パルモン怒りの進化!

 脚本:浦沢義雄 演出:今沢哲男 作画監督:八島喜孝
★あらすじ
 地下水道でヌメモンに出くわし、あまりの不潔さに恐れをなして森へ逃げこんだ一行。
 すると完全体のもんざえモンがあらわれ、ヌメモンを追い払うのですが、今度はこちらに襲いかかってきました。彼の力によって骨抜きにされ、おもちゃの街でおもちゃに玩ばれる太一たち。残ったのはある意味いちばん頼りないミミとパルモンでした。
 もんざえモンは本来、相手をハッピーにする技を使う良いデジモンのはず…。パルモンは不思議がります。

 とほうにくれる2人の前に、ふたたびもんざえモンがあらわれました。パルモンの技はまったく通用しません。
 ところが、意外な救援がかけつけました。ヌメモンたちです。ミミのことが気に入ったのか、自分たちの弱さもかえりみずもんざえモンへ向かっていきます。結果として負けてしまうのですが、これがパルモンのハートに火をつけ、トゲモンへの進化が果たされました!

 おもちゃの街のど真ん中で、サボテン対クマのぬいぐるみのソーゼツな殴りあいが繰り広げられます。勝負を制したのは、距離をつめての戦いに強いトゲモンでした。打撃を受けたもんざえモンの背中からは、あの黒い歯車が。やはり操られていたのです。
 みんなを開放したもんざえモンは詫びと感謝をのべ、とくいのラブリーアタックでみんなをハッピーな気分にしてくれるのでした。



★全体印象
 6話です。タイトルコールは溝脇しほみさん(パルモン)。背景の影絵はトゲモンです。少し成熟期っぽい口調。
 ヌメモンともんざえモンという、インパクトでは最大級の組み合わせがキモとなったギャグ篇です。いちおう、進化と活躍の場はミミとパルモンにめぐってきてるんですが、彼らの前では少々かすみがち。というよりハッキリ言えば、インパクトが命の回です。なので、ほかの回とちがって何回も見返すタイプのエピソードではないかもしれません。

 しかし、それでもミミの「イヤなものはイヤとハッキリ言う」性格は強調されており、さらに言えば彼女のなぜか汚物系デジモンに好かれるという奇妙な個性はここから始まっているものです。そういう意味では重要なエピソードだと言えるかもしれません。

 作画は見るからに八島さんで原画を全部やっており、動画も2人しかいません。前回とはえらい違いです。
 にもかかわらず、動きならば決して劣ってはいません。もともと八島喜孝という作画さんは絵の癖を別にすれば、演出のまずささえをもカバーできるほど動かしまくれる上に仕事が異様に早い(原画を一人でこなせる上にCMなどの動画までこなせる)ため、恐らくローテーション内ではそうとう重宝されている人でしょう。今でもガッシュで活躍しまくっていますし、なくてはならないスタッフの一人ですね。

 それに絵の癖といいましたが、これは決して下手という意味ではありません。たしかに癖があり、いい意味で崩しぎみになることも多いため静止画むきの絵柄ではないのですが、そこは本人もわかっているらしくワンカットごとに動きを入れていくことと、絵の省略を有効に使うことでカバーしているのです。つまり、動きの流れをあらかじめ構築することによって独自のリズムを組み立て、一コマ一コマが雑であっても包括的には強く感じさせないようにする技術を持っているということ。こう書くとごまかしてるみたいですが、枚数制限と相談しつつあれだけの動きを取り入れ、なおかつ人一倍のスピードで作画していかねばならないと書けば、どれほど大変なことが理解していただけるでしょう。

 こうした週1もののテレビアニメでは、かならず一人こういう人がいます。そんな中にあって、あれだけの仕事をしながらもおおむね定評を受けている八島さんはやはり希有な存在だといえましょう。同じタイプの作監さんがファンから仕事量に反比例した評価を下されることが多いのを思えば、これは相当すごいことです。

 さて、そして脚本にあの浦沢義雄さんが初登場します。かつては「ペットントン」など不思議コメディシリーズで一時代を築き、戦隊シリーズにも「激走戦隊カーレンジャー」から参加。ベテランです。ここ最近ではアバレンジャーだったかな?
 この人もとにかく癖がある脚本家で独自のカラーを持っているので、全編がその色に統一されていてかつ、好みが合えば申し分のないタイプ。特に心に残っているのはカーレンジャーで、徹頭徹尾シュールギャグに貫かれていたため毎週ゲラゲラ笑いながら楽しんでいました。
 まあ、前年のオーレンジャーのハッキリしない路線に辟易してたのもあるんですが、また一から見直したい戦隊のひとつです。

 とまあ、 見てわかる通りもともとギャグ畑の人でしかも独自色が強いので、まだ積み重ね時期にあたる序盤からいきなりボンと出てくるとかなり違和感があるのはたしか。ただ02で特につよく感じるんですが、日常においての子供たちとデジモンのちょっとしたやり取りが驚くほど秀逸なときがあり、さすがは昔から異種と子供との交流を書きまくっているだけのことはあります。また「おもいっきり探偵団霸悪怒組」などジュブナイルを感じさせる作品での実績もあるので、そのあたりで起用されたのかもしれませんね。

 演出ではなぜか今村隆寛さんとの相性が異様に良かったりしますが、テイマーズ31話を最後に離脱してしまったのは残念。この人の描くフロンティアを見てみたかった。そのぶんは大和屋さんががんばってましたが…。



★サブタイトル
  02まで影絵で統一され、テイマーズでは設定画を引き伸ばしたようなイメージと、背景は毎回ちがっていました。フロンティアのみ、全編ほぼ同一のイメージで固められています。そういえばこの場面でデジモンの絵が出ないのもフロンティアだけ。
 タイトル傾向でいうとこの01がもっともハッキリしており、最終2話をのぞくすべてにデジモンの名前が入れられています。これは恐らく基本方針でしょう。そのため、02になってからえらく短くなったなと違和感をおぼえた記憶があります。



★各キャラ&みどころ

・太一
 今回は最初以外、目立った出番がほとんどありません。おもちゃの街での顔と正反対ないじけた口調は印象的。


・ 空
 そう滅多に泣く子じゃないのですが、今回ばかりは少し涙ぐんでいました。
 女の子らしく、キレイ好きな側面がうかがえます。まあ、女性はもともと男性とくらべてそういう所は気をつかいますからね。
 まだ子供だとしても傾向は感じられるでしょう。


・ヤマト
 育ちざかりらしく、食いしん坊な一面をのぞかせています。
 全体的に、今回はやや雰囲気が柔和ですね。


・光子郎
 どこまでいってもパソコンから離れません。まあ、彼らしいといえば彼らしい。
 ただ元から演技が硬質なんで、おもちゃの街でのアレで一番違和感がなかったのがなんというか…。


・ミミ
 この島にもすっかり馴染んできたようです。一見戦闘向きじゃないようでその実本当にそういう娘さんなのですが、開き直ったときの度胸と剣幕は究極体デジモンをも凍りつかせるほど。また、ワガママではあっても意地は悪くないし、基本的に素直なので拒否するときは全力で拒否をする代わり、非があればすぐに認める事ができます。

 思うに、 彼女があれだけ言いたい事を言い汚物系に追いかけられながらも、華やかなヒロインとしての座を失わなかったのは湿っぽさが少なくさりとて空気を読まぬ能天気でもない、「自分なり」のハッキリしたリアクションを見せ考え方を確立していくというスタンスをぶれずに持ち続けていたからでしょう。誰よりも自分の気持ちに正直なのが、ミミのミミたるゆえん。これを貫徹できたのが大きいですね。
 もちろん今回でもそれはちゃんと描かれていますよ。


・タケル
 ゲーム好きそうな一面を見せるんですが、ここ以外ではあんまりそういうイメージがありません。
 43話でゲームっぽいものがある部屋へ連れて行かれるくらいのものでしょうか。
 ゲーム好きという印象は、どちらかというとフロンティアの友樹のほうが強いかな?


・丈
 ああいうふうに言うくらいですから、勉強そのものがそうとう好きな勉強家なんでしょうね。ただ応用がきかないという。
 そのへん、ガリ勉というのとは少し違うかも。まあもっとも、浦沢氏のときは唐突に奇妙なことを言いだしたりすることも多いので
 何もかも後につながるなどとは考えないほうがいいんですが。


・デジモンたち
  パルモン…といいたいところなんですが、意外に殴りあい以外の印象がありません。進化もヌメモンたちに触発されたもので、ミミに直接かかわっているわけじゃないですし。なので、他とはちょっと毛色がちがいますね。ま、このコンビにはこの先も見せ場がたくさんあるので、今回は小手調べというところで納得しましょう。
 他のパートナーに特に出番はありません。17話や24話もそうですし、浦沢さんのホンではそういうケースがわりと目立ちます。
 ただ、冒頭に全員で歌っていたシーンはけっこう心に残りますね。


・ヌメモン
 デジモン界の嫌われ者。じっさいその不潔さは想像にあまりあるので、普通の感覚を持ってるならたぶん逃げたくなるでしょう。
 しかしよく見ると、だからといって悪いやつらというわけではないようです。それどころか後半では助けてくれますし、うまくあしらうことができればそれなりにつかず離れずでやっていけるかもしれません。生理的に少々きついかもしれませんが…。

 ところでこのヌメモン、成熟期なんですよね。そのわりに全然強くありません。だから群れているんでしょうが、その分仲間意識はつよく持っていそうですし、いざという時の連携は驚かされるほどです。「ハーヴェスト」ばりに壁を作り、ラブリーアタックからミミたちを庇うくだりでは半分忘れていたこともあってか、思わず声を上げてしまいました。

 浦沢さんはどうもこのヌメモンに愛着があるようで、49話でも出番を与えています。


・ もんざえモン
 クマのぬいぐるみの姿をした完全体。しかし目がちょっと可愛くありません。足音は破れかけの太鼓をたたいているかのよう。
 もともと攻撃的な技を持っているタイプではないんですが、黒い歯車の影響かラブリーアタックの効果を反転され、子供たちを無気力にしていました。完全体なのでさすがに成長期の技はまったく効果がありません。当たっても意に介さず突き進んできます。

 ただ、どうやら近接戦はそれほど得意じゃないらしく打たれづよくもないようです。トゲモンはこの弱点をうまく突いた形になったからこそ、格上相手でもなんとか勝てたんでしょう。要するに相性がよかったんだと思います。ホルスモンばりに目からビームを放つ技(名称不明)も持っていたんですが、これもある程度距離がないと効果がうすい。じじつ、パワーを溜める隙をつかれアッパーを食らってしまいました。
 …それにしても一口にオモチャの街といいますが、そもそもここにはデジモンしかいないので遊ぶ相手がいないような…。
 彼の物言いだと、まるで現実世界とつながりがあるかのような感じだったんですが。

 演じていたのは高橋広樹さんなんですが、ベルゼブモンやフォルゴレの面影はまったくありません。というか同一人物に聞こえない。
 …芸風広いな。


・ ナレーション
 ヌメモンの紹介のところで一瞬躊躇する平田さんの演技が実に最高です。



★名(迷)セリフ

「洗濯したい…」(空)
「おれだって…風呂に入ってのんびりと…」(太一)
「今オレのしたいことは…ジュージュー焼ける焼き肉! 腹いっぱい食いたい!」(ヤマト)
「誰も笑えないさ。ぼくは勉強。宿題山ほどやりたい…!」(丈)
「かわってるわねぇ… あたしは冷たいコーラが飲みたい!」(ミミ)
「ミミさん、それいい! ボクも!」(タケル)
「僕は…インターネットで友だちにメールを送りたい!」(光子郎)


 前半のやり取りから。ふとしたきっかけで、妄想めいたとりとめのない話になります。
 ここでけっこう尺を使ってるんですが、こうした要素の積み重ねはとても大事なこと。現実世界での「当たり前」に思いを馳せるシーンが多ければ多いほど、異世界にあっても「彼らにはもとの暮らしがあり、基本的にはそこへ帰りたいのだ」という事実をアピールし続けることができるからです。だからこそ、いざ戻ったときにも活きてくるというものですから。
 ちなみにここで流れていたのは空のテーマです。


「しょうがないわよ、まだ子供なんだもの」(空)


 いや…お嬢さん? ひとつ年下なだけでいくらなんでもそれはおばさん臭すぎじゃありませんか?
 まあ子供時代の一年下となればけっこうな差ですし、それ以上にミミが年相応以上の部分はあるんですけども。
 というか空は光子郎のことも子供だと思ってるんでしょうか。そういう描写はなかったけど……。


「おねーちゃん! おいらとおもちゃの街でデートしない?」 (ヌメモン)
「しないッ! 行こ、パルモン」 (ミミ)
「…ハッキリもの言うおねーちゃんだなぁ…」(ヌメモン)


 たぶんヌメモンはここでミミのことを気に入ったんでしょうね。…ちょっとマゾっ気があるんでしょうか。
 でもなんかその意識が全員に波及してるような…気持ちの共有でもしてるんでしょうかね?
 …むう、つねに群れているヌメモンですから可能性はありますね。

 あ、でもいちおう助けてくれたのにお礼を言わないのは良くないですね。気持ちはわかるけど。


「ちょ〜、ちょ〜、ちょ〜うれしぃ〜 はっはっはっはっはっ」 (ヤマト)

 ヤマト………。


「汚くて根性もないヌメモンが、ミミを必死に守ってる……!」 (パルモン)

 どうやらこれが、自分でもバトルが苦手だと言ってるパルモンの闘争心に火をつけたようですね。
 そのためかトゲモンのスタイルは、まさにガンガン前へ出てビシバシ戦うタイプになりました。
 これに紋章が加わるとリリモンになるわけですね。



★次回予告
 さあ、やっとこさ丈の出番です。今までリーダーシップを発揮できず空回りしっぱなしだった彼にやっとお鉢が回ってきました。
 この話を見ることで、彼の長所がどこにあり、どんなポジションにつくことが最善なのか少し見えてくるはず。
 あとはゴマモンの生意気に見えてよく気がつく性格もポイントでしょう。