咆哮!イッカクモン
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脚本:大和屋暁 演出:小坂春女 作画監督:信実節子 |
★あらすじ
さらに旅を続ける子供たちは、雪原そばの温泉で休むことになります。目の前には高い高い山・ムゲンマウンテンが…。
そんな中、丈はまだ石を投げれば不条理に当たるファイル島へ馴染み切れず、ますます他のみんなとの剥離を感じていました。太一とヤマトの衝突を仲裁しようとしてもうまくいかず、逆に自分が感情的になって空に助け舟を出されてしまう始末。最年長として責任を感じていた彼は、この事で大きなショックを受けてしまいました。
悩みに悩んだ末、丈が出した結論は独りでムゲンマウンテンに登り、ファイル島の全容をたしかめること。
ところがゴマモンはそんな丈の考えを読んでおり、後についてきました。ぎくしゃくしながらも、懸命に山を登る行く手にユニモンがあらわれます。そして二人は見ました。山の一部が割れて黒い歯車が飛び出し、ユニモンに突き刺さって邪悪な表情へ変えてゆくさまを…!
大ピンチに陥ったそのとき、助けに来たのは書き置きを読んでかけつけた空と太一でした。しかし、動きの速いユニモンは強敵です。苦戦する太一たちを見て、丈は黒い歯車をはずそうと必死にユニモンの背へ取りつきましたが、健闘むなしく高空から放り出されてしまいます。ゴマモンの絶叫! その時、デジヴァイスが光り輝きました。丈を救ったのは、ゴマモンが進化したイッカクモンです。
イッカクモンの必殺技・ハープーンバルカンのおかげでユニモンを退けた一行。意気揚々と、ムゲンマウンテンの頂上に立つのですが…
ファイル島。この島はその名の通り、絶海の孤島だったのです…。
★全体印象
2週ぶりの更新、第7話です。タイトルコールは竹内順子さん(ゴマモン)。背景の影絵はイッカクモンです。
空回りのまんま放置気味だった丈に、とうとう出番が回ってきました。前半まるまるを贅沢に使ってたっぷり苦悩を描いています。
こうして見返してみると、この回は丈にとってある意味、最大の試練だったことがわかりました。もし、何もできないという気持ちをかかえたまま腐るだけなら、彼は以後どんどん駄目な少年になり、みんなの足を引っ張るようになってしまうかもしれなかったのですから。
でも、そうはならなかった。彼にだって、誰にも負けないものがあるではありませんか。そう、いつも端々へ目を配り、みんなのためならいざとなれば責任を引き受けてでも最後までやり遂げようとする、まっすぐな誠実さが。それがついに発揮されはじめたのです。
まあ、これで腐るだけの子ならここにいないはずで、だからこそ、ゴマモンも呼応するように進化できたんだと思いますよ。
そうそう、ゴマモンといえば今回は初スポットから魅力爆発でしたね。それまでも暢気な陽気さでけっこう目立っていたんですが、ふとした時に見せる優しい表情や照れ隠しが破壊力満点。それにヤンチャなようでけっこうよく周りを見ており、丈へ軽口をたたきながらその実、思いやってることがわかります。これでは一時期とはいえ、ゴマモン専門サイトができるわけですね。再確認。
…というか、この二人ぜんぜん違うようでいてすごく似てるようでもあるんですよ。このへんの関係はホントに巧み。
ああ、そーか。ゴマモンは丈の気持ちを読んでいたという以上に、彼と同じことを考えていたのかもしれないんですね。
さて、脚本には大和屋暁さんが初登場しました。そう、フロンティアで最後まで気を吐き続けたあの人です。その時の頑張りが効いたのかどうかはわかりませんが、今ではガッシュのシリーズ構成を務めています。まあ、もともと実力のある人だし仕事も早いので、ほっといてもどこかで構成をやってたと思いますし、もうとっくにあの時点でやってたかもしれませんが。
この人の事をもう少し調べてみたところ、父親の大和屋竺さんがとんでもない人でした。かつては邦画界にその人ありと言われた脚本家、その上ルパン三世の基礎を築きあしたのジョーにも参加、俳優としても一級という伝説を残していたのです。こんな父親を持った息子の気持ちというのはどんなものなんでしょう? 想像もつきません。
とはいえ、大和屋暁さん本人もアニメ界においては大車輪の活躍を見せているので相当のものでしょう。いまや、この方の名前を見ない週はないといってもいいほどですし、どれだけ底力のある方かは、フロンティアを見ていれば逆によくわかりますもの。
…そういえば、この人が担当していたときの純平は輝いていたなあ。ある意味で似たタイプである丈の、いちばん最初の主役エピソードを描いたのも同じ大和屋さんだというのは、たぶん偶然じゃないんでしょう。
付け加えると、この方は細田演出とのタッグでも最多を誇ってます。ヤマト主役のCDドラマあたりは、02唯一の仕事。
演出の小坂春女さんは、どうやらシリーズ通してここにしか参加してないようす。
残念ながらこの方についてはあまり詳しくないのですが、数少ない女性演出家らしくセーラームーンでバリバリ活躍していたほか、ネオロマンスの匂いがする「Saint Beast 〜聖獣降臨編〜」の監督も務めてるようですね。また、「ファンファンファーマシー」にも小中さんや貝澤チーフとともに参加してるようで、小中さんのサイトではその細やかな仕事についての評価が見られます。
…なんかこのへんの関係から、様子見ぎみに一度だけ参加した気がする。縁があれば今後も参加する予定だったのかもしれません。他ならぬ小中さんも02でスポット参加し、翌年じゃシリーズ構成を務めてるんですから。そういえば小林靖子さんも一度だけ書いてたなあ。
そんなわけで、どうやらかなり贅沢な布陣だったようです。
…そういえば私っていつも美術には言及しないなあ。どんなアニメでも美術だけは安定してるから書くことが少ないのか…。
美術が破綻していたらそれはもう空間が破綻するってことですから、他と同じくらい重要な仕事なはずなんですけどね。
★各キャラ&みどころ
・太一
これまでの描写を受け、とにかく行動あるのみという感じに仕上がってます。ヤマトとの衝突が丈の自信喪失につながるあたりは上手い。
あふれる行動力で救援にもかけつけるんですが、今回ばかりはさすがに丈へ見せ場をゆずりました。
・ 空
あー、まとめ役として苦労してそうだ…。いまの段階で太一とヤマトを止められるのは彼女くらいのもんでしょう。それにしたって一言でだまらせるあたりはかなり凄いですが。さすがは、選ばれし子供界のおふくろさんだ。
丈の気持ちが理解できそうなのも、今は彼女だけです。シリーズ前半でいっしょに行動するケースが多かったのもむべなるかな。
・ヤマト
丈の剣幕に思わずひるむあたり、ちょっと付き合いの長さを感じさせました。
23話までそういうのはあまりないと思ってたんですが、意外にそうでもないのかもしれません。
太一との衝突はなんとゆーか、のちの拓也対輝二にかぶるなあ…。
・光子郎
今回はそんなに目立ってませんね。ふだんから存在感があるので、あんまり気になりませんが。
・ミミ
タケルといっしょになってはしゃいでるあたり、少なくとも二つも年上には見えません。
メインキャラの誰かに後半まったく出番がなかったというのは、実のところ今回がはじめてです。別れて行動する布石みたいなものが、もうこの時点で敷かれてる形になっているというわけか。
・タケル
ミミとふたりで走り回ったりしてるほか、前半では温泉たまごを作ったりしており、ちゃんと役に立ってることをアピールしてます。
後半は光子郎、ミミと同じくまったく出番がありません。
・丈
さあ、そろそろ良さを出してきました。
彼がリーダーを張ろうと過剰に意識していたのは、その責任感の強さからなんですよね。決して、下級生に威張りたいからではない。
ただ、「上級生だから」という言葉が今回、しつこいほど出て来ますけど、これ、結局はマニュアル通りのお題目でしかありません。本当に彼を動かしたのはもっと別の何かで、本当は上級生だからとか下級生だからではなく、それぞれに向いた責任の取りかたがあって。
それは現実が目の前にきたとき、その人がどう行動するかで決まってくるものなんだと思います。
そして丈がためらわずに選んだのは、みんなを助けようとする道でした。この瞬間無意識に、彼は自分を縛るものを断っていたのだと思います。その証拠に11話では半分ヤケクソながら、早くも変わりはじめていることがわかるじゃありませんか。
この後も冒険していくためには、今回の経験が彼にはどうしても必要だった。私があらためて強く感じたことです。
ところで、ゴマモンに「どうでもいいことをいちいち気にしてる」と言われた彼ですが、裏を返せばこれは、細かいところまで目がゆきとどくということです。大事なのは状況や相手をよく見て、どんな行動や言葉が必要なのか選ぶこと。
02を見ていると、つくづく彼は成長したと思います。
・デジモンたち
そりゃあもうゴマモンでしょう。上述しましたが、実にいい味を出してます。素直じゃないけどひねくれ者じゃなく、軽口をたたいてるけど裏じゃ真剣に考えてるというこの造形は、まさに丈との補完を成し遂げるために仕上げられたのですね。そうでなければ、こんな性格になるはずがない。ますます実感させていただきました。
こんなゴマモンと丈だからこそ、ヤマトと友情を結べたんでしょう。
・イッカクモン
わりとベタな出現のしかたをした、成熟期の海獣型デジモンです。
柔らかい毛皮で丈を受け止め、誘導弾ですばやいユニモンをしとめるという、ご都合主義の権化みたいな展開に有効利用されてますが、デジアド的に解釈するならこれは前回のパルモン同様、ゴマモンが「こういう力が欲しい!」と選んだ結果なのかもしれませんね。
とはいっても、地上じゃ鈍重なはずが誘導弾で相性勝ちなあたりはなかなかに上手い見せかたです。ハープーンバルカンはああいう局面にこそ最大の効果を発揮するわけですね。どうやら連射もきくようなので、よく援護射撃役になってましたっけ。
・ユニモン
ペガスモンにお株を奪われた感もある、成熟期の幻獣型デジモンです。
例によって本来は特に凶暴なデジモンじゃないんですが、黒い歯車の餌食になって凶暴化してしまいました。ただ、今回はまさにその現場を丈とゴマモンが目撃しているので、被害者としてはかなりチェックポイントにいます。
さて、クワガーモンも飛び回るファイル島の空で生き残ってるだけあり、実力はそうとうのもんですね。特にすごいのは空中での機動性。飛行不可能なグレイモンは相手にもなりませんでしたし、同じく空をとくいとするバードラモンでさえ、まるで宙を駆け抜けるかのようなするどい攻撃の前には翻弄されるばかりでした。しかも必殺技は遠距離攻撃が可能なのです。
おまけにイッカクモンの技を受けても黒い歯車が割れただけで、あまりダメージを受けてない感じでした。こりゃひょっとしたら、クワガーモンすら警戒して近寄らなかった相手かもしれませんね。もっとも、どうやらめったに地上へは降りてこないようなので、ふだんは高空を優雅に飛び回ってるだけなのかもしれませんが。
のちに恐らくは同一の個体が、最終決戦にもスポット参戦してます。あのメンバーではかなり強いほうだったはず。
・冷蔵庫
不条理シリーズ第7弾。といってももうみんないい加減慣れたもんです。丈だけが頭をかかえていました。
中には卵が入ってましたが、賞味期限は大丈夫だったんでしょうか…。ってか、これなんの卵よ?
★名(迷)セリフ
「ひさしぶりに勝負できるな!」(ヤマト)
「負けないぜ!」(太一)
ここらへんからも、抜け目なくふたりの間柄が示唆されてます。ふだんから張り合ってるんでしょうね。
たしか、このたった一言をもとにしたお話を書いた人もいたはず。
「僕はみんなを守らなきゃいけないからね。…一番年上なんだから」(丈)
前半より。この時点ではただこの事実だけで、みんなのリーダーになろうとしています。
自分に何ができて、何をすべきなのかもまだ考えてません。
たとえリーダー向きじゃないと言われたとしても、今の彼には聞こえない言葉でしょう。
思えば彼が後半やたらと「道」にこだわったのには、このへんの経験が大きく関係しているんですね。
「非常識だぁ! なんでこんなところに冷蔵庫がぁ!」 (丈)
なかなか慣れませんねえ……。慣れりゃいいってもんでもないんでしょうけど。
「大丈夫だよ! 毒味だったらオレがやるからさ!」 (太一)
…こういうことさらっと言えるからなあ、この子は。
「…あれからもう、四日も経ってるんですよね」(光子郎)
なるほど。3話までで一日。4話で二日目、5話で三日目…ということは、6話は四日目の日中かな?
日数経過は今後もチェックしてみますか。
「……ねえ! 目玉焼きにはみんな、何かけて食べる?」(空)
「…目玉焼きには塩こしょうって決まってるじゃないか」(丈)
「オレ、醤油」(太一)
「マヨネーズ」(ヤマト)
「あたしはソース」(空)
「ぼくはポン酢を少々」(光子郎)
「えー…みんな変よぉ…! やっぱり目玉焼きって言えばお砂糖よね! あたしその上に納豆のっけたのも大好き!」(ミミ)
「えぇぇえ!? みんなは目玉焼きにそんな変なものをかけるのか!? ショックだ! 日本文化の崩壊だぁ!」(丈)
かなり有名なやり取りです。身近なネタだけあって、あっちこっちでネタにされてました。
光子郎の微妙な嗜好とミミの完全にぶっ飛んだ嗜好も、ここで初登場。大和屋脚本って食い物ネタが多いなあ。
そしてせっかく空が気を利かせて空気を変えてくれたのにまたひっくり返す丈…。
「おい丈、落ち着けよ!」 (ヤマト)
「うるさい! 僕は落ち着いてるよッ! いつだってね!」(丈)
「…今日はどうかしてるぞ。疲れてるんじゃ…」(ヤマト)
「疲れてなんかないよッ! どうかしてるのは…みんなのほうだー!」(丈)
ヤマトの態度が仲間というよか、つきあいのある友だちに対するっぽい感じではあります。
それにしても、こんなに感情的になってる丈はめずらしい。やり慣れないことはするもんじゃないんですね…。
ところでフロンティア5話でも、純平が拓也に最後の台詞とおんなじようなことを怒鳴っています。
「聞けよ!! おれの話も!!」 (丈)
あ、とうとう一人称までくずれた。
「…手? それ、手だったの?」 (丈)
「おこるよ」(ゴマモン)
「あ…ははは、冗談、冗談」(丈)
「アハ…丈にも冗談が言えるんだ」(ゴマモン)
「え?」(丈)
「なんでもない! さ、行くぜ!」(ゴマモン)
いいなあ、このやり取り。大好きです。
あとでもう一度同じようなやり取りをしたときには、感動したなあ…。
「きみらのそのデジモン情報ってさ、アテにならないじゃん!」 (丈)
「…たしかに…」(ゴマモン)
そこでミョーに納得するあたりがゴマモンらしいというか、なんというか。
「やめろ丈! 無理だよ!」 (ゴマモン)
「だめだ! 僕がやらなきゃ! ぼくがみんなを守るんだ! 僕が……一番大きいんだから! 僕がみんなを守る!」(丈)
同じようなセリフですが、必死なこともあって前半とはだいぶちがって聞こえます。
ほんとうに困ったときその人の本質が出るといいますが、丈はきっと誰の信頼をも勝ち取ることができるようになることでしょう。
「…ありがとう、ゴマモン。君のおかげで助かったよ」(丈)
たぶんこの時なんでしょうね。丈がほんとうに心の底からゴマモンをパートナーとして認識したのは。
またゴマモンが嬉しそうなこと。
★次回予告
ついに……悪魔が来る! そして悲しい運命を背負う宿命を持った、あの獅子も…!