これを皮切りにして、ミミはなぜかギャグとある意味でのヨゴレ役へ突っ走っていくことに…。