激突! 冷凍デジモン

 脚本:前川淳 演出:川田武範 作画監督:清山滋崇
★あらすじ
 氷の島に飛ばされた太一とアグモンは、デビモンの刺客・ユキダルモンに襲われますがとっさの機転で黒い歯車を壊し、なんとか切り抜けます。正気にもどったユキダルモンは、となりの島へヤマトが落ちるのを見たといい、氷の橋をつくってふたりを案内してくれました。

 一方、雪の島でタケルを探すヤマトは体調をくずして倒れてしまいました。ガブモンがめったに脱がない自分の毛皮を使い、暖めてくれたおかげで回復するのですが、今度はガブモンが風邪をひきます。そうこうしているうち太一との合流が果たされるのですが、タケルのことで頭がいっぱいなヤマトは太一の態度に腹を立て、とうとう殴りあいの喧嘩が始まりました。

 喧嘩のあげく崖に落ちそうになったところで、今度はモジャモンの襲撃が! 全員がたたき落とされてしまいます。
 運よくユキダルモンに助けられ、持ってきてくれた食糧と薬草のおかげでパートナーたちも進化が可能になりました。すぐさま単身戦うユキダルモンに加勢し、なんとかモジャモンを正気にもどすことができたのですが、戦いのさなか、岩壁から黒い歯車が大量にあらわれました。ガルルモンが必殺技をあびせると、なんと逆回転を開始!

 海の上を進んでいた雪の島は逆へ進み、デビモンのいるムゲンマウンテンへ…決戦は間近にせまっていました。



★全体印象
 第9話です。タイトルコールは風間勇刀さん(ヤマト)。背後の影絵は表題どおり、ユキダルモンとモジャモンです。

 ここからは12話まで、分散パーティによる同時進行となります。ただ、一つ一つの事件については経過時間に差があり、おそらくもっとも長い時間が経っているのは最後をしめる12話。このへんはじっさいに同話を見返したとき、より詳しくわかるでしょう。
 というわけで、まずこの9話では太一とヤマトの冒険が描かれることになりました。ほかのメインキャラやパートナーにいっさい出番はなし。まだ第一クールも終わっていないのですから、これは結構めずらしいことかもしれません。それだけスタッフに自信があり、また感触を得たからこそ、こういう事ができたのでしょう。当時のアニメ誌などでも、ハッキリ言及していました。

 また、ヤマトと太一の本格的対立という状況が発生しており、両者の考えかたのちがいやヤマトの複雑な気持ちが前面に出ています。むしろここでのヤマト暴走や対立があるからこそ少し後のタケル篇や、40話以降の展開がより活きてくるわけですから、そういう意味ではきわめて大事なエピソードのひとつといっていいでしょう。
 ただこの回、場面場面が妙にあっさりというか、余裕がなくてせっつくような進みかたになってます。そのせいで全体的にみると、やや薄さを感じますね。…まあ川田演出の回でそこらへんを今さら言っても意味がないんですが。

 あと個人的に特筆したいのは、親切なユキダルモンですね。体は冷たいけど、見かけどおりおっとりとした優しい性格です。

 脚本には前川淳さんが登場。02ではシリーズ構成のひとりを務め、テイマーズではインプモン関係全般を描いた人です。フロンティアからはローテーションを抜けてしまいましたが、代わりに「ボンバーマンジェッターズ」シリーズ構成を担当。スタッフに恵まれたおかげもあって、力のある筆致で一年間を描き切りました。おそらくあの作品は、今後もこの方にとってベストワークのひとつであり続けることでしょう。同作品にはほかにまさきひろさんや吉田玲子さんが参加しており、持てる力をぞんぶんに発揮していました。



★各キャラ&みどころ

・太一
 危機にあっても笑みさえ浮かべてみせるふてぶてしさや、いきなり向こうの大陸へ行ったときのことへ飛んでる思考を見ていると、なんというかつくづく大物という印象が強くなります。しかも別に他のみんなを心配してないわけじゃなく、まわりの状況も見て判断している。燃え上がるクールさを持った少年です。これじゃタケルが影響を受けるわけだ…。

 勇気があり超行動派でお茶目、思いやりもあって目下へは適度に優しい。さすがはデジモン一の男前と言われるだけあります。
 ただ、彼につきあい続けるのは…大変でしょうね。今ならヤマトや空の気持ちもちょっとだけ推測できます。


・ヤマト
 まわりの状況も自分の身もガブモンの言葉もかえりみず、強行軍でタケルを探そうとするあたり太一とじつに好対照をなしています。しまいには引き止められて逆ギレを起こし、またしても先に手を出す(しかもグーパンチ)というありさま。
 なんかもう滅茶苦茶です(^^;) ガブモンもたいへんだ。

 悪印象を持たずにすむのは、タケルへ本気で情をそそいでいるがゆえの暴走だということが、見ている側にもちゃんと(それこそ、痛々しいくらい)伝わってくるからです。それにガブモンが看病してくれたときにはきちんと礼を言っていましたし、こういった部分の積み重ねが、キャラ像の安定に貢献しているのでしょう。

 今こうして見ると、40話代で彼がああいう事になったのも必然だったのだという確認ができます。


・空、光子郎、ミミ、タケル、丈
  今回は出番なしです。ここまで出番がないのはさすがに初めて。


・デジモンたち
 人数が少ないぶん、アグモンの発言がかなり目立ちました。ちょっと拗ねるところも見せたりしてここぞとばかりに目立ってます。
 が、ガブモンの献身っぷりもそうとうのインパクト。なんでそこまでするのよ君、と最初に思ったお話ですね。
 …というかああいうガブモンだから、ヤマトの相方がつとまるんでしょうけど。


・ユキダルモン
 終盤でも出番がある、優しい氷雪型デジモンです。操られてるときでもコミカルな動きで、いまいち緊迫感がありません。
 正気にもどってからは太一とアグモンをヤマトたちのところへ連れていってくれたり、食糧を持ってきてくれたり、みんなが態勢を立て直すまでモジャモンと戦い時間をかせぎ、さらに動きを封じて戦いを楽にしてくれたりと、大活躍でした。このファイル島分散篇ではたぶん、もっとも冒険の道中に貢献してくれた個体でしょう。親切な性格がよく出ていました。

 声は伊藤健太郎さん。「超者ライディーン」鷲崎飛翔役で一気に出てきた人ですが芸風は広く、同じイケメンでも「ゾイド」のトーマ・シュバルツのように骨太かつ不器用な役もこなしてみせます。かと思えばこのユキダルモンのようにいかにもお人よしそうな演技も見せてくれますし、若手としてはかなりの実力派といっていいでしょう。
 また、のちにはフロンティアで勝春を演じています。同時に出ていたゲストのなかでは一番意志を感じさせる役でした。

 ここ最近だと「SDガンダムフォース」でのデスサイズですね。狂気の演技を見せてくれました。
 まあ炎天号だったりザコだったりでもあるんですが。


・ モジャモン
 前半ラストでシルエットだけ登場。後半、みんなが崖にあつまったのを見計らったように襲ってきました。かなり悪がしこいですが、これは恐らくふだん獲物をしとめるために駆使している知恵を、黒い歯車によって転用されてしまった結果でしょう。
 ただ本格バトル担当にもかかわらず、出番が少ないせいでユキダルモンにくらべると印象が弱いですね。02でもほかのデジモンといっしょだったり、一度に大量に出て来たりするんで単体でどうこう、というケースはなく、ちょっと不遇かも…。


・ デビモン
 さっそく刺客をはなつ非情ぶりを発揮してますが、出番は冒頭だけ。いつのまにか、神殿のような居城をかまえています。
 ただ今見ると、すぐさま自分が動いて誰かひとりだけでも全力で潰せば必勝だったものを、そうしなかったあたりに詰めの甘さを感じます。このあたりはダークマスターズにも見られる甘さ。彼らは強大な力ゆえ、子供たちを初見の印象で完全に侮ってしまっていたのでしょう。


・ 氷の上のポスト
 不条理シリーズ、その8。背景のアクセントという感じで、ユキダルモンの技の威力を示すために使われました。



★名(迷)セリフ

「海の向こうの世界か……」(太一)

 この状況下でそんな事考えられてるの、この人のほかは光子郎くらいのもんだろうな…。


「エースストライカーのミラクルキックを見せてやる!」(太一)


 瞬間浮かべる、不敵ともとれる笑みは彼ならではのものでしょう。
 こうした不敵さは、アグモンものちに時々見せるようになります。


「そういえば、きみによく似た子供とガブモンが、あっちの島に落ちるのを見たけど…」 (ユキダルモン)

 このセリフと冒頭の黒い歯車から推測すると、ユキダルモンはヤマトを見た直後に歯車の被害をうけたことになります。
 きっと突然の地殻変動にようすを見にきたところで目撃をし、その後刺客にされてしまったのでしょう。


「ほら、オレなら平気だよ。毛皮着てるからさ。アハハ」 (ガブモン)

 このセリフもなんか痛々しいんですが、直前のヤマトのめっちゃ虚を突かれたような顔が…。
 そもそも自分よりは寒さに強いガブモンにまかせよう、という思考がまったくなかったことがわかるというか。
 それだけ周りが見えてなかったってことですかね。

 ガブモンの苦労はまだまだこれからです。


「あ〜あ、お前が空を飛べりゃあっという間なのになぁ」 (太一)
(カッチーン)「ごめんね! 飛べなくて」 (アグモン)
「…あれ? 怒っちゃったの? いひひひ。冗談だよぉ。いじけんなって」(太一)
「いじけてない!」 (アグモン)


 わりと珍しい、アグモンのいじけシーンです。18話でもちょっとした口げんかシーンがありますね。
 で、どちらも書いてるのが前川さんというのがまたおもしろい偶然。…それとも偶然じゃないのかな。

 そしてアグモンはあとで立派に? 飛行能力を獲得します。気にしていたのかな?(^^;)


「…誰も……見てないよね…」 (ガブモン)

 妙にエロいセリフです。落ち着けや自分。


「ガブモン、お前オレの代わりに風邪ひいたんだね…ごめんな。でもすっかり、良くなったよ。ありがとう」 (ヤマト)
「照れるなぁ〜///」(ガブモン)


 とまあ、こういうところがヤマトの良さのひとつなんでしょうね。
 ただ風間さんがやたら早口を強いられてるふうで、あんまり余韻がないシーンです。


「みんなを捜すことより大事なことなんてあるのかよ。海の向こうの世界だと? そんなとこ、お前一人で勝手に行け!
 オレはタケルを…みんなを助けにいくんだ!
」(ヤマト)
「待てよヤマト! 海の向こうの世界に行けば、みんなに会う方法だって見つかるかもしれないだろ!
 お前の気持ちもわかるけど…
」(太一)
「お前なんかに……オレの気持ちがわかってたまるかーッ!!
 ……そういうお前の、無神経さが頭にくんだよ! 」(ヤマト)


 …このへんの齟齬は、まんま43話や44話での対立にあてはまります。
 今の状況の先にまで考えがいってしまってる太一と、目の前の理不尽に我慢がならないヤマトと…。
 ただヤマトのような視点が必要なのもたしかで、この二人が激突するくらいでちょうどいいバランスだったんでしょう。
 02では二人とも前より大人になったぶん、お互いの距離やブレーキをかけるタイミングを計れるようになったようですが。

 ところでヤマトが走るシーンではなぜか変な反復演出があり、微妙にマヌケです。


「タケル…! タケルは、独りじゃなんにもできないんだよッ…!」(ヤマト)
「…ヤマト。お前…」(太一)

 …で、結局これも思い込みというか思い込みたがってるんだろうな。
 たぶんヤマトはもう薄々気付いてきてるはずです。タケルが日々成長しており、彼の庇護がなくともやっていけるくらいになりつつあるのを。でも、まだそれを認めてはいない。で、タケルのそんな傾向が顕著になったのはたぶん太一に会ってからで、だからこそヤマトの心には太一へのきわめて複雑な感情が淀んでたんでしょう。いらだちやら憧憬やら嫉妬やら、それら全部を認めたくない気持ちやら、まあいろいろと。

 この二人のコンビがいまだに人気なのも、わかる気がします。中学以降はこれまたビミョーに変化しますからね。


「この歯車がヤマトとタケルを離れ離れにしたんだ…! フォックスファイヤー!」(ガルルモン)

 たまにこういう凄みを利かせてくれるから好きです。



★次回予告
 いきなりカエルみたいな姿勢ですっころぶミミにはいろんな意味でアイドル性を感じます。
 初見で気になる印象としては、なぜか逆のパートナー構成になってるあたりでしょうか?
 あとは遺跡の壁からものすごい勢いで吹っ飛ばされるカブテリモンとトゲモン。ミミと光子郎が圧死しそうな勢いです。